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報告書&レポート

2005年6月23日 リマ事務所 辻本 崇史 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2005年42号

第4回探査技術者国際会議(Ⅳ Congreso Internacional de Prospectores y Exploradores:ProEXPLO 2005)

 5月25日~27日の3日間、持続可能な開発に向けた探査活動をテーマに、リマにおいて第4回探査技術者国際会議(ProEXPLO 2005:ペルー鉱山技術者協会主催)が開催され、ペルー、南米を中心に約800人(18か国)の関係者が参加した。
 会場は、講演会場と展示会場に分かれ、講演は、メイン会場と各日毎にテーマを設けたフォーラム会場の2会場に分かれて行われた。メイン会場では、ペルーを主に、注目を集める貴金属(金・銀)と銅の探鉱開発プロジェクトの紹介が多数を占めた他、貴金属鉱床に係る技術・研究報告、南米に視点をおいた世界的な探査トレンド報告等、約30件の講演があった。一方、フォーラム会場では、ジュニア市場の広報・個別企業の宣伝、南米の地質サービス機関の活動紹介、探査と持続可能な開発をテーマとした講演が行われた。また、展示会場では、ペルーで活動中の鉱山会社、ジュニア企業、コンサルタント会社、政府関係機関、鉱業誌出版会社等から、約60のブース出展があった。
 本会議は隔年開催され、今回は第4回目であったが、ペルー及び周辺ラ米諸国からの参加者が圧倒的に多く、その他、カナダ、米国、欧州、日本(2名)等からの参加者も加わり、全般的には、南米(とくにペルー)探査技術者会議の雰囲気であった。
 講演内容等に基づき、本会議の特徴、注目点等につき、以下にまとめる。

1. 探鉱開発プロジェクト

 昨今の探鉱開発活動の活発化を背景に、ペルーを中心に多くの探鉱開発プロジェクトが紹介された。メイン会場では、プロジェクト紹介を主目的とした講演数が全体の6割程度を占め、国別では、ペルー案件が圧倒的に多く(12件)、その他は、周辺国のチリ、アルゼンチン、コロンビア、ボリビア等の案件であった。フォーラム会場で行われたジュニア市場をテーマにした講演でも、ペルーで活動するジュニア企業数社より保有プロジェクトの紹介があった。
 各講演は、対象案件の地質・鉱床、探鉱成果、鉱量評価、開発計画等について発表されたが、探鉱開発ステージがそれぞれに異なることもあり、各講演内容の力点の置き方には相違が見られた。全体的には、ステージの進んだ、既に著名なプロジェクトが多く、探鉱成果に基づいた鉱量評価、開発計画に力点を置いた講演が目立った。一方、ジュニア企業による初期ステージのプロジェクトでは、今後の探鉱開発推進に向けパートナーを求めている場合が多いこともあり、地質・鉱床の説明、初期探鉱の成果等から、鉱床ポテンシャルの大きさを強調する傾向にあった。
 これらプロジェクトの主対象鉱種は、貴金属(金・銀)あるいは銅にほぼ限定されたが、昨今、ペルーを中心に銅の探鉱開発が活発化していることもあり、銅プロジェクトに係わる講演数が9件と際立った。銅、貴金属以外では、唯一、カナダ・ジュニア企業のVena Resources社が、ペルーでのウラン探鉱について講演し、ユニークな感を受けた。

2. 銅探鉱開発プロジェクト

 銅市況が活況を呈し、これを背景に世界的に銅の探鉱開発が活発化しているが、この中でもとくにペルーは今、世界が注目する銅の探鉱開発案件が数多く進展し、比較的初期ステージの探鉱案件も次々と表舞台に現れつつある。この様な状況を反映し、本会議のメイン会場で紹介された銅案件は9件に上り、内7件がペルー案件で、他の2件のチリ案件を演題とした講演でも、内1件ではペルー案件が合わせて紹介された。
 演題となった具体的なペルー銅案件は、Cerro Verde、Marcona、Rio Blanco、Toromocho、Las Bambas、Chapi(Milpo社)、Cañariaco(Candante社)である。この内、前5案件は今や世界的にも著名な案件であり、本会議でも多くの聴衆を集め、各プロジェクトの進捗状況が注目された。しかし、これらの案件については日頃からプロジェクトの進展が開示・報道されていることもあり、今回、関係者がとくに注目する様な新たな情報提供は、ほとんど見られなかった。一方、Chapi案件は、地元Milpo社より、最近の探鉱により一千万t級のマント型銅鉱床であると発表されたが、これまで一般には関連の報道はなく、本講演により、中規模な銅山として既に開発段階にあることが判明した。また、カナダ・ジュニア企業のCandante社は、パートナーを求めているCañariaco案件を紹介し、大規模銅鉱床に発展する可能性の大きいことを指摘した。カナダ・ジュニア企業としては、同社の他、Lumina Copper社がジュニア企業活動をテーマにしたフォーラム会場で自社戦略をアピールする等、本会議での積極姿勢が目を引いた。同社は、メイン会場の講演ではチリのRegalitoプロジェクトを自社の最有望案件と紹介し、合わせてペルーのGaleno、Pashpapの両プロジェクトも有望で、この2案件の探鉱をJV形式等により推進するため、新たにペルーに子会社(Northern Peru Copper)を設立すると発表した。

