報告書&レポート
中国輸出増値税の還付率の調整(低減)後編銅市場への影響
2003年10月13日、中国財政部、国家税務総局より、「輸出貨物還付税率調整に関する通知」が発表された。後編では前編に引き続き、2004年1月より輸出品に摘要されている還付税率の引き下げが施行されたことから、この引き下げが銅市場にどのような影響を与えるか検討してみた。 |
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中国の銅事情
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中国銅市場への影響
中国の銅事情は、急激に増大した銅需要に対し、十分な供給が安定的に賄えていないことから、製錬所への原料としての銅精鉱、銅スクラップを海外から大量に輸入し、さらには海外から大量の銅地金も輸入している。中国では社会資本整備を強力に推進しており、銅産業は国家発展のための基礎産業として重要な位置付けにあり、銅は国家建設のための重要な基礎資材として重要視されている。しかし、中国は世界有数の鉱物資源国でありながら、銅資源は国内で需要に見合うだけの手当ができていない数少ない資源である。従って、不足分の銅精鉱、銅地金、スクラップ等を海外から大量に輸入している。
銅は商品ごとに異なる還付率が適用され、第1表に示すとおりの税率、及び還付率となった。
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一般的に輸出税の還付率が下がることにより、商品の行き先は輸出から内需に向かうと考えられることから、国内への供給圧力として内需に影響を与えることとなる。中国の銅輸出製品の還付率の低減は、第1表に示すとおり銅鉱石、銅精鉱、粗銅、アノード、銅スクラップが13%から0%となって、輸出メリットが全く無くなり、銅商品の中で最もマイナスの影響を受ける商品と言える。
しかしながら、第2表に示すとおりこれら商品の輸出量を見てみると、2003年1~10月の銅鉱石、銅精鉱の輸出量は、貿易量の2.27%に過ぎず、貿易量に比して非常に小さい。また、同様に輸出量の貿易量に対する割合は銅スクラップが0.23%、粗銅、アノードが1.18%であり貿易量に比して非常に小さい。貿易金額では、銅鉱石、銅精鉱を例に取ると、輸出金額はたった250万USドル(輸入金額約11億USドル)であり輸入金額に比して極端に小さい。加えて、圧倒的な国内製錬所の原料不足状況を考えると、これら銅原料の輸出を継続することは難しく、内需へ向かうことになるが、量的にも少ないことから殆ど影響は無い。従って、銅鉱石、銅精鉱、粗銅、アノード、銅スクラップ等の銅原料は、国内市場に大きな影響を伴わないで推移すると思われる。
また、カソード及び銅合金材は還付率が17%から5%に低減されるが、銅鉱石等同様、原料として国内需要向け銅加工用需要が多いことから、輸出する余力がない。また、量的にも2003年1~10月ではカソードで4.6%、銅合金材で1.49%とそれぞれの輸出量は貿易量より相対的に非常に小さいことから、国内市場に大きな影響を伴わないで推移すると思われる。
一方、銅及び銅合金の銅加工製品については、還付率が17%から13%と低減率が低く抑えられた。これは銅及び銅合金の銅加工製品の輸出競争力を維持させ、輸出促進を奨励している商品であるからと言える。輸出量は2003年1~10月で貿易量の17.86%となっており、原材料である銅鉱石等と比べると輸出割合がかなり高い。ちなみに、銅加工製品の輸出は2003年1~10月が186,276tで昨年同時期の140,142tと比較し33%も急増している。今回の還付低減率が低く抑えられたことから、需要先を極端に変化させることなく輸出向けがボリュームを増していくのか、大きく伸びる国内需要に即応するのか個々の企業の選択による。世界的な銅不足が心配されるなか、中国国内企業と外資企業の戦略は異なる形で表面化して行くものと思われる。
コメント:
これまで輸出振興を目的としてきた輸出増値税の還付に関し、2004年1月よりその還付率を現行の17%~15%を13%~0%に引き下げると発表した。この引き下げの目的を考えると、還付財源不足問題やUSドルとの為替問題をかわす狙いではないか等の憶測が可能である。しかし、輸出量が極端に少ないから実際に中国銅産業原料部門では殆ど影響を受けないと言える。一方、加工貿易とも言える中国の銅加工部門では、今回の還付率低減により若干の影響を受けることとなるが、これまで通り輸出中心となるのか、はたまた留まるところのない中国国内の銅需要に吸収されるのか、中国企業と外資企業の経営戦略に違いが出てくるであろう。もし輸出向け銅加工製品が中国国内回帰すると、米国への貿易黒字削減効果が出てくる可能性がある。
しかし、今回の輸出増値税の還付率の調整は、中国政府が国内企業への優遇度合いを引き下げたことを、世界にアピール出来たことが大きな意味を持つのではないか、とも思える。銅関連だけで考えると、国内で全く足りない銅原料の輸出メリットをゼロにしたところで、国内企業は全く痛くも痒くもない。一方、銅加工製品は、優遇性を若干低減しても、輸出促進への効果が維持できるであろうし、旺盛な内需が受け皿となり、銅加工産業界への大きな影響は無いであろう。とすれば、今回の中国輸出増値税の還付率の調整という「おふれ」は、国家の税金還付の出費を少なくしたという「おまけ」と、中国の銅加工製品輸出企業が来る2010年に向け、全ての輸出還付を取り消すまでの時間稼ぎが出来ることになったという「おまけ」の両方を得られる練りに練られた「おふれ」と言えそうである。
第2表 銅の輸出入量の変化 | (単位:t) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Source:中国銅業の統計値を加工 |
