報告書&レポート
カザフスタンで活動する外資企業の動向
ユーラシア大陸の中央に位置する中央アジア諸国は、旧ソ連邦崩壊後、世界とのつながりを深め国際社会での存在感も増し、米国同時テロ以降は、地政学リスクの観点からも注目されるようになった。これら諸国にとって、エネルギー・鉱物資源は国際貿易による外貨収入源として非常に重要である。その中で最も資源に恵まれたカザフスタンは、資源大国ロシアと中国の間に挟まれており、両国とのつながりを特に緊密化させている。本稿は、資源開発・輸出増強を図るカザフスタンで活動している外資企業の動向を、その活動状況と生産状況の観点から報告する。 |
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主な外資企業の活動状況
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外資参入の事例(Kazakhmysの場合)
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非鉄金属産業の課題
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外資にとっての投資環境
表1にカザフスタンにおける最近の主な外資企業の活動状況を示す。同国のベースメタル生産を支配しているKazakhmys及びKazzinkには、いずれもSamsung(韓国)やGlencore (スイス)等の外資が参入している。
表1. 主な外資企業の活動状況 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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非鉄金属企業Kazakhmys(カザフムィス)は、カザフスタンにおける民間企業の発展のシンボル的存在である。同社は、Vladimir Kim社長(1989~95年、J/V“Kazakhstan-Samsung”の代表を努め、1995年から現職)の下、経営体制刷新と共に発展を遂げてきた。1995年、カザフ政府は200百万ドルの投資を条件としたマネージメント・アグリーメントを交わし、Samsung(韓)に対してKazakhmysの経営権(期限付き)を付与した。資金を得たKazakhmysは再建を進め、3年でクレジットを返済。その後、ZHEZKAZGANTSVETMET(Zhezkazgan鉱床群を稼行するコンビナート。当時、Kazakhmysの中核部分を構成していた。)のほかに、順次各地の非鉄企業(バルハシ鉱山・冶金コンビナート(Balkhash)、東カザフ銅化学コンビナート(Ust’Kamenogorsk北方)、ジェズケント鉱山・選鉱コンビナート(Ust’Kamenogorsk北西))を傘下に収め、3つの火力発電所や炭鉱を所有するまでに至った。現在の主な非鉄関係の設備は、以下のとおり。
(1) | Zhezkazgan:4鉱山、3選鉱場、銅製錬所(250千t/年) | |
(2) | Balhash GMK(Balkhash):2鉱山、選鉱場、2製錬所(銅:200千t/年、亜鉛:100千t/年) | |
(3) | Vostok Kazmed(Ust’ Kamenogorsk近辺の2コンビナートを管轄):5鉱山、3選鉱場 |
同社は、2003年に売上高858百万USドル(対前年比1.6%増)を記録、2003年10月には120百万USドルを投じたBalkhashの亜鉛製錬所も完成し、電気亜鉛の生産を開始した。銅の輸出は約8割が中国向けで、中国側とはL/C決済をベースとした取引関係を維持、ビジネス条件にも満足しているとされる。同社はカザフスタンにおけるほぼ全量の銅を生産しており、近年の大幅な銅増産(図1)を牽引する立役者となった。なお、同社は大規模投資に備えて国際銀行団(CITI group、HSBC、UFJ銀行など)との良好な関係も維持(協調融資の受入れ)しており、2004年上半期には、電気銅212,090t(対前年比4.4%増)、亜鉛精鉱29,160t(同32.1%減)、銀257.6t(同15.9%減)、電気亜鉛1,479tを生産した。2004年には、ロシアKMEZ社と共に設立したJ/V企業Ros Kaz Med社の50 Let Oktyabrya銅鉱山(銅量900千t、亜鉛量200千t、コバルト14千t)建設や2006年生産開始を目指し開発中のZhaman-Aibat鉱山(銅埋蔵量2,700千t)に対する開発費の他、近年取組みを強めている環境対策などを含め、前年比63.5%増の210百万USドルの投資を、税引き前利益は800百万USドル(対前年比108%増)をそれぞれ予定している他、好調な鉱山ビジネスを拡大させ、大規模鉄鉱床の採掘も行う計画があるとされる。
図1. カザフスタンの非鉄金属の生産量推移 |
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表2. カザフスタンにおける主な非鉄金属資源の生産量 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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カザフスタン政府は、鉱物資源の有効利用と廃棄物減容による環境保全の観点から、選鉱・製錬工程で8~20%の資源が未回収となる現状を問題視し、生産者への監視活動を強化して改善させたいとしている。ただ、現行の地下資源法によれば、この工程は地下資源利用に該当しないため、新たな枠組みが必要だとする議論があり、鉱業関係者は実体経済との調和が図られるのか、関連法と整合したものが導入されるのか等に着目して動向を注視している。
また、鉛以外では着実に生産量を伸ばし、順調な成長を遂げているように見える非鉄金属産業にあって、確認埋蔵量は平均してわずか15~20年分しかないという現状が指摘されており、1991年末の独立以降、適切な鉱業政策が講じられてこなかったとする批判には説得力がある。今後、いかにして埋蔵量を増やすための努力、特に地質調査を始めとする探鉱活動に民間投資を向かわせるかが政府の課題となっている。
先に2004年4月16日カレント・トピックス(2004年13号)で報告したように、2003年1月の新投資法制定(外資優遇が撤廃され、国内外の投資家に同じ待遇を供与)から2004年1月の鉱業税制改正(石油輸出税の導入と特別税・超過利得税の明確化)へと続く流れ、そして昨今の石油・ガスプロジェクトにおけるカザフスタン政府の対応ぶりi、に対して欧米石油会社は失望感を強め、外資にとって魅力的な投資環境の時代は終わったとの見方を示している。
今のところ、非鉄金属産業界においてこのような圧力強化の動きはないものの、自国の利益のために「契約締結後にルールを変えようとしている。」とも言われるカザフ政府の傾向が、石油・ガス分野以外で投資を行う海外投資家に与える影響は少なくないものと憂慮する。
i | 2004年6月、カザフ政府は、領内北カスピ海沖合のKashagan油田鉱区の開発(国際コンソーシアム(KCS))から撤退したBG社の権益に対して行使されたKCS内パートナーの先買権を認可せず、自ら取得することをKCS側に通告。これは、これまでの生産開始の遅れに対する補償金支払い要求(同2月)、掘削バージに対する滞納税・罰金の支払い命令(同6月)に続くもの。この他、Karachaganakガス田での不正輸出の告発(同7月)や、Petro Kazakhstan社の利益払い戻し命令など、政府による一連の動きは、有利な条件で特権的に事業に参入したい意向を反映した介入圧力と見られている。 |
