報告書&レポート
開発を待つ大型銅鉱山プロジェクト
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はじめに
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鉱山開発の条件
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開発を待ちのプロジェクト
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主な大規模プロジェクトの動向
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最近のプロジェクトの特徴
最近、中国などの著しい経済発展により、銅などの鉱物資源の需要が大幅に伸びている。多くの国々で、休止鉱山の再開や既存鉱山の能力増強などが行われ、この急激な需要増に対応しようとしているが、これだけでは十分ではないことは明らかで、新規の鉱山開発がなければ将来的に大きな供給不安があると思われる。
そこで、現在、すでに鉱床が確認され開発を待っているプロジェクトがどのくらいあるか、それらの将来の供給能力はいかがなものかについてとりまとめた。
近年、鉱山開発に関する環境が変化している。
一番大きな変化は、環境影響評価が欠かせなくなってきたことである。このため探査技術上は成功したと言えても、すぐに鉱山を開発し、生産に移行することができるわけではなくなっている。
また、古くから鉱山開発の意思決定の要因として、(1)金属価格と需要の見通し、(2)外資法や税制などの受け入れ条件をどのように評価するかという問題がある。
1990年代特に後半からは銅価は低迷し、更に需要も伸びず多くの鉱山で減産や休止を行ってきた。このような状況では新規の開発計画などは無理であった。
しかし、最近になっての中国、インド、ブラジルなどの国々の台頭は、銅の需要の将来の見通しを大きく増加するものに変えた。これらの国が全て巨大な人口を抱えており、しかも急速な経済成長が見込まれることから、鉱物資源の需要も急拡大することが見込まれ、この結果、多くの国々で新規開発の動きが活発化することとなった。
加えて、近年の技術的進歩にも目を見張るものがあり、その最も大きなものがリーチング技術の発展である。当初は酸化鉱の処理のみであったが、最近は優れた溶剤の開発やバイオの利用によって初生硫化物鉱床までも対象になってきた。
SX-EWによって金属を採取することのできる鉱山は、従来の選鉱処理鉱山よりは低品位鉱石の処理が可能で、その結果非常に競争力のある鉱山の建設が可能となってきている。
エコロジカルな観点から見ても、20~30%の金属分しか含んでいない鉱石を大量に運搬し続けることは、省エネルギーの観点からも、廃棄物処理の観点からも非合理的であることから、採掘現場の近くで金属を回収することができるSX-EW鉱山は将来の鉱山のあり方を示唆しているといえる。
国際銅研究会(ICSG)により、リストアップされている、開発待ちと見られるプロジェクトは、世界で108件あり、このうち埋蔵鉱量の判っているものが85件ある。
また、表1は、前述のICSGのまとめた世界の銅鉱山プロジェクトのうち、開発待ちの分で埋蔵鉱量(含有銅量)が100万tを超えるものを含有銅量の多い順に並べたリストである。
これらのプロジェクトは、すでにFS段階に達しているもので、なんらかの事情により開発されずにいるものが多い。Michiquillay(ペルー)、Petaquilla(パナマ)等、日本が関与したプロジェクトもある。
表1 世界における開発待ちプロジェクト | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ICGSのリストの中で、埋蔵鉱量の判っている85プロジェクトについて、埋蔵鉱量の累積を求めると銅量で2億3千万t強に達する。
これは、世界の1年間の銅生産量が、約1,300万tとすれば17年分にもなる量である。
世界の埋蔵鉱量との関係を見ると、世界の埋蔵鉱量はReserve(USGSの定義)で475百万t(USGS Mineral Commodity Summary 2004)であるから、そのうちの約5割は開発待ちのプロジェクトとしてスタンバイしているともいえる。Reserve Base(USGSの定義)で見ても約4分の1に相当する量である。
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図 世界の銅資源埋蔵鉱量と開発待ちプロジェクトの関係 |
表1のうち、最近話題になったプロジェクトについて、その動向の概要を次に述べる。
(1) ブラジルCVRDのプロジェクト
