報告書&レポート
国際ニッケル研究会2005年春季会合が開催―2004年に引き続き、2005年も需給はほぼバランスとの予測―

国際ニッケル研究会2005年春季会合が4月20日から22日までの3日間、オランダのハーグにおいて開催された。加盟国のほか、オブザーバーとしてベルギー及び欧州の業界関係者ら計57名が参加して開催された。この中でニッケル研究会は、ニッケル需給バランスについて、2003年に27千tの供給不足となっていたが、2004年はほぼ需給がバランスし、2005年も供給不足とはならないとの見方を示した。 |
1. 国際ニッケル研究会について
国際ニッケル研究会(INSG)は、安定的なニッケルの需給を確保していく上でニッケルの生産、消費、国際貿易に関する政府間の協議の場を提供し、統計・情報の収集を行うことを目的として、UNCTAD(国連貿易開発会議)の下、1990年5月23日に発足した。研究会事務局はオランダのハーグにある。
日本は、2004年11月に再加盟している。また、2005年3月にはポルトガルも加盟し、現在、14か国・1機関が加盟している(日本、豪州、キューバ、フィンランド、英、仏、伊、ギリシャ、インドネシア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ロシア、スウェーデン、EU)。これ以外にドイツが産業界から準会員として参加している。新規加盟国の状況としては、2004年11月にINSGと中国有色金属工業協会との間で協力覚書が締結され、その中で中国側が2005年中のINSG加盟へ向けて努力する旨記載。また、ベルギー及びブラジルが加盟を検討中であることが紹介された。 今回の日程は、4月20日に産業顧問パネル及び環境・経済委員会、21日に統計委員会及び常任委員会、22日に総会の順に開催された。
2. 2005年の需給予測について
各国から提出された需給見通しを集計した結果、研究会は、2005年の世界の一次ニッケル地金生産量は、前年比4.4%増の1310千tと予測した。中国、ノルウェー、ニューカレドニアで増産、カナダでは減産が予想されている。2005年のニッケル消費量は、前年比4.2%増の1304千tと予測した。中国では2004年と同様に20%程度の消費量の増加が見込まれており、世界第1位の消費国である日本とほぼ肩を並べる水準まで増加しつつある。その他、フィンランド、台湾でも消費増が予想されている。
世界のニッケル需給バランスは、2003年は28千tの供給不足となったが、2004年はほぼバランスが取れた。2005年についても、需給がほぼ一致するであろうとされた。
研究会では、ニッケルの利用分野において、特に以下の点に注目している。
1) | リサイクル使用率の向上 | |
2) | 低ニッケル含有ステンレス鋼(Cr-Mn鋼)生産のアジア等での拡大 | |
3) | ニッケル不使用ステンレス鋼(Cr鋼)生産の世界における拡大ニッケルのリサイクル挙動の評価、すなわちニッケル含有製品が製品ライフサイクルの終末時点において回収・廃棄状況を評価する |
|
|
3. IAP(産業顧問パネル)
1) ステンレス・スクラップ市場の見通し、2) REACHの概要とニッケル産業への影響、の2件について特別講演があった。
EUで導入を検討している化学政策REACHについて、金属産業全般及び特にニッケルについて議論がなされた。有機化学部門(天然ガス、原油、石炭)からの原料についてはREACHの対象から除外されており、IAPとしては、無機産業原料と有機産業原料は同様に取扱うべきであるとして、ニッケルの鉱石・精鉱はREACHの規制対象から除外すべき等の内容を含んだIAPとしてのポジショニング・ペーパー案が事務局から示された。各代表とも環境の専門家ではない等の理由もあり、各国産業界代表が持ち帰って検討することとなった。
4. 環境経済委員会
(1) ニッケル産業の社会的影響
ニッケル産業の社会的影響(付加価値、研究開発投資、雇用等)について、EUを例に行ったアンケート調査結果が報告され、作業の継続が承認された。世界の15大生産メーカについても公表データを中心に資料が編纂され、2005年10月の会合で報告されることとなった。手始めとして今回は、2003年におけるEU15か国(EU15)の結果が発表された。
EU15のニッケル鉱石生産は、現在ギリシャとフィンランドのみで、2003年の生産量は24千tであり、世界鉱石生産の約2%である。内訳は、ギリシャが21.4千t、フィンランドが2.5千t。2005年にはスペインのAguablanca鉱山で生産開始となる予定。
EU15のニッケル地金生産量は、1996年に105千tであったものが、2000~2002年の3年間は平均で122.5千tとなり、世界生産量の約11%を占めた。これは、フィンランドの地金生産能力が60千tまで増強されたことによる。2003年の地金生産量は106千tまで減少した。これはカナダの鉱山ストライキにより英国地金生産者に対する原料供給が中断したことによる。
(2) ニッケル・リサイクル
