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報告書&レポート

2005年3月17日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail:nakayama-ken@entelchile.net
2005年16号

チリEscondida鉱山の最近の動向 ―Escondida Norte鉱床の開発と低品位硫化鉱バイオリーチングの開始―

 はじめに

     2004年のチリ銅生産量は520万tに達した。そのうち、Escondida鉱山が120万tを生産。この量は、日本の1年間の銅消費量にほぼ匹敵し、1鉱山としては世界最大の銅生産量を誇る。同鉱山は1990年に生産を開始し、四期に亘る拡張工事が実施され、2002年末には年産125万tの生産体制が出来た。2004年から更にEscondida Norte鉱床の開発と硫化鉱バイオリーチングプラントの建設がスタートした。このたび同鉱山を訪問する機会があったので、同鉱山の概況と合わせてEscondida Norte鉱床開発および硫化鉱バイオリーチンおよび将来の生産見通しについてレポートする。

  1. 発見から開発まで

  2. 第1図 Escondida鉱山位置図

     Escondida鉱床は、1981年3月Minera Utha de ChileとGetty MiningとのJ/V探査によりチリ第II州Antofagasta市東方150kmのアタカマ砂漠で発見された(第1図)。2年計画の最後の年、5孔計画されたボーリングのうち最後のボーリングにおいて450mの計画のところ420mで着鉱し、これが巨大鉱床発見の端緒となった。Minera Utha de ChileとGetty Miningによる探査の着目点は、Chuquicamata鉱床とEl Salvador鉱床の間で大型のポーフィリー鉱床がまだ発見されてない場所であった。
     1982年から1988年にかけてF/Sとファイナンスが行われ、開発は1988年に決定された。1989年8月に開発を開始し、1990年12月から本格的商業的生産を開始した。初期開発コストは835百万USドルであった。権益比率はBHP Billiton:57.5%、Rio Tinto:30%、JECO:10%(Mitsubishi:6%、Nippon Mining:2%、Mirsubishi Material:2%)、IFC:2.5%である。なおIFC(国際金融公社)は国際プロジェクトとして地元対策のため参画したもの。

  3. 生産開始から現在へ

  4. 第2図 Escondida鉱山銅生産量推移

     1990年に商業的生産を開始して以来、第I期(1993年・1994年)から第IV期(2001年・2002年)に亘って拡張事業を続けてきた。特に2000年にスタートした第IV期拡張計画は、総投資額約10.446億USドルにのぼるもので、主体はLaguna Seca選鉱プラントの新設(鉱石処理能力:110,000t/日)で、2003年に完了した。この結果、年産125万t体制が確立された。1989年の開発から2004年までの総投資額は43.36億USドルで、これまでの産銅量は、10,232千tに達した(第2図)。2003年は、銅価の低迷で操業規模を落としていたが、2004年は銅価の高騰に支えられフル操業により生産能力に近い119.5万tの銅を生産した。その内訳は硫化精鉱:104万tおよびSX-EWカソード:15万tである(いずれも含有銅量)。

  5. 操業概況

  6.  現在の操業概況は、以下のとおりである。鉱山施設配置を第3図に示す。
     露天採掘は、剥土比4:1(開発当初)、2:1(現在)、ピット径は3.2km×2.2km×465mで、最終的には4.8km×3.5km×750mとなる。鉱石はインピットクラッシャーで破砕し、コンベヤーでLos ColoradosおよびLaguna Seca選鉱プラントに運搬。採掘された鉱石のうち酸化鉱および二次富化鉱はヒープリーチングを経て電解しカソードにする。一方硫化鉱は、Los ColoradosおよびLaguna Seca選鉱プラントにて精鉱を生産。Escondida露天採掘の拡大に伴い、Los Colorados選鉱プラントは将来移転する予定。精鉱は、170km離れたColoso港にパイプ流送、脱水後海外に輸出。なおColosoに建設された硫化精鉱のアンモニアリーチングプラントは、実収率があがらず、1998年操業を停止した。
     アタカマ砂漠の中に存在するEscondida鉱山は選鉱プラントおよびSX-EWに必要な水が確保できないという問題を抱えていた。同鉱山では近くの地下水からの供給では選鉱プラント増設には対応しきれず、150km離れたColoso海岸で海水の淡水化を行い、山元まで送水し利用する工事を2005年から開始した。

    Escondida採鉱関係諸元
    鉱量・品位 確定鉱量 Cu 1.02% 23.3億t
    鉱石品位 1.4%
    精鉱品位 34.7%
    探鉱 探掘方法 露天掘(3.2km×2.2km×465mH)
    剥土比 2:1(開発当初4:1)
    ベンチ高 15m
    ピット傾斜 50°
    ダンプトラック CATA797(380mt)ほか92台
    ショベル P&H4100×PB(73yd Dipper)ほか14台
    フロントエンドローダー CAT944(23yd Bucket) 3台
    選鉱能力  La Coloradoプラント 110,000t/日
     Lagna Secaプラント 120,000t/日
    選鉱実収率 84%
    SX-EW カソード生産能力 450t/日
    実収率 80%
    その他 従業員(2003年) 2,284人
    下請け(2003年) 3,302人
    Clキャッシュコスト(2003年) 44.2¢/lb
    収益(2004年) 17億USドル
    法人所得税(2004年) 357百万USドル

  7. Escondida Norte鉱床開発と硫化鉱バイオリーチングプラント

  8.  
      第3図 Escondida鉱山施設配置(ベースはASTER画像)

