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報告書&レポート

2004年8月20日 ロンドン事務所 嘉村 潤
2004年33号

銅の鉱山生産動向 ―2004年前期生産実績と今後の生産能力の見通し―

 2003年後半から上昇を続けていた銅価格は、4月に値を下げた後また価格を戻している。背景には、投機資金の為替へのシフトや中国の経済成長の減速への危惧で一旦値を下げたものの、現状でも生産不足が続く銅の需給動向があると言われている。国際銅研究会の需給月報によると、足元の需給(2004年1~5月)では、引き続き需要の増加が生産の増加を上回り、生産不足が拡大しているが、中国の5月の需要が4月に比べて減少し、その需要に翳りが見えてきており、需給バランスに変化が現れつつある。2005年には、再び供給過剰になるとの予測も出始めており、国際銅市場の中長期的方向性を決定する実際の需給が注目される。
 本報告では、供給サイドに焦点を当て、2004年前期(1~6月)の銅鉱山生産量を主要生産者の第2四半期報告書等からまとめるとともに、中長期の銅需給に影響する銅鉱山・銅精錬能力の見通しについての国際銅研究会の発表を紹介する。

  1. 銅鉱山生産:2004年前期は、引き続きGrasberg鉱山の事故が影響

  2.  2004年前期の主要生産者の銅鉱山生産は、合計で21.3万トンの減産となり、前年同期比4.9%減少した。1~6月期の生産実績を公表した主要生産者15社のうち、5社が減産、10社が増産となった。第1四半期の生産実績では、13社のうち、7社が減産、6社が増産であったことと比較すると、傾向としては増産の方向であるが、地すべり事故を起こしたGrasberg鉱山の減産量が極めて大きいため、全体の流れを打ち消している形となった。

    (1) 各社の動向
     減産の最大の要因は、Freeport McMoran社(米)のGrasberg鉱山の地すべり事故による減産である。4月から高品位地域の採掘を開始、6月からは通常生産を開始したが、事故による減産の影響が残った。同社の前期の生産量は前年同期の266,400トン減であり、15社合計の減産量よりも大きい。すなわち、Freeport McMoran社を除けば、残る14社計では、前年同期と比べて5.3万トンの増産となっている。
     2番目に大きな減産としては、Rio Tinto社(英)の89,400トンの減産であった。同社においても、Grasberg鉱山の減産の影響が大きく響いた。他にEscondida鉱山が2004年前期の生産を対前年同期比19%も増やしたが、Kennecott Utah Copper社では鉱石の高い砒素含有量がスメルターに影響、南アのPalabora鉱山も目標以下の状態が続いており、Rio Tinto社全体としては大幅減産となった。
     一方、最大の増産をしたのは、BHP Billiton社(英豪)の52,700トンの増産であった。同社の2004年第2四半期の銅生産は、前年同期比で19%増、第1四半期と比較しても13%増となっている。これは、Escondida鉱山が第2四半期としても、前期としても生産記録となる増産を続けていることによるものである。
     2番目に増産幅が多かったのは、Grupo Mexico社(メキシコ)の約37,000トンの増産であった。これは、傘下のMinera Mexico社が、Cananea鉱山の選鉱設備の修復終了や鉱石品位向上により、第2四半期として前年同期比12%増産、また、Southern Peru Copper社も第2四半期で前年同期比7%増産したことによるものである。なお、銅価格等の上昇により、Grupo Mexico社の第2四半期の業績は、売り上げが前年同期比68%増、操業利益が357%も増加した。
     この他、世界最大の銅生産者であるCodelco(チリ)は、31,000トンの増産となった。これは、El Teniente鉱山が分割開発計画を開始したことにより、前年同期より22.2%増産したことによるものである。なお、Codelcoの2004年前期業績は、銅価格の上昇により、創立以来最高の税引前利益15.4億USドルを記録している。
     世界第2位の銅生産者であるPhelps Dodge社(米)は、6,000トンの増産となっている。なお、Phelps Dodge社の2004年第2四半期の業績は、銅、モリブデンの市況回復により、純利益が226.6百万USドルと、前年同期の15.2百万USドルの純損失から大幅に改善している。
     前期(2004年1~6月)の銅の主要生産者の銅鉱山生産実績(精鉱中銅金属量及びSX/EWカソード生産量)は下表のとおりである。

