報告書&レポート
シリーズ:非鉄原料調達の先兵(その2)中国政府と一体化し非鉄原料の安定確保を図る中国有色鉱業集団有限公司
国際金属市場における中国企業の台頭が紙面を賑わすことが急速に増加してきた。中国国内での資源需要は急速な経済発展と共に驚異的に増加している。中国は資源埋蔵国であると共に大消費国でもあり、中国の金属消費の拡大は銅、鉛、亜鉛、アルミ、ニッケル等の金属価格を押し上げていることは周知のところである。中国政府は、国内で不足している資源は国内と海外の両面で調達を急ぐよう指導している。海外とはいわゆる「走出去(海外進出)」戦略であり、海外で原料調達するという国を挙げての取り組みを中国有色鉱業集団有限公司(以下有色集団と呼ぶ)は担っている。以前五鉱集団公司(Minmetals)を紹介(カレントトピックス2005年27号)したが、有色集団も同様の役割を担っている。すでに、ザンビアのチャンビシ銅鉱山開発を軌道に乗せ、さらにはアジア周辺国との探鉱開発を積極的に進めている有色集団を紹介する。 |
1. 生い立ち
有色集団は、中国有色金属工業総公司の下部機関の中国有色金属対外工程公司として、1983年に設立された。国営企業改革後は中色建設集団公司と名称を変更し、2000年5月に国家国有資産管理監督委員会の管轄下に入った。2005年1月5日に同委員会及び国家工商行政総局の許可を得て、中国有色鉱業集団有限公司(China Nonferrous Metal Mining (Group)Co.,Ltd)と社名変更し、グローバルに展開する鉱業企業を目差す意思を表すものとして国内では盛大に式典を披露している。
中国有色金属対外工程公司時代は、中国の非鉄金属鉱物資源の探査と鉱山建設工事を業とする企業であり、20年以上に亘って国内における労務及びプラント輸出、鉱山建設や製錬所建設の工事請負が中心の事業であった。しかし、90年代後半以降はこれまでの事業に加えて国家戦略である「走出去(海外進出)」に呼応して海外での資源開発、海外プロジェクト建設を積極的に取り組んでいる。特に、中国国内で不足する銅、ニッケル、コバルト、酸化アルミなどの非鉄金属資源の海外における探査、開発並びに鉱業関係各部門への設計・施工を積極的に推し進めている。
2. 最近の動向と主な鉱山開発プロジェクト
有色集団は、2004年には海外における資源開発事業が大きな進展を見せ、売上、収入、利益ともにも大幅な向上を遂げた。2004年の総資産額も安定した伸びを見せ、62億元(約806億円)を超え、営業収入は43.8億元(約569億円)に達した。また、独自に保有する技術の優位性を生かして海外の銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、酸化アルミニウム等の非鉄金属資源分野への進出を果たし、国外最多の非鉄金属資源を保有する企業に成長した。2004年に有色集団が海外で生産した非鉄金属の生産量は4.2万t(金属量)となった。また、保有する資源量は銅500万t、コバルト15万t、亜鉛103万t、ニッケル80万tのほか、現在進められているプロジェクトを合わせると銅は3,000万tに達し、海外で保有する非鉄金属資源を最も多く持つ中国企業に成長している(各数量根拠は有色集団関係者発表したもの)。
以下に有色集団の主なプロジェクトを示す。
(1) ザンビア、チャンビシ銅鉱山開発
チャンビシ銅鉱山開発は、2000年7月に建設を開始し2003年7月に試験操業開始、6,500t/dayの鉱石処理能力を持つ。総投資額1.5億ドル、有色集団が85%の権益を保有している。銅の資源量は500万t、コバルト15万t。中国企業の海外初の非鉄金属鉱山建設であり、中国とアフリカのシンボル的なプロジェクトとなっている。ちなみに2004年の銅精鉱生産量は20,000t(金属量換算)であった。チャンビシ銅鉱山は中国有色集団のアフリカ中南部における非鉄金属鉱物資源開発の重要な起点として位置づけている模様で、現在銅の湿式製錬、脱硫工場、銅熔錬工場(10万t)等の建設も併せて進められている。
(2)ミャンマー 、達貢山(Dagongshan)ニッケル鉱山開発
ニッケル資源量80~100万tの達貢山ニッケル鉱床の開発は、2004年7月に中国人民大会堂にて両国政府同席のもと、ミャンマー第3鉱業会社と達貢山ニッケル鉱床の探査、開発に関する契約を締結した。その後、ミャンマー政府より探査、開発、販売の許可を取得すると共にF/S調査を実施、すでに終了したとしているがその成果は公表されていない。地理的には雲南省麗江から120Kmに位置し、ミャンマーで最も有望なニッケル鉱床とされている。鉱床は比較的浅い深度に胚胎し、露天掘りが可能としている。総事業費は5億ドルで、フェロニッケル工場の建設も予定されている。
(3) モンゴル、ツムルティン-オボ(Tumurtin-Obo)亜鉛鉱山開発
