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チリ・モリブデン生産世界一に ―地質鉱床学的背景と生産見通し―
はじめに
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モリブデンの鉱床タイプと世界の埋蔵量
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銅生産にリンクするチリのモリブデン生産
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今後の生産見通し
チリは、銅およびリチウムの世界一の生産量を誇るが、モリブデン生産量も2003年アメリカを抜きトップとなった(第1図参照)。最近のモリブデン価格の高騰に支えられ、チリの酸化モリブデンおよびフェロモリブデン輸出額は、2004年11月末現在、既に2003年同期比4倍強の12.073億ドルに達しており、鉱産物輸出額(但し金は除く)の8%を占め、銅、金に継ぐ重要な鉱産物となっている。
モリブデンはチリ、中国およびアメリカに偏在し、その生産もこれら3か国で3/4を占める。しかしながら、国によって鉱床タイプが異なることから、今後、その供給に一層の違いが出てくることが予想される。以下、チリのモリブデンを産する鉱床タイプの特徴、チリにおける生産の現状および将来の生産見通しについてレポートする。
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第1図 世界のモリブデン生産推移(Raw Materials Group, 2004) |
自然界では、モリブデンのほとんどは輝水鉛鉱(MoS2)として産する。輝水鉛鉱を産する鉱床タイプは、ポーフィリー鉱床、スカルン鉱床(例えばPine Cleek鉱床、California)、裂罅充填鉱床(例えばQuesta鉱床、New Mexico)、ペグマタイト・アプライト鉱床(例えばMost鉱床、Quebec)、ウラン鉱床(Arizona)である。なかでも、ポーフィリー鉱床は、その規模が大きいことから、モリブデンを含む鉱床のなかでは、最も重要な鉱床タイプである。モリブデンと銅の量比により、Climax型と呼ばれるポーフィリーモリブデン鉱床(殆どMo)、ポーフィリーモリブデン・銅鉱床(Mo>Cu)およびポーフィリー銅・モリブデン鉱床(Cu>Mo)に便宜的に分けられる。モリブデンのみを回収する場合プライマリー、銅鉱石の副産物として回収される場合はバイプロあるいはコープロ鉱山と称されている(日本メタル経済研究所、1999)。
世界のモリブデン埋蔵量は、Roskill(2003)によると、中国:330万t、アメリカ:270万t、チリ:110万tおよびその他:149万tである。一方モリブデンの生産は、アメリカ、中国、チリの3か国で世界の74%を占める。アメリカの鉱床はポーフィリーモリブデン鉱床(例えばHenderson鉱山、Colorado)およびポーフィリー銅・モリブデン鉱床(例えばBinghuam Canyon鉱山、Uta)でアメリカ西部のポーフィリーベルトに産する。中国の鉱床は、ポーフィリーモリブデン鉱床(例えばJinduicheng 鉱山、陜西省)、ポーフィリー銅・モリブデン鉱床(例えばDexing、江西省)のような大規模鉱山もあるが、スカルン鉱床を対象とした小規模な個人採掘が多い。一方チリのモリブデンを含む鉱床タイプは、全てポーフィリー銅・モリブデン鉱床でバイプロ鉱床である。このように国によってモリブデンを生産する鉱床タイプが異なる。
第2図に示すように、チリには多数のポーフィリー鉱床が分布するが、そのなかでも、モリブデンを伴ういわゆるポーフィリー銅・モリブデン鉱床とそうでないものに区分される。モリブデンを多く含有している鉱床は、Camus(2003)によると、Chuquicamata鉱床(モリブデン金属量:1,805KT;品位:0.024%)、Radomiro Tomic鉱床(746KT;0.015%)、Collahuasi鉱床(746KT;0.024%)、Escondida鉱床(475KT;0.021%)、El Salvador鉱床(214KT;0.022%)、Los Pelambres鉱床(670KT;0.02%)、Andina-Los Bronces鉱床(1,260KT;0.02%)、El Teniente鉱床(2,500KT;0.02%)である。その中でも南部のLos Pelambres、Andina-Los BroncesおよびEl Teniente鉱床は中新世後期―鮮新世ポーフィリーベルトに産する超世界規模ポーフィリー銅・モリブデン鉱床でモリブデン品位も高い傾向が見られる。モリブデンと銅の生産推移をみてみると当然ながら第3図に示すように銅の生産増大に比例してモリブデンの生産が増大していることがわかる。これは当然ながらチリの主要なポーフィリー銅鉱床がモリブデンを含有しており、モリブデンが副産物として回収されていることを示している。
