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ロシア・Norilsk Nickel社に再国有化の動き?-石油に次ぐ戦略資源の国家管理はAlrosa社による買収か-
「ロシア最大の鉱山企業Norilsk Nickel社が国営ダイヤモンド採掘企業Alrosa社に買収され、再国有化されるのでは。」との憶測がモスクワの市場関係者を賑わせている。11月3日付けのMetal Bulletin(London)などもニュース発信しているが、本稿では伝えられる買収像や両社の最近の動向のほか、再国有化の背景と今後の注目点について報告したい。 |
1. 買収像と事実関係
(1) | Norilsk社のベースメタル・PGM(白金族金属)資産を対象とし、2006年1月にスピン・オフされるPolyus社の金資産(Gold Fields社(南ア)の権益20%を含む)は除外 |
(2) | Norilsk社を所有する持ち株会社Interrosを率いるPotanin氏とProkhorov氏(同社CEO)が所有する同社の権益は約51% |
(3) | 買収対象の試算市場価値は約150億USドル(金資産の価値は60~70億USドル) |
(4) | 買収金額は約75億USドルと想定され、市場価値が60~70億USドルと見込まれるAlrosa社は現金20億USドルの捻出と銀行融資によって資金調達は可能 |
2. 両社の最近の動向
(1) Norilsk Nickel社
国内金生産者を買収して築いてきた金資産をベースとして、2004年3月に南アの金生産者Gold Fields社の権益20%を11億6千万USドルで取得し、同年10月には同じく南アの金生産者Harmony Gold社と連携してGold Fields社の買収を画策(成功せず)するなど、一時期、対外資産の拡張に向けた動きが顕著だった。Norilsk社の金資産を管理する子会社Polyus社は2005年9月、IG Alrosa社(Alrosa社傘下の投資企業)から同社がサハ共和国(ヤクーチャ)に所有する金資産:(1) Nezhdaninskoye金鉱床の開発権を有するYuzhno-Verkhoyanskaya社の株式50%、(2) Kuranakh金鉱床などの開発権を有するAldanzoloto社の権益99.2%など、を285百万USドルで取得した。この金額は、これら権益の獲得に意欲を示すBarrick Gold社がパートナーであるCeltic Resources社※1を通じてオファーしていた金額よりも相当低いもので、実現していればロシア第2位の金生産者グループになっていたBarrick社は強い不満を持っていると伝えられる。なお、格付け機関Standard & Poor’sは2005年8月、Norilsk社の格付けをBBからBB+に引き上げている。
※1 ロンドンAIMに上場するアイルランド企業で、Yuzhno-Verkhoyanskaya社の残りの株50%を所有している。Barrick社は2004年から2005年にかけてCeltic社株の14%を取得した。
(2) Alrosa社
ダイヤモンド産地のあるサハ共和国に設立された閉鎖型の国営ダイヤモンド採掘企業として最大株主はロシア連邦政府であるが、共和国政府もそれに次ぐ株式を所有する。2005年3月、Fradkov首相が関係省庁に対して「Alrosa社の連邦所有化」に向けた作業を急ぐよう指示を出したものの、現地での抗議集会などを受けて作業は中断したままとされる。ただ、2005年8月にShitrovサハ共和国大統領が連邦政府によるAlrosa社の所有を支配株まで引き上げることに反対しない旨表明したり、10月にはTimofeyev共和国議長が市場の需要に応えられるよう開放型の企業形態に改めるべきと発言するなど現地サイドにも変化の兆しが見られる。なお、2005年9月末にハバロフスクで行われた「第1回極東国際経済会議」※2の場でBeryozkin同社副社長が“Establishing a national mining company”と題して「Alrosa社を核とした国営鉱業企業の創設」をアピールする講演を行っている点に注目したい。
※2 「ロシアとアジア太平洋地域のパートナーシップの展望」を標榜して行われ、ロシア側要人や関係国の代表者など多数が参加(我が国からは逢沢外務副大臣他が出席)した。当該講演は2日目の分野別分科会「極東ロシアの鉱物資源ポテンシャル」の中で行われたもので、要旨は以下のとおり。
1. | 国家にとって重要な鉱物資源(ダイヤモンド、金、ウラン、銅、鉛など)の探査開発の問題を総合的に解決するためには国益を保障する国営鉱業企業の創設が望ましく、このような企業こそが国際非鉄メジャーに伍して競争できる。 |
2. | そのためには、国家管理が可能で経験と能力を兼備したAlrosa社を中核に位置付け、ダイヤモンド以外にも事業を多角化させる方針を決定する必要がある。 |
(3) 両社が事業対象とする鉱物、権益関係及び売上高(2004年)
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出展:Alosa社ホームページ
ロシア東欧経済速報No.1312(2004. 11. 15)他 |
3. 再国有化の背景
(1) Norilsk Nickelの民営化問題
国営コンツェルンであったNorilsk Nickelの1995/1997年の民営化入札に関連して、Potanin氏は自身が設立したオネクシム銀行を通じて(国の保有株を担保にした融資「ローンズ・フォー・シェアズ」を利用)わずか170.1百万USドルで同社の支配株を入手したとされる。旧ソ連時代の国有企業の多くが民営化の過程で非合法的に資産を移転されたと言われており、性急な市場経済への転換に乗じて国家財産や天然資源などを独占し、巨万の富を築いた新興財閥(オリガルヒ)の代表格としてNorilsk社も検察庁や会計検査院などの調査ターゲットになるのではないかとの観測が頻繁に取り沙汰されてきた。対外資産に走る経営姿勢がクレムリンの大きな不興を買ったとの声も聞かれる。
(2) 戦略資源の国家管理
2004年、政府によって事実上解体され、主力子会社が国営石油企業Rosneft社に移管された石油業界最大手のYukos社(Khodorkovsky氏は服役中)に続き、2005年9月にはAbramovich氏の持ち株会社Millhouseが所有する同業界5位のSibneft社が131億USドルで国営ガス企業Gazprom社の買収に応じるなど、石油業界の二人のオリガルヒが抑えられ、国営や政府に近い企業で固められたことで石油・ガス分野における国家管理の体制が整った。政府部内にはかねてより戦略資源を取り返して再国有化すべきだとする議論があるとされ、Norilsk社の資産も度々俎上にのっていたと言われる。
4. 今後の注目
Alrosa社(の子会社IG Alrosa社)がNorilsk社(の子会社Polyus社)に金資産を売却した経緯と事実から、もしもAlrosa社がNorilsk社を買収するのであれば、その際に金資産は含まれないと考えられるものの、果たしてそうであろうか。天然資源政策に関するPutin大統領の私的顧問を務めるLitvinenko氏(St.Petersburg Mining Institute学長)は、以前からNorilsk社の金資産をPotaninとProkhorov両氏の管理から取り戻して再国有化すべきだと主張していたとされる。現在進行中の地下資源法の改正論議でも見られるように、同氏の影響力は必ずしも大きくないとされるが、Norilsk社からスピン・オフされるPolyus社(金資産)を政府部内がどのように見定めるのか、その評価の行方次第では戦略鉱床として外資参入規制の対象となるSukhoi Log金鉱床の入札にも大きな影響を与えることから、注視が必要であろう。
他方で、買収が実行に移されるためには、Alrosa社の機構改革が不可欠だと指摘される。これは、連邦政府による支配株の取得や、市場で株取引が可能となるよう開放型の企業形態に改めることなどである。これらがどのように進むのかも注目される。
以上 |