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報告書&レポート

2005年3月10日 金属資源開発調査企画グループ 馬場洋三 e-mail:baba-yozo@jogmec.go.jp
2005年15号

Xstrata社(Glencore社)の今後の動きは?

 我が国においても、異業種の企業間の株の大量取得が、連日ニュースを賑わせている。非鉄金属業界においても、1990年代後半の非鉄金属価格の低迷、開発費の増加等からM&Aが活発化し、1996年BHP社(豪)によるMagma Copper社(米)買収、1999年Phelps Dodge社(米)のCyprus Amax社(米)買収に見られる生き残りをかけた鉱山会社による鉱山会社の買収の一方、1997~1998年Xstrata社(スイス)による南ア・クロム生産会社等の買収、1999年Grupo Mexico社(墨)によるAsarco社(米)買収、2004年10月Minmetal社(中国)によるNoranda社への買収提案に見られる金融資本(トレーダー)による市場原理に基づく鉱山会社買収の2つの傾向が見られる。
 Xstrata社は、2003年6月豪州の代表的な鉛・亜鉛企業MIM社を30億USドルで買収し、一躍非鉄金属業界で脚光を浴び、さらに、2004年10月28日には豪州のニッケル・ウラン企業WMC社に買収提案を行い豪州政府等を巻き込んだ動きとなっている。また、親会社のGlencore社(スイス)もbase metals trading会社を設立するなど、Glencore/Xstrata社は新たな動きを見せてきている。

  1. Xstrata社概要

  2.  Marc Rich(ベルギー出身)は、1968~1974年にスポット石油のトレーディングなどで巨額の利益を得て、1974年Marc Rich & Co.社をスイスに設立した。(1990年Glencore社に名称変更、なお、創業者のMarc Richは1993~1994年に所有権を手放している。)
     Glencore社は、主に貿易業によって発展してきたが、1990年代後半に鉱業と製錬業に投資をシフトさせていった。同社は1926年設立のSudelktra社を買収し、鉱業関係事業を集中した。Sudelktra社は、南ア通貨のランド安、クロム・バナジウム価格の低迷時の1997~98年に南アのクロム生産会社(Cromcorp社及びCMI社)、バナジウム生産会社(Vantech社及びRhoex社)を買収して特定鉱種において鉱業分野に顕著に進出してきた。バナジウムについては生産シェアの拡大とともに、取引量の60%程度を押さえ価格決定権を握っているとも言われている。同社は、1999年にXstrata社に名称変更した。さらに、Xstrata社 は亜鉛鉱石不足、製錬業の苦境時の2001年にはAsturiana de Zinc社やNordenham Zinc社等の買収により亜鉛製錬業に、豪ドル安・金属価格がまだ低迷時の2003年6月には豪州の代表的な鉛・亜鉛及び石炭企業のMIM社を買収(30億USドル)することにより、鉛・亜鉛鉱山を、さらにはアルゼンチンのAlumbrera銅鉱山の権益をも確保した。このように、Xstrata社は、親会社のGlencore社とのMarket Advisory Agreementのもと、金属価格安及び通貨安を上手く利用して既存企業の買収を進めてきた。(MIM社買収により、Xstrata社は南ア及び豪州において30鉱山以上の石炭鉱山を所有し、世界第一位の一般炭輸出企業となっている。)
     さらに、2004年10月28日豪州のニッケル・ウラン企業WMC社に対し1株当たり6.35豪ドル(総額74億豪ドル)の買収提案したが、拒否されたため、11月22日には敵対的買収に転換した。WMC社はGrant Samuelによる第三者評価(1株当たり7.17~8.24豪ドル)を根拠に買収拒否声明を発表し、その後、Xstrata社は買収提案額を7.20豪ドル(総額84豪ドル)に引き上げたが、WMC社はこの提案についても拒否し続けている。買収期限の3月24日までにBHP Billiton社、 Rio Tinto社等の他のメジャー企業がWhite Knightとして対抗して買収に名乗り出るかを含めて、その成り行きが注目されている

      3月8日、BHP Billiton社が1株当たり7.85豪ドル(総額92億豪ドル)というWMC社買収提案を発表。これに対し、Xstrata社は自社のオファーを引き上げるつもりがないことを発表しており、本買収案件は急展開を向かえている。

     一方、これまでの既存企業の買収と違う新たな動きとして、2004年9月にペルー・Las Bambas銅プロジェクトの入札に参加、1億2,100万USドルで落札した。より投資効果が期待される新規開発プロジェクトへの参加にも踏み出したものと理解される。

      (注;Las Bambas銅プロジェクト 最低入札価格 4,000万USドル
     Xstrata社;1億2,100万USドル(落札) CVRD社;1億1,100万USドル
     BHP Billiton社;1億610万USドル Phelps Dodge社;5,000万USドル)

     

  3. Xstrata社の与える影響等

  4.  Xstrata社は、近年、鉱山会社を買収することにより鉱種・地域の多様化を果たし、Anglo American plc社、Rio Tinto社、BHP Billiton社に次ぐ第4の国際資源会社になりつつある。これまでの鉱山業界の慣習・供給使命より経済性を優先、キャッシュフローを重視した経営方針、買鉱交渉相手としてはシビア、JVパートナーとしては利益を最大限に追求する相手との評価である。
     Rio Tinto社、BHP Billiton社等の最大手でさえ長期安定を重視する傾向にある鉱山業界では、新規大型案件開発に当たってカスタムスメルターの日本の製錬所を安定した精鉱売却先として重視して開発プロジェクトへ参画させてきた。しかしながら、上記のように鉱山業界の慣習にこだわらない新規参入者の登場は、日本の安定した鉱石確保に多大な影響を与える可能性がある。
     また、非鉄金属価格上昇はXstrata社に潤沢な現金をもたらした一方、買収対象企業の資産価値は高騰し、同社は既存の企業買収を続けるのみならず、開発段階での権益取得に今後さらに積極的になることも予測される。

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