報告書&レポート
メキシコ合衆国フレスニージョ鉱山の現地調査報告
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メキシコの銀生産及び位置づけ
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フレスニージョ鉱山のメキシコ国内での位置づけ
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フレスニージョ鉱山
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課題と展望
はじめに
メキシコは世界第1位の銀産出国である。2005年3月末、世界産銀量の5%を占め、メキシコ産銀量の3割強を占めるペニョーレス社「Fresnillo(フレスニージョ)鉱山」を訪問する機会に恵まれたので、その訪問内容について報告する。
なお、この鉱山は、通常の土木工事に用いるトンネル用自動継続掘削機(Tunelera)を用いて効率的な坑道掘削を行っている。
世界全体で年間2万t弱の産銀量のうち、メキシコでは年間約3千tの銀を生産し、世界全体の約15%を占める世界第1位の銀産出国である。
メキシコ国内において、鉱物生産額に占める割合(2003年データ)は、銅20%に次いで銀は第2位16%であり、また、鉱物輸出額(同年データ)では、銀が第1位28%を占め、重要な産業かつ外貨獲得鉱物である。なお、日本へも輸出されている。
今回訪問したフレスニージョ鉱山は、年間約1千tの銀を生産しており、メキシコ産銀量全体の3割強を生産している。
同鉱山の位置するサカテカス州、及び同鉱山を所有するペニョーレス社のいずれもが、メキシコ産銀量の約5割を占め、メキシコ最大の産銀州や産銀企業であり、同鉱山は同州及び同企業の双方における6割以上を占めるメキシコ最大の産銀鉱山である。
(図) フレスニージョ鉱山は、フレスニージョ市内に位置する。 |
(1) 位置
サカテカス州は、メキシコの北部中央に位置し、平均高度が海抜2,100m、州都サカテカス市は海抜2,420m。北はコアウイラ州、東はサンルイスポトシ州、南西はアグアスカリエンテ州、南はハリスコ州、西はドゥランゴ州、南西はナヤリ州に接し、面積は75千㎞2(日本の1/5)で、メキシコ国内で8番目の広さ。気候は半乾燥で年間平均気温16℃、年間降水量は510mm。
フレスニージョ市は、州都サカテカス市から約50kmの距離にあり、15万人超の人口を擁しており、主要産業は鉱業で、まさに、フレスニージョ鉱山は市内に位置している。
(2) 歴史
当鉱山の歴史は古く、約450年前の1554年にスペインによるメキシコ征服後間もなく鉱脈が発見された。その後、小規模な鉱山採掘が行われ、1835年に英国資本によるCompania Zacatecano mexicano社が設立され、初めて機械化が導入され、1847年に米国の侵略を受けたものの、メキシコ革命や仏国占領等を経て1887年まで操業した。
1900年にRobert Towneが次亜硫酸SX-EWプラント操業に成功。1910年に米国資本がThe Fresnillo Company of New Yorkを設立し、同社は1912年に酸化鉱物用のシアンSX-EWプラント(140t/日)を建設開始し、1919年に当プラントを英国会社Mexican Corporationに貸与した。1929年に両社は合併しFresnillo Campany of New Yorkとなった。
その後、1961年にメキシコ新鉱業法により外資企業はメキシコ民族資本化されて以降、現在のペニョーレス社が所有するCompania Fresnillo, S.A.が操業を行っている。
(3) 鉱山の概要
フレスニージョ鉱山を含めたフレスニージョ地域の鉱床は、ストックワーク、鉱染体、マント状・チムニー状及び鉱脈(平均幅3m)の4タイプから成り、フレスニージョ鉱山では、地表下200mから600m間に存在する潜頭鉱脈鉱床を坑内採掘している。
現在4ブロックに分割して採掘しており、2立坑と2斜坑を用い、立坑は鉱夫、鉱石、材料、ズリ運搬に、斜坑は通気、坑内維持管理用に利用している。
・ | 会 社 | : | Compania Fresnillo, S.A.(ペニョーレス社グループ) | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 経営状況 | : | 2004年は金属価格の高騰により好況。 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 労働者数 | : | 1,230名(内、下請400名) | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 主要鉱物 | : | 金、銀、鉛、亜鉛 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 平均品位 | : | 金0.62g/t、銀540g/t、鉛0.50%、亜鉛0.85%。 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 生 産 量 | : | 銀換算で2004年30百万oz、2005年33百万ozを計画。 | ||||||||||||||||||||||||||
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・ | 埋 蔵 量 | : | 確認埋蔵量14,272千t(約9年分)、予想埋蔵量16,614千t。 | ||||||||||||||||||||||||||
・ | 搬 出 先 | : | 鉛精鉱は自社のトレオン精錬所、亜鉛精鉱はカナダへ輸出。 |
(写真1)トンネル用自動継続掘削機(Tunelera) | (写真2)カーボンタングステンの爪 |
(4) トンネル用自動継続掘削機(Tunelera)
採掘方法はサブレベル・ストーピングであり、地表下200m~600mの鉱床を採掘した鉱石を、地表下695mの水平坑道まで自然落下して粉砕した後、立坑(7t/回)により地表まで運搬集積している。
トンネル用自動継続掘削機(Tunelera)は、この水平坑道(断面:幅5m×高さ4.2m、能力は幅8m×高さ6m)の掘削用重機であり、カーボンタングステンの爪の回転力で削岩している。削岩したズリは大型スクープトラムにより立坑まで運搬され、地表に搬出される。
この掘削機は、2003年秋から5.5百万ドルを投資し試験していたものであり、従来の伝統的削岩・発破工法の3倍速(32m3/h)で掘進でき、岩盤の安定を維持できるため、同社の2004年の単位コスト削減目標の4.7%減に大きく貢献した。
ペニョーレス社としては、トンネル用自動継続掘削機は、掘削速度が速くオペレーションコスト削減に有益であり、地山を傷めずに掘削が可能なため、効率的かつ安全・技術的な面から、ペニョーレス社が有する他の6つの坑内鉱山にも応用する計画。
フレスニージョ鉱山としては、増産に向けて新規採用を大幅に確保したため早期に教育を行うこと、鉱山の深部化に伴い作業現場までの移動時間を要すことへの対処が課題としていた。
なお、会談の中で、同社は2004年の金属価格の高騰により経営状態は良好であったが、この金属価格の高騰は、いつまで継続する見込みかに関心が高かった。