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報告書&レポート

2005年6月9日 シドニー事務所 久保田博志、研究スタッフ Joy A. Alber e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2005年38号

豪州におけるインフラ整備に関する諸問題

 豪州は、金属をはじめとした鉱物資源価格の上昇と中国経済成長による需要の急速な伸びによって大きく生産を拡大している。一方で、長年にわたる社会基盤整備への投資の遅れは、豪州の輸出、更には経済成長を脅かし、特に、地方の鉱山業界は不十分なインフラ整備とそれによる国際的競争力の低下と市場シェア喪失のリスクにさらされていると言われている。
 本稿では、今、豪州で最も深刻な問題のひとつとなっているインフラ整備の問題について報告する。

1. インフラ整備の問題点と必要性

 経済の成長を促し、より多くの人口と生産性の向上を支えることができるインフラ整備計画が実行されなければ、豪州の経済成長は現在の3.5%から2%に落ち込むとアナリストは警告し、豪州経済開発委員会(Committee for Economic Development of Australia:CEDA)は、経済成長を減速させる原因として、水道、エネルギー、陸上輸送などにおいて250億豪ドルに及ぶインフラ整備不足を指摘している。
 2005/2006年度の鉱物資源輸出額は23%増加の680億豪ドル(2004~2005年度550億豪ドル)に増加すると予測されているが、インフラ整備が鉱業生産能力増強と同じペースで行われていたならば、この数字は更に高いものとなっていたと指摘する声もある。2004/2005年の豪州鉱業への投資は60%増の82億豪ドル(前年51億豪ドル)で主な投資元は中国とインドで豪州からの鉱物資源の供給を目的としたものであった。
 豪州鉱業協会(Mineral Council of Australia)は、鉱業分野の生産能力と必要となるインフラ整備との乖離がこのままの状態か或いは更に広がるようであれば、豪州鉱業は市場獲得の機会を逸し、競争相手国に市場シェアを奪われる恐れがあると警告している。
 今日の豪州におけるインフラ整備の問題は、インフラ整備が不足しているだけではなく、老朽化によって時代の要求を満たしていないことがあげられている。更には、鉄道や港湾などのハード面だけではなく、専門技術者不足という事態を招いている技術者教育・訓練システムの問題にまで及んでいる。専門技術者不足に関して民間部門では、高校・大学レベルでの教育プログラムや産業界への先住民や女性の参画を促すために年間1,000万豪ドル規模の支出がおこなわれているが、このような取組みは政府によって実施されるべきものであるとの指摘がなされている。
 また、インフラ整備のための予算措置等の資金面よりも、むしろインフラ整備に取り組む政府の姿勢、連邦政府と州政府の政策面での対立、不明確な責任の所在などが問題であり、投資家にとって魅力的な投資環境を築くための全国規模で戦略的かつ長期的な計画が連邦政府と州政府の協調のもと策定されることが必要であるとの指摘もある。

2. インフラ整備への各界からの要望・提言

 豪州鉱業協会は、エネルギー、水道、輸送などの改善を含む、鉱山業に緊急かつ効果の大きなインフラ整備プロジェクトをまとめているほか、経済界からは、2025年までの中長期的なインフラ整備として、主要港湾施設の更新・代替(Sydney港、Melbourne港、Adelaide港)、鉱山と港を結ぶ道路及び鉄道の整備(Hunter Valley~Newcastle港、Melbourne~Brisbane港、Pilbara鉱山)、複数の州にまたがる電力網の整備と電力取引の自由化、Melbourne、Sydney、Brisbaneにおける高速鉄道の整備(全国規模)などがリストアップされている。また、クイーンズランド州の石炭鉱業界からは、32億豪ドル規模の港湾整備計画(Abbott港、Dalrymple港、Gladstone港)が提案されている。
 このような民間部門からのインフラ整備に関する圧力に応えて、政府はクイーンズランド州南西部のインフラ建設に10年間にわたって資金提供すること、20年間にわたり同州内に必要なインフラ整備についてその概要を取りまとめることを確約した。
 他方、非政府団体の提案の中には、道路、輸送、水道、エネルギー、情報通信技術などの社会インフラに加え、学校、病院までを含んだ10億豪ドル規模の計画を策定しているものもある。

3. インフラ整備おける連邦政府、州政府及び民間部門の役割

(1) 多額の費用と民間活用
  2025年までに、道路、鉄道、水道等のインフラ整備に500億豪ドル、エネルギー及びその輸送(送電等)に400億豪ドルの新たな資本投資が必要とする試算がなされており、その費用負担を政府だけではなく、民間部門の投資を含めた官民連携(PPP:Public Private Partnerships)によって、多額の費用を調達するのことが重要であるとの意見が出されている。
  しかし、民間部門からは、入札、選定、アセスメント手続きの遅れや、PPPにおける政府の態度を非難する声も少なくない。Melbourne港の航路浚渫プロジェクトやDalrymple Bay石炭ターミナル拡張プロジェクトでも政府の対応の遅れや保守的なやり方に対する不満が官民連携に支障をきたしていると批判されている。

