報告書&レポート
セミナー報告「Minerals Week 2005」(豪州)
5月29日から6月3日の1週間、豪州鉱業協会(Minerals Council of Australia:MCA)主催の「Minerals Week 2005」が首都キャンベラで開催された。このセミナーは毎年開催されるもので、鉱業界のその時々の話題をテーマとしたセミナーが行われるほか、中日には連邦議会内で首相を含む国会議員、政府高官、各国大使、鉱山会社トップが出席する晩餐会が開かれるなど鉱業界の政官界に対するロビー活動の場として重要な一面を持っている。 今年は、「技能労働者不足」、「Enduring Value(永続的な価値)」(持続可能な発展へのガイドライン)がセミナーのテーマとして取上げられた。セミナー参加者は300名、晩餐会はHoward首相を含む約300名であった。 本稿は、「Minerals Week 2005」の概要を報告する。 |
1. 技能労働者不足
(1) 連邦政府の見通し(Gary Hardgrave職業技術教育大臣)
技能労働者確保は鉱業だけではなく全ての産業において重大な問題である。政府は職業訓練に今後、数10億豪ドル規模の予算措置を行う予定。海外から労働者の受入はひとつの方法ではあるが、国は中長期的視野にたって技能労働者の開発を行い根本的な解決を図るべきと考えている。
(2) 国の鉱業技能労働者不足対策の戦略(David Smith Pilbara Iron鉱山 Managing Director)
連邦政府は、NCVER(The National Centre for Vocational Educational Research)による実態調査を踏まえ、a)2015年までの労働力予測、b)労働移民、c)雇用・職業訓練、d)鉱業へのマイナスイメージの克服・労働形態の多様化、e)FIFOの評価など5つのプロジェクトに取組む。
(3) より広い労働力創出(Wayne Osborn氏 Alcoa World Alumina Australia社 Managing Director)
グローバル企業にはグローバルな労働マネージメントが必要。Alcoa社は、a)機会均等、b)労働時間・形態のフレキシビリティ、c)企業文化の改革などを柱に特に、女性の職場進出に取組んでいる(全従業員の7%(1994年)→11%(2005年)、女性管理職3%→18%(2005年)→40%(2010年))
(4) 先住民の雇用戦略(Ray Chamberlain氏Argyle Diamond社 労働準備部長)
791名の従業員のうち300名が地元労働者、189名が先住民である同社は、指導-見習労働制度、事業所外活動、地域社会活動、先住民採用とフォローアップなどの雇用・人材開発プロジェクトに取組んでいる。
(5) 雇用確保(David Brererton氏 Queensland大学 鉱業社会的責任センター長・教授)
雇用確保戦略として、転勤、労務管理、コスト・生産性、労働の多様性、労働流動性等を考慮。遠隔地転勤の影響や専門性の保持、特に家庭や女性の専門性と労働継続などが問題となり、その解決には労働時間・勤務地の多様化が必要。
(6) 鉱業における技能労働力(Tony Noonan氏MacMahon Holding社 戦略Project Manager)
コントラクト・マイナー(請負採掘企業)として豪州全土で採鉱・土木工事等に関わっているMacMahon社は、鉱業における技能を、質、量、タイミング、場所、コストなどから多次元的に捉え、技能習得やプロジェクトとキャリア開発の整合性に配慮し、特に経験の浅い技術者の性急な適用はリスクを増大させると認識し、技能労働者はリスクを最小に収益を最大にするとしている。
(7) 戦略的アプローチ (Mitchell H Hoocke氏 豪州鉱業協会 専務理事)
労働力不足は技能・一般労働者双方に関わるもので、他国も経験した構造的な問題であり、構造改革が必要。鉱業に対するマイナスイメージは払拭しなければならない問題。職業訓練の90%は民間部門によるもので、産業界・政府双方が責任を果たせば事態は改善方向に向かうであろう。
(8) 教育用ソフトウェア紹介(Matthew Butlin氏 Newcrest社Exective General Manager)
鉱業活動、特に選鉱プロセスを中心に、プラント内で働く職員をキャラクターとして設定、ロールプレイングゲーム的要素を加え、中学生を対象にゲーム感覚で化学を学ぶ教育コンピュータソフトウェアの実演紹介。
2. Enduring Value(永続的価値)(持続可能な開発へのガイドライン)
1) Enduring Value – 拡大期の持続可能な開発
(1) Enduring Value 持続可能な発展のための3つの柱(豪州鉱業協会専務理事 Mitchell H Hoooke)
永続的価値を実現するためには、a)インフラ整備・資源量獲得の確保を含む生産能力の維持、b)環境との調和と地域社会の発展、c)教育と訓練(特に女性や先住民、若年層への鉱業分野への理解と雇用)が不可欠。
(2) 基調講演(工業・観光・資源大臣Hon Ian Macfarlen)
鉱業はGDPの数%、輸出の30%強を占める重要な産業である。インフラ整備の遅れが輸出に制約を加えていることに関し、政府はタスクフォースを設置して問題解決に取組んでいる。その中には民間活力の利用や規制の見直しなどが含まれる。また、継続的価値の実現には、技能労働者の育成に中長期的に取組み、炭酸ガス排出に対応するためのクリーンコール関連技術開発も重要。
