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報告書&レポート

2004年12月9日 アルマティ事務所 酒田 剛 e-mail: jogmec@nursat.kz
2004年56号

ウズベキスタンの鉱物資源をめぐる最近の情勢 ―「改革」と「開発」の政策調和の課題―

 市場経済への体制転換が進む中央アジア5か国は、旧ソ連崩壊時には体制の基本構造、経済発展度、文化水準や産業技術体系といった歴史的前提条件が極めて相似していたにもかかわらず、天然資源の賦存や産業配置等の初期条件の違い1と改革政策に対する独自のアプローチとによって、政治経済は驚くほど多様に進化した。ウズベキスタンが行った経済改革は、価格自由化や大企業民営化が進まず、金融セクターも旧態依然としたもので、結果として中央政府による集権的な産業管理システムが復権2。この改革路線は、同国における鉱物資源の開発政策に対して、実態として「国家管理型」の方向をもたらした。このような背景にあって、今回、ウズベキスタン現地に出張する機会を得たため、同国の鉱物資源をめぐる最近の情勢を報告する。

  1. 主要鉱産物の生産状況

  2.  World Metal Statisticsによれば、2003年生産量は、金82t、銀150t、銅80千tとされるが、正式な統計データは公表されていない。以下に、主な鉱業企業の生産状況(生産量データ:AGMKは同社パンフレットと聞き取り情報から、それ以外は各種情報からの取りまとめ)を示す。

  3. 鉱業セクターの法的枠組

  4. 2-1.

    鉱業法(地下資源法)等の概要

     2002年12月に改正(1994年制定)された地下資源法は、法人・個人が地下資源使用権(ライセンス)を取得して国家の所有物である地下資源を利用するという概念を規定。ライセンスには、(1)地質調査権(期間:5年)、(2)採掘権(技術経済性評価で定められた期間)、(3)堆積された低品位鉱の回収権(同)の3種類があり、地質調査権から採掘権への移行優先権が認められている。また、採掘量に応じたロイヤルティ課税(税率は、鉛・亜鉛・モリブデン:1.0%、金:5.0%、銀・タングステン:8.0%、銅:8.1%)がある。なお、今年6月の税制改正で、新たに銅に対する超過利得税(輸出価格が1,900 USドル/t以上の場合に適用)が導入された。
     この他、生産物分与協定(PSA方式)に基づく地下資源利用を規定したPSA法が2001年12月に制定されている。

    2-2.

    国家地質委員会の役割

     地下資源(石油・天然ガスを除く)の管理・監督を行う国家機関であり、以下を所管する。

      (1) 地下資源法の策定、ライセンスの審査や交付
      (2) 探鉱開発に関するJ/V事業や外資企業を相手方とする地下資源関連事業のウズベク代表
      (3) 地質調査・探鉱、鉱量計算及び技術評価の実施
      (4) 自ら採掘権を所有し、鉱山開発を実施

     地質調査の実働部隊(機構図に示す地域管轄の5地質公団)と2研究所を傘下に所有し、総勢では約1万名(本部の管理部門は約45名)の人員を抱える。
     Akhmedov委員長によれば、探査に重要なベーシックデータ・セット(鉱床地質、物理探査、地化学探査の各データ)は、国内ほぼ全土をカバーする範囲で取得(縮尺:1/100,000(一般地域)、1/50,000(鉱区地域))されており、現在、地形や衛星画像などの基本情報に重ね合わせるGIS化によってデータ整備を行うプロジェクトを検討中。

  5. 探鉱開発の動向

  6. 3-1.

    主なプロジェクト

    Amantaytau金鉱山(中央Kyzyl-Kum地域)
     Oxus Resources社(英)50%、国家地質委員会40%、Navoi GMK 10%で構成するAmantaytau Goldfields J/V(AGF)が開発費45百万USドルで金回収設備I期工事を完成し、金生産を開始。今年4月、金の輸出契約に関する対外経済関係庁の承認を受け、金生産量の7割(開発資金融資の際の条件)を輸出し、2005年には金12tを生産予定。1百万t/年の酸化鉱を処理に加え、硫化鉱を処理して回収設備を2百万t/年に拡張するII期工事のバンカブルF/Sにも着手。可採金量は3.2百万oz.とされる。Oxus Resources社は、今年6月にHarmony Gold社(南ア)による買収計画が報道されたOxus Gold Plc.社(ロンドンAIMに上場)の子会社。

    Khandiza多金属鉱床(Surkhandarrya州)
     Oxus Gold Plc.社の子会社Marakand Minerals社がバンカブルF/Sを終了し、来年4月に開発費70百万USドルで山元に選鉱設備の建設を開始予定。ウズベク政府との間で交わす利権契約に基づき稼行されるが、開発方式はPSAかJ/Vかを調整中。確定鉱量は13百万t、品位:Zn 8.3%、Pb 4.1%、Cu 1.0%、Au 0.34g/t、Ag 144g/tとされる。

    3-2.

