報告書&レポート
第6回アジア太平洋鉱業大会報告The 6th ASEAN Pacific Mining Conference and Exhibition

2005年10月11日から10月13日の3日間、フィリピン・マニラ・マカティ市において、アセアン鉱業連合鉱業協会[ASEAN Federation of Mining Associations(AFMA)]、フィリピン鉱業協会[(Chamber of Mines of the Philippines (COMP)]共催の第6回アジア太平洋鉱業大会(AFMA大会)が開催された。AFMA大会にはアジア地域を中心に政府、鉱山会社の最高幹部、専門家などが参加し、アセアン諸国の鉱物資源を最大限に活用して地域協力を進め、同貿易、同投資などについて議論した。2005年のテーマは、アジア太平洋における国境のない鉱業、グルーバル化(Borderless Mining in Asia Pacific : Targeting Global Opportunities)をテーマとして情報の共有・発信を行った。本稿ではその概要を報告する。 |
1. 経緯
AFMAは、1984年6月にインドネシア(The Indonesia Mining Association)、マレーシア(The Malaysian Chamber of Mines)、フィリピン(COMP)、タイ(The Mining Industry Council of Thailand)を主要メンバーとして発足し、2004年7月、ラオス(the Lao Mining Association)が新規加入し現在に至る。第1回AFMA会合は1988年タイ・バンコックで、第2回は1992年フィリピン・マニラで、第3/4回は1994/1996年インドネシア・ジャカルタで、第5回は2000年マレーシア・クアラルンプールで開催され、その後開催されていなかった。しかし、2004~2005年のAFMA会長に就任したBenjamin Philip G. Romualdez会長の強い指導力と関係者の努力により、また、2005年8月4日に開催されたアセアン鉱物閣僚会議(AMMin:FIRST ASEAN MINISTERIAL MEETING ON MINERALS)における共同合意「戦略的・創造的パートナーシップの強化」を受けて、アセアン政府関係機関と、鉱山会社との協力・対話を推進する戦力的機会として開催された。また同時に、フィリピン政府・COMPが一体となって推進してきたマイニング・ロード・ショー「鉱業投資勧誘促進キャンペーン」の最後を飾る鉱業イベントとして、フィリピン鉱業投資ブームを内外にアピールする機会として利用された。
2. 概要
本大会は、ASEAN地域から鉱業関係大臣・長官・大使を迎え、18か国(豪州・カンボジア・カナダ・中国・インド・インドネシア・日本・ラオス・マレーシア・ミャンマー・ニュージーランド・フィリピン・シンガポール・南アフリカ・韓国・タイ・英国・米国)総勢400人が参加し、今後のASEAN地域における鉱業の展望、鉱物資源開発戦略、探鉱プロジェクト等の紹介などアセアン地域の代表者らが約40以上の講演を行った。(プログラム参照)
また、展示会場では約15社ほどがブースを設け、投資に関心のあるパートナーと個別商談(Business Matching)を行っていた。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構からは松田憲和副理事長を団長とし近藤敏特命審議役以下3名が参加した。大会期間中に環境天然資源省長官・大統領鉱物担当補佐官と面談し、日本鉱山企業参入のための環境整備を要請するとともに、JOGMECとしてもアセアン地域におけるJVプロジェクトの展開を重要視している旨説明し今後の関係協力要請を行った。また、大会2日目のセッション【Sharing from Majors】において「JOGMECの活動と役割<日本からのアセアン諸国に対する鉱業投資促進策>」と題する講演を行い、JOGMECが有するJVプロジェクト等スキームを通し、域内に貢献したいと関係者へ強くアピールした。
日本企業関連講演では、Coral Bay Nickel Corporation(CBN:住友金属鉱山株式会社54%、三井物産株式会社・双日株式会社各18%、Rio Tuba Nickel Mining Corporation10%が株式を所有)藤村隆則社長が、パラワン島リオツバ地区で実施しているニッケル精錬プロジェクト[HPAL(High Pressure Acid Leaching)高圧硫酸浸出法による低品位酸化鉱の処理プラント]について概要報告を行い、豊富なニッケル資源となりうる低品位ラテライト鉱の開発に道を開く技術として参加者全員の注目を集めていた。講演の中で、フィリピン人技術者が我々の技術を盗み、近い将来、CBNがフィリピン人だけの手により運営されていく事を期待しているとのメッセージを発し、鉱業がもたらす雇用機会の創出、医療機関の提供、インフラ整備、地域開発、人材育成の成功事例として取り上げられた。
3. 講演内容
高官挨拶、講演の中から主要なものを以下に紹介する。