(3) 鉱物貿易の急成長のシナリオ(BHP Billiton Carbon Steel Materials社長 Bob Kirby)
鉄鉱生産は中国・インドの経済成長により新たな黄金期を迎えている。両国のGDPは今後2050年頃まで成長すると見込んでいる。この急成長に伴う需要拡大に対応するためには、資源量の劇的な増加とそれを支える探査活動、インフラ拡充、資源回収率を上げるための技術、人材、環境と社会との調和が不可欠。
2) (鉱山)操業のための「社会的許可」
(1) 地域社会とのつながり(Newmont Australia社 渉外グループ上席 Christine Charles)
鉱業は、「Social License」(操業への社会的許可)が得られずにプロジェクトの遅れや中止を数多く経験してきた。継続的価値の実現には、「Social License」を得て維持することが重要。そのため、鉱業界は資源開発を通じて、教育、訓練、健康、社会基盤を提供しパートナーシップを築き、地域・先住民とともに相互の利益を最大にすることが必要。
(2) 最大利益のための健康への影響緩和(Anne Dekker、Zinifex社 持続可能開発グループマネージャー)
安全と健康は鉱業界の最優先事項である。鉱業による死亡事故、傷害、疾病は許されない。鉱業の安全・環境などに負うべき責任は労働に関することだけではなく、地域社会、顧客、消費者にまで及び、鉱業に隣接する地域へのインパクトの軽減が重要となる。
(3) 鉱山を越えた責任の分担(BHP Billiton社 生産管理マネージャー Mick Roche)
ICMM(International Council on Mining and Metals)は、生産物の設計・用途・再利用・リサイクル・処分の全てのプロセスにおける責任を問題とする世界的傾向に対してタスクフォースを組織してガイダンスを作成。MCA(Mineral Council of Australia)はEnduring Valeでこの課題に対応。また、鉱業界は、銅・鉛・金・ダイアモンドと言った物質に関して製品のライフサイクルを通して社会・健康・環境への責任を果す試みを始めている。
3) 政策的事項
(1) 鉱業と先住民(Rio Tinto社 Australia Managing Director、Challie Lenegan)
先住民地域へのアクセスのために1~2年探査活動が遅れ、そのコストが問題となることがある。政府は先住民代表団体(NTRB:Native Title Representative Body)の機能拡大を図るなど、土地利用の合意形成、雇用の拡大、地域社会のインフラ改善において鉱業界とパートナーシップを構築して対処しているがより一層の努力が必要。また、Rio Tinto社は閉山後の地域の持続的発展のための活動を支援している。
(2) 社会基盤の改善(Thiess Pty Ltd Managing Director、Roger Trundle)
技能労働者不足は専門領域と一般的領域の双方で生じている。鉱業界では技能労働者不足が拡大している。最近の人材不足に対する人材開発と慢性的なインフラ能力の限界について官民による戦略的な対応が必要。
(3) 社会基盤の物理的制限への挑戦(Xstrata Coal社CEO、Peter Coates)
インフラのボトルネックはすでに石炭輸出にインパクトを与え(2005年第1四半期、Newcastle港では20隻弱、Dalrymple Bay港は40隻が石炭積出を待っている状況)、他の鉱産物にも制約が出る可能性がある。石炭インフラに関しては、利用者・潜在的利用者を明確化にし、インフラの利用者へは相応の費用負担を求める必要がある。
また、政府・州及び産業界は鉱物輸出の潜在的な制約を、港湾、鉄道、道路、水、エネルギー設備の整備によって乗り越える必要がある。
(4) 鉱業と労使関係(BHP Billiton Iron Ore社長Graeme Hunt)
鉱業界は、国と州による労使関係行政が国の関与のもと統一的なものになること、労働条件をより柔軟性のあるものにすることを骨子とした連邦政府の労使関係リフォーム案には期待しており、鉱業の今後の発展には不可欠なことと考えている。
3. おわりに
豪州は、今、中国の急速な経済成長と鉱物資源価格の上昇・高値安定によって資源輸出産業を中心に空前の好景気を迎えている。一方で、技能労働者不足、インフラ整備の遅れが内なる問題として輸出産業の足かせとなり将来への大きな懸念として浮き彫りとなっている。
豪州鉱業関係者、特に民間サイドからは着実な成長を続けている間に、全世界的な要求であるビジネスと地域社会に対して、経済・社会・環境面での成果とその持続性を確実なものとしなければならないとの認識が広がっている。このことができなければ豪州鉱業は競争力を失いその将来はないとの危機感を持っている。
なお、時を同じくして豪州鉱業協会は「持続可能な開発」のガイドラインとして「Enduring Value」(価値の永続的)を発表している。
* | 講演プログラム及び講演内容の一部は、Minerals Council of AustraliaのWebサイトhttp://www.minerals.org.au/で閲覧できます。 |