閉じる

報告書&レポート

2004年1月6日 ロンドン海外調査員 霜鳥 洋 調査事業部海外協力課 栗原政臣
2004年01号

第4回フェノスカンジア探鉱・鉱業会議の概要

【はじめに】

 第4回フェノスカンジア探鉱・鉱業会議がフィンランドのRovaniemiで2003年12月4日と5日に開催された。フェノスカンジアとは、スカンジナビア半島(スウェーデン、ノルウェイ)にフィンランドを加えた地域のことである。この地域にはKirna鉄鉱山(スウェーデン)、Boliden鉛亜鉛鉱山(スウェーデン)、Kemiクロム鉱山(フィンランド)等があって古くから鉱業が中心産業のひとつであり、Boliden社やOutokumpu社といった中堅鉱業会社のベースとなっているが、90年代後半からは金、白金、ダイヤモンドの探鉱活動が活発化している。本会議は、探鉱・鉱業活動促進を目的にフィンランド政府により準備され、大手鉱山会社、ジュニア探鉱会社、大学研究者等約300人が参加した。会議に先立って探鉱地質者向けのショートコースが開かれ、D. Groves教授(Western Australia大学)らによるOrogenic型金鉱床コースとE. Stumpfl教授(Leoban大学)らによる白金族鉱床コースが開かれた。本会議では、フィンランド政府や欧州委員会による鉱業政策の説明や、地域地質概論、探鉱・開発プロジェクト紹介が行われた。今回、白金族鉱床ショートコースと本会議に出席したので、その概要を報告する。ショートコースの詳細ついては後日海外鉱業情報で報告する予定である。

【フィンランド政府の鉱業促進策】

 フィンランド財務省のR.Sailas大臣は会議の冒頭の講演でフィンランド政府の鉱業促進策を説明し、優れたインフラと安定した体制という事業環境を提供することを内外の民間資本による鉱業開発促進策の基本とすること、国営企業の売却収入を原資とした国営投資会社を設立して鉱業を含む開発案件に出資する制度を新たに設けたことを明らかにした。これに対し参加者、特にジュニア探鉱会社から、税制面の優遇措置を望むとの発言が相次いだ。さらに国営投資会社が出資できる案件を、経済性評価移行の進んだ段階のものに限らず、初期探鉱案件まで広げるよう要望がだされた。Sailas大臣は税制優遇について回答せず、また国営投資会社についても国が民間企業に投資する制度は欧州で唯一であることを強調し、現制度の活用を求めた。
 大臣講演の後、欧州委員会のP. Anciaux氏が欧州の鉱業関係法規制の動向を説明した。欧州委員会は、鉱業廃棄物の管理強化の一環として、鉱山開発に際し操業中及び操業後の環境対策費を積立てる制度の導入を検討している。積立金額の算定は各国政府に委ねられる見込みであるが、過重な負担はプロジェクトの収益性を損なうとの懸念が鉱業界にあるため、Sailas財務大臣は「フィンランド政府は収益性を損なわないよう配慮する」とコメントしている。

【フェノスカンジアの地質的有望度】

 フェノスカンジアのほとんどは面積100万km2に及ぶフェノスカンジアン楯状地(後期始生代から初期原生代)からなり、その中のグリーンストーン帯は多くのベースメタル鉱床を有している。探鉱コンサルタントのR. Foster博士は、世界の楯状地における既知鉱床の分布について説明したのち、楯状地は探鉱対象として有望であること、原生代よりも始生代が、前期始生代よりも後期始生代が有望であるとした。その中でも比較的未探鉱な楯状地としてFoster博士は中央アフリカ、南アメリカ、インドを挙げた。フェノスカンジアン楯状地については、有望な鉱床タイプはLode型(Orogenic型)金鉱床、酸化鉄・銅・金鉱床、火山岩中の塊状硫化物鉱床であるという。フェノスカンジアン楯状地は地質情報が豊富で、既知鉱床が多く、鉱業の歴史があり、社会が安定しているという長所があるが、短所として、寒冷な気候、湖沼の多い平坦な地形、確立された地質モデルが固定観念化しやすいことが挙げられた。

