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報告書&レポート

2005年8月25日 バンクーバー事務所 中塚 正紀 e-mail:nakatsuka@jogmec.ca
2005年55号

Xstrata社によるFalconbridge社株取得に関するカナダ 国内の反響

 2004年当初、多くの証券アナリストや企業は、金属価格の高騰により資産評価が高すぎるため大型買収はないであろうと予測し、商品価格が下がり始めて評価額が適切なレベルになるまで買収を待つべきと示唆していた。しかし、2004年に話題となった敵対的買収は、いずれも失敗に終わったもののHarmony Gold社によるGold Fields社、Xstrata社のWMC Resources社、Glamis Gold社によるWheaton River社及び中国のMinmetals社によるNoranda社の交渉が世界の新聞紙上等で話題となるなど、当初の予想に反し、2004年企業買収は、2001年の実績には及ばないもののこれに次ぐ増加となった。本報告では、こうした最近の企業買収の動向を踏まえ、先日発表されたスイスのXstrata社によるFalconbridge社のBrascan社保有分約20%の株式買収したことに関するカナダ内外における関係者の反響を報告する。

1. Xstrata社のFalconbridge社買収に関する分析

 Xstrata社は、2004年来WMC社の買収交渉を進めていたが、BHP Billiton社による買収に敗れたことから、次の企業買収戦略が注目されていた。2004年時点では、より大きなそして質のよい生産可能な埋蔵量を保有し、支配的な株主もいないInco社が買収のターゲットとのうわさが流れていたが、WMC社買収失敗もあり、Inco社への敵対的買収を恐れたものと考えられる。というのは、同社がInco社へ買収を仕掛ければ、おそらく世界のビッグスリーであるBHP Billiton, Rio TintoやAnglo American社の買収参加をまねくことになりかねず、今回、これら企業との買収合戦を取るよりBrascan社が保有するFalconbridge社の約20%の株保有を選択したと見ている。
 加えて、アナリストらは、今回の買収について同社がさらに大きな物を狙っていることは当然のことであり、Falconbridge社の残り株の買収に動く可能性は高いと見ている。しかし、早い時期に高い株価で完全買収を行った場合、Brascan社に現行市場価格との差額を払うこととなるため、もし買収計画があるとすれば、買収時期は9か月後以降であると述べている。

2. 関係各社の反応

(1)Xstrata社
 同社幹部によれば、今回の買収は、少数株主としての立場を長期間維持するつもりはなく、時期をみて他の少数株主にオファーを提示する可能性があることを示唆している。

(2)Brascan社
 Brascan社は、より安定した不動産や基盤的設備資産運用を専門とする企業への移行を図っており、Falconbridge社の株は同社が所有する最後の市況産業株となっていた。しかし、同社はXstrata社の転換社債3.75億USドル分の購入を計画するなど、不安定なメタル部門からの完全撤退はまだないと見られる。

(3)Falconbridge社
 Falconbridge社は今回の取引は一株主の判断により株が売買されたものとだけコメントし、同社買収に関してはコメントを控えた。  

3. Xstrata社のFalconbridge社買収に関する地元の懸念

本件に関する地元紙の指摘は以下の通り。

 Xstrata社は、スイスに本社を持ち、ロンドン証券市場に上場しており、Glencore International社(以下Glencore社)が同社株式の40%を保有している。このGlencore社は1970年代半ばに金属鉱産物、原油や穀物などの取引を行うためにMarc Rich氏によって設立された。
 1980年代、資源会社の権益を買収し、現在、Xstrata社などの株式を保有している。2004年、同社の売り上げは、720億USドルで235億USドルの資産を保有している。出版されたレポートによれば、Marc Rich氏は人質事件時にイランと、人種差別問題の時期に南アフリカと、そして米国の貿易制裁実施時期にリビアやキューバと取引を行うなど悪名が高い。
 また、1983年に同氏は米国司法省により不正な金儲け、敵国イランとの取引き、脱税に関して起訴され、スイスに逃亡した。クリントン大統領による同氏の特赦は、刑事上の罪から罰を逃れることを意味し、この特赦が両院における同氏の金銭疑惑調査や民主党や共和党からの強烈な非難の引き金になった。同氏は1994年Glencore社の権益を売却しており、Glencore社及びXstrata社ともに同氏は現在権益を持っていないと説明している。しかし、Xstrata社の3名の取締役は、Glencore社のトップの要職にあり、彼らはいずれもMarc Rich氏時代の生き残りである。
 この他、Glencore社の問題は、Marc Rich氏の離脱や数年前の大統領特赦により終わっていない。食料供給のためのイラク原油取引疑惑について昨年CIAレポートはGlencore社がイラク原油取引のためにイラクへの不法な追徴金320万ドル支払ったと証言している。これに対しGlencore社はこの疑惑を否定している。Glnecore社との協力関係は、WMC社に対する買収競争の際も豪州においても問題となった。政治家や政治団体はWMC社へのXstrata社の買収は、凍結すべきであると語った。(政府は基本的に進められるべきとの見解を発表)
 現状は、Xstrata社は、Falconbridge社を支配する立場にはない。しかし、企業合併に戦略を変更してきたら、少なくとも同社とGlencore社がどのような独立関係にあるのか説明をすべきであると指摘している。

4. あとがき

 世界の鉱山会社は、高い市況を背景に高収益を実現し、株主への資金還元を図りつつ手元資金を留保し、将来の生産の拡大と埋蔵量の確保を目指して探鉱開発を推進する一方で潤沢な手元資金を活用し、探鉱開発に比べリスクの少ない企業買収を戦略的に展開すべくそのチャンスを狙っており、企業買収は今後も増加するものとアナリスト等は分析している。
 他方、2004年中国のMinmetals社によるNoranda社買収の直接交渉が行われた時も同社の人権問題が連邦議会議員や政府関係者を含めカナダ国内で議論を呼んだところであった。今回のXstrata社のFalconbridge社株買収においても同社の今後の展開が注目される。

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