報告書&レポート
オーストラリアの鉄鉱資源開発の現状

オーストラリアの鉄鉱石生産は、これまでBHP Billiton社とRio Tinto社がほぼ独占してきた。他方、Fortescue社による大規模鉄鉱石開発やHope Downesプロジェクトの動向など第3の企業の出現が注目されるが、インフラ確保や巨額の開発資金調達がプロジェクト実施を困難なものにしている。 本稿では、堅調な発展を続ける中国経済の旺盛な鉄鉱石需要をうけて、中国向け輸出に対応すべく開発が加速するオーストラリアの鉄鉱資源開発の現状について報告する。 |
1. 生産・輸出
オーストラリアは世界の鉄鉱石の約18%を生産し、中国とブラジルに続いて世界第3位の生産国であり、オーストラリアの鉄鉱石の約97%は西オーストラリア州で生産されている。
2005/2006年度の世界鉄鉱石生産量(予測)は1,416百万t、オーストラリアの2005/2006年度の鉄鉱石生産量(予測)は前年度9.9%増の275.3百万tと見込まれている。*1 2004/2005年度のオーストラリアの鉄鉱石輸出量(暫定値)は240百万tで全世界の鉄鉱石貿易量の30数%を占める(世界の鉄鉱石貿易量は2004/2005年度は636百万t)。2005/2006年度のオーストラリアの鉄鉱石輸出量(予測)は274百万t(前年度比14.2%増)で、世界の鉄鉱石貿易量の前年度比8%増(686百万t)を上回る割合で増加すると予測されている。*1 輸出相手国では中国向けが急増し、2004/2005年度の上半期(7~12月)では、中国向け輸出量は46百万tで日本向け輸出量の41百万tを上回り、オーストラリア鉄鉱石の最大の輸出相手国となった。*2,*3
オーストラリアの鉄鉱石の確定埋蔵量は4,300百万t。*4 埋蔵量の99%は西オーストラリア州にあり、その内94%はPilbara地域、残りの1%は南オーストラリア州のMiddleback Ranges鉱山とタスマニア州のSavage River鉱山となっている。*5
オーストラリアの鉄鉱石の埋蔵量は、ウクライナ、ロシア、ブラジル、中国に次いで世界第5位で*6、鉄鉱石の資源寿命は約60年と推定されている。*7
2. BHP Billiton社とRio Tinto社の寡占状態
埋蔵量は、統計によって数値が異なるが、BHP Billiton社は、JVも含めるとオーストラリアの鉄鉱石埋蔵量の半分以上(2,578~2,755百万t)を占める。BHP Billiton社は、Goldsworthy, Mining Area C, Mt Newman, YandiとYarrieのJVの最大のパートナーである(権益85%を保有)。
Rio Tinto社は、Beasley, Channar, Eastern Range, Robe River, West AngelasとHope DownsのJVの最大のパートナーである。Rio Tinto社は、最近獲得したJVのHope Downs(449百万t)や他のJVも含めると約1,484~1,869百万tの埋蔵量を持っている。Hope Downsを獲得したことはBHPとの差が原因である可能性がある。Pilbaraで5つの鉱山を操業するHamersley IronはRio Tinto社の子会社である。
第3位のPortman社は、オーストラリアの鉄鉱石埋蔵量の約2%を占るに過ぎないことから、オーストラリアの鉄鉱石埋蔵量は、BHP Billiton社とRio Tinto社によるほぼ寡占状態と言えよう。
生産量は、Pilbara地域では、BHP Billiton社とRio Tinto社のみが生産を行い、Portman社とMt Gibson社は西オーストラリア州南西地域、Ivanhoe社はタスマニア州のSavage River鉱山、OneSteel社は南オーストラリア州のWhyalla鉱山で生産を行っている。
Rio Tinto社は、JVも含めるとオーストラリアの鉄鉱生産量の半分以上(約126.6百万t)を占める。鉄鉱石はRio Tinto社の利益の18%を占めている。また、BHP Billiton社はJVを含め96百万t近い生産量である。
両者以外では、鉄鉱石生産第3位のPortman社が、5.8百万tでオーストラリアの鉄鉱生産量の約2.5%を占め、鉄鋼メーカーでもあるOneSteel社は生産する鉄鉱石のほとんどを自社で消費し、残りはPortman社を通して販売している。Mt Gibson社は2006年から3百万t/年に上回る規模に生産力拡大、Midwest社は2005年から生産開始予定。オーストラリアで鉄鉱を生産する会社のうちIvanhoe社のみが外国企業である。
生産もまた、BHP Billiton社とRio Tinto社による寡占状態であり、両社はこの寡占状態を維持するかのような行動をとっている。例えば、第3社に鉄道・港などのインフラの利用を拒否する姿勢を示している。Pilbara地域においてHancock社(Hope Downsの持ち主)とFortescue社はインフラの利用が出来ないことからインフラを含めた巨額投資が必要となりプロジェクトが進まない状況に陥っている。Fortescue社のインフラ・コストは30億豪ドル以上と見られ、Hancock社はインフラの利用に関する交渉に応じるようBHP Billiton社を訴えていたが、敗訴、結局、Rio Tinto社とJVを形成し、Rio Tinto社にオペレータの地位を譲ることになった。
3. 中小規模企業の動向
資源量は、埋蔵量・生産量と異なり、BHP Billiton社・Rio Tinto社ではない企業の占める割合が大きい(約18%)。
