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報告書&レポート

2004年8月17日 リマ事務所 辻本崇史
2004年31号

鉱業国を目指すエクアドル

 エクアドルは、石油及び農林水産業を輸出の柱としているが、輸出産業の多角化を目指す政府は、非鉄産業の発展に期待している。
 現在、同国の鉱産物生産に特筆するものはなく、非合法採掘を主体に金の産出(2002年推定8トン)が報告されている程度である。しかし、ペルーから同国に続くアンデス山脈地帯は、鉱床ポテンシャルが高く、政府は、十分に探鉱・開発の余地はあると考えている。このため政府は、鉱業投資者にとって魅力ある鉱業法の策定に努め、現在では、南米でトップクラスと評価される魅力ある鉱業法となっている。この様な法整備と非鉄市況の回復に加え、社会・経済情勢の安定化、良好な治安状況もあり、カナダのジュニア企業を中心に、金と銅の探鉱・開発活動が活発化しており、近い将来、本格的な銅山の開山も計画されている。
 今回、7月12~15日の間、エクアドルのキトを訪問し、官民の鉱業関係者・機関と面談する機会を得た。ここに、エクアドル鉱業法の特徴、探鉱開発動向、注目プロジェクトの状況等を簡単に紹介する。

  1. 鉱業法の特徴

  2.  鉱業法の策定に中心的役割を担っている、元鉱山次官(2000年1月~2003年1月)の法律専門家より、鉱業法の歴史・特徴等を聴取した。
     エクアドルの鉱業法は、1991年5月に新法を制定し、その後、2000年8月に大幅な改定を行い、これに伴い2001年4月に施行細則を定め、現在に至っている。この内容は、鉱業投資を誘引する観点から競争力が高く、先日コロンビアで開催された鉱業会議では、投資サイドから見て南米一の鉱業法との評価を得た。その特徴は、透明性が高く法的に安全性に富み、経済的にも魅力が大きく、諸手続が迅速である。
     具体的には、以下の点がポイントである。

       

    • 探鉱と採掘の権利を区分せず、一鉱業権(最大5,000ha)で統一し、本鉱業権は30年間(延長申請によりさらに30年間)保有可能である。鉱業権維持料の未払いの場合を除き、鉱業権ははく奪されない。
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    • 単位面積(1ha)当たりの鉱業権料は、下記の様に保有年数と共に高くなるが、とくに初期探鉱の段階では低額とし、探鉱参入を容易にしている。

        0~ 3年目: 1米ドル/年
        4~ 6年目: 2米ドル/年
        7~ 9年目: 4米ドル/年
       10~12年目: 8米ドル/年
       13年目以降:16米ドル/年

       

    • 鉱山開発に際しては、税の安定化契約を締結することで、契約時の税制度が20年間保証される。
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    • 鉱業権の申請から認可までの期間は、一般に3週間程度、申請書類に不備がなければ1週間以内である。
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    • 鉱業ロイヤルティーの様な、特殊課税はない。

  3. 探鉱開発動向

  4.  当地の鉱業協会等から、探鉱活動動向を聴取した。
     現在、鉱業協会には、内外約100社の鉱山・探鉱会社が登録しているが、この内、熱心な探鉱活動を行っているのは25社程度(内地元企業は約10社)で、カナダ・米国のジュニア企業が中心である。メジャー企業としては、Newmont社が探鉱を積極化している。
     探鉱対象は、金、銅が中心で、地域的には、アンデス内部低地帯を挟んだ両側の、東部山岳地帯(Cordillera Real)と西部山岳地帯(Western Cordillera)で、とくにペルーとの国境から同国の中部にかけての地帯が中心である。
     鉱床タイプとしては、東部と西部で鉱床生成期は異なるものの、共に斑岩型の銅・金鉱床、西部の鉱脈型の金・多金属鉱床等がターゲットとなっている。
     この内、現在、最も注目されているのは、東部山岳地帯南部のCorrienteカッパーベルト(東西約20km×南北約60km)と呼ばれる地帯で、エクアドル初の本格的な銅山になると期待されるMirador鉱床等、有望な鉱床・鉱徴地が多数確認されている。この内の一つ、Warintza地区では、最近、米国の著名な探査技術者であるDavid Lowellが自ら権益を取得したことが報じられており、本地帯はさらに注目を集めそうである。

  5. 注目プロジェクトの状況

  6. Mirador
     本鉱床は、エクアドル南東部Zamora-chinchipe地域内のCorrienteカッパーベルトに位置する、斑岩型の銅・金鉱床である。現在、Corriente Resources社(加)が権益を保有しているが、近く(2004年8月)F/Sを終了、その後、早急に開発資金を調達し、2005年1月に開発工事着手、2007年1月に操業開始を計画している。
     操業規模は、当初2万トン/日の粗鉱量(推定産銅量約6万トン/年)で、その後5~6万トン/日まで拡張の予定。初期開発投資額は190~200百万ドル、プレF/Sによる鉱量は160百万トン(銅0.81%、金0.22g/t)。
     本案件には、既に、メジャー企業、本邦企業を含む数社が、鉱石買鉱、資本参入等に関心を示し、交渉を開始している。

    Rio Blanco
     本鉱床は、エクアドル中南部のCuenca市の北西約40Kmに位置する、低硫化型の浅熱水性鉱脈型金・銀鉱床で、比較的金品位が高い鉱床である。現在、International Minerals社(加)が権益を保有し、これまでの調査により、当地区内で推定鉱量5.5百万トン(金5.5g/t、銀42g/t)を得ている。この内、現在は、Alejandro Norteと呼ばれる高品位鉱床(推定鉱量1.5百万トン:金11.2g/t、銀99g/t)を対象にF/S(2003年11月開始)を実施中で、2005年3月に終了し、2006年末の操業開始を目標としている。これまでの調査により、操業規模は、年産金量7~8万オンス程度を想定している。

    Junin
     本鉱床は、首都キトの北方約50kmに位置する、斑岩型の銅・モリブデン鉱床で、資源開発協力基礎調査により発見された。平成9年度に終了した同調査では、予想鉱量318百万トン(銅0.71%、モリブデン0.026%)を得ている。現在、Ascendant Exploration社(加)が本鉱床の権益を有しており、近く(2004年9月)探鉱を開始する。
     同社は、独自の鉱量評価により、10億トン以上の鉱量を期待している。

     その他、聴取情報等より、今後発展が期待される探鉱活動を以下に列挙する。

       

    • IAMGOLD社(加)は、Cuenca市西方のQuimsacocha地区で高品位の鉱脈型金・銀鉱床を把握し、探査を拡大中。
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    • Dynasty社(加)は、南部のペルーとの国境に近いLoja地域で、斑岩型の銅・金鉱床を対象に広域的な探査(Dynastyプロジェクトと呼称)を実施中で、既に数か所の有望地区を抽出。
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    • Aurelian社(加)は、エクアドル南東部Zamora-chinchipe地域内のペルーとの国境付近で大規模な金の鉱化作用を把握し、探査を拡大中(Condorプロジェクトと呼称)。

     エクアドルは、社会・経済情勢も比較的安定し、治安状況もコロンビアとの国境付近を除いては一般に良好である。また、ジュニア企業も含め、今回面談した鉱業関係者の多くが、当国の探鉱余地の大きさを指摘した。鉱業国としての歴史はないが、探鉱開発の投資先として、今一度検討するに値するのではないか。

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