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報告書&レポート

2005年9月22日 金属企画グループ 植松和彦、ジャカルタ事務所 池田 肇 e-mail:uematsu-kazuhiko@jogmec.go.jp jogmec2@cbn.net.id
2005年62号

フィリピン政府、新規鉱山開発23プロジェクトに積極的に外資の参入を計画

 フィリピンでは、1995年に大規模鉱山開発を条件とする資金技術援助協定(FTAA)を含む新鉱業法が制定され、外資による探鉱活動が活発化した。しかし、その後FTAAに関する最高裁判所での外資企業参入違憲審議を受けて探査・開発事業が停滞した。さらに1996年のマーカッパー・サンアントニオ鉱山における鉱滓流出事故やMount Diwalwal金産地帯のイリーガルマイナーによる水銀汚染問題を契機に、NGOや地域住民などが鉱山に対し鉱害訴訟を提訴し、監視委員会を設置するなど環境保護意識を台頭させた。加えて鉱業に関係する法令間の矛盾や不明瞭さ、新規鉱山開発に係る先住民の意思決定プロセスへの未参加、イリーガルマイナーとの利益配分、鉱山地域における水の安全性問題などによって利害関係者が反鉱業キャンペーンを強化させ、外国企業投資が悪化した。以上のように投資に係る法的不安定性や不透明性の問題、環境汚染問題や地域住民問題への対応の不備により同国鉱業の発展は大きく阻害された。 
 しかし、2004年1月Macapagal-Arroyo大統領は鉱業政策を「寛容(Tolerance)」から「奨励(Promation)」に転換する大統領命令270号に署名した。この命令は、鉱業を持続可能な開発という理念に基づいて再活性化(Revitalization)させるための3項目12分野からなるガイドラインを打ち出した。また、フィリピン鉱業協会(Chambers of Mines in Philippines) Philips Romualdez会長の政財界への強い影響力と指導力で鉱業界をあげたロビー活動を行い、併せて2004年12月の鉱業法及びFTAAに関する最高裁判所による最終合憲判決により海外の投資家が懸念していた法的不安性等が解消され、外国企業による鉱山投資を促す動きが加速した。現在、政府と鉱業界が一体となり外国投資家向けにマイニングロードショー(Mining Road Show)と題する一連のキャンペーンを通じプロジェクト紹介を行っている。また、2004~2010年の中期フィリピン開発計画(MTPDP)においても、鉱業はIT産業等と並ぶ優先産業と位置付け、外国投資優遇措置として所得税免除期間の付与、原材料の無税通関など投資促進策を並行して進めている。今般、大統領直属の鉱物担当補佐官を長とする鉱物開発会議(MDC:Mineral Development Council)が創設され、これにより、鉱業投資案件に係る問題について大統領主導のトップダウン方式により、中央-地方政府間、関係省庁間の認可申請手続きに係る調整等のほか、外国投資家のための政府窓口職員(Accounting Officer)を配置し徹底した積極策を打ち出している。これにより環境問題や地域住民問題への迅速な対応をも含め、海外の投資家に対し投資し易い環境整備が進みつつあり、同国での鉱物資源探査・開発の進展が期待される。 
 フィリピン政府は現在、国内未開発鉱山を開発するためには1兆USドルの資金投入が必要と推定、国内、外国企業にこのうち23プロジェクトを2015年までに優先的に開発するために約65億USドルの資金を投資させる計画を進めている。

1. 鉱業再活性化(Revitalization)プログラム

 大統領命令270号は、国の鉱業進行政策を示すとともに、政府はこの命令に基づき、鉱物行動計画(MAP:Mineral Action Plan)を策定し、鉱業の今後の発展に関するロードマップを明らかにした。大統領命令は、次の3分野12項目を基本原則として鉱業の持続的発展を基本原則とする。利害関係者との一連の協議を通じ、手続き上のボトルネック、関係法令の重複と不明瞭さ、利害関係者の支持欠如等問題解決に向けた施策を具体化するとともに、下流産業を発展、小規模鉱山を開発するためのプログラムと生物生態系への関心と環境保護を両立、閉山後の環境修復を課すものである。鉱山企業は、地元との対話を深め、社会的責任を果たすことを要求される。

