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報告書&レポート

2004年6月10日 リマ事務所 辻本崇史
2004年21号

第6回国際金シンポジウム(Sexto Simposium Internacional del Oro)

 5月4日~7日の4日間、リマにおいて鉱業協会主催による、第6回国際金シンポジウムが開催され、ペルー、南米を中心に約1,000人(16か国)の関係者が参加した。
 本シンポジウムは、主に講演(3会場)とブース出展とからなり、前者については、ペルーの操業中金山並びに金山開発プロジェクトの紹介、金の市場動向、ペルーの鉱業政策・投資環境、地域との共生、金回収技術等をテーマとして約50件の講演があり、後者については、ペルーで活動中の金山会社、金探鉱会社、コンサルタント会社、鉱山機械会社、政府関係機関、鉱業誌出版会社等、約60のブース出展があった。
 本会議は隔年開催により、今回は第6回目であったが、ペルー、周辺ラ米諸国、北米からの参加者が大半で、その内容も国際シンポジウムとはいうものの実質的にはペルーの金鉱業振興を目的とした会合との印象を受けた。
 聴取した講演内容等に基づき、本シンポジウムの概要を、以下に述べる。

 本シンポジウムの開催挨拶で、キハンドリア・エネルギー鉱山大臣は、産金国としてペルーは現在世界第6位の生産であるが、来年Alto Chicama金山(Barrick Gold社)が操業を開始すると世界第5位になることが象徴する様に、優れた投資環境と金ポテンシャルの高さから、今後も金探査・開発に対する投資は拡大し、産金国としての一層の飛躍が期待されると発言し、開幕した。金価格の高値推移、活発な探鉱・開発活動を背景に参加者には熱気が感じられたが、とくに著名産金会社のプロジェクト紹介(探鉱・開発・操業)、市場動向、そして最近注目の鉱業ロイヤルティーとも関係する鉱業政策・投資環境等に係る講演には多くの聴衆が集まった。

  1. プロジェクト関連

  2.  Newmont社がYanacocha金山発見に至るまでのポイントを紹介した。同社は、1983年にペルーに参入したが、当時の政治・社会情勢不安、インフラの問題を凌ぐ、鉱床ポテンシャルの高さ、鉱業国としての歴史等を評価して決定した。Yanacochaでは、1969年から各種の地表探査が行われ、銀の地化探(沢砂・土壌)異常を把握していたので、これに注目し、地元のBuenaventura社等と共に1984年に探査を開始した。当初の銀をターゲットにしたボーリングは成功しなかったが、過去のデータを再解析し、金をターゲットにシステマティックな岩石地化探(測線間隔200m、測点間隔20m)を行ったところ、これによる1986年以後のボーリングは成功し、1990年のプレF/Sに至った。この間、政治・社会情勢の問題から撤退を検討した時期もあったが、活動は継続した。集約すると成功した秘訣は、「リスクを取る意志」「システマティックな岩石地化探」「探査陣のチームワーク」にあったと考えている。
     Yanacocha金山と同様に、Newmont社とBuenaventura社とのJ/Vにより進めているMinas Conga金・銅鉱床開発プロジェクトについて、長期計画が発表された。現在実施中のF/Sは本年内に終了予定だが、開発の許認可に2年以上要する見込みで、順調に進んで操業開始は2009年である。現在の鉱量は約4億トン(金0.86g/t、 銅0.31%)、想定している開発規模は、初期投資額900百万ドルで産金量18.2t/年、産銅量7.2万t/年である。
     Barrick Gold社は、Alto Chicama金山開発は計画どおり進んでおり、来年第3四半期には操業開始(年産金量約18t)できると明言した。また、本案件は、2001年に同社が政府入札により獲得したグラスルーツ案件であるが、翌年には金量3.5百万オンスの金鉱床発見を伝えた優良案件であったにもかかわらず、入札時に応札したのは同社一社のみであったとし、同社の案件評価能力を暗に誇示した。
     現在、ペルーの大規模金山(Yanacocha, Pierina)もAlto Chicamaも同国北部に位置するが、南部で最近、地元Aruntani社が金山開発で注目を集めている。同社は、南部Puno県で1997年に探査を開始し、同年Santa Rosa鉱床を発見、2000年には20km離れた場所でTucari鉱床を発見し、前者は2002年に、後者は2003年に操業を開始した。両金山からの産金量は、昨年は3.7t、今年は6.2t、来年は7.8tと、探鉱による鉱量拡大により産金量を増やしている。鉱床タイプは、北部の大規模金山と似ており、同社の探鉱成果の拡大と共に、金探鉱地域として、北部のみならず南部も重視され始めている。
     この様な状況下、産金メジャー各社、地元産金大手のBuenaventura社等は、ペルーでの金探鉱を積極化させている。各社発表の今年の探鉱計画は、

