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カザフスタン新投資法の制定と税制改正の鉱業投資への影響
1991年末、旧ソ連邦の崩壊によって誕生した中央アジアのカザフスタン共和国。CIS地域でロシア連邦に次ぎ豊富な天然資源を有する同国は、独立後の調整期(民営化進行期)から回復期を経て、好調な石油生産を背景に安定した経済成長※1を続けている。 |
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新投資法
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税制改正
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影響
2003年1月8日、従来の外国投資法(94年)と直接投資支援法(97年)に替わって、国内・国外の投資家に同じ待遇を与える「新投資法」が発効した。主な注目点は、以下のとおり。
(1) | 投資家保護 | ||||
国による企業の国有化や接収された場合、投資家が被った損害を全額補償 | |||||
(2) | 契約の安定制 | ||||
新法の発効以前に政府と投資家が交わした契約に基づく特典は、期間満了まで効力を維持 (従来あった「新参入の外国投資家に対し、課税制度の安定を保証する」規定は削除) |
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(3) | 投資特恵 | ||||
優先的業種(2003年5月政令で業種を指定:農業や化学製品など5業種、鉱業は含まれず)に適合し、新生産設備、既存設備の拡張・更新を行う投資活動に対して供与
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2004年1月1日、現行税制(Tax Code:2002年1月発効)について、地下資源利用者に関する税制の変更を大きな柱とする改正が発効した。この変更は、石油・ガス分野での税収増加を目的としており、鉱業分野に該当する箇所も含まれる。主な注目点は、以下のとおり。
(1) | 特別税(一括払い) | ||||||||
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(2) | ロイヤルティ | ||||||||
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生産量(年間) | ~2百万t | ~3百万t | ~4百万t | ~5百万t | 5百万t以上 |
ロイヤルティ(%) | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
算定価格(US$/バレル) | 19 | 20 | 21 | — | 37 | 38~39 | 39以上 |
RTEO率(%) | 1 | 4 | 7 | — | 30 | 31 | 33 |
EPT課税額=EPT課税対象額×EPT率(下表) |
EPT課税対象額=所得税引後利益-(経費×20%) |
所得税引後利益比率=(所得税引後利益÷経費)% |
所得税=(収入-経費)×30% |
所得税引後利益比率-20% | ~5% | ~15% | ~30% | 30%以上 |
EPT率(%) | 15 | 30 | 45 | 60 |
新投資法では、これまで外資に対する優遇措置とみなされてきた「新参入の外国投資家に対し、課税制度の安定を保証する規定」が削除され、国内・国外の投資家に同じ待遇を与えている点が特徴である。これによって、新たに事業を開始する外国企業は国内投資家よりも有利な条件を享受することができなくなった。
また、税制改正は、石油輸出税が導入され、石油・ガス分野における増税によって予算収入を確保したい政府側の意向が反映されている。ただし、PSA(生産物分与協定)※3方式の契約を行って操業する企業に対しては石油輸出税が適用されず、税安定化も図られることとなっているため、実際に石油輸出税を支払うのは、PSAによらずに資源利用の契約を政府と締結する企業に限定される。したがって、今後の新たな油田開発に対する政府の取り組みは、PSAの適用を極力避けるような方向で進むものと考えられる。
一方、鉱業分野にとって今回の税制改正がどう評価されるか。特別税やEPTなどが課税メカニズムの点で改善されたが、ロイヤルティの比率は決定されず(先行した石油・ガスに続き現在検討中。)、投資判断を行う企業側からは依然として不透明で予測困難な税制だとの批判が根強い。
鉱業投資を検討する外国企業から見た場合、現時点では魅力的な政策環境だと言えないが、高い経済成長と、西側からは権威主義的として非難されるナザルバエフ大統領の政治的安定度が際立っている、という特徴が挙げられる。
※1 | 石油生産量はロシアに次ぎCIS第2位。2000年以降、年率ほぼ10%の経済成長を達成し、遂に91年当時のGDP水準を回復した。国際格付機関の評価も確実に高まっている。 |
※2 | 1999年に改正された「地下資源利用法」が現行の鉱業法。当該鉱区の探鉱権と開発権は地下資源利用ライセンスとして入札で付与される。ライセンス取得者が政府(行政機関:エネルギー・鉱物資源省)と資源利用に関する個別契約を締結して事業実施権を取得するのが特徴。 |
※3 | 税金の多くを国に対する生産物の分与に換えることで免除される、主に油田開発等の枠組み。 |