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報告書&レポート

2004年9月2日 アルマティ事務所 酒田 剛 e-mail: jogmec@nursat.kz
2004年35号

CIS諸国における鉱業法制リフォームの動き -ロシア、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンの事例-

 現在、南米の資源中枢国では、鉱山企業に対して新たにロイヤルティを導入しようとする政策上の問題が鉱業界を直撃している。鉱業法や税制などの鉱業に関する法的枠組みは、国際的鉱山企業が鉱業投資の可否を決定する際の重要な要素であるため、鉱山関係者は投資に与える影響を含め、動向を注視している。
 このような状況にあって、最近、CIS諸国でも鉱業法や税制などの鉱業法制リフォームの動きが見られる。旧ソ連邦の崩壊によって独立したこれらの国は、未開発の探鉱地域として西側鉱山企業に注目され、特にロシアやカザフスタンなどの資源保有国では、積極的な探鉱活動が展開された。しかし、市場経済への移行に伴ってカントリー・リスクが減る一方で、鉱業政策の改正は期待どおりに進まず、90年代後半にはブームが失速した。今回は、この2~3年再び活況を取り戻してきたロシアを始め、カザフスタン、キルギス及びウズベキスタン(参考情報)における鉱業政策の現状と動向を報告する。

  1. ロシア

  2.  すでに地下資源法の改正案が国会と連邦議会で承認され、現在、大統領の署名待ちとの情報がある(www.mineral.ruサイト他)一方で、法案は最終的な判断に達していないとする天然資源省の官僚談話の記事(ヴェドモスチ紙)もある。入手した関連資料等によれば、改正案(アンダーライン箇所)の概要は、以下のとおり。

    (1) 地下資源利用ライセンス(鉱業権)のうち、地質調査権は認可で、それ以外のライセンスは入札で付与される(一定規模以上の大鉱床の場合、探鉱・採掘権は認可による取得が可能、との情報もある)ものとし、連邦地下資源管理基金はライセンス交付に責任を負う
    (2) ライセンスの種類:
    地質調査権(5年未満)、探鉱・採掘権(鉱区毎に算定される期間)、地質調査&探鉱・採掘権(Combined license:鉱区毎に算定される期間)
    (3) 地質調査権から探鉱・採掘権への移行優先権:認められる方向?
    (4) ライセンスの譲渡:認められる方向?
    (5) 鉱区情報:ライセンスの対象となる鉱区リストを整備する
    (6) ロイヤルティ:採掘量に応じて以下の税率で売上に課税
     
      マンガン、クロム:4.8%
      金:6.0%
      貴金属(白金族金属、銀):6.5%
      非鉄金属全般、レアメタル:8.0%
    (7) 地下資源使用料:
     
      探鉱鉱区に関する定期払い:鉱種毎の1km2当り単価に基づき鉱区面積に応じた額を納入(地質調査は該当せず)
      採掘鉱区に関する一括払い:生産能力に基づき試算される採掘税額の10%以上を納入

  3. カザフスタン

  4.  2004年1月、(6)~(8)の税制改正が行われた。(7)ロイヤルティに関しては、石油・天然ガスの税率が明示されたが、金属鉱物については、ロイヤルティのあり方を含めて検討中。

    (1) 地下資源利用ライセンスは原則入札によって付与され、ライセンス所有者(地下資源利用者)は政府と地下資源利用契約を締結して事業を実施
    (2) ライセンスの種類:
    探鉱権(6年、延長可)、採掘権(25年)、探鉱・採掘権(それぞれの作業に必要な期間)
    (3) 探鉱権から採掘権への移行優先権:あり
    (4) ライセンスの譲渡:可能
    (5) 鉱区情報:四半期毎に更新された鉱区図が発行され、取得が可能
    (6) 超過利得税(Excess Profit Tax):税引後利益比率から20%を控除した指標を基に課税
    (7) ロイヤルティ:あり(採掘量に応じた課税、税率は個別に決定)
    (8) 特別税(Bonus):
     
      契約時の一括払い(鉱区の経済価値から個別に試算)
      商業上の発見時の支払い(可採鉱量と国際市場価格から試算)

  5. キルギス

  6.  地下資源利用に関する鉱業関連税制((6)~(8)を柱とする)を新たに規定した税法典の改正案が議会に上程され、現在審議中。2005年2月の議会選挙を控え、年内にも改正案が承認されるのではないかとする見方が一般的。