  1-1 経済原則

(1)海外投資家の重要な役割を認識する。

(2)制度の明確化、安定化、予見可能な投資・規制政策

(3)付加価値の創出

(4)小規模鉱山の推進

(5)効率的技術の使用

  1-2 環境原則

(6)環境保護

(7)地域生体系の現状の保全と保護

(8)多面的土地利用と鉱物の持続的利用

(9)廃止鉱山の環境修復

  1-3 社会権益原則

(10)経済的社会的利益の公正な分配

(11)情報、教育、コミュニケーション(IEC)キャンペーン、先住民の権利の尊重

(12)ステークホルダーとの継続的実質的対話

2. 鉱業ライセンス

 鉱業法は、外国企業及びフィリピン国民に次の権利を与えている。
(1) 探鉱許可(EP:Exploration Permit):特定のエリア内のすべての鉱物の探鉱を遂行する権利を、権利保有者に与えるもの。探鉱権は2年間有効で、さらに2年間の更新が可能だが、合計で6年間を超えることはできない。
(2) 鉱物生産分配協定(MSPS:Mineral Production Sharing Agreement):特定地域の権益割合に応じた生産分配。25年間有効で、さらに一期間、更新できるが、この更新期間が25年を超えることはない。外国企業は最大40%まで権益取得可能。
(3) 資本技術援助協定(FTAA:Financial or Technical Assistant Agreement):鉱業資源の大規模な探鉱、開発および利用を対象として、国が、有資格者とFTAAを結ぶ。鉱業法の下で、FTAAの有資格者には外国人が100%の所有権を有する法人が含まれる。有効期間は25年で、さらに一期間、更新できるが、この更新期間が25年を超えることはない。本協定の対象は投資コスト5,000万USドル以上の案件である。
(4) 鉱物加工処理権(MPP:Mineral Processing Permit)
 鉱物加工処理とは、粉砕、選鉱、または鉱石、鉱物、もしくは岩石の品質向上、または同様な方法で、市場で売買できる製品へと加工する権利。5年間有効で、25年間の期間を超えることはできない。
(5) 支払コミットメント(MEC:Mandated Expenditure Commitments)

  1. 出資資本の10%は環境に関連した始業費とする。
  2. 採掘及び選鉱コストの3~5%は、年間の環境対策費用とする。
  3. 採掘及び選鉱コストの1%は地域開発や採掘技術開発に回す。
  4. 鉱山地域が先住民居住区に位置する場合、鉱産税として1%を先住民へ充当しなければならない。

(6) 探鉱環境対策計画(EWP:Environmental Work Program (EWP) for Exploration):探鉱活動が自然環境に与える影響と許容されるべき影響を明らかにするとともに、探鉱期間中の環境保護対策について、実施スケジュール、鉱害防止対策工法、環境モニタリング、レポート、投入コストを明らかにする。
(7) 環境保護及び改善計画(EPEP:Environmental Protection and Enhancement Program):鉱業法実施細則及び環境コンプライアンス(Environmental Compliance Certificate)に記載されるコミットメントと環境保護の連携を強化し、環境保護の実践方法、手段を詳述する。鉱山活動が自然環境に与える影響と許容されるべき影響を明らかにするとともに、鉱山の全期間における環境保護とベストプラクティスに基づく戦略強化を図る。
(8) 鉱山修復(MR:Mine Rehabilitation)
 廃止鉱山や休止鉱山における地域住民の最大の関心は山地荒廃の問題である。MAPでは、鉱山閉山後の環境修復、再地域開発プログラム策定の義務を負う。