しかし、中小規模企業が独立的に資源量を開発できるか、それともHancock社と同じようにBHP Billiton社・Rio Tinto社とJVに入るかは時間の問題だ。
資源量第3位のFortescue社は、Pilbara地域で多くのプロジェクトを現在探鉱中でその資源量は1,135百万t、インフラを確保できればMount Nicholas, Tongololo Creek, Mt LewinとMindy Mindyの各プロジェクトで20百万t/年(Portman社の約4倍)を生産する能力があると言われているが、そのインフラの確保に問題があり、開発できるかどうかは疑問である(先述)。
Portman社は、2003年から中心のKoolyanobbingプロジェクトを拡大している。2005年1月にはCleveland Cliffs社(米国)が株式公開買付けにより80%を獲得している。
OneSteel社は、南オーストラリア州のMiddleback Ranges(Whyalla)地域にある鉱山から鉄鉱原料として赤鉄鉱から磁鉄鉱に交換する目的で赤鉄鉱30百万tを生産する予定。
Mt Gibson社は、資源量は少ないが赤鉄鉱と磁鉄鉱を含む鉱石を多く保有しており、赤鉄鉱と磁鉄鉱を多く含むMt Gibson鉱山の開発にShougang Group社(中国)とJVを形成している。
Midwest社は、中核鉱山のKoolanooka鉱山とBlue Hills鉱山で探鉱を実施し、Koolanooka鉱山とWeld Range鉱山の開発ではSino steel社(中国)とJVを形成している。
Grange Resources社は、Southdownプロジェクト(西オーストラリア州)でF/Sを行い、2百万t/年の磁鉄鉱を生産する計画である。
Murchison社は、Jack Hillsプロジェクトで探鉱を、Ochre社(Heron社の子会社)は、Bandicoot RangeとBungalbinプロジェクトで探鉱を、Aztec社は、元々BHPの鉱山であったKoolan Island地域でF/Sをそれぞれ行っている。

4. おわりに
オーストラリア鉄鉱石は、これまでBHP Billiton社とRio Tinto社がほぼ独占してきたが、Fortescue社の中国資本との提携による大規模な鉄鉱石開発やHope Downesプロジェクトの動向など第3の企業の出現が注目された。
しかし、Fortescue社は中国側との間での資金調達交渉が不調でプロジェクト実施が難航し、Hope Downsプロジェクトは南アフリカ系企業の参入の可能性もあったが、結局はRio Tinto社が権益50%の取得に成功し、第3の企業が独自に鉄鉱石大規模プロジェクトを実施するにはインフラなど巨額の開発資金を如何に調達するかなどの課題が浮き彫りにされる結果となっている。
また、現状まだそのシェアは大きくはないが中国企業のオーストラリア鉄鉱山への直接投資など、今後、注目する必要がある。
<参考文献>
*1 ABARE; Australian Commodities 05.2 June
*2 ABARE; Australian Commodities Statistics 2004
*3 ABARE; Australian Minerals Statistics March Quarter 2005
*4 Geosciences;Australia’s Identified Minerals Resources 2004, Table 1, JORC Reserve
*5 Intierra;MinMetデータベースにある各鉱山の埋蔵量(proven, probable)の合計4,800百万t
*6 Geosciences;Australia’s Identified Minerals Resources 2004, Table 1
*7 Geosciences;Australia’s Identified Minerals Resources 2004, Table 1, 鉱山寿命(年)=AEDR(Accessible Economic Demonstrated Resources)÷Mine production
※シドニー事務所スタッフ
副所長 久保田博志 kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
所長 永井正博 masahiro-nagai@jogmec.net
調査スタッフ Joel Rheuben
図1 オーストラリアの鉄鉱石生産・輸出・輸出相手国出典:ABARE; Australian Commodities Statistics 2004、ABARE; Australian Minerals
Statistics March Quarter 2005のデータをもとに作図
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図2 オーストラリアの企業別、国・メジャー別の鉄鉱石生産・埋蔵量・資源量
出典:Intierra;MinMetのデータをもとに作図
(注)JORCコードによる資源量と埋蔵量
○ Mineral Resources(鉱物資源量)
将来において経済的に採掘できる見込みがあると判断される、ある形及び量を持った経済的な価値を持つ産出物。
○ Ore Reserves(鉱石埋蔵量)
資源量のうち経済的に採掘可能な部分で、採掘、選鉱、経済性等様々な要素を考慮し、より現実的に修正されたもの。