ニッケル・リサイクルについて、ニッケル含有屑の再利用状況と将来的な屑の供給ポテンシャルを示すためのモデル作成・データ化作業の途中経過が報告された。作業継続が承認され、次回10月の会合時に最終報告案が示されることとなった。ニッケル・リサイクルについて研究する目的としては、次の2点が挙げられる。
1) | ニッケルのリサイクル挙動の評価、すなわちニッケル含有製品が製品ライフサイクルの終末時点において回収・廃棄状況を評価する | |
2) | 将来のニッケル供給源及び利用減として、ニッケル・スクラップの利用可能性について評価する |
西側世界について見ると、2003年の全ニッケル消費量は1,733千tと推定され、このうち一次ニッケル消費量は1,064千tであるのに対し、スクラップからの消費量は669千tであり、およそ6割が一次ニッケルの利用で、4割がスクラップからの利用となっている。1975年は全ニッケル消費量が625千tであり、このうちスクラップからの利用は約3分の1であった。スクラップからの利用率は年々上昇する傾向にある。
5. 各国の報告事項
各国代表から、ナショナル・ステートメントの発表があり、その内、ロシア、豪州、ニューカレドニアに関する需給動向について、以下に概略をまとめる。
(1) ロシア
ロシアは世界最大のニッケル鉱石・地金生産国であり、2004年の地金生産量は262.6千t、消費量は26.0千t、輸出量は239.4千tであった。2005年もほぼ前年並みで、地金生産量は262.0千t、消費量は26.5千t、輸出量は239.5千tの予測であった。
(2) ニューカレドニア
ニューカレドニアにおけるフェロニッケル生産量は、2003年は50.7千tであったが、2004年は15%減少し43.0千tであった。2005年の生産量は53.0千tに回復するとの予測であった。
(3) 豪州
豪州は、ロシア及びカナダに続いて世界第3位のニッケル鉱石生産国であり、世界第4位の地金生産国である。2004年、豪州はニッケル鉱石で4%、ニッケル地金で5%それぞれ減産となった。これはWMC Resources社及びMinara Resources社で生産中断があったことと、製錬所の改修で生産が制限されたことによる。
2005年は、豪州のニッケル地金生産量は、8%増の132千tになるものと予想される。この増加はMinara Resources社のMurrin Murrin 製錬所の生産能力が35千tに増強されることによる。BHP Billiton社のYabulu製錬所、WMC Resources社のKwinana製錬所でも生産能力の限界まで生産量を増やすものとみられる。
2005年の豪州のニッケル鉱石生産は、11%増の204千tに達すると予想される。ニッケルの高価格が続き、鉱石・精鉱の需要が堅調であることに支えられ、西オーストラリア州での小規模鉱山の開発・拡張が進むものとみられる。
6. 研究会の合理化
3研究会(INSGのほか、国際銅研究会(ICSG)、国際鉛亜鉛研究会(ILZSG))は事務局を統合し、リスボン(ポルトガル)に移転することを確認。事務局長についても3研究会で1名とする。3研究会は、2005年10月までに新事務局長を選出し、年末までにILZSG及びINSGはリスボンへの移転を完了する予定。2006年初からリスボンで業務を開始する。
事務局のスタッフについては、専門職はリスボンへ招集される。一般職・サービス職は新事務局長が各研究会の議長と相談の上、決定される見込み。なお、予算や各研究会の活動は独立となる方向である。
INSGの各国分担金の最大拠出国である日本から、分担金計算方法の見直しについて、
1) | 各国均等割合分の増加(全予算の40%であるものを50%とする) | |
2) | キャップ制度の導入(各国分担金上限額を全予算額の10%とする) |
という内容の提案があった。本提案の実現には、INSG手続き条項の改訂が必要となるため、その改訂も含めて、本年10月の会合で改めて検討を行うこととなった。
7. 今後の予定
次回のニッケル研究会は、本年10月24日、25日の両日にオランダのハーグにおいて、産業顧問パネル、環境・経済委員会、統計委員会及び常任委員会が開催される予定である。
また、INSG後援の国際会議として「第4回中国非鉄会議(4th China Nonferrous Metals Industry Investment, Trade and International Cooperation Conference)」の開催が紹介された。これは中国有色金属工業協会の主催で2005年5月31日~6月2日に中国・陜西省宝鶏市において開催されるもので、予定されているキー・トピックスは以下の通り。
- 中国経済と共に歩む中国非鉄金属部門開発
- 中国非鉄金属産業における再編と投資環境
- 非鉄金属貿易政策と金属市場バランスへの影響
- 国際協力と交流
- 非鉄金属市場分析
本国際会議に関する詳細は、ウェブサイト(www.antaike.com)を参照されたい。