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第2図 チリのポーフィリー銅・モリブデン鉱床の分布 |
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第3図 チリの銅およびモリブデン生産推移(COCHILCO, 2004) |
1999年から2002年にかけて、モリブデン価格低迷期に過剰供給を抑えるため北米の多くのポーフィリーモリブデン、ポーフィリー銅・モリブデン鉱山(例えばContinental、Montana鉱山、Montana)が閉山もしくは減産したのに対して、チリおよびペルーは、銅生産の増大に伴って生産を増加させた。2003年以降、中国経済発展による素材の需要増により、モリブデン市況が大幅に上昇し、チリのモリブデン生産鉱山はこの恩恵を受ける結果となった。2004年の輸出額は大幅に増え、直近11月1か月の輸出額をみても、2.1億ドルで2001年1年間の輸出額を上回る額を記録している。COCHILCOの分析によると、世界の強い需要からみて2005年のモリブデン価格は、18~25USドル/lbで推移し、2008年まで長期的にも15USドル/lb以上の価格が維持されるものと予測している。
鉱山別生産量の推移を第4図に示す。Ministerio de Mineria(2004)は、2010年までに新規銅鉱山開発および拡張に71億ドルの投資が行われ、銅生産量は690万tになると予測している。これに伴ってモリブデンの生産が更に増大することが予想される。最大のモリブデンを有するEl Teniente鉱山では近い将来、坑内採掘に加え、露天採掘が計画されている。また同鉱山では、過去および現在の選鉱尾鉱中に含まれるモリブデンの回収プロジェクトがカナダのMinera Valle Central社により2005年3月から開始され、年間600tのモリブデンが回収される見込みである。Radomiro Tomic鉱山は、現在、リーチング対象の酸化鉱および二次富化帯を採掘しているが、Chuquicamata鉱山の坑内採掘への移行にあたり、深部の初生硫化鉱の開発が加速化され、モリブデンの回収が始まることになる。Collahuasi鉱山は、2004年11月に2006年から年産4,500~7,000tのモリブデンを回収することを決定した。ただし1鉱山で世界最大の銅生産を誇るEscondida鉱山では、モリブデンを含むものの未だ回収は行われていない。
このように銅の副産物として回収されているチリのモリブデンは、銅鉱石の生産増大に伴って確実に増大していくことになる。現在、モリブデン生産中の鉱山における増産は、初生硫化鉱を対象とするものが大部分で、将来初生硫化鉱を対象とした選鉱を伴わないリーチング法が確立しない限りバイプロ鉱山のモリブデン生産への影響はないものと判断される。
中国は、モリブデンの埋蔵量は世界最大であるが、プライマリー鉱山からの生産が多いこと、大型鉱山もあるが個人採掘が多いこと、最近の生産状況をみても減少傾向にあり、直ちに大幅な増産に転換することは難しいと思われる。
アメリカは年産68,500tの生産能力を有するが2002年には市況の低迷により、その44%まで生産を落としている(Roskill, 2003)。市況の回復によりどこまで増産が可能か注目されるところである。チリのモリブデン生産は、全てがバイプロ鉱山からであることから、モリブデン市況には大きな影響を受けず、今後も銅の生産増に比例して、コンスタントな生産が続くものと予測される。
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第4図 チリにおける鉱山別モリブデン生産推移(Editec,2004) |
参考資料 |
Camus, F.(2003) Geologia de los sistemas Porfiricos en los Andes de Chile.SERNAGEOMIN, 267p. Santiago, Chile. |
Roskill(2003) The Economics of Molybdenum.P316. |
日本メタル経済研究所 (1999)レアメタル備蓄事業の調査研究にかかわる事業. P113. |
Ministerio de Mineria(2004) Perspectivas de la Inversion Minera en Chile. |
Seminario Ciclo de Inversion en Proyectos Mineos. Pdf資料 |
