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ペルー鉱業ロイヤルティー法成立
世界の鉱業界が注目する、ペルーの鉱業ロイヤルティー法が、2004年6月23日に成立・公布された。本法律は、6月3日に国会で可決されたが、憲法規定で、大統領はこれを承認するか、国会に異議を申し立て再審議を要請するかの選択ができた。本法律に対しては、鉱業界を中心に、税制に対する国際的な信頼を失う、とくに今後の鉱業投資にブレーキをかける等、益少なく害多い制度との批判も多いが、今回、トレド大統領はこれを承認する道を選択した。しかし同時に、政府は、ペルー鉱業の競争力低下を緩和するという観点から、本法律の一部条項の修正案を国会に上程した。本法をめぐる状況はこの様に未だ不透明であり、今後の国会、政府、鉱業界等の対応に注目したい。 以下に、これまでの経緯、概要、鉱業界への影響等を簡単にまとめた。 |
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これまでの経緯
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鉱業ロイヤルティー法の概要
- 総精鉱価格 60百万ドル以下 1 % *但し小規模零細企業は除外
- 総精鉱価格 60~120百万ドル 2 %
- 総精鉱価格 120百万ドル以上 3 %
- ロイヤルティーは、鉱業権者が毎月算定し、所定の期間内に支払い、徴収された収入は支払締切日から30日以内に下記の配分先に配布
- ロイヤルティー収入は、鉱山が位置する地元の地区(district)に20%(内10%は鉱山が位置する町村(community))、郡(province)に20%、県(department)に40%、地方政府(regional government)に15%、残りの5%は地元の国立大学に配分
- これらの分配金は、持続的開発に必要な生産的な投資案件(大学の場合は科学技術の研究投資)に限定して使用
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鉱業界への影響等
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政府修正案のポイント
- 国際金属価格が一定価格以下に下落した場合は課税率0%とし、同価格以上の場合の課税率(最大3%)も、国際金属価格により決定
- 民営化によって政府と個別にロイヤルティー契約を結んでいる案件は、高い方の税率を採用(二重のロイヤルティー徴収回避)
鉱業ロイヤリティーは、約2年前から政府内で検討が行われてきた。しかし、関係者の注目を集め始めたのは、2003年11月末、本制度の導入に積極的な姿勢を示した国会のエネルギー鉱山委員会が、総販売額に対し3%の鉱業ロイヤルティーを一律に課す法案を、同委員会で可決してからである。
これに対し、民間を代表する鉱業協会、エネルギー鉱山省等は、ペルー鉱業の国際競争力を大きく損なうとの観点から、これに強く反対するキャンペーンを展開した。しかし、折からの非鉄市況の高騰、鉱山業の一般に対する悪者イメージ、税収不足への対応等から、鉱業ロイヤルティーを徴集すべしとの方向に流れは傾いていった。
このような中で、政府側は、2004年4月末、総売上高に応じて1~3%のロイヤルティーを毎月課すが、これを当該年度の法人所得税の前払分として認める(但し所得税額が下回っても還付しない)とした企業側に配慮した案を国会に提示した。しかし、推進派は、政府案を企業サイドに立った骨抜き案と非難し、政府案を支持する声は国会内で高まらず、むしろ、推進派を中心として、当初案の修正案作成が加速した。そして、5月末には、エネルギー鉱山委員会、経済委員会のメンバー他により、最終的な修正案を決定し、国会の本会議に上程され、冒頭の様に可決された。
(1) | 課税対象 |
課税対象は、国際金属価格に基づく精鉱価格(あるいはこれと同等)。 国際的に定まった精鉱価格等はなく、算定困難との批判も出ているが、鉱業ロイヤルティーは地下資源採掘に対する国への対価との観点から、製錬部分の経費等は課税対象から除外するとの意図と考えられ、今後、この点は、施行細則等の中で明確にすべき点と認識されている。 |
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(2) | 課税率 |