(1) 開会式主催者挨拶:Benjamin Philip G. Romualdez会長
<アセアンの鉱物資源輸出は150億ドルへ>
アセアン諸国の鉱物資源輸出は今後3~5年間で現在に比べ3倍増の150億ドルに成長する潜在性を持っている。これは、中国、インド、日本などの需要が成長していくと予想されるためである。そのためには、正しい投資、適切なパートナーとの提携、政府の支援が必要である。さらに、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどアセアン諸国は金額にして数兆ドルの探鉱可能な鉱物資源を保有しており、一部は世界最大級の資源を保有している。特にミャンマー、ベトナムの場合、金、銀、プラチナなど貴金属のほか、ベースメタルやダイヤモンド、ルビーなどの宝石類、ウランなどの将来性の高い鉱物資源を保有している。一方、中国、インド、日本は、経済成長を維持していくためにこれら全ての鉱物資源を必要としており、そのため、最近、金属相場が上昇している。この鉱物資源開発を進めていくため、AFMAは、2004年のベトナム総会で採択した2005-2010年アセアン鉱物協力行動計画(AMCAP:ASEAN Minerals Cooperation Action Plans)の実行を徹底する必要がある。AMCAPは、アセアン鉱山業界に貿易・投資を強化し、一方、環境保護を重視し、社会責任を持った鉱山開発を進めるというものである。さらに、鉱山開発は地方の奥地・僻地で実施されるため、インフラ整備や鉱山開発が続く期間の地域開発には役立つ。
フィリピンの2004年度鉱物資源生産は7億6,400万ドルだったが、同国の最高裁判所が鉱業自由化の判決を行なったことで、今後、3~5年間に30億ドルに増加する見込み。
国家経済開発局(NEDA)は2005年初め、鉱業が生み出す潜在的富は8億4,000万USドルで、同国の年間GDPの10倍と予測。さらに同国の総面積3億haのうち900万ha、ほぼ3分の1が鉱物資源を保有している潜在性があると推定している。
(2) アセアン地域における鉱業展望:H.E. Ong Keng Yongアセアン事務局長
欧州連合のようなアセアン経済地域(ASEAN Economic Community)を2020年までに創出するためには鉱業セクターが重要な役割を担っていることをアセアン首脳は認識すべきである。鉱業は、工業と社会が大きく依存している一次金属の供給を通してASEAN経済の活動を支え、鉱物資源なくして、建設、工業製品は生まれない。1990年代はdot.comの時代であり世界経済が根本的に変化した。情報と通信技術の進歩またはICTが新しい経済をもたらし、雇用機会及びハイテク技術を創出し、従来の鉱業活動は古い経済、時代遅れとされたが、鉱物の生産活動は、アセアン地域における中国、インドなどの需要拡大を受けて更に拡大している。アセアン地域の経済統合は投資障壁や関税を引き下げることのみ可能で、エネルギー・輸送・通信などインフラストラクチャーの連携を意味する。今後もアセアン電気網・天然ガスパイプライン・高速道路網の整備及びシンガポール-昆明(Kunming)鉄道の連結、電話通信ネットワークの構築など鉱物資源の供給を必要とする。
2003年のアセアン鉱物資源生産は金額ベースで59億ドルとなっているが、アセアンGDPに対する鉱業の貢献度はわずか1.1%に過ぎない。今後、アセアン諸国は、鉱山開発投資を拡大させる必要があり、豪州、カナダ、米国などアセアン以外の国からの投資が重要である。アセアン諸国は豊富な資金を有している。しかし、多くの企業は、環境保護問題を危惧し、また投資資金・利益の回収に長期間を要する鉱山開発には積極的ではない。
そのため、鉱業は現代社会の繁栄に必要不可欠な産業であることを再認識し、アセアン各国政府、鉱業会は、AMMinの共同合意「戦略的・創造的パートナーシップの強化」及び2005-2010年アセアン鉱物協力行動計画(AMCAP)に沿って環境保護及び同規制の改善を進めるべきである。
(3) 開催宣言:Hon. Michael T. Defensor環境天然資源省長官
2月にフィリピンで開催した国際鉱業大会、これまでの投資ミッション、8月マレーシアのアセアンAMMin関係者がここに集い再会することができAFMA関係者に感謝する。
海外投資家がアセアン地域における探鉱機会を欲している最大の動機付けは非鉄金属価格の高騰にある。本AFMA会合の目的には二つの時宜を得た理由がある。一つは、この大会を通じて、アセアン地域における投資機会を拡大すること、鉱業セクターによる環境・社会的義務の履行を徹底させ、ベストプラクティスを実践・学ぶことにある。二つには、2004年12月、フィリピン憲法最高裁判所によってもたらされた鉱業法に規定される資本技術援助協定(FTAA:Financial or Technical Assistant Agreement)の合憲判決を受けて、幾多の投資促進鉱業キャンペーンを展開してきたが、ここに多くの外国投資家・パートナーを招き開催できたこと。
