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報告書&レポート

2004年4月16日 アルマティ事務所 酒田 剛
2004年13号

カザフスタン新投資法の制定と税制改正の鉱業投資への影響

 1991年末、旧ソ連邦の崩壊によって誕生した中央アジアのカザフスタン共和国。CIS地域でロシア連邦に次ぎ豊富な天然資源を有する同国は、独立後の調整期(民営化進行期)から回復期を経て、好調な石油生産を背景に安定した経済成長※1を続けている。
 CIS地域は、ソ連崩壊後に未開発の探鉱地域として注目され、欧米の非鉄メジャーやジュニアによる積極的な活動が見られたが、鉱業法(地下資源利用法)※2・課税制度などの不透明さや法治主義の不十分さがリスク要因とされ、ブームは続かなかった。
 本稿では、カザフスタンで昨年1月に発効した新投資法と、本年1月に行われた税制改正の特徴を紹介し、同国の鉱業分野における投資環境への影響をコメントする。

  1. 新投資法

  2.  2003年1月8日、従来の外国投資法(94年)と直接投資支援法(97年)に替わって、国内・国外の投資家に同じ待遇を与える「新投資法」が発効した。主な注目点は、以下のとおり。

    (1) 投資家保護
      国による企業の国有化や接収された場合、投資家が被った損害を全額補償
       
    (2) 契約の安定制
      新法の発効以前に政府と投資家が交わした契約に基づく特典は、期間満了まで効力を維持
    (従来あった「新参入の外国投資家に対し、課税制度の安定を保証する」規定は削除)
       
    (3) 投資特恵
      優先的業種(2003年5月政令で業種を指定:農業や化学製品など5業種、鉱業は含まれず)に適合し、新生産設備、既存設備の拡張・更新を行う投資活動に対して供与

    課税特恵:財産税、地代、所得税(5年以内、固定資産への投資額に応じて期間を決定)
    関税免除:条件を満たす輸入設備・部品(1年、但し5年まで延長可)

  3. 税制改正

  4.  2004年1月1日、現行税制(Tax Code:2002年1月発効)について、地下資源利用者に関する税制の変更を大きな柱とする改正が発効した。この変更は、石油・ガス分野での税収増加を目的としており、鉱業分野に該当する箇所も含まれる。主な注目点は、以下のとおり。

    (1) 特別税(一括払い)
     
    Subscription Bonus:政府と資源利用に関する契約を締結し、事業実施権を取得した時。
    当該鉱区の経済価値に基づき政府が試算したinitial sizeを最低価額として、個別に決定。
    Commercial Discovery Bonus:商業上の発見時(追加鉱量を獲得した場合を含む)。
    当該鉱区において商業上の発見があった場合、その毎、可採鉱量と国際市場価格から計算される価額の0.1%を課税する。
       
    (2) ロイヤルティ
     
    金、銀、白金等の金属鉱物:政府が決定(比率は明示されず)。
    石油(石油と一緒に回収されるガスは857t=1m3で石油に換算・加算):生産量に応じて次の比率で徴収される。

    ロイヤルティ率表
    生産量(年間) ~2百万t ~3百万t ~4百万t ~5百万t 5百万t以上
    ロイヤルティ(%) 2 3 4 5 6
        (3) 石油輸出税(RTEO)の導入   当該企業の輸出量実績と算定価格(国際市場価格を指標に、輸送費等の差引き調整を行った上で算出された石油の平均単価)から計算される課税対象額に対し以下の段階的な税率が適用される。

    RTEO率表
    算定価格(US$/バレル) 19 20 21 37 38~39 39以上
    RTEO率(%) 1 4 7 30 31 33
        (4) 超過利得税(Excess Profit Tax;EPT)   地下資源を開発する地上利用者に対して得られた利益をベースに以下の式により課せられる。

    EPT課税額EPT課税対象額×EPT率(下表)
    EPT課税対象額所得税引後利益(経費×20%)
    所得税引後利益比率(所得税引後利益÷経費)%
    所得税(収入-経費)×30%

    EPT率表
    所得税引後利益比率-20% ~5% ~15% ~30% 30%以上
    EPT率(%) 15 30 45 60

  5. 影響

  6.  新投資法では、これまで外資に対する優遇措置とみなされてきた「新参入の外国投資家に対し、課税制度の安定を保証する規定」が削除され、国内・国外の投資家に同じ待遇を与えている点が特徴である。これによって、新たに事業を開始する外国企業は国内投資家よりも有利な条件を享受することができなくなった。
     また、税制改正は、石油輸出税が導入され、石油・ガス分野における増税によって予算収入を確保したい政府側の意向が反映されている。ただし、PSA(生産物分与協定)※3方式の契約を行って操業する企業に対しては石油輸出税が適用されず、税安定化も図られることとなっているため、実際に石油輸出税を支払うのは、PSAによらずに資源利用の契約を政府と締結する企業に限定される。したがって、今後の新たな油田開発に対する政府の取り組みは、PSAの適用を極力避けるような方向で進むものと考えられる。
     一方、鉱業分野にとって今回の税制改正がどう評価されるか。特別税やEPTなどが課税メカニズムの点で改善されたが、ロイヤルティの比率は決定されず(先行した石油・ガスに続き現在検討中。)、投資判断を行う企業側からは依然として不透明で予測困難な税制だとの批判が根強い。
     鉱業投資を検討する外国企業から見た場合、現時点では魅力的な政策環境だと言えないが、高い経済成長と、西側からは権威主義的として非難されるナザルバエフ大統領の政治的安定度が際立っている、という特徴が挙げられる。

    ※1 石油生産量はロシアに次ぎCIS第2位。2000年以降、年率ほぼ10%の経済成長を達成し、遂に91年当時のGDP水準を回復した。国際格付機関の評価も確実に高まっている。
    ※2 1999年に改正された「地下資源利用法」が現行の鉱業法。当該鉱区の探鉱権と開発権は地下資源利用ライセンスとして入札で付与される。ライセンス取得者が政府(行政機関:エネルギー・鉱物資源省)と資源利用に関する個別契約を締結して事業実施権を取得するのが特徴。
    ※3 税金の多くを国に対する生産物の分与に換えることで免除される、主に油田開発等の枠組み。

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