【フェノスカンジアの探鉱・開発プロジェクト】

 本会議では現在進行中の探鉱・開発プロジェクトの紹介が行われた。
 North Atlantic Natural Resources(NAN)社(本社スウェーデン)は、1998年に発見し2002年に生産を開始したStorliden亜鉛銅鉱床の概要を説明した。同鉱床はスウェーデン北部のSkelleftea地域にあり、近傍にBoliden社の鉱山が多数存在する。同鉱床は空中物理探査(EM法)のアノマリーへのボーリングにより発見された。鉱床は地表下100mにあり、地表への露出はない。鉱量及び資源量188万t、銅品位3.4%、亜鉛10.3%、金0.25g/t、銀24g/tである。2002年3月に生産を開始し、粗鉱年産30万tで、鉱山ライフ6年である。粗鉱は近傍にあるBoliden社の選鉱場に輸送され処理されている。同地域の鉱床は火山性塊状硫化物鉱床が主であるが、Storliden鉱床はそれと異なり、断層に規制された交代鉱床であるという。
 Gold Fields社(本社南ア)はSuhanko白金族プロジェクトの現状を説明した。Suhankoプロジェクトはフィンランド北部にあるKonttijarviとAhmavaaraの2鉱床からなる。フィンランド地質調査所による鉱量と品位は2鉱床あわせて183.6百万t、白金0.27g/t、パラジウム1.15g/t、金0.12g/tであり、パラジウムが卓越する。近年パラジウム価格が低迷しているため、Gold Fields社は採掘時のカットオフ品位を当初の0.5g/tから1.0g/tに変更して経済性を再検討中である。カットオフ品位を1.0g/tとし、さらに坑内掘りで別の鉱化ゾーン(SK reef)をも採掘する場合の資源量は156.7百万t、品位(Pd+Pt+Au)2.42g/tとなり、副産物として銅0.20%、ニッケル0.09%も含まれるという。同社では、パラジウムと白金の含有比率は公表していない。
 Scandinavian Gold社(本社カナダ)はKeivitsaニッケル・銅・白金プロジェクトについて説明した。同プロジェクトはフィンランド北部に位置する。1987年にフィンランド地質調査所により発見され、Outokumpu社が1995年に国際入札により取得し探鉱したが、低品位と選鉱の問題により1998年に鉱区を放棄している。Scandinavian Gold社による資源量は465百万t、ニッケル0.18%、銅0.28%、コバルト0.012%、白金族及び金0.42g/tであり、選鉱試験とバクテリア・リーチング試験を計画中である。
 その他、Northern Lion Gold社(本社カナダ)によるHaveri金プロジェクト(フィンランド、鉱床モデル作成中)、Riddarhyttan Resources社(本社スウェーデン)によるSuurikuusikko金プロジェクト(フィンランド、詳細ボーリング調査実施中)、ALROSA社(ロシア)によるダイヤモンド探鉱(ロシア、初期探鉱中)等の発表があった。

【Orogenic型金鉱床探査】

 Orogenic型金鉱床の権威であるD. Groves教授(豪)は、鉱山会社の探鉱支出と大鉱床発見数が減少していることについて以下の見解を述べた。
 「1980年代と90年代を比較すると、90年代に探鉱支出が倍増したにもかかわらず、大鉱床の発見数は半分以下になった。探鉱投資に見合った成果がないため、企業は初期探鉱を敬遠し、既存鉱山周辺の探鉱を重視するようになった。しかし既存鉱山周辺の探鉱では新たに大鉱床を発見する可能性は低い。90年代に発見率が減った理由は、80年代と同じ手法で調査したからである。全くの未調査地でない限り、主だった地化学異常や物理探査異常は80年代までに探鉱済みであったことが、90年代の発見率を減少させた。発見率を上昇させるためには、初期探鉱に戻り、新しい概念により探査対象を新たに抽出する必要がある。」
 さらにGroves教授は、自らが提唱した新しい概念であるOrogenic型金鉱床を例に、コンピュータによる情報処理によって新たな探査ターゲットの絞込みが可能であることを説明した。司会者の紹介によればGroves教授は近いうちに西豪州大学を早期退職し、探鉱の世界に参入する予定であるという。

【白金族鉱床の新概念と探鉱への影響】

 1982年から白金族鉱床の研究を続けているStumpfl教授(オーストリア)は、白金族の供給と消費について概説したのち、白金族鉱床の成因に関する新たらしい動きについて以下のように説明した。
 「経済的な白金族鉱床は、その大部分が南アのBushveldに代表される層状火成複合岩体中にある。鉱床の生成は、冷却途中のマグマ溜まりに硫黄と白金族に富んだ別のマグマが混入し、硫化物溶融物が珪酸塩マグマから分離し沈降する際にマグマ中の白金族を取り込んだと一般に考えられている。しかしこのモデルのみで説明できる白金族鉱床はいまだ発見されていない。鉱床を形成する白金族が塩基性マグマ起源であることに異論はないが、最終的な白金族鉱物の生成には熱水の影響が大きいと考える。その根拠は次のとおりである。

