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報告書&レポート

2005年3月3日 バンコク事務所 市原秋男 e-mail: ichihara@mozart.inet.co.th
2005年12号

Philippines Mining 2005開催 ―政府、鉱業再活性化に強い意欲―

 2004年12月1日、最高裁判所は、フィリピン鉱業法(共和国法第7942号)が資源開発に対する外資制限を設けた憲法に抵触するとした2004年1月の判決を覆し、政府と豪州系WMCフィリピン(WMCP)が1995年に結んだ資金・技術支援協定(FTAA)は合憲との再審判決を下した。
 フィリピン政府は、2003年以降、鉱業の再活性化・持続的な鉱業の発展のため、国家鉱業政策(National Mineral Policy)の策定や、2004年1月には、政策として鉱業を振興(ToleranceからPromotionへ)する旨の閣議決定、鉱業再活性化政策アジェンダの大統領令270号発布(1月16日)、行動計画(Mineral Action Plan)策定等の取り組みを進めてきたところであり、今回の再審結果は、これらの取組みに大きな弾みを与えるものとなった。
 この大きな情勢変化を受け、フィリピン鉱業協会は、このモメンタムを維持し海外投資の呼込みを図るため、政府の協力のもと、本コンファレンスを開催した。

  1. コンファレンス概要

  2.  今回のコンファレンスは、2月2日~4日の間、“Open for Business Mining and Minerals:The new drivers of growth”とのタイトルでMakati市内で開催され、海外からは、豪州、カナダ、米国、中国、英国等100名余りの参加者が出席した。このうち中国からは、先月の投資促進に係るフィリピンとの合意を受け、約30人が参加、存在感を示していた。

    (第1日目)

     翌日の政府閣僚からのプレゼンテーションに先立つブリーフィングとの位置付けで、政府関係者、産業界から経済動向、鉱業の概況等について説明が行われた。

    • 投資委員会(BOI)Hernandez局長
       2004~2010年の中期フィリピン開発計画(MTPDP)においても、鉱業はIT産業等と並ぶ優先産業であり、23プロジェクトから約65億USドルの投資が期待されている。大統領令第226号により、所得税免除期間の付与、輸入部品に対する租税及び関税の免除、原材料等に対する税額控除のほか、通関手続きの簡素化といった非財務優遇措置が設けられており、登録処理の迅速化を含め投資促進・円滑化を図っているところ。
    • 環境天然資源省・鉱山地球科学局Ramos局長
       鉱業部門の2003年の生産額は42億ペソ、輸出額は6億3,800万ペソで全体の1.8%の状況。これまで鉱業権が付与された地域は国土の1.4%にすぎず、さらなるポテンシャルを有するものと認識。 大統領令270号及びアクションプラン策定で鉱業促進を推進してきており、Responsible Miningを国家レベルで推進させていく所存。
    • 国家経済開発庁Cororadon部長
       2004年GDP成長率は6.1%。産業部門は5.3%、このうち鉱業は4.3%、製造業5.0%、建設8.9%。鉱業の内訳をみると銅は-15.2%、ニッケル-8.7%と停滞気味。全輸出額のうち、鉱物は2.0%を占めている。
       2005年のGDP成長率の目標は全体で5.3~6.3%、産業部門は、4.2~6.4%を想定。鉱業の成長に大きく期待しているところ。
    • Indophil社Tony W. Robbins社長
       同社は、1988年から、フィリピンに進出。金・銅・ニッケル等が有望と判断。フィリピンは、労働力の質やインフラ、欧米のビジネススタイルが浸透しているビジネス環境に優位性あり。
       CSRの実施、文化・社会慣行への配慮を通じ、円滑な鉱山運営が可能と認識。
       Tampakanプロジェクトは、ワールドクラスの銅金鉱床であり、開発に向け準備中。今回の最高裁判決を非常に歓迎している。
    • Ivanho社Friedland社長
       ハイブリッド車の進展により銅の需要拡大が見込まれるほか、インド・中国の金属資源需要の増大が顕著な状況下、フィリピンはワールドクラスのポテンシャルを有しており、開発の進展に期待している。環境対策は極めて重要な課題であり、世界レベルの技術の適用により鉱山を開発していくことが必要。
    • China Metallurgical Construction (Group) Corporation Changheng会長
       フィリピンのポテンシャルに期待。距離的にも中国に近く、協力関係の深化が図られるものと認識。先般のフィリピン鉱業セクター間とのMOUの締結を受け、ニッケル、銅、金、鉄鉱山の開発や精錬事業、既存事業の拡張案件に強い関心を持っている。

    (第2日目)