ツムルティン-オボ亜鉛鉱山開発は、2000年にモンゴル大統領が中国訪問時、中-モンゴル両国で開発することを政府レベルで合意したもの。埋蔵鉱量は亜鉛103万t(金属量)、計画では露天掘り採掘を予定しており、選鉱処理量300,000t/年で亜鉛精鉱3.6万t/年(金属量)を生産する。鉱山建設は2003年9月に着手し、2005年8月の操業を目差している。
(4) ザイール-ザンビアのカッパーベルト開発
2004年6月、ポーランドの大手銅生産企業であるKGHM社と有色集団及び中国開発銀行は、銅開発に関する3社協定を結び、ザンビア―コンゴのカッパーベルト地帯での資源探査・開発、及び中国有色集団が所有しているチャンビシ銅鉱山とKGHMが所有する基姆匹銅鉱山の共同開発を行う取り決めがなされた。これは中国と世界第6位の銅鉱企業の戦略的パートナーシップが実質的な段階に入ったことを示すものである。
以上のような具体的な鉱山開発プロジェクトの他に、有色集団は、以下の政府レベルの技術協力、共同開発案件にも関与しており、将来の中国への資源供給基地を想定したアクションプログラムを実行中である。
- モンゴル:オユトルゴイ金、銅鉱山開発>
- イラン:電解アルミ工場、銅製錬所の建設、鉛亜鉛鉱山開発
- タイ:タイ・中合弁の鉛及び鉛合金加工工場で2万t/年規模で生産
- ラオス:ラオス鉱業・手工業部と金及び銅の資源開発
- マレーシア:Kelantan州における鉱物資源の探査、開発
- コンゴ:雲南省有色地質局と共同によるコバルト精製工場建設
- フィリピン:銅、ニッケルを対象とした資源開発
- サウジアラビア:非鉄金属資源の共同開発
- 北朝鮮:金、銅鉱山開発
- 豪州:ボーキサイト鉱山開発
3. 今後の戦略
有色集団はザンビアのチャンビシ銅鉱山を足がかりに、アフリカ中南部での鉱物資源開発を積極的に推進している。既に進められているプロジェクトとしてはチャンビシ銅湿式精錬工場、チャンビシ銅熔煉工場(10万t/年)等があり、先にも示したとおり、コンゴなどの周辺諸国に対しても今後の事業展開を図っている。
また、有色集団の張健総経理は、2005年6月狭西省宝鶏で行われた鉱業投資セミナーの講演の中で、有色集団の今後の目標を次のように述べている。
- 2010年までに海外所有の非鉄金属資源の総量を2,000万t以上(銅・ニッケル・コバルト・亜鉛の金属量)、年産40万tの非鉄金属生産能力を確立する。
- 2020年までには、海外所有の非鉄金属資源の総量を4,000万t(銅・ニッケル・コバルト・亜鉛の金属量)、ボーキサイトの資源量を3億t、年産80万tの非鉄金属と400万tの酸化アルミの生産能力を確立する。
- アフリカ中南部では、ザンビアとコンゴ民主共和国の銅コバルト資源の開発を中心に、2010年には年産20万tの銅、コバルトの生産能力を、2020年には年産40万tの銅、コバルトの生産能力を確立する。
- 銅、ニッケル資源の開発ではモンゴル、ミャンマー、インドネシア、ラオスを中心とし、ボーキサイトの開発ではオーストラリア、ラオス、インドネシア、フィリピン、ベトナム重点に開発する。
- 2010年までに、中国近隣諸国に年産20万tの銅、ニッケル、鉛、亜鉛の生産能力を確保し、2020年には40万tの銅、ニッケル、鉛、亜鉛の生産能力と400万tの酸化アルミの生産能力を確保する。
また、傘下の中色国際鉱業公司は、豪州ORD社の20%の株式を取得し、同社の持つ銅、鉛、亜鉛、金の探査権、鉱産品の販売権を取得し、さらには豪州での資金調達の足がかりを得たことは、同社が資金調達面でグローバルに活動する道が開けたと言える。
4. まとめ
有色集団は90年代後半からほぼ時期を同じくして、五鉱集団や冶金建設集団と共に金属原料の調達を目的に海外進出を加速させてきた。これら3つの国有企業は、いわゆる「中央企業」と呼ばれ、国家国有資産管理監督委員会の管轄下にあり、政府の意向が色濃く反映される企業であることは言うまでもない。有色集団の開発プロジェクトは、中国政府の強力な支援を受け、政府間協議の中で生まれたものも少なくない。しかし、現在では非鉄金属資源分野で「中国有色集団」というブランドと企業イメージは中国政府に認知され、支持を受けているだけではなく、イラン、ミャンマー、ラオス、モンゴル等のアジア諸国、ザンビア、コンゴ、オーストラリアなどの資源保有国の政府や資源関係者と良好な信頼関係を構築し、実績も挙げて来ており、事業を行う際のパートナーとして認知されてきている。また、有色集団はグローバル化の過程において、20以上の国(地域)に代表事務所とプロジェクト本部を設置し、戦略的パートナー確保、資源確保、資金調達、情報収集、技術の向上を狙ったネットワーク構築を進め、国際資源企業として中国を代表する企業となりつつある。
中国政府は、中国経済の長期的な成長と安定的な発展のためには、海外の資源活用が必要不可欠であるとして「走出去(海外進出)」を進めており、有色集団がその役割を担い、存在感を高めてきている。今後、同集団が日本の鉱物資源開発と競合するか、或いはパートナーとなる可能性もあり、今後の動向に注目していきたい。