    (1) 大規模鉱床(現在該当するのは6鉱床ほど)に係る鉱区は入札で、それ以外の鉱区の地下資源利用ライセンスは先願による認可でそれぞれ付与され、ライセンス所有者(地下資源利用者)は政府と地下資源利用契約を締結して事業を実施
    (2) ライセンスの種類:
    探鉱権(2年、延長可)、採掘権(20年)
    (3) 探鉱権から採掘権への移行優先権:あり
    (4) ライセンスの譲渡:可能
    (5) 鉱区情報:空白鉱区に関する情報請求が認められており、入手が可能
    (6) ロイヤルティ:採掘量に応じて以下の税率で売上に課税
     
      金:3%(埋蔵量5万oz未満)、5%(同5万oz以上)
      金以外の金属鉱物:一律3%
    (7) 特別税(Bonus):契約時の一括払い
    鉱区の経済価値に応じた課税、税額は鉱種、鉱床の規模と調査ステージ別に規定
    (8) その他インセンティブ;
    探鉱準備金制度:所得税の課税対象15%を上限として、地質調査に目的を限定した積み立てが可能-5年以内の任意取り崩し

  7. ウズベキスタン(参考情報)

  8.  2004年1月の税制改正でロイヤルティの税率が変更されたほか、6月には新たに超過利得税が導入された。

    (1) 地下資源利用ライセンスの種類:期間はライセンス交付の際に無期限か限定かを決定
    地質調査権、採掘権
    (2) 地質調査権から採掘権への移行優先権:あり (3) 超過利得税(Excess Profit Tax):銅の輸出価格によって以下の税率で課税
     
      1,901~2,100US$/t:30%
      2,100US$/tを超える:50%
    (4) ロイヤルティ:採掘量に応じて以下の税率で課税
     
      鉛、亜鉛、モリブデン:1.0%
      金:5.0%
      銀、タングステン:8.0%
      銅:8.1%

  9. まとめ

  10.  CIS諸国では鉱業法制リフォームの動きが見られるが、いずれの国も着実な経済成長を遂げている一方で、鉱業の位置付けや取り組みに対する政府姿勢には大きな違いがある。ロシアの事例でいうと、はたして鉱業セクターへの民間投資を促進させる方向で改革が進められているのか、疑問の余地無しとはしない。これは、ライセンスの交付権限を従来の連邦政府と地方政府(連邦構成主体)の二体制原則(“two-keys”principle)から連邦政府に一元化して効率性と透明性を高める、とするメディアを通じて発信される政府や担当官庁の情報と、実際の改正案には大きな乖離があるとの指摘があるからで、事実、関係者は(1)探鉱権から採掘権への移行優先権が認められるか、(2)ライセンスの第三者への譲渡が認められるか、(3)大規模鉱床に対するライセンス付与手続きは公正なものか、の3点は改正そのものの評価を左右する重要な事項だとして注目している。
     ロンドンAIM(Alternative Investment Market)のトップ50には西側中小鉱山企業10社がランク入りしており、鉱業セクターはAIMで一定の地位を占めるほどに成長している。この10社のうち、実に6社がロシアやカザフスタンなどの旧ソ連邦(FSU)の国々で探鉱活動を行っており、FSUは新興市場としてAIMにおける鉱業セクター躍進の原動力になっているとされる。
     その一例がロシア極東地域で積極的な活動を展開している企業3社が、非鉄メジャーのM&Aターゲットになったことに表れている。2003年10月にBarrick Gold社(加)が株式を取得したHighland Gold社、2004年3月にRio Tinto社(英)が探鉱J/Vを締結したPeter Hambro Mining社、2004年7月に世界2位の金生産者Anglo Gold Ashanti社(南ア)が権益29.9%を獲得したTrans-Siberian Gold社がそれであり、非鉄メジャーはこのようなM&Aをロシアのマイニング・ビジネス参入への足がかりにしていると見られる。
     鉱業アナリストは、かつてFSUでは4~5年間にわたる探鉱活動の空白期間があり、活況を取り戻してきたのはわずかここ2年程だと観察している。空白期は、ちょうどロシア金融危機直後の時期とも符号するが、にわかに活気付いてきたFSU(CIS諸国)における西側鉱山企業の探鉱活動が今後どのような高まりをみせていくのか、各国における鉱業政策リフォームの動向とともに引き続き注視していく必要があろう。

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