(2) 政府の役割
  民間部門の不満が解消されれば、インフラ整備の費用の問題は解決すると考えている。政府の役割は、費用の見積りだけではなく、プロジェクトが滞りなく進むようなシステムを構築することであり、官民連携が効果的に機能するためには、インフラ整備の優先順位付けに関するより開かれた対話が不可欠であり、政府は、民間部門の資源と経験を利用するより技術を向上させなければならないと指摘する評論家も少なくない。そして、この様な開かれた対話は昨今問題となっている官のプロジェクト管理能力と民間部門の高水準の専門的技術とのミスマッチを正してくれるものと期待される。

4. インフラ整備問題解決への取組み

 インフラ整備問題を解決するには、短期的には官民のミスマッチを埋めていくことがその第一歩ではあるが、官側には中長期的に経済的機会を最大にするための将来的なインフラ整備に関する国としての優先順位付けやその見直しを行うメカニズムが欠落していると豪州鉱業協会は指摘している。
 また、豪州は国全体或いは各産業部門がばらばらに行動し、政府の各機関間の軋轢や州ごとに異なる時代に合わない諸制度が協調した問題への対処を妨げており、このような国のインフラ整備と諸規制との調和については国会で議論・修正されなければならないとの指摘もされている。
 このような指摘に対して、Howarad首相は、昨今の輸出パフォーマンスに対する物理的・制度的障害を調査するための特別調査チームを作ると発表した。州と連邦政府の責任の重複を乗り越え、矛盾のない統一のとれた政策的アプローチを促すためにも政治的な刺激が必要であるとして豪州鉱業協会はこの調査報告に期待している。また、一般国民が、自分たちの住む町の病院や学校に関心を寄せるのと同様に、鉱業が関係するような道路・鉄道網、港湾施設等の主要なインフラ整備プロジェクトに対してもその価値を理解することも豪州が直面するインフラ整備の取り組むべき課題のひとつであるとしている。

5. おわりに

 豪州のインフラ整備の問題は、石炭・鉄鉱石の輸出障害に端を発した感が強いが、その影響は資源産業全体に拡大し、更に、豪州経済成長への悪影響まで懸念される事態となっている。また、鉄道・港湾施設等のハード面だけではなく、ボーリング機材、各種重機、さらには専門技術者にいたるまで石炭・鉄鉱から非鉄金属へと玉突き状態でその不足が問題化・深刻化している。
 5月10日、連邦政府が2005~06年予算として、22億豪ドル(Auslink予算120億豪ドルの一部)を道路・鉄道などのインフラ整備費として計上することが明らかとなった。内訳はニューサウスウェルズ州741百万豪ドル、ビクトリア州482百万豪ドル、クィーンズランド州415百万豪ドル、南オーストラリア州159百万豪ドル、西オーストラリア州223百万豪ドル、タスマニア州70百万豪ドル。

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参考・引用文献

Minerals Council of Australia,
  “2005-2006 Pre-Budget Submission” (February 2005)
  “Infrastructure Constraints, Skills Shortages and Dwindling Exploration Highlighted in MCA’s Pre-Budget Submission”(11 February 2005)
  “Minerals Sector Welcomes Action on Infrastructure” (18 March 2005)
  “Industry/Academia to Address Skills Shortages: ‘Mining Education Australia’” (24 March 2005)

The Australian
  States support joint forum on infrastructure (28 March 2005)
  “Backers line up for interstate rail link” (28 March 2005)
  “$150m boost for Newcastle coal terminal” (9-10 April 2005)
  “Miners psush $3bn port plan” (11 April 2005)
  “Transport promise comes with strings” (11 May 2005)

The Australian Financial Review
  “Piecemeal system slows growth” (30 March 2005)
  “Victoria delays port deepening” (1 April 2005)
  “Get the public involved in infrastructure question” (8 April 2005)
  “Planning key to infrastructure” (8 April 2005)
  “Beattie gives nod to PPP” (8 April 2005)
  “More oil for wheels of business” (13 April 2005)
  “Breakthrough on port bottleneck” (21 April 2005)
  “Auslink funds vital upgrades” (11 May 2005)

Sydney Morning Herald
  “Infrastructure task force releases paper (8 Apri 2005)
  “Lack of investment in infrastructure putting brakes on growth”(15 April 2005)

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