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報告書&レポート

2005年6月16日 シドニー事務所 久保田博志、研究スタッフ:Joel Rheuben、Joy A. Albert e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2005年40号

BHP Billiton社、WMC社買収に成功―WMC社買収までの駆け引き―

 6月3日、夜、BHP Billiton社はWMC社株式の70%以上を取得し、WMC社買収に成功した。2004年10月のXstrata社(スイス資本)による買収提案にはじまり、2005年3月8日、BHP Billiton社の買収発表、その後もRio Tinto社、Inco社、中国企業、フランス企業と様々な競争相手の名前が浮上した買収劇も、結局、対抗相手の最有力候補とされたRio Tinto社による買収提案は行われず、BHP社による買収に落ち着く結果となった。
 本報告ではBHP Billiton社による買収発表から買収成功までを現地報道をもとに辿ることにする。

1. 買収経過 ~BHP Billiton社によるWMC社買収発表から最後の1週間前まで~

 3月8日、BHP Billiton社の92億豪ドル(7.85豪ドル/株)の株式公開買付を提案に対して、WMC社は直ちに買収に同意する姿勢を示した。その後、Xstrata社はWMC社株式をほとんど取得できずにXstrata社が定めた買収期限3月24日を迎え、単独での買収を断念している。また、買収に関して、当局は、Olympic Dam鉱山の拡張計画の実施などを条件にしつつも、概ね買収に前向きの反応を示し、4月初めにはCostello財務大臣が買収を認めるコメントを、4月下旬にはオーストラリア競争・消費者委員会が合併を認めるとの声明を発表するなど買収に向けた手続きは着実に進んでいた。
 一方、WMC社の株価がBHP Billiton社の買収提案価格を上回る8豪ドル/株近傍で推移したことなどから、様々な買収者の名前が上がった。その中でもRio Tinto社はXstrata社、Inco社などとの共同買収なども含めてBHP Billiton社の対抗馬として最後まで買収の噂が絶えなかった。

表 BHP Billiton社WMC社買収の経緯
月日 主な出来事・関係者の反応
3/8
BHPBilliton社、WMC社に92億豪ドル(7.85豪ドル/株)の株式公開買付を提案。
WMC社、92百万ドル(買収総額の1%相当)の契約取り消し違約金(break fee)を条件に買収に賛成する。
3/9
「Rio Tinto社が8.25豪ドル/株で公開買付」との噂が出る。
Costello財務大臣は、「外資株持法(Foreign ownership law)の下でBHP Billiton社がWMC社を買収するためにはオーストラリア政府の許可が必要」と述べる。
WMC社株7.99豪ドル/株、BHP社株19.22豪ドル/株と、双方ともに劇的な値上がり。
Mike Rann南オーストラリア州知事、「BHP Billiton社がWMC社を獲得する際にOlympic Dam鉱山を拡大するように」と要求する。
出典:

Phaceas, J. “Rio hovers as BHP strikes”, The West Australian, 3/9
“BHP Billiton will need Australian governmental approval…”, Ass.Press, 3/9
Williams, J. “BHP/WMC shares surge on $9.2 bil takeover bid”,Ass. Press, 3/9
“New WMC owner must double Olympic Dam’s size”, AAP, 3/9

3/10
BHP Billiton社Chip Goodyear社長、「他社の競争買付が可能である」と発言。
Rio Tinto社、「ノーコメント」と反応。
BHP Billiton社Goodyear社長、「WMC社の肥料子部門は売却」と発言。
WMC社の買収でオーストラリア政府、10億豪ドルの税収の可能性がありと見積り。
Costello財務大臣、「BHPBilliton社が政府の許可を得るにはOlympic Dam鉱山のウラン開発が必要」と述べる。野党側も探鉱活動を唱えた。
Rio Tinto社とXstrata社とによるWMC社株式の共同買付の噂が出る。
WMC社株が8.02豪ドル/株に更に値上がり。
出典:

Aston, H. “Now let’s hear from bidder 3: Rio Tinto”, Daily Telegraph, 3/10
Beveridge, J. “Fertiliser for sale if BHP succeeds”, The Courier Mail, 3/13
Murphy, K. “Uranium use key to BHP bid: Costello”, The Australian, 3/10
Williams, J. “Rival bid speculation pushes WMC share price higher”, AAP, 3/10