    主要銅鉱山生産者の2004年前期生産実績
    (単位:トン)
    会社名(本社所在国) 2004年前期 2003年前期 増減
    Codelco(チリ) 823,000 792,000 31,000
    Phelps Dodge(米) 525,700 519,700 6,000
    BHP Billiton(英豪) 513,200 460,500 52,700
    Grupo Mexico(メキシコ) 434,244 397,215 37,029
    Rio Tinto(英) 373,400 462,800 -89,400
    KGHM Polska(ポーランド) 268,443 264,955 3,488
    Noranda(加) 221,634 223,069 -1,435
    Xstrata(スイス) 175,105 183,827 -8,722
    Freeport McMoran(米) 157,800 424,200 -266,400
    Falconbridge(加) 150,648 158,426 -7,778
    Antofagasta(英) 148,419 142,051 6,368
    WMC Resources(豪) 102,759 91,322 11,437
    Placer Dome(加) 98,912 94,898 4,014
    Newmont(米) 96,164 88,954 7,210
    Inco(加) 60,120 58,759 1,361
    15社計 4,149,548 4,362,676 -213,128
    注: 各社発表による。生産量は各社とも自社シェア分。但し、WMC社はカソード生産量。

    (2) 世界全体の鉱山生産動向と今後の見通し
     国際銅研究会の8月の月報によれば、2004年1~5月の世界の鉱山生産は、5,679,000トンで前年同期比0.6%増となっている。このことは、2004年前期の主要生産者の銅鉱山生産としては、地すべり事故を起こしたGrasberg鉱山の減産の影響が大きかったため、前年同期比4.9%減少にとどまっているものの、世界全体の供給としては、既に増産傾向が出ていることがわかる。
     したがって、6月よりGrasberg鉱山の生産体制も通常生産に戻り、多くの企業の生産計画により増産が見込まれることから、今後急速に増産に転じていき、最終的には2004年通期では増産になることが見込まれる。

  3. 鉱山・プラント能力:2008年までに鉱山能力が270万トン増強の見込み

  4.  国際銅研究会は、四半期ごとに改定している世界の銅鉱山・プラント一覧の2004年7月版を発表した。今回は、2004年4月から7月までに発表された変化を反映するとともに、2008年の鉱山・プラント能力の見通しが追加された。

    2008年までに計画されている世界の銅鉱山・プラント能力
    (単位:銅金属量千トン)
      2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
    SX-EW 2,972 3,257 3,445 3,922 4,148
    精鉱 12,656 13,357 13,653 14,054 14,182
    鉱山計 15,628 16,614 17,097 17,976 18,330
    溶錬 15,504 16,056 16,215 16,370 16,370
    電解精錬 15,597 16,126 16,452 16,582 16,582
    精錬計 19,334 20,230 20,653 21,260 21,486

    年変化 04/05 05/06 06/07 07/08 04/08
    SX-EW 285 188 478 226 1,177
    精鉱 700 296 402 128 1,526
    鉱山計 985 484 879 354 2,702
    溶錬 552 159 155 0 866
    電解精錬 529 326 130 0 985
    精錬計 896 423 607 226 2,152

     前回の4月版の一覧と比較して、2005年の鉱山生産能力は削減され、2006年、2007年の鉱山生産能力が引き上げられた。2005年から2007年の期間では前回と変化がないため、全体としては能力増強が延期された形となっている。2004年から2008年までの4年間の鉱山生産能力は、精鉱で150万トン、SX-EWで120万トンの合計270万トン増加し、年4.1%増(精鉱:年2.9%増、SX-EW:年8.7%増)となる見込みである。
     2004年から2008年までの4年間の精錬生産能力は、215万トン増加し、電解精錬が約100万トン、EWが約40%増加の120万トンとなり、年増加率はそれぞれ1.6%、8.6%となる見込みである。同じ4年間の溶錬能力は、87万トン増加であるが、2005年の55万トン増以降は、大きな増加は見込まれず、年1.4%の増加率となる見込みである。
     これらの計画された能力拡張には、現存する鉱山・プラントの管理、メインテナンス、一時的生産削減等で変動する部分(Swing Capacity)は含まれていない。国際銅研究会の調査では、この変動部分は鉱山で22.4万トンあり、溶錬で42.2万トン、精錬で62.2万トンの能力が使用されていない状況にあるとしている。
     これらの計画能力は、当然のことながら今後の需給状況により逐次見直されることが予測されるが、3か月前の調査から見て、計画の先送りの傾向が現れており、今後来年にかけて需給が供給過剰に転ずることの警戒感が見られる。

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