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報告書&レポート

2004年10月14日 ロンドン事務所 嘉村 潤 e-mail: kamura@jogmec.org.uk
2004年43号

国際鉛亜鉛研究会第49回年次総会概要報告

 国際鉛亜鉛研究会の第49回年次総会が2004年10月6~8日にオーストリアのウィーンにおいて開催された。同総会では、世界34か国・地域(加盟国・地域25、オブザーバー国9)、国際機関等から約160人の鉛・亜鉛関係の政府・民間関係者が参加し、鉛・亜鉛の需給の現状と展望、産業動向、環境問題等について、講演やパネルディスカッション、研究会の下に設けられた委員会からの活動報告等が行われた。例年の鉛・亜鉛需給の現状と展望に加えて、特に今回の総会は、金属関係の3つの国際研究会(国際鉛亜鉛研究会、国際銅研究会、国際ニッケル研究会)の合理化について、その重要な進展が確認された点があげられる。主な会議の成果としては、以下の通り。

統計予測委員会
鉛の2004年・2005年展望


 世界の鉛地金消費は、2004年2.8%増の698万トン、2005年2.2%増の713万トンと予測。この主要要因は中国の消費増加で、2004年9.0%増、2005年8.5%増を予測、SLIバッテリーや産業バッテリーの急増により2000年以降需要は倍増以上となってきている。米国は依然世界最大の消費国で、2004年、2005年は、2003年の150万トン強と同レベルとなると予測。独とチェコの増加は仏と英の減少で一部バランスし、欧州全体では2004年1.5%増、2005年は2004年と同レベルに留まると予測。
 世界の鉛鉱山生産は、2004年1.3%増の314万トン、2005年は豪州、中国、アイルランドの増産により5.7%増と著しく増加し332万トンと予測。世界の鉛地金生産は、主に2003年におけるプラント閉鎖により豪州、英国の地金生産が減少するものの、中国、カザフスタンの増産によりバランスされ、2004年は2003年とほぼ同様の672万トンと予測。2005年は中国の新規プラント稼動、豪州、カナダ、インド、英国の増加により4.1%増の699万トンと予測。
 2004年、2005年において、中国は引き続き西側諸国から大量の精鉱・スクラップを輸入し、中国から西側諸国への鉛の純地金輸出は、2004年は2003年とほぼ同様のレベルとなるものの、2005年は中国国内消費の更なる増加で8%減少する見込み。
 この結果、2004年の西側諸国の鉛地金需給は18.8万トンの不足、2005年は11.8万トンの不足となる見込み。

亜鉛の2004年・2005年展望
 世界の亜鉛地金消費は、2004年4.8%増の1,034万トン、2005年4.3%増の1,078万トンと予測。この主要要因は、中国における道路、鉄道、変電所等のインフラ投資や住宅、自動車及び大型家電製品向けの需要急拡大等により、亜鉛めっき鋼の消費が引き続き増加することによるものである。中国の亜鉛地金消費は、2004年10.4%増、2005年11.3%増と予測。米国では、主に亜鉛メッキ鋼の出荷増により2004年は6.8%増加するものの、2005年は増減なしと予測。欧州では、2004年2.2%増、2005年1.1%増と予測。
 世界の亜鉛鉱山生産は、2004年2.1%増の977万トン、2005年5.1%増の1,027万トンと予測。2004年は、豪州とペルーで減産するものの、カナダ、中国、インド、アイルランド、スウェーデン、米国、ナミビア(Anglo American社のSkorpion鉱山でほぼフル生産)で増産があり、豪州とペルーの減少分を上回る見込み。2005年は、中国YunnanでLanping鉱山が生産開始する等多くの中小鉱山の増産で中国の生産が6.8%増、豪州、インド、アイルランド、メキシコ、ナミビア、ペルー、スウェーデン、米国でも増産を予測。世界の亜鉛地金生産は、2004年3.1%増の1.014万トン、2005年4.9%増の1,063万トンと予測。2004年は、2003年9月のCockle Creekプラント閉鎖により豪州が減少するものの、カナダ、中国、カザフスタン、韓国、ナミビアの増加でこれを上回る見込み。2005年は、中国とカザフスタンで更に増加、カザフスタンでは新規のBalkhashプラントがフル生産に近づくと予測。豪州、インド、韓国、ナミビア、ノルウェー、米国でも増加を予測。
 2004年の1月から8月の貿易データから、2004年の中国から西側諸国への亜鉛の純地金輸出は、2003年の半分以下のレベルになり、この傾向は、中国の亜鉛の国内消費の更なる増加で継続し、中国から西側諸国への亜鉛の純地金輸出はさらに減少する見込み。
 この結果、2004年の西側諸国の亜鉛地金需給は15.7万トンの不足、2005年は10.1万トンの不足となる見込み。

世界の生産と消費
(単位:千トン)
亜鉛
2003 2004 2005 2003 2004 2005
西側世界の鉱山生産量 1,980 2,032 2,156 6,704 6,768 7,104
東側諸国への精鉱輸出量 369 449 451 480 425 420
西側世界の精錬可能量 1,611 1,583 1,705 6,224 6,343 6,684
西側世界の地金生産量 4,732 4,575 4,723 6,643 6,726 6,997
西側世界の地金消費量 5,271 5,320 5,358 7,148 7,361 7,510
東側諸国からの地金輸入量 480 497 457 671 443 377
米国の備蓄放出量 60 60 60 7 35 35
西側世界の需給バランス 1 -188 -118 173 -157 -101
東側諸国の鉱山生産量 1,118 1,106 1,162 2,870 3,005 3,166
東側諸国の地金生産量 1,968 2,147 2,274 3,189 3,412 3,634
東側諸国の地金消費量 1,518 1,657 1,775 2,718 2,981 3,274
世界の鉱山生産量 3,098 3,138 3,318 9,574 9,773 10,270
世界の地金生産量 6,700 6,722 6,997 9,832 10,138 10,631
世界の地金消費量 6,789 6,977 7,133 9,866 10,342 10,784