3. その他

 その他、聴取した講演の中で、注目した講演のポイントは以下の通り。

探査活動トレンド
 Metal Economics Groupが、ペルーに視点を置いた世界の探鉱投資トレンドを紹介した。
 世界的に探鉱投資が回復傾向の中、2004年の探鉱投資総額は約40億ドル、対象鉱種は金が5割でベースメタルが3割弱、探査ステージでは生産増へのニーズから鉱山周辺やステージの進んだ案件への投資が増加傾向にある。この中で、地域的な投資額割合は、北米(28%)に次いでラテン地域は第2位(22%)で、さらにラテン諸国の中ではペルーが1位(5.5%)であった。但し国別では、ペルーは、カナダ(20%)、豪(15%)、米国(8%)に次いで4位である。対ペルーの国別投資額割合は、カナダ(35%)、米国(23%)、地元(19%)の順で、北米からの投資が6割程度と圧倒的に多い。

メタル市況の分析・予測
 ペルーのシンクタンク会社であるApoyo社が、メタル市況の分析と今後の見通しについて報告した。
 過去30年間に、メタル価格が上昇した局面は5回あったが、現在の状況は、1970年代後半の状況と似通っている。70年代後半は日本がメタル需要を牽引したが、今は中国がこの役割を担っている。しかし、中国の牽引力ははるかに巨大で、世界経済の成長も後押しし、現況の長期化が予想される。米ドルが弱い状況は今後も続き、中東・イスラム諸国の不安定な状況も短期的には解消されないと予想される。一方、メタル増産を担う新規プロジェクトの操業開始までには、まだかなりの時間を要する。従って、メタル価格の高値状況は、かなり長期間、続くと予想される。

ジュニア市場
 本会議では、とくにジュニア市場の広報・個別企業の宣伝等を目的としたフォーラムが開催された。
 本フォーラムでは、ジュニア市場の説明、ジュニア企業の評価ポイント、ジュニア企業提出のレポート様式として著名なJORCコードの説明、ジュニア企業(数社)の広報・宣伝、2003年にジュニア市場を開いたリマ証券取引所の宣伝等が行われた。
 リマ証券取引所からは、ジュニア市場オープン後、上場企業がなかったことから、最近、トロント、ロンドン等の他の同様の市場に上場しているジュニア企業も上場可能な措置を取り、その結果、カナダのVena Resources社が、近く初のジュニア企業として上場し、6月から取引きを開始すると発表した。さらに、地元のHuallanca鉱山社が手続中で2か月後の上場を予定している他、2社が上場を検討中と発表し、注目を集めた。

鉱脈型高品位金・銀鉱床
 本会議では、金・銀鉱床(とくにエピサーマルタイプ)に係る技術・研究報告が散見されたが、この中で我が国での研究実績もあるHedenquist氏(現コンサルタント)は、とくにエピサーマルタイプの金・銀品位の高い鉱脈鉱床について、探鉱開発ターゲットとしての魅力と探査指針となる特徴について報告した。
 1990年代は、低品位な大規模金鉱床が探鉱ターゲットとして重要視されたが、このタイプの鉱床に比較しエピサーマルタイプの金・銀品位の高い鉱脈鉱床は、一般に鉱量が少ないことから発見から開発までの期間も短く、開発費も安く収益性があり、また開発規模が小さいことから周辺環境に与えるインパクトも小さい、今時の鉱山開発に相応しいターゲットとした。そして、このタイプに相当する世界の数多くの鉱床を、一般にも良く知られている高硫化型や低硫化型等に分類し、探査指針としても有益となる、その鉱床学的な特徴等を説明した。この際、氏が日本滞在中に調査研究を行った菱刈金山について、詳細な紹介を行ったことが印象的であった。

4. 所感

 非鉄市場が活況を呈し、ペルーの探鉱開発が活発化する中、今回の国際会議は、数多くの探鉱開発プロジェクトの紹介を核として、関係者が注目するプロジェクトには多数の聴衆者が集まり、華やいだ雰囲気の中で行われた。また、展示会場でも、注目プロジェクトを有する鉱山会社、ジュニア企業のブースには、一部でボーリングコア等を展示して専門家の目を引く等、多くの訪問者が見受けられた。しかし、多々あった注目プロジェクトの講演では、今後の探鉱開発の進展を考える上で重要な情報開示があるのではないかと期待したが、残念ながらこの観点からはほとんどが開示済みの情報提供のみであった。この様なこともあり、本会議に係わる新聞報道等は少なかった。
 一方、ジュニア企業関連では、ジュニア市場の広報・個別企業の宣伝等を目的としたフォーラムも開催され、この中でリマ証券取引所へのジュニア企業の初上場の発表があり、これは新聞報道もされたが、さらにジュニア企業の講演も相次ぐ等、本会議がジュニア企業活動を支援した点は評価される。
 また、2年前の前回は、物理探査技術や情報処理技術等、最新の探査技術に係わる講演が幾つか見られたが、今回はこの種の講演はなく、他方、今回は、とくにエピサーマルタイプの貴金属鉱床に係わる学研的な講演が散見され、貴金属鉱床探査に際しての有効な探査指針について、引き続き高いニーズのあることを伺わせた。
 最後に、持続可能な開発に向けた探査活動をテーマにした会議ではあったが、メイン会場では、各プロジェクト紹介時に、地元との協調、地元への貢献等を多くが強調していた以外、とくに本テーマ設定を直接反映した様な講演はなかった。一方、フォーラム会場では、探査と持続可能な開発をテーマとした講演も行われ、地元社会とのトラブルを避けるための処方等が言及されたが、一般に広く世間で言われている様な優等生的指摘が多く、実際のトラブル発生とその解決事例等の実例報告も期待したが、そのような報告は見受けられなかった。環境保全、地元との協調、地元への貢献が不可欠とする持続可能な鉱業開発は、最近では様々な鉱業関連会議で意識的にスローガンとして使われており、その意味では、本テーマは一種の飾り言葉として定着したものと捉えるべきなのであろう。

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