    (1) Escondida Norte開発
     Escondida Norte鉱床は、Escondida鉱床の北約5kmに位置しており、潜頭鉱床として発見された。Placer Dome社操業のZaldival鉱山が隣接する。表土下の鉱床は部位から酸化鉱:1.42億t、Cu 0.79%、酸化鉱と硫化鉱の混合鉱:0.42億t、Cu 0.27%、その更に下位の硫化鉱:6.49億t、Cu 1.33%および低品位硫化鉱:6.42億t、Cu 0.58%よりなる。Esocndida鉱山に隣接していることから、既存インフラを使用した生産が可能で、鉱石は、硫化鉱はLos ColoradosおよびLaguna Seca選鉱プラント、酸化鉱はSX-EWプラントで処理される。Escondida鉱床の開発が今後次第に深部に至るに従って品位が低下する(既に1998年の2.75%から2004年の1.37%に低下)が、Escondida Norteの浅部(Cu>2%)開発でその品位低下を補填することが可能となる。このため2008年まで、125万t体制が維持できる模様。本鉱床は、2003年6月に社内で開発が承認され、同年9月から開発工事がスタートした。開発費は4億ドル。2005年10月の生産開始をめざし現在剥土作業(これまでに1,350億tの表土を剥土、表土の厚さは140m)および破砕設備建設を実施中である。マインライフ17年。最終ピット設計は2km×2.5km×750m。出鉱量は135,000t/日の予定。

    Escondida Norteの鉱石分布
    位置 鉱種 (億t) Cu
    上部 酸化鉱 1.42 0.79%
    酸化鉱と硫化鉱の混合鉱 0.42 0.27%
    下位の硫化鉱 6.49 1.33%
    下部 低品位硫化鉱 6.42 0.58%

    (2) 硫化鉱バイオリーチングプラント
      Escondida鉱山では1990年代中頃より検討していた低品位鉱石に対するバイオリーチングプラント建設が2004年から本格的にスタートし2006年からの生産を目指す。開山以来現在貯鉱されている低品位硫化鉱、今後生産されるEscondidaおよびEscondida Norte鉱床の低品位硫化鉱を利用する計画である。対象となる鉱量は11.3億t、銅品位は0.52%、実収率は36%の見込みである。銅鉱物の50%は黄銅鉱。Esondida鉱床のSX-EW対象となる酸化鉱および二次富化鉱は後10年で採掘が終了することになる。それに代わり低品位硫化鉱からバイオリーチングを活用したSX-EWカソードカッパーを回収する。操業コストは、35¢/lb。
      隣接するZaldivar鉱山でも既にバイオリーチングを実施している。本プラントの建設費は9億ドル、生産規模(銅量)は当初180,000t/年、鉱石供給が増加すれば、245,000t/年まで拡大。2006年第2四半期から生産開始の予定で25年以上の操業を計画している。バクテリアの活動を長期化させ実収率を高めるため、ROMリーチ(最高120m)を採用、以降はSX-EWと同じプロセス。なお使用バクテリアは、mesophiles(好中温性細菌){thiobacillus ferrooxidans(鉄酸化細菌)}の仲間である。硫化鉱バイオリーチングプラントが稼動すればEscondida鉱山では当面330,000t/年のカソードカッパー生産能力を有することになる。なおBHP Billiton社は、チリ第I州のCerro Colorado鉱山で既にバイオリーチングを実施しているほか、Chuquicamata鉱山においてもCODELCOと共同で硫化精鉱に対するバイオリーチング試験を実施しているところである。世界の主流となった酸化鉱および二次富化鉱に対するSX-EWに次いで、低品位硫化鉱に対するバイオリーチングが大型銅鉱山でも本格化することになる。

  9. 将来の生産見通し

  10.  Escondida鉱山は、300,000t/年からスタートし、相次ぐ拡張により12年間で、1鉱山としては世界最大を誇る125万tの生産能力を備えることとなった。2005年後半からEscondida Norteからの生産が開始され、2008年までは、125万tの規模が維持される。それ以降については、鉱石品位の低下から生産規模の縮小が予想される。
     チリ北部のような砂漠地帯に存在するポーフィリー銅鉱床では二次富化帯(secondary enrichment zone)と称されるほぼ現在の位置で、天水により地表下浅所において二次的な銅の濃集が生じ、高品位鉱床が形成される。Escondida鉱山と言えどもこの高品位二次富化帯の採掘は終了し、深部に行くに従って初生硫化鉱が採掘の主体となり、次第に低品位鉱が増大してくることになる。この低品位硫化鉱に対するバイオリーチングにより、採掘対象が拡大し、生産規模の低下を補うことが出来るかが鍵を握ることになる。
     ポーフィリー銅鉱床は、クラスター(いくつかの鉱床が密集する)を形成することが多いが、Escondida地域においても、Escondida鉱床のほかEscondida Norte鉱床に隣接してZaldivar鉱床が存在する(第3図参照)。現在でもEscondida鉱山周辺で活発な探査活動が展開されており、周辺においてPinta Verde、Co.Grande W&N、Carmen、Escondida Surといったポーフィリー銅鉱床が既に捕捉されており、CODELCO Norteのような巨大なポーフィリー銅鉱床クラスターをなしている。探査が進展すれば、近い将来これら周辺鉱床も開発の対象となり、世界一を誇るEsocndida地域の銅生産はしばらく続くものと思われる。

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