  • 白金族含有量が相関せず、ほとんど硫化物を伴わない鉱床もある。
  • Bushveld鉱床では場所により白金族鉱物の種類と量が大きく異なる。マグマ溜まりからの硫化物沈殿モデルではその多様性を説明できない。
  • ポットホールと呼ばれる、多量の揮発性成分の存在に起因する現象がBushveldの主要鉱床であるMerensky reefの平面の30%を占め、かつStillwater鉱床(米)やフィンランドの白金族含有岩体にも認められる。
  • 塩基性マグマは一般に含水率2~4%であり、大量の水を含む。

 本説に対する一般的な反応は『鉱床の生成は基本的に正マグマ的である。熱水の影響は鉱化末期に限定的に見られるに過ぎない(Nardrettトロント大教授)』であり、『白金族は強酸にのみ溶解する。熱水に溶解するという説は検討に値しない(鉱山会社冶金担当者)』というものであった。しかし白金族の溶解度実験の結果、酸化条件において塩化物溶液に200℃までppbレベルで溶解することが判明した。さらに1998年にジンバブエのHartley鉱山が世界で始めて白金の酸化鉱の採掘を開始した結果、白金族鉱物が風化により溶解し、近傍の砂鉱床で再沈殿して砂金のようなナゲットを形成していることが明らかになり、白金族は溶解しないという説は立場を失った。
 Bushveld岩体のような火成岩体を形成したマグマは大量の水を含んでいたのであり、水、即ち熱水が白金族鉱化に及ぼした影響の正しい理解は鉱床探査と鉱床評価に必須である。」
 Stumpfl説によれば、白金族は硫化物として沈積したあと、熱水による後退交代作用(retrogressive metasomatism)を受けて再移動した。場合によっては層状火成岩体の母岩まで鉱化する。従って探鉱に際しては、硫化物の分布範囲以外も化学分析の対象とすること、母岩も探査対象とすることが留意点として挙げられる。

【白金族鉱床ショートコース】

 本コースの中心はStumpfl教授(オーストリア)であり、Stumpfl教授の熱水説を支持する内容の発表が多かった。参加者からは、熱水による白金族の再移動があったことは否定し難いものの、どの程度の量の再移動があったかは判断材料がないとの感想が聞かれた。なお白金族鉱床の正マグマ性起源説支持者を下降論者(Downers)、熱水関与説支持者を上昇論者(Uppers)と呼ぶそうである。硫化物結晶の沈降と、熱水の上昇を表現しているが、熱水論者の台頭と自負の表れでもあろう。
 白金族ショートコースにおけるその他の発表のうち、特筆すべきはR. Latypov博士(Oulu 大学)によるNorilskニッケル銅白金族鉱床(ロシア)の成因についてである。Latypov博士の発表は次のとおりである。
 「Norilsk鉱床を含むNorilsk貫入岩体は珪酸に不飽和のかんらん石玄武岩であり、その上に広く分布し鉱化のない洪水玄武岩は珪酸に飽和したソレアイト質玄武岩である。相平衡図によれば、この2つの岩石を同一のマグマから分別結晶作用で導くことはできない。現在のNorilsk鉱床の生成モデルは、洪水玄武岩が地表に噴出する際にマグマの通路に金属を沈積していったというものであるが、洪水玄武岩と鉱化のある貫入岩に成因的関連はないため、この説は成立しない。従って金属成分に枯渇した洪水玄武岩の存在は、どこかに金属の濃集部があることを示唆する、という枯渇モデルは探査指針とならない。」
 これに対し、ある大手ニッケル鉱山会社からの参加者は「当社は枯渇モデルでだいぶ金を使ったが成果はなかった。NorilskでもSudburyでも適用して成功した例を聞かない。そもそも金属がないことを根拠に金属を探すことが嫌だった。層状火成岩体を探査対象とすべきだろう。」と率直に感想を述べた。これに対し別の大手鉱山会社からは「役に立たなかったとまでは言えない。」と過去の探査活動を擁護する発言があった。
 Latypov博士の本発表は2002年の学会誌(Contr. Mine. Pet. v143, p438-449)に発表されたもので、学会の権威による通説を真っ向から否定する勇気あるものだが、否定された学者もLatypov博士の説を受け入れたという。同論文はフィンランドの2003年の博士論文オブ・ザ・イヤーに選ばれている。
 最後にStumpfl教授は「白金族は自動車の排ガス規制の強化等により需要増が見込まれるが、鉱山生産は南ア、ロシア、米国、カナダに限られている。供給元を多様化するためには、それ以外の国における探鉱開発が望まれる。探鉱と鉱床評価に際し、鉱床生成における熱水の影響を考慮する必要がある。近い将来に生産を開始する可能性がある国は、第一にフィンランド、次いでブラジルであろう。」と白金族を取り巻く状況を総括した。

ページトップへ