ブラジルの鉄鉱石メジャーのCVRDが近年多角化を目指し、総合資源会社への道を進んでいるのは周知のことであるが、中でも銅資源については、これまでブラジルは主要な銅産出国とは見られていなかったが故に、かなり急激な進出戦略を展開してきている。
その契機となったのは、ブラジルの自社保有鉱区に大規模銅鉱床が相次いで発見、確認されたからである。
表2はCVRDが権益を有するプロジェクトの主なものである。
CVRDは、当初の計画より若干遅れることになったものの、2008年までにはこれらのプロジェクトの生産を開始する計画である。これらのプロジェクトが生産を開始すればブラジルは年間60万t以上の銅生産国になる。
表2 CVRDの銅プロジェクト | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(2) アルゼンチンのプロジェクト
El Pachonプロジェクトは、現在FS段階で、本年中にも終了する見込み。
オーナーのNoranda社は、「ビジネスを銅とニッケルに集中し、銅の拠点はチリに置くと表明している」ので、開発の意思決定も迅速に行われることになろう。
Agua Rica(Northern Orion 社)プロジェクトは、2006年からの開発にむけての計画が報じられており、近隣のBjo de la Alumbrera鉱山から精鉱を買鉱している韓国LG-Nikko社が30%の権益獲得を表明している。
(3) チリのプロジェクト
2004年10月25日、BHP Billiton社は、チリ北部のSpenceプロジェクトの開発を行うことを発表した。開発費は9.9億ドル、マインライフ19年、SX-EWにより銅を年間20万t生産する計画で、2006年第4四半期に最初のカソードを生産する予定。本鉱床は、1993年にRio Algom社により発見された完全潜頭性のポーフィリー銅鉱床。硫化鉱と酸化鉱より構成され、硫化鉱はバクテリアリーティングにより分解し、酸化鉱とともにSX-EWプラントで処理され、カソードとして生産される。
Gaby Surプロジェクトは、1996年に発見された鉱山で、SX-EW方式で地金を生産する。中国のMinmetalsが興味を示しているプロジェクトで、EIAも取得済みであり、近々生産に移行する予定。
(4) ペルーのプロジェクト
ペルーは歴史的に、メジャー企業やジュニア企業により探査活動が盛んに行われてきた国である。そのため開発待ちプロジェクトも数多い。
政府の鉱業関係組織が次々と民営化される中で、国有鉱区が次々とテンダーで放出されてきており、世界の鉱山会社が興味を示している。しかも大型鉱床が多いことが特徴である。
最近、ロイヤリティー問題、地元コミュニティーとの摩擦など様々な開発上のリスクも多いために、開発が遅延したり、休止せざるを得ないようになっているケースが多い。
Michiquillayプロジェクトは、1957年には発見されていた歴史的なプロジェクトである。当時のASARCO社による探査が行われたが、1970年ペルー政府の管理下に置かれるようになり、当時、ミネロペルーが引き継いだ。
1971年から1995年にかけて、日本がGG調査で探鉱を集中的に実施、最初のFSを完成させた。
1991年以降、ペルー政府が国際テンダーに出す計画があったが実現せず、2004年12月になって、ペルー政府投資促進庁が、地元との合意成立を条件に、近々テンダーに出すと発表した。条件はToromochoプロジェクトと同様な条件であろうとのこと。
また、La Granjaプロジェクトについても同じ時期に入札を行うとの情報がある。
(5) パナマのプロジェクト
パナマ政府は、43年ぶりに鉱業法の改正に着手し、2004年になりようやく原案が完成した。新鉱業法には、旧法になかった閉山対策や環境問題に関する規定が盛り込まれ、更に、先住民族との調整(地域社会の参加)と環境対策などが追加され、これにより頓挫していた多くの鉱山開発プロジェクトが動き出すものと期待されている。
Petaquillaプロジェクトは、1969年UNDPにより発見された後、1971年から76年にかけてPanama Mineral Resouces Development Co.の所有となり日本企業(三井金属)と合同で探査を行ったプロジェクトである。探査はJOGMECの地質構造調査として行われ、大規模銅鉱床であることが確認されたが、開発には至らなかった。更に、1989年になって銅価の高騰を受け日本側が再度開発を検討したが、結局実現しなかった。1990年以降Teck社などがFSのための調査を行い、金の品位も高いことを確認したが、キャピタルコストの低減と銅価格の上昇が必要として塩漬けになっている。
Cerro Coloradoプロジェクトは、2001年Tiomin Resources 社から、AUR Resources社が権益を入手したプロジェクトである。政府の新しい動きを受けて、開発への動きが加速されつつある上に、現在、銅と金の価格が上昇傾向にあるので、最近、また話題になりつつある。