    活動中の外資企業

     国家地質委員会によれば、上述の外資企業の他、Barrick Gold社、Teck Cominco社、Gold Fields社、Cogema社が探鉱開発活動を行っているとされる。

  7. AGMKの概要

  8.  首都Tashkentの南東約50kmに位置するAlmalyk(Tashkent州)に本拠を置くウズベク最大の鉱山企業の一つで、3つの主要な生産部門を有する。今回、銅製錬所と選鉱場の一部を見学したが、施設や各設備の老朽化が目立ち、投資不足による設備更新の遅れが生産に少なからぬ影響を与えていると感じた。従業員は約25,000名とされる。

    (1)

    鉛・亜鉛部門

    • Dzhizak州のUch-kulach鉱山、選鉱場、亜鉛製錬所からなる。
    • 選鉱場は1954年に稼動を開始し、鉱石処理能力は年間400万t、浮選処理で鉛・亜鉛精鉱を生産している。(亜鉛精鉱:亜鉛製錬所で処理。鉛精鉱:カザフスタンのシムケント製錬所(Yuzhpolimetal社)向け輸出の他、政府の指導で鉛地金やバッテリーの試験生産を開始。)
    • 亜鉛製錬所は1970年に操業を開始し、生産能力12万t/年の金属亜鉛の他、カドミウム、銅、鉛、金、銀、硫酸を副産品として生産する。鉱山と選鉱場は300km以上離れており、輸送コストの問題から採掘量が大幅に減少、イランやポーランドなどからの亜鉛精鉱の買鉱(現在の輸入量は約150千t)によって処理鉱石不足を補っているとされる。

    (2)

    銅・モリブデン部門

    • Almalyk近傍に位置するCIS最大規模の斑岩銅鉱床であるKalmakir鉱山(ピット:長径6km×短径2.5km×深さ900m、粗鉱品位:Cu 0.39%、Au 0.5g/t、Ag 2.5~2.8g/t、Mo 0.004%、採鉱量:2,400万t/年)と小型のSary-cheku鉱山、選鉱場、銅製錬所からなる。
    • 100t貨車12両編成で運搬される鉱石は、1961年に稼動を開始した選鉱場(処理能力:2,700万t/年)に給鉱され、銅・モリブデン精鉱が生産される。(銅精鉱:2003年には600千t以上を生産、選鉱実収率は78%で精鉱品位は17%、銅製錬所で処理。モリブデン精鉱:Chirchikにある耐火・耐熱金属製造工場(イスラエルとのJ/V企業)に出荷。)
    • 銅製錬所は1979年に操業を開始し、電気銅、粗銅、銅地金、金、銀、セレン、テルル、硫酸等を生産する。2004年上半期には前年同期比1.6%減となる41,364tの電気銅を生産し、生産量の68%は欧州向けに輸出された。現在の銅の輸出価格は、LME価格の33 USドル/t引き(Almalyk渡しのため、運賃見合いの値引き分)とのこと。

    (3)

    金部門

    • Tashkent州内のAngren(Kyzylama坑、Kochbulak坑)、Chadak、Kauldyの3鉱山と金・銀回収プラントからなる。採鉱量は70万tで、金・銀地金は政府によって買い上げられている。

    (4)

    財務・原料調達の状況
     2003年、ABN・AMROやUFJ銀行(日)などからなるシンジケート・ローン7百万USドル(銅前貸しによる融資)がGlencore社への銅販売を条件として実行された。また、2005年以降にはモンゴルErdenet銅鉱山から銅精鉱の供給を受ける予定にしており、トーリング方式で168千t/年が調達される見通し。AGMKは、これによってフル操業が可能となり、電気銅125千t/年の生産能力に対して85-90千tの生産に留まっている原料不足の現状が改善されるとしている。

  9. 政策の課題

  10.  現在の中央アジアでは、市場経済化の進捗状況や投資政策の差異よりも天然資源(特に、強力な投資誘因となる炭化水素資源)の有無こそが外国投資動向に支配的な影響を与えているとの指摘3があり、ウズベキスタン政府もこれら資源の探鉱開発に外資を誘致するための優遇措置や優先投資鉱区の制定(鉱区開放)など、積極的な資源開発政策を講じている。
    しかし、ウズベキスタンでは、このような政策に反して外資の活動は一般的に低調である。その要因として、(1)長く続いた厳しい外為規制や企業活動に対する様々な規制に代表される投資環境の劣悪さ、(2)集権的な産業管理体制を堅持する政権の影響力への懸念、(3)地理的条件(二重内陸国)等からくる輸出ポテンシャルに対する国際的評価の低さ、といった重大な問題点が挙げられている4
     政策方針のみならず、実態的にも「外資導入型」の開発政策を目指すためには、同国政府には、経済自由化を進めて企業・金融改革に一層取り組む姿勢、改革と開発の政策調和が求められる。なお、探査活動の活発化による投資促進には、データへの容易なアクセスが欠かせないが、民営化の遅滞から企業情報の開示はおろか一般的な経済データの公表すら遅れている同国にあって、この点をいかに改善するかも極めて重要な課題である。この文脈から、国家地質委員会が計画しているベーシックデータ・セットのGIS化によるデータ整備とアウトプットの外部提供がなされることを強く期待する。
    なお、今回の現地出張において、直前の訪問申し入れにもかかわらず好意的に受け入れてくれたAGMK側の対応があったことを最後に付記しておきたい。


    1 「中央アジア・コーカサス諸国の経済政策評価-改革初期条件と市場経済化-」ロシア東欧貿易会(2003年3月)を参照。
    2 『ロシア東欧貿易調査月報』2004年10月号-新たな中央アジア像を求めて-特集記事(p.9)を参照。ウズベキスタンの改革路線は、トルクメニスタンと共に「権威主義的再集権化プロセス」に、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの3か国のそれは「自由主義的分権化プロセス」に、それぞれ区分されるとする。
    3 同上(p.17)を参照。EBRDによる市場経済化進展度が最低評価のトルクメニスタン(主力産品の天然ガスを豊富に埋蔵する)が、より高い評価を得ているキルギス(炭化水素資源をほとんど有さない)よりも2倍以上の外国直接投資を得ている。
    4 同上(p.20)を参照。
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