    • Buenaventura社は、80百万ドルを探鉱投資の予定。この内40%は大規模金山が位置する北部地域、40%は南部地域、残りの20%は中部地域。
    • Newmont社は、同社の南米地域への探鉱投資額の90%近くに相当する30百万ドルをペルーに向け、Yanacocha金山周辺の北部地域を中心に、中部及び南部地域にも広く探鉱を展開。
    • AngloGold社は、4百万ドルの探鉱投資(南米全体の20%)により、2~3百万オンス規模の金鉱床の発見を目指す。地域的にはとくに南部のPuno県を重視。
    • Placer Dome社は、ペルーを南米最大のターゲット国とし、現在、複数のジュニア企業と連携し、探鉱案件を発掘中。少なくとも年内に1案件は具体化の予定で、350万オンス以上のポテンシャルがある案件が判断基準。
    • Barrick Gold社は、7百万ドルの探鉱投資により、Pierina、Alto Chicamaに続く、新たな金鉱床の発見を目指す。

    等であり、ペルーの金鉱床を巡る探鉱開発活動の活況は、今後も暫くの間、継続する様相である。

  3. 金の市場動向

  4.  金の市場動向については、多くのアナリストが種々の側面からの過去の動向分析、今後の金価格の予測等を行い、当面(今後1~2年)は堅調に推移するとの見方でほぼ一致していた。このようなシンポジウムでは、悲観的な予測は許されない雰囲気が感じられた。逆に彼らの指摘した最近の金価格の堅調な要因からは、今後に対して少し悲観的な見方をする方が賢明ではないかとの感触を得た。
     関連講演の内容を、以下に総括的にまとめる。
     まず、供給サイドとして、金山からの生産は、長期的には南アからの生産が漸減してきた分を他国が補填する形で推移してきたが、現在、主要産金国の米国は生産が低下傾向にあり、豪もほぼ一定で、世界トータルとして今後3年程度は、生産量があまり増えない可能性が強い。これには、探鉱投資が1997年から2002年まで減り続け、やっと2003年に反転した状況も影響している。また、金もメジャー会社による寡占化が進んでいるが、上位5社の産金量はそれほど大きくは増加していない。金の生産経費も上昇傾向にあり、2003年の直接生産コストの平均は222ドル/oz、総生産コストの平均は278ドル/ozであった。供給サイドとして、鉱山産以外にスクラップからの回収があるが、これは金価格が上昇したこともあり、2003年は前年に比較し増えている。
     今後の金価格の予測値として、Goldman Sachsのアナリストは2004年は380~450ドル/ozで推移し年間平均は417ドル/oz、2005年の年間平均は400ドル/oz、GFMSのアナリストは2004年は390~450ドル/ozで推移、HSBCのアナリストは2004年の年間平均は425ドル/ozとし、いずれも強気の見通しを示した。

  5. 鉱業政策・投資環境

  6.  鉱業政策・投資環境については、ペルーの現状は、政治・経済・社会情勢も比較的安定的に推移し、関連の法規も鉱業投資を促す内容で、少なくとも今日に至るまでは安定し、ラ米諸国の中でも中上位に位置する投資環境との見方が一般的であった。具体的な問題点としては、法規内容が少し複雑であること、鉱山開発に際しての許認可事項(Antamina鉱山の場合380項目)が多く、かつその多くが中央マターで地方分権が進んでいないこと等が指摘されていた。
     今回、注目を引いたのは、鉱山が位置する地域と共生を上手く進められるか否かが、鉱山開発の成否を左右する重要な投資環境との認識である。今後の鉱山開発は、開発による地元への貢献、地元の発展なくしては成立せず、開発企業側により積極的な姿勢を求める発言、あるいは具体的に実践している例等が紹介された。
     また、本シンポジウムの直前に、政府が独自の鉱業ロイヤルティー案を提案したことから、これに直接・間接に触れる発言が目立った。本政府案は、客観的に見ると企業側に配慮したものと映ったが、本シンポジウムでは、反対意見が相次いだ。反対のポイントは、以下の点であった。

    • ペルーの良好な鉱業投資環境の維持には、安定した税制度の保持が重要で、税制度のネガティブな変更は競争力を弱め、投資が他の鉱業国に回避する。
    • 徴収した鉱業ロイヤルティー税は、所得税支払時に控除されるが、所得税が下回っても返却されず、経営の苦しい中規模企業にとくに打撃が大きい。

     最後に、本シンポジウムの閉会セレモニーで、招待者として招かれたゴルバチョフ元ソ連邦大統領(1990年ノーベル平和賞受賞)が記念講演を行い、メイン会場に超満員の聴衆を集めたが、彼はこの中で、主に現在の氏の世界観を以下の様に語った。
     混沌とした現在の世界の状況の中で、ポイントは「安全」「環境」「持続可能な開発」であるが、環境問題について世界の足並みが揃わず大きく進展していない等、前途は険しい。本シンポジウムは鉱山業を営む人たちが集い、「持続可能な開発」に関わりが深いが、自社の利益のみを追求するのでなく、周りの社会にも責任があることを自覚して欲しい。とくに関係の地域社会との共存共栄なくして持続可能な健全な開発・発展は生まれない。
     最近の世界の動きで期待し、注目されるは、EUの統合が拡大し、世界の中で影響力を強めていることで、世界の安定化と発展に寄与する流れと見ている。これに伴い、ロシアとEU圏の関係も一層発展していくだろう。一方、ロシアは、東アジアとくに中国との関係を重視しており、両国関係の友好的発展も期待できる。今後の世界のポイントとなる、EU圏と東アジアを東西に接するロシアは、両者をつなぐ橋渡し役としての役割も大きく、この三者が上手く機能すれば世界の平和と繁栄につながる。今後のロシアに期待している。

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