(6) 中国の大型プロジェクト
Yulongプロジェクトは、中国最大級の銅鉱床開発プロジェクトで、政府の開発許可はすでに1998年に出されているといわれるが、プロジェクトがチベットに位置するために治安面に不安があるほか、インフラも問題があり、困難に直面しているといわれている。
(7) フィリピンのプロジェクト
フィリピンの銅鉱床は銅の品位が世界的に比較的低品位であるが、多くが金を含有しているタイプで、最近の金、銅の価格の高騰により開発のための環境が整ってきた。
これまでに、大型の鉱床の発見がなされてきたが資金・技術支援協定(FTAA)が違憲であるとの最高裁の判断や先住民問題により開発の動きが止まっていた。
しかし、2004年12月1日、最高裁判所は、フィリピン鉱業法(共和国法第7942号)が資源開発に対する外資制限を設けた憲法には抵触しないとし、政府と豪州系WMCフィリピン(WMCP)が1995年に結んだFTAAは合憲との判決を下した。最高裁は「大規模な鉱物、石油、鉱油の探査・開発・利用に関するサービス契約を認める」と憲法上に明記されていると指摘。政府が起草の段階から、外資系企業と結ぶ資金・技術援助協定に外国企業による投資や運営も含まれることを前提にしていたと結論づけた。そして、国が大統領を通じて鉱業に関する完全なる管理権を保持するとしたうえで、外資との協定の締結が可能とした。また、停滞している鉱業の再活性化によるフィリピン経済の飛躍の必要性と、国家の繁栄・先住民の保護及び生態系破壊の防止の必要性の調和を図るべき旨を指摘している。
政府、鉱業協会も「鉱業を再び活性化し、力強い経済成長をもたらす」と、これを歓迎している。しかし、ミンダナオなど治安の問題は依然として深刻で、開発へ向けて促進されるわけではないと考えられる。
フィリピンは日本との結びつきが古く、プロジェクトにもいろいろな段階で日本企業が関わっているものが多い。また、DidipioなどのプロジェクトはJOGMECのGG調査(基本図調査)の結果がきっかけで評価されたプロジェクトである。
(8) ラオス初のプロジェクト
Seponプロジェクトはラオス初の本格的鉱山開発で、2003年12月、初めてのカソードが生産された。2005年中には操業が軌道に乗る予定。発見は1990年、発見したのはRTZであったが、いわゆるWorld Classでないために同社の資源戦略に合わず、後にOxiana社に権益を移転した。SX-EW方式を採用。
JOGMECの紹介により、日本企業も探査の段階で興味を持ったが、酸化鉱が主体の鉱床であるということから、最終的には参加しなかった。
(9) ロシアのプロジェクト
Udokanプロジェクトについては、連邦政府の関係省庁と地方政府との間で、入札方法と参加者の条件(ロシア企業に限定するか否か)を巡って何年にも亘って紆余曲折が続いており、未だに実施されていない。
ロシアで、Norilskに次ぐ銅生産者であるUGMK社も入札に参加する予定といわれているほか、中国企業も興味を持っていると伝えられている。
(10) コンゴ(カッパーベルト)のプロジェクト
政情や社会情勢が不安定で開発が遅れているこのような状況は、カッパーベルト内のプロジェクトにも当てはまる。
各プロジェクトについて、探査、開発から生産への準備は済んでいるものも多いが、全体としてなかなか進展していない。
特にカタンガ州のTenke Fungurumeプロジェクトはコバルトの供給源としても重要な鉱山開発プロジェクトで、世界でも最も開発が期待されるプロジェクトであり、Phelps Dodge社の参加により開発の本格化も期待されている。
近年開発に移行しようとしているプロジェクトは、大規模機械採掘~乾式製錬の組み合わせより、中規模でかつ品位も十分に高くないものが多く認められる。SX-EWを採用することにより、建設や操業コストが著しく下がってきたからである(チリ、ペルー、など多数のプロジェクトが採用)。したがって、品位も必ずしも高い必要はなくなってきている。今後、湿式製錬のより高い汎用性が実現すれば、更に開発案件が増えることになろう。
または、他の副産物(金、ニッケルなど)の組み合わせが認められる鉱床も開発が早いようである(パナマ、フィリピンのプロジェクト、カナダの一部のプロジェクト)。リストの中で大規模にはならないが、中小規模でも優良プロジェクトが多く見られ、massive sulphide(多鉱種を含む)の鉱床が多い特徴がある。
謝辞: | 本稿作成に当たっては、JOGMEC海外事務所からの情報を各所で活用した。各事務所からの情報や報告は、資源の分野をほとんどあまねく網羅しており、必要にして十分な検索システムとあいまって大いに参考にすることができた。 記して感謝します。 |