アセアン地域の鉱業投資において民間企業が自身の重要な役割を認識し投資機会が醸成されることを期待している。民間企業は我々のパートナーであり経済発展のための触媒である。国民の貧困を根絶し地域社会の持続的発展を期すためにも、鉱物資源を探査・開発することが土地の生産性を高めることに繋がり、こうした投資こそが社会インフラの整備及び地方政府や鉱山コミュニティーが必要とするプログラムへの再投資を可能ならしめるもの。更に鉱山操業を延命化させ、次世代への恩恵をもたらすばかりではなく、地域開発に貢献。これらは政府だけでできるものではなく民間企業の力・協力を必要とする。
4. AFMA大会における鉱山開発反対運動と政府高官対応
フィリピン・マカティ市のAFMA会場及びCOMP主催パーティー会場ココナッツパレス(マルコス大統領時代の迎賓館)前で、フィリピン政府の鉱業振興政策や同国鉱山への外国企業の参入増加予想などに抗議した反鉱山開発活動家と一部教会関係者(30名程度の修道女))による抗議行動が小規模に行われた。
AFMA会場前の抗議活動グループは、フィリピン政府は1995年鉱業法をベースにした鉱業政策で外国企業を同等に扱い、同国の重要な資源を外国に売り渡すものだと非難している。
この抗議行動を指揮したRisa Hontiveros下院議員(Akbayan党)は、外国企業への優遇措置を撤廃し、環境保護を重視し、地元原住民の不安を払拭するように求めている。そのためには1995年鉱業法を廃止し、同国政府は天然資源開発をベースにした経済政策を転換するよう訴えている。そのため、同議員は、1995年鉱業法を改正する法案を準備中であるという。また同国政府は鉱山開発が経済発展に重要だと強調しているが、鉱山開発は環境悪化など多くの隠れたコスト、負担があると指摘。
これに対し、環境天然資源省Hon. Michael T. Defensor長官は、同国政府は国家の利益を十分に保証しており反対派の主張は誤りである。鉱山会社は開発後、植林など環境修復が義務付けられおり、環境保証基金への資金拠出を行っている。鉱山稼行中も大気浄化法、水質浄化法などの鉱害防止義務を負っている。政府は、外国企業に利益を供与する政策は実施していないと反論していた。
また、大統領鉱物担当補佐官Delia Domingo Arbert大使は松田副理事長との懇談の際に、ココナッツパレス周辺の修道女による反鉱業運動に触れ、フィリピンにおける反抗議運動の一つに教会による運動があると報道されているが、これは正確さに欠く報道である。運動は、特定の個人あるいは団体に限定されており、教会全体を指してはならない。また、反鉱業を唱える人に対しては、絶えず意見を聞く必要があり、その場にいれば修道女を会場へ招き入れ主張に耳を傾けたかった。それが大統領鉱物担当補佐官であり鉱物開発会議(MDC:Mineral Development Council)を有する意義であると語られ、フィリピン政府が設立したMDCの役割と鉱業関係者(ステークホルダー)会議に取り組む女史の誠実さを知る貴重な機会となった。
5. おわりに
(1) AFMA会合に参加して、フィリピン関係者の鉱業投資に対する強い期待感と中央政府を中心とする鉱業振興政策を真に体感する鉱業大会であった。大会初日、貿易産業省Hon. Peter B Favila長官講演後の質疑応答では、長官自らが携帯電話の番号を聴講者全員に開示し、鉱業投資について問題が起きた場合には何でも問い合わせしてほしいとの積極な姿勢を示していた。また、マレーシア鉱業協会からの質問「フィリピン政府はアセアン関係各国政府及び鉱業機関に対し、鉱業振興政策への転換を促すため何をしていただけるのか」を受けて、アセアン地域に係ることは何でも前広に相談・情報共有をすることが重要であるとの認識を示した。インドネシア地質鉱物資源総局長Dr. Simon Sembiringが自身の講演終了後、環境天然資源省Hon. Michael T. Defensor長官と個別面談し、インドネシア政府が抱える投資環境問題につき意見交換を行っていた姿がこれを裏づけるものであった。
(2) アセアン地域における探鉱活動報告では、アングロ・アメリカ社は投資環境が世界的に見て下位にあるインドネシア及びフィリピンにおいても後発組みであるにもかかわらず堅実に探鉱活動を展開しておりその動きが注目された。メジャーとしてはインコ社、ジュニアでは、豪州企業がアセアン域内で積極投資を行っている。
(3) 中国からの参加者は登録ベースで10名と比較的少数であった。主にホンコンの銀行関係者が中心であった。(Citigroup Global Market Asia Ltd, E&V International Ltd, Jinchuan Group Ltd, YNTCL Industrial Trading Co. Ltd, Canadian Imperial Bank of Canada, Credit Suisse First Boston, Deutsche Bank AG)
(参考)
– 会議資料につきましては金属資源情報センター(mric@jogmec.go.jp)までお問い合わせ願います。
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