経済環境委員会

 経済環境委員会では、まず、欧州鉛亜鉛産業界の代表者によるEU拡大の効果に関するパネルディスカッションが開催され、EU新規加盟10か国におけるインフラ投資や自動車生産増加により、鉛亜鉛市場がさらに発展する可能性を持っていると同時に、EUの環境規制がこれら10か国の鉛亜鉛産業に与える影響も懸念されるとの認識が示された。
 亜鉛メッキ市場と技術の傾向について情報交換・議論がなされ、また、電気自動車の開発と鉛亜鉛需要に与えるインプリケーションについてのパネルディスカッションも開催された。このパネルでは電気自動車の開発が鉛亜鉛需要に与える影響について議論され、ハイブリッド自動車バッテリーの市場が有望であるとの認識がなされた。
 EU環境規制と欧州鉛亜鉛産業に与える影響に関する講演と議論が行われ、鉛・亜鉛のリスク・アセスメントに関する情報アップデート、最近の政策動向(世銀EIR、EUバッテリー指令、EU化学政策)に関する事務局からの報告も行われた。
 この他、本委員会では、日本の再加盟を記念する観点から、日本鉱業協会・鉛亜鉛需要開発センターの中島理事・センター長より「日本における亜鉛リサイクル」についての講演も行われた。

鉱山精錬プロジェクト委員会

 鉱山精錬プロジェクト委員会では、事務局より「鉱山探鉱の傾向とその新規鉱山開発との関係」について、鉛鉱山の開発規模は1999年以降急減、亜鉛鉱山の規模は1993年以降大幅に増加、過去25年間に探鉱開発の大部分はアメリカ大陸と豪州で実施され、鉛は亜鉛鉱山の副産物として採掘されることが多くなったが、過去8年間で新規亜鉛鉱山における鉛生産量は減少、最近、亜鉛鉱山の鉛生産比率はさらに削減され、鉛亜鉛鉱山の典型的な開発期間は5年から10年と推定されるとの報告がなされた。この他、2004年における鉛亜鉛鉱山、精錬所の新設・閉鎖・拡張のレビューが行われた。

産業アドバイザリーパネル

 産業アドバイザリーパネルでは、パネルメンバーによる鉛亜鉛市場動向、需要成長や産業が懸念する政策等についての討議のほかに、最近の鉛亜鉛需要で大きな地位を占める中国の鉛亜鉛産業の最近の動き、「世界のバッテリー市場」についての講演等が行われた。
 グリーン・レッド・イニシアティブの動向に関する報告が行われ、このイニシアティブは包括的なプロダクト・スチュアードシップによるアプローチとして、規制当局や地域社会に対する鉛に関する認識を高め、受け入れてもらえることを目指すものとして、加盟各国に歓迎された。

研究会の合理化タスクフォース

 3つの金属関連国際研究会(銅、鉛・亜鉛、ニッケル)が、一つの事務局所在地で一人の事務局長とする合理化案を進めることについての方針決定が、先月、国際銅研究会でも決定され3研究会が出揃ったことを受け、その実施が来年7月からとなることを念頭に、3研究会共同の手続きとして、まず11月22~23日に第1回選出委員会(3研究会の議長国及び常任委員長国、合理化タスクフォース議長国:チリ、メキシコ、インド、フランス、ノルウェー、EU、米国、豪州と他の参加希望加盟国で構成予定)を開催、選出委員会で統一の所在地として3つの候補地(ロンドン、リスボン、ベニス)の中から1つの地域を推薦、新事務局長の選出方法の検討を行い、2005年2月の3研究会合同の会議で決定するとのスケジュールが紹介された。また、法的な問題など実行面での問題について、いくつか問題提起や議論がなされ、引き続き検討されることとなった。

常任委員会

 常任委員会では、合理化タスクフォースで報告された3研究会の合理化スケジュールが確認され、3研究会の合同会議で事務局所在地決定が投票となった場合、1加盟につき1票とすること(複数の研究会に加盟している国はその数の票数が与えられる)が確認され、併せて合同会議での結論を確認する常任委員会を後で開催することで、正式の結論とすることも確認された。
 また、常任委員会では、2005年の予算案やその加盟国分担について議論・調整が行われ、2004年の研究会活動報告と2005年の事業計画についても報告・了承された。

総会

 総会では、本年研究会に加盟したナミビアの鉱山エネルギー省代表者から「ナミビアの鉱物・金属開発」、ポーランドのImpexmetal代表者から「ポーランドの鉛亜鉛産業」に関する基調講演が行われた。また、各国声明、各委員会委員長による報告の後、役員の選出等が行われ、欠員となっていた研究会の議長としてインド鉱山省のArha氏が選任され、常任委員会の副議長として、資源エネルギー庁の朝日鉱物資源課長が選出された。
 今後の会合予定としては、常任委員会、経済環境委員会、産業アドバイザリーパネルを2005年4月25~26日にロンドンで、次期総会は2005年10月26~28日に開催すること(場所は未定)となった。

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