報告書&レポート
カザフスタンにおけるチタン産業の動向 -急速なチタン需要の回復を担うスポンジチタン-
米国同時テロ以降、特に航空機向けが低迷し、減産を強いられてきたチタンの需要が急速に回復している。中国の電力プラント向け需要の拡大や中東の海水淡水化プラント向け市場の創設による展伸材の復調が大きな要因とされる。チタン中間原料であるスポンジチタンの供給が追いつかずに需給がひっ迫するとの見方もあり、スポンジチタンを製造する日本メーカー2社は増産対応を強める中、CIS諸国で最もソブリン格付けiが高いカザフスタンでも増産の動きは顕著である。カザフスタンにおけるチタン産業の動向を報告する。 |
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概況
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原料基盤(チタン鉱石)
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電気炉によるチタンスラグの生産
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スポンジチタンの生産・輸出状況
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課題と今後の見通し
(1) CIS諸国のスポンジチタン生産者と日本の輸入 | ||||||||||||||||||||||
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(2) カザフスタンのスポンジチタン生産者 | ||||||||||||||||||||||
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UKTMKの子会社Satpaevsk Titanium Mining社(STM)が2001年に開発したSatpaevsk鉱床(ウスチカメノゴルスク南方約220km、露天採掘で生産)でチタン鉱石を採掘する。鉱石は2002年に操業を開始した選鉱場(イルメナイト精鉱の生産能力9千t/年)までの陸路30kmをトラックで輸送。選鉱場用水の水源であるZaisan湖水が凍結する冬期間(11~4月)は操業を休止する。イルメナイト精鉱(TiO2品位50~52%)はUKTMKの電気炉(ウスチカメノゴルスク)に供給される他、UKTMKの系列会社Mineral SCOT社がアクトベ州Shokash鉱床で、同じくKaztitan社が北カザフスタン州Obukhovsk鉱床でそれぞれチタン鉱石の採掘に向けて開発準備中とされる。UKTMKによれば、現在、スポンジチタンの原料の国内調達比率は約20%で、残りはウクライナ等からの輸入に依存しているが、これら鉱床の開発が進めば、同社のイルメナイト精鉱の生産能力は81千t/年(スポンジチタンの年産20千tを賄える量)にまで増え、国内自給が可能な水準となる。
2000年10月、UKTMKは敷地内にチタンスラグを製造するための電気炉(溶解能力40千t/年)を新設し、それまでカナダやウクライナ等から全量輸入していたチタンスラグの自社生産を開始した。チタンスラグ(TiO2品位84~86%)は、塩化工程、マグネシウム還元工程を経て同社の最終製品であるスポンジチタンが生産される。
UKTMKによれば、2004年上半期におけるスポンジチタンの生産量は前年同期比の20%増(2003年上半期が同21%減であったため、ほぼ2002年生産レベルを回復したものと推定)であった。また、輸出状況に関連して、主な輸出先であるベルギー、日本、米、中国のうち、特に、(1)米展伸材メーカーTimet社の輸入量の51%はUKTMK分が占めること、(2)チタン消費が日本を上回る規模に成長した中国では今後需要が3倍に増える可能性があること、等を同社はコメントし、いずれも重要な取引相手と位置付けていることを示唆した。
UKTMKでは、(1)原料の国内調達比率を高めること、(2)高付加価値の製品を生産すること、を重点目標として掲げており、前者ではSTMが操業するSatpaevsk鉱床の拡張と選鉱場設備の増強、さらには開発準備中にある2鉱床の開発立ち上げが具体的な課題となる。Satpaevsk鉱床については、日本が2002年度までの3年間、技術協力として行ったJICA・MMAJの資源開発調査で周辺に新規鉱床を発見、今後は同鉱床の開発が期待される。現選鉱場は、操業試験設備の性格を備えたもので、これまでの操業成績・データに基づいて本格設備の設計がなされると聞く。他方、後者に関しては、新たに酸化チタンを生産するためにノウハウのある新技術を導入する計画があることを明らかにした。
日本側のメーカーや関係者は、カザフスタン産スポンジチタンの品質向上を認め、国内生産能力の観点からも、「用途次第で棲み分けが進む」、「日本のチタン産業の技術の一部を投資し、カザフスタンのチタン産業を取り込むことも必要」との見方を示す。
i | 2004年5月、米大手格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は、長期外貨建て債務格付けを「BBBマイナス(見通しは安定的)」に引き上げた。これにより、カザフスタンはS&Pによる投資適格の評価を受けたCIS諸国で最初の国となった。 |