1.チェコ経済は、国営企業の民営化、低失業率、国内総生産の増加など、比較的順調に推移している。
2.資源開発分野でも旧国営企業の民営化が進められ、工業原料、石炭は生産が継続されているが、金属資源及びウランの開発は大幅に減少した。
3.旧ウラン鉱山の環境問題の解決が急務の課題となっている。
4.政府の資源開発政策は、政府の機構改革、鉱業法の改正など、依然として改革が<継続されている。鉱業政策は、現在経済省が所管しているが、今年中に、探査部門は環境省に、開発部門は通産省に分離移管する予定である。
5.金鉱床開発のために、外国資本による3プロジェクトが進行中であるが、環境問題で住民などによる反対運動もあり、今後の推移が注目される。
1.政治経済概況
1989年の以来の改革によって、チェコ共和国は、複数政党制の導入及び市場経済への移行を行っており、4%以下の失業率、下降基調にあるインフレ(9%)及び国内総生産(GDP)の4%増加など、経済は比較的順調に推移している。
この結果、産業は、比較的安価な労働力、低い生産コストに支えられ安定化するとともに、民間企業が全業種の90%を占めるにいたっている。
2.鉱業の現状
チェコスロバキア時代は、ソ連邦の影響により、資源の開発はすべて国営企業で行ってきた。しかし、1989年以降の改革の過程で、国営企業の民営化、非採算鉱山の閉山、環境問題の解決を図るための政策がとられてきた。この結果、金属鉱山は、国際競争力がないとして、ウラン鉱山1鉱山を残して閉山された。褐炭は、国内電力供給のために継続して生産されている。また、石灰石、建設骨材などの、工業原料資源は、民営化、外資導入を図り、生産は、比較的順調に伸びている。現在残っている鉱業関係の国営企業は、主に環境保全のための作業を行っている。
3.環境問題
環境問題として、ウラン鉱山が原因となっている地下水の汚染、褐炭を利用した火力発電所からのSoxの排出による大気汚染などが顕著となっており、今後のこれらの環境汚染をどう解決するかが重要な要素となっている。
旧チェコスロバキアでは、1945年以降、ソ連への輸出のために約10万トンのウラン鉱石が生産された。現在、これらの鉱山では、採掘跡、生産施設、廃石堆積場、選鉱堆積場などによる環境汚染の評価及び対策が急務の課題となっている。
プラハの北約100kmに位置するストラス鉱山は、チェコの4大ウラン鉱山の一つである。同鉱山は、地下300mに賦存する白亜紀の砂岩層中の堆積性鉱床で、生産の約半分にあたる1万1千トンがインプレスリーチングによって回収された。このために約4百万トンの硫酸、その他の抽出材が使われ、現在も地層中に残留する抽出液が、周辺の飲料用地下水を汚染している。また、廃石堆積場には約1100トンのウランがあり、今後の管理などが問題となっている。
現在、環境省が、周辺の地下水汚染を防止するために、残留抽出液の回収、蒸発減容、地層還元の措置を計画し、このための装置を建設するとともに、96年8月から試験運転を開始した。この措置は、根本的な解決ではないものの、水理解析モデルによって入念に管理しながら進められており、飲料用地下水汚染の解決を図ることを目的としている。
4.新鉱業管理体制
89年の改革開始後の91年から、市場経済に対応するために、幾度にもわたる鉱業法の改正が行われてきた。また、環境重視の視点から、廃棄物法、環境法、自然景観保護法、環境アセスメント法等も整備されてきた。
これまで経済省が鉱業分野を所管してきたが、現在国会には、探鉱権関係の所管を環境省に、開発関係の所管を通産省に移管するための議案が提出されており、今年中には新体制がスタートする予定となっている。プロジェクト新体制では、新規の探鉱を行うためには、環境省より探査の許可を受け、探査結果を報告することになる。環境省が開発内容が妥当であると判断した場合、開発の申請を通産省に提出することができるが、同時に環境影響評価報告書も提出する義務がある。
現在の鉱業法では、ロイヤリティー、鉱産税及び環境保護基金が規定されている。鉱区権の設定には、1万クローネ/平方km(約4万円)のロイヤリティーを政府に支払うこととなっている。鉱産税として、生産額の10%までを政府に支払うこととなっている。また、新規の開発において、採掘終了後の環境保全事業のための環境保護基金の積立が義務づけられている。現在、積立金は1650平方km(1073鉱区)に対して、75億クローネ(約300億円)に昇っている。
5.非鉄金属開発計画
現在、非鉄金属関係の新規プロジェクトとして、TVX、 RTZ-CRA、 Greenwich Resources による、金鉱床の開発が計画されている。これらのプロジェクトが計画されている地域においては、75年から91年にかけて、チェコ地質調査所が行った基礎調査によって金鉱床が発見されている。
Greenwich Resources によると、既存ボーリングコアを利用したサンプリング調査を行っており、ボーリング調査のための許可を待っているとしている。また、最近の新聞報道では、経済省は、RTZ-CRAが計画しているMokrskoプロジェクトに対し、探鉱申請を却下したことが伝えられている。これは、環境省の承認が得られないことが原因であると伝えられている。
チェコの金鉱床開発については、現在、関係市町村、住民などが強い反対運動を起こしている。政府関係者によれば、これは、金回収にともなうシアンやひ素による環境汚染、露天採掘による環境汚染などに対する危惧が原因になっている。さらに、その背景には、ソ連時代から続いたウラン採掘に起因する環境問題から、チェコ国民の鉱業に対する不信感がある。反対運動は、関係市町村が反対組織を結成するなど、地域問題というより、政治問題化しており、政府関係者の一部からは、チェコにおける新規の鉱山開発に対する否定的な意見もきかれた。
チェコ政府は、現在、機構改革などで対応が流動的になっている模様であるが、新体制において、資源開発をどのように進めて行くか、注目する必要がある。
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