3/11
BHP Billiton社、Olympic Dam鉱山を拡張する意向を発表。
WMC社、他会社へのデータ公開を停止。
出典:

England, C. “Olympic Dam expansion assured”, The Advertiser, 3/11
Williams, J. “BHP Billiton grip on WMC tightens”, AAP, 3/11

3/12
Rio Tinto社、505百万ドルの株買い戻しを発表、WMC社買収の可能性が薄らぐ。
出典:

Guy, R. & Ball, Y. “Rio Tinto’s big buyback puts WMC bid in doubt”, AFR, 12/3

3/14
BHP Billiton社、オーストラリア外資規制当局(Foreign Investment Review Board)に非公式にWMC社買収の賛成を打診。
Mike Rann南オーストラリア州知事、「Olympic Dam鉱山拡張の約束」を要求。
出典:

Ball, Y. “BHP Billiton counts on political will”, AFR, 3/14
“Rann wants assurances on Olympic Dam project”, AAP, 3/14

3/17
BHP Billiton社、WMC社との合併計画案の作成開始。
WMC社役員会、株主にBHPBilliton社の買収提案を受けるようにと声明。
出典:

Fitzgerald, B. “BHP works on integration plan”, SMH, 3/17

3/21
BHP Billiton社、「買収後のWMC社本社で人員整理がある」と発表。
出典:

“BHP warns of substantial WMC job losses”, AAP, 3/21

3/22
世論調査、「オーストラリア人の54%がWMC社買収に反対」と発表。
CFMEU労働組合。「買収後も鉱山労働者の雇用は確保される」との見込みを発表。
出典:

“‘No’to takeover”, The Courier Mail, 3/22
“Union predicts miners jobs safe”, AAP, 3/22

3/24
Xstrata社のWMC社買収期限到来。形式上は買収から撤退。
出典:

“Xstrata offer for WMC officially closes”, Agence France-Presse, 3/24

3/29
BHP Billiton社、買収期限を5月6日と発表。
WMC社、「2005年度利益は709百万豪ドル」と予測。
出典:

“BHP says bid for Australia’s WMC due to close May 6”, Reuters, 3/29
“WMC says expects fiscal 2005 profit of $709 mil”, Reuters, 3/29

4/4
Costello財務大臣、「買収に全く反対しない。買収の条件は、州・連邦の鉱業やウラン輸出などに関する法律を守ること、市場への影響については工業・観光・資源省と相談することである」とコメント。
出典:

“Australia’s Costello: won’t block BHP bid for WMC”, Dow Jones International News, 4/4

4/12
世論調査、「オーストラリア人の64%が買収に反対」と発表。
出典:

SMH 4/12

4/19
Rio Tinto社のPaul Skinner社長が株主総会前にオーストラリア入りしたことで、Rio Tinto社によるWMC社買収の噂が再燃。
出典:

SMH 4/19

4/20
オーストラリア競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission :ACCC;日本の公正取引委員会に相当)が買収を認める。
「身元不明な買い手がWMC社株の4%を買い付けようとしている」との噂が出る。
出典:

SMH 4/20

4/26
WMC社株が最高記録の8.14豪ドル/株に値上がり。
出典:

AFR 4/27

4/27
「Rio Tinto社とMacquarie Bankが共同買収に入って、ウラン資産を取得し、ニッケル資産はInco社に売却する計画がある。その場合、Rio Tinto社の買収提案価格は8.20豪ドル/株から8.40豪ドル/株まで上昇すると」との噂が出る。
出典:

AFR 4/27

5/2
Rio Tinto社、Inco社ともにWMC社買収について「ノーコメント」。
出典:

Weekend Australian 5/1

5/10
Rio Tinto社、「自社株買戻しを2倍の10億ドルにする」と発表、WMC社買収の噂はまた弱まる。
出典:

SMH 5/10

5/15
BHP Billiton社、Merrill Lynch Equitiesを通して10万株相当の株主対策として株買取機関を設立。
6月3日までに少なくとも50%を獲得しないと買付をやめるとBHP Billiton社が発表。その結果でBHPBilliton社のWMC社株取得率が上がる。
出典:

Weekend Australian, 5/15

5/16
WMCの総会議で会長のTommie Bergmanは株持ち主に買付を受け取るように強く迫る。しなければ株価が7ドルを下がる可能性があると。
出典:

SMH 5/31

2. 買収最後の1週間

 WMC社の株価がBHP Billiton社提示の買収価格を上回り、Rio Tinto社の買収提案の噂が流れるなど、BHP Billiton社の定めた買収期限の週になってもBHP Billiton社のWMC社株取得率は数%台に留まり、買収を危ぶむ声も聞こえはじめていた。

5月30日(買収期限まであと4日)
 WMC社の株価は弱含みで市場はRio Tinto社の買収の可能性は更に薄くなったとの評価。WMC社株主総会でTommie Bergman会長は「個人投資家の10%はWMC社の独立を望んでおりBHP Billiton社による買収に応じない。BHP Billiton社の買収がつまずくとWMC社の株価は大幅に下落するであろう」と発言。

5月31日(買収期限まであと3日)
 BHP Billiton社のWMC社株取得大幅に伸びて13.33%に達する。Macquarie銀行は、自社が保有するWMC株式6%を無条件買収の発表があり次第、移行する準備ができているとコメント。一方、Rio Tinto社は買収撤退について「ノーコメント」。アナリストはBHP Billiton社によるWMC社株取得は金曜日(買収期限)の午後には50%に達するだろうが、WMC社の株式の40%を保有していると見られるヘッジファンドは対抗買収(Counter bid)の可能性を考えギリギリまで待ちの姿勢と分析。

6月1日(買収期限まであと2日)
 BHP Billiton社、WMC社の株式の16.35%を取得。

6月2日(買収期限まであと1日)
 BHP Billiton社は、ファックスによる株式売却を受付けるとして、豪州国内及び国外各2回線のFAX番号と申込み書式を付した追加の買収声明を発表。
 BHP Billiton社、WMC社の株式の29.46%を直接取得。Deutsche銀行経由のデリバティブ分4.31%を加えて33.77%を取得。

6月3日(買収期限当日)
 BHP Billiton社は、「午後1:45(メルボルン時)までにWMC社株式の55.45%を取得し、買収期限を2週間延長する」と発表。
 午後7:30(メルボルン時)にWMC社株式の株取得機関分も含めてWMC社株式の72.99%を取得し、更に本日市場で3.26%分の株式を買い付け76.25%取得した」と発表。

BHPBilliton社のWMC社株取得経過
 
(新聞発表をもとに作成したため実際の取得状況とは異なる可能性がある)
 
WMC社の株主(2005年6月7日現在)

3. 今後の展開

 BHP Billiton社は、WMC社の役員会をコントロールするために、Tommie Bergman会長、Andrew Michelmore社長を含むWMC社役員7名を解任。新会長にMike Salamon氏(BHP Billiton社Executive Director)、新役員にChris Lynch氏(BHP Billiton社CFO)を任命、WMC社からは2名が少数株主の権益確保のため留任となった。
 メルボルンのWMC社から70部門が同市内のBHP Billiton社へ移動し、その際に230名が余剰人員とされ、330名がOlympic Dam鉱山ほか西オーストラリア州、クイーンズランド州の事務所・事業所等へ移動、WMC社パース事務所での人員削減は抑えられ、鉱山従業員は全て残留となる見込み。
 一方、BHP Billiton社アデレード事務所は、Olympic Dam鉱山拡張を踏まえて人員増、ステンレス・スチール部門はWMC社のニッケル事業との関係からブリスベンからパースへ移動となる。

4. おわりに

 2004年10月のXstrata社の買収発表で幕を上げたWMC社買収劇は、BHP Billiton社、Rio Tinto社など非鉄メジャーを巻き込み、様々な噂が流れるなか、6か月を費やしBHP Billiton社が買収に成功した。
 今後は、BHP Billiton社がWMC社の資産をどのように引き継いでいくのか、特に、Olympic Dam鉱山の拡張、ウラン開発が注目される。

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