     貿易産業省、環境天然資源省、国家経済開発庁の閣僚等から、鉱業復興に向けた施政方針が述べられるかたちでコンファレンスが進行した。

    • Purisma貿易産業大臣
       英語力を有する労働者、鉱物資源ポテンシャル、地理的に中国に近い点等がフィリピンの強み。国家収入の増進、新たな産業振興、雇用の増加、国民の購買力の向上等による経済成長の促進のため、政府としても全力を挙げて鉱業を支援していく方針であり、MPSAやFTAAの所有者へのBOI投資優遇措置を継続し、環境天然資源省との協調により設置されたMining Assistance Centerを通じた投資家への情報提供、許認可手続きの迅速化等を図っていく。
       選定されている23プロジェクトから今後6年間で65億USドルの投資が期待されるほか、輸出収入は30億USドル、10万人の雇用も期待される。鉱物資源腑存地域900万haが開発を待っている状況といえ、近年の金属価格や中国の需要増もこれらに好影響を与えるもの。
       鉱業振興に際しては、経済発展と環境保全及び社会的公平性の調和を図るための法律・行政制度の運用に万全を期していく所存。
    • Defensor環境天然資源大臣
       IT・通信産業が発展したように、鉱業も大きな発展が見込まれる。鉱業は歳入を増やし、経済発展に大きく寄与するとともに、地域に対しては、雇用や病院・学校等社会インフラの充実をもたらす。
       これまで、地方政府が鉱山開発に反対する例もみられ、環境天然資源省は規制側の立場であることから、あまり調整を行ってこなかった面もあった。今後は、Responsible Miningにより、環境保全と持続的発展を両立させる鉱業実施のため、パートナーとして関係者間の調整を図っていく方針。また、探査権や鉱業権、FTAA、ECCの審査期間短縮を実践し、許認可の迅速化・制度運用の効率化を図っていく。

     また、Ramos前大統領も、講演に参加。大統領時代、1990年代からの鉱業低迷を改善すべく、鉱業支援策のタスクフォースを1993年に設置、95年には鉱業法を制定し、自ら署名したこと等を紹介。最新技術による鉱業は、環境保全、保安確保、社会的発展を達成できるものと考えられ、鉱山企業は、地元との対話を深め、社会的責任を果たしていくことが必要であるとし、他方、政治の安定性が確保されることも、事業の成功に不可欠であることを改めて強調した。

     会合終了後、参加者は、マラカニアン宮殿での夕食の機会を得た。その席でアロヨ大統領は、フィリピンの経済安定のためには、鉱業の振興、外資系企業の参入が必要。Responsible Miningのメッセージにより政府に力を貸してほしい。社会と国民にとって利益となるよう、環境問題に配慮した持続可能な発展を目指す鉱業を強く支援していく。既に、許認可手続きの効率化を行い、MPSA(鉱物生産分配協定)は6か月、ECC(環境適合証明書)4か月、NCIP(先住民族国家委員会)事前許可3か月に審査期間を短縮した。また、重要な課題である休廃止鉱山や閉山後のリハビリテーション対策、地元コミュニティとの対話促進・相互理解を今以上に推進していく旨を表明。国家及び国民の反映のための鉱業の必要性、外資導入の必要性を強調した。

     なお、当日午前中、コンファレンス会場のホテル前では、市民団体やNGO等による抗議集会が開かれ、鉱山開発に伴う先住民の立退き要求や違法伐採、環境汚染問題への懸念等から外資を招いた鉱業コンファレンスの開催、最高裁の鉱業法合憲判決に対して抗議が行われたが、大きな混乱とはならなかった。

     一方、午後には、マラカニアン宮殿で、「Stakeholders Forum on Responsible Mining for sustainable Development」と題し、先住民代表等とアロヨ大統領との対話が行われ、大統領は、鉱業による環境・社会影響の最小化、貧困対策への貢献の最大化が政策目標であることを宣言、休廃止鉱山対策や、企業側が鉱山地域住民に、鉱物生産額に応じた一定金額を直接支払う制度の検討等を示した。

    (第3日目)

     同日は、鉱業権許認可手続きやBOIの投資優遇策の概要が政府担当者から説明されたほか、鉱山や法律コンサルタント、セキュリティコントロール等の企業からの説明が行われた。許認可手続きに関しては、審査期間の短縮が進むことを評価するも、申請様式以外に過多な追加資料を求められることの改善を求める声が挙がっていた。
     また、コンファレンスと平行的に、ビジネス・マッチングと称し、進展中のプロジェクトを巡る企業間同士での打ち合わせが多数行われていた。
     クロージングセッションでは、コンファレンスが成功裏に終了したことを確認しつつ、6~7月にASEAN内鉱業協会合同のコンファレンスがフィリピンで開催されることが示され、さらなるフィリピン鉱業の進展に期待しつつ会合を終了した。

  3. プロジェクト動向

  4.  本コンファレンスにおいては、MGB等がかねてから有望案件としていたもののうち、23プロジェクトが案件リスト化されており、ビジネスマッチングもこれらのプロジェクトを中心に行われていた。
     プロジェクトの概要を別添に示す。

  5. 所感

  6.  本コンファレンスで示された政策措置は、既存制度や鉱業再活性化の大統領令270号・行動計画(Mineral Action Plan)に盛込まれていた内容ではあるが、鉱業法が違憲とされた状況下で進められてきたこれらの政策転換や制度改善が、今回の合憲判決で確固たるものとなり、一気に弾みが付いたといえる。
     2004年12月の最高裁判決から2か月程度の準備期間で、大統領以下、関係閣僚の参加を得ての国際会合を開催し、同日内に、大統領と先住民代表等及び外国投資家との対話を行い一連のイベントを成功裏に終了させたことは、鉱業界はもとより大統領の鉱業再活性化に向けた強い熱意が感じられた。
     この勢いを契機とし、安定的な鉱業政策が維持されるとともに、環境保全、地元住民との合意形成等、鉱山開発に向けた政府、企業、国民での取組みの進展を期待したい。

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