3. FTAA合憲性指示

 最高裁判所は、2004年12月、鉱業法、および政府とWestern Mining Company,Inc.との間で締結されたFTAAの合憲性を支持。裁判所は、この判決において、(a) すべての天然資源は国によって所有される、(b) 天然資源の探鉱、開発、および利用は、常に、国の完全な管理と監督に従うとし、FTAAは国内資本と技術が不十分であるフィリピンにおいて、国は、FTAAの権利を完全に掌握していることを条件に、外国企業の参入を許可できることを指示した。

4. 鉱業開発会議(Minerals Development Council : MDC)の創設

 外国企業による鉱山開発を促進するため、政府施策を許認可申請機関に周知徹底させ、審査手続きの迅速化、透明性の確保するため、鉱業投資に係る問題を集中審議する、大統領直属のMDCを創設し、利害関係者がホットラインで召集される政府内システムを構築。MDCには、環境天然資源省(DENR)、貿易産業省(DTI)、MCMD、内務自治省(DILG)、国家先住民族委員会(NCIP)、フィリピン情報局、国家貧困対策委員会、大統領府運営委員会(PMS)のほか、地方政府関係者、鉱物開発を促進する金融機関や国際機関も招聘される。また、外国投資家のために政府窓口職員(Accounting Officer)を配置し、企業が抱える問題解決に向けた人的支援など積極策を打ち出している。
 MDCは更に、海外投資を促進し鉱物資源の豊富さを示すプロジェクトを提案する。案には、豪州による空中磁気探査、米国地質調査所(USGS)による天然資源のインベントリー作成、カナダ・豪州・米国・英国の資源団体による情報・教育交換プラン、UNDPによる(地質)地図作成、豪州とフィリピン証券取引所による企業リスト作成などが挙げられている。
 MDCは、投資家向けのマニュアル、法規制手続きが一か所で行える部署(One Stop Shop)、フィリピンの探査有望地及び投資政策に関する情報を世界の探鉱企業に公開するためのサイトなどを整備する予定である。
 去る12月、1995年の鉱業法の合憲性が最高裁判所で可決されたことを受けて、フィリピン政府は、予想投資総額60億ドル強で、かつ41件の探査有望地を含む主要鉱山プロジェクト23件の開発に対し、海外投資家の資本投入及び専門知識の導入を薦めている。

5. 主要鉱山23プロジェクト

 フィリピン政府が現在推進する23プロジェクトはMGB(Mines and Geosciences Bureau)のウェブサイトの”Philippine Mining Investment Portal”のコンテンツにリストが掲載されている。このリストには、プロジェクト別に、鉱業ライセンスの所有者、種類、許認可申請状況が示されている(http://www.mgb.gov.ph/miningportal.htm)。
 

6. おわりに

 フィリピン政府は、外国企業による鉱業投資を促進するため官民上げて積極的施策に取り組んでいる。中央集権から地方分権制度への移行という民主独立の潮流の中で、国家ビジョンの明確な提示と、中央―地方政府との協力関係の構築、ならびに利害関係機関を一つにまとめる鉱物開発会議(MDC)の創設、鉱山プロジェクトごとに企業担当専門家(Accounting Officer)を任命、鉱業振興キャンペーン・フォーラムを開催する等、そこには、国民の貧困を根絶するため、また、国内での実現可能な雇用機会を創出するためには、外国企業による鉱業投資が必要であるとのArroyo大統領の信念が伺える。2005年1月中国北京から始まったMining Road Showは、フィリピン鉱業大会、南アフリカINDABA2005、カナダPDAC2005、アジア鉱業大会シンガポール、東京JOGMECフォーラム、韓国、パリ、ロンドン、アジア鉱物大臣会合、豪州、そして来る10月マニラで開催するアセアン鉱業協会連合会(AFMA:Asean Federation of Mining Association)と続き、官民上げた外国投資勧誘を行い、最終日、マラカディアン宮殿にて大統領主催の鉱業レセプションが予定されている。既に中国、豪州、米国、カナダの鉱山会社が投資に関心を表明している。

(参考)
– 東京JOGMECフォーラムの状況はHPでご覧いただけます。
– フォーラムで出された質問について、フィリピン政府からの回答をHPに近日掲載いたします。

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