年間の総生産精鉱価格(あるいはこれと同等)に応じ、精鉱価格の1~3%(国際金属価格に基づき毎月算定)。国際価格のない鉱物の場合は、一律1%。
競争力のある大規模鉱山(一般に外資系)からの徴収額を増やし、競争力に欠ける中規模鉱山(一般に地元系)からの徴収額を押さえる意図がある。 |
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(3) | 税収配分 |
税の使途先を、鉱山地域の振興に限定している。また、従来から、鉱山地域のインフラ整備を目的とした資源開発税(CANON税:鉱山会社所得税の50%を充当)が存在するが、この配分に時間を要している点、鉱山がまさに所在する町村への配分が少ない点に批判があることから、収入配分の迅速化と配分率に考慮した意図がある。 |
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(4) | 施行細則 |
施行細則は、本法律公布後、60日以内に公布。 |
まず、下記の経済指標により、ペルー経済にとって鉱業が如何に大きな存在であるかが理解できる。
GDP比率 | 約6% | ||
輸出額(2003年) | 4,573百万ドル(総輸出額の約半分) | ||
同(2004年予想) | 5,500百万ドル | ||
法人所得税(2003年) | 341百万ドル(総法人所得税額の約3割) | ||
同(2004年予想) | 500百万ドル | ||
鉱業投資額(過去8年間) | 約50億ドル(全投資額の約3割) |
1) | ロイヤルティー収入は当面増えない |
鉱業界は、今回成立した鉱業ロイヤルティーが適用されれば、国際的なペルーの鉱業競争力が損なわれ、中長期的なペルーへの鉱業投資が減退する一方、とくに短期的には、本制度による税収は少なく、鉱山が所在する地元地域の期待にも反する結果になると指摘し、益少なく害多い制度と批判してきた。 税収が増えないとされる理由は、外資による大規模鉱山の多くは、政府と締結している税の長期(10~15年)安定化契約をしており、その期間、鉱業ロイヤルティーも免除されることになるためである。 当面、大規模鉱山で課税対象になるのは、SPCC社の2鉱山(Toquepala、Cuajone)のみで、Yanacocha(契約期限2009年)、Cerro Verde(同2013年)、Tintaya(同2009年)、Antamina(同2015年)等の鉱山は対象外となる。その結果、直ちに本税の影響を受けるのは、一般に経営が苦しい地元の中規模鉱山となる。 なお、鉱業ロイヤルティーは、税金ではなく国家が保有する地下資源の採掘に対する代償であり、税の安定化契約を締結している鉱山も対象とすべきとの意見もあるが、現在のところ、この考え方は少数派で、この方向には動いていない。 具体的に、本制度が2004年より適用された場合のロイヤルティー徴収額の試算等が、各機関から発表されている。これらによると、まず、課税対象となる鉱山会社数は約40社で、その多くが中規模鉱山を操業する地元会社となる。大規模鉱山の多くが対象外となることから、課税対象総額は、全鉱業販売額の1/3程度にしかならず、その結果、徴収総額は、30~35百万ドル程度に留まると試算されている。従って、少なくとも当面の徴収額はそれほどの額にならず、本収入を期待する鉱山地域にとっては、SPCC社の2鉱山が位置する南部のTacnaとMoqueguaの両県等、数県にある程度まとまった金額の配布が予想される程度である。 |
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2) | 新規鉱山開発意欲の減退 |
一方、鉱業ロイヤルティーは、今後の新規鉱山開発には全て適用されることから、今後の鉱業投資を大きく減退させる懸念がある。鉱業協会は、本制度の施行は、税制の安定に対する国際的な信頼を失うとともに、総合的な課税率の国際比較でも、既にペルーは周辺諸国のチリ(36%)、アルゼンチン(40%)、ボリビア(43%)を上回っており、今回の措置により50%程度に達し、国際競争力をなくすと主張している。従って、反対派は、本制度の定着により今後のペルーへの鉱業投資にブレーキがかかり、ペルー経済に大きなインパクトのある鉱業活動が、とくに中長期的に影響を受けると懸念している。 |
冒頭に述べた、政府が国会に提出した修正案のポイントは、以下の2点と伝えられており、鉱業競争力の低下を少しでも緩和したい意図がある。
