閉じる

報告書&レポート

2005年12月1日 金属資源開発調査企画グループ 本庄 哲弥 e-mail:honjo-tetsuya@jogmec.go.jp
2005年86号

国際ニッケル研究会2005年秋季会合が開催-ニッケル供給は引き続き緩和すると予測-

 2005年秋の国際ニッケル研究会が10月24日と25日の2日間、ハーグ(蘭)の外務省会議センターにおいて開催された。加盟国のほか、ベルギー、カナダ、インドの各国の代表及び業界団体から約50名が参加し開催された。この中で、ニッケル研究会は、ニッケル需給バランスについて、2004年に3千tの供給過剰となっていたが、2005年には過剰量は3.6万tと拡大し、2006年にも1.8万tの過剰と、供給過剰状況は継続するだろうと予測した。また、これまで日本は世界最大のニッケル消費国だったが、2005年には中国が世界最大のニッケル消費国となる見通しとなった。

1. 国際ニッケル研究会について

 国際ニッケル研究会(INSG)は、安定的なニッケルの需給を確保していく上でニッケルの生産、消費、国際貿易に関する政府間の協議の場を提供し、統計・情報の収集を行うことを目的として、UNCTAD(国連貿易開発会議)の下、1990年5月23日に発足した。研究会事務局はオランダのハーグにある。
 現在の加盟は、15か国、1機関である(日本、豪州、ロシア、フランス、フィンランド、インドネシア、英国、オランダ、キューバ、ノルウェー、イタリア、ドイツ、スウェーデン、ギリシャ、ポルトガル、EU)。今回はその他に3か国(ベルギー、カナダ、インド)がオブザーバ参加し、計18か国、1機関から約50人のニッケル関係の政府・民間代表が参加して開催された。また、事務局が新規加盟の働きかけを行っている国については、ベルギー、中国では産業界が政府に対してINSG加盟を要請中で、ブラジル、スペインについては大きな進展がないとのことであった。
 日程は、10月24日に産業諮問パネル、環境・経済委員会、25日に統計委員会、常任委員会の順に開催された。

2. 2005年及び2006年の需給予測について

 各国から提出された需給見通しを集計した結果、研究会は、2005年の世界の一次ニッケル地金生産量は1,292千tと、2004年の1,256千t(実績)と比べて2.8%の増加となると予測した。一方、消費量は1,258千tと予測され、2004年の1,254千t(実績)と比べて0.3%の増加となる。これにより、2005年の需給バランスは供給過剰となる。
 消費量の鈍化が見積もられているが、2003年後半から始まったニッケル価格の上昇が、2004年および2005年第一四半期までの消費に影響を及ぼしたことに加え、2005年半ばからニッケル含有率の高いステンレス製品が世界的な減産傾向になったためとされている。
 ニッケル地金価格(LME現物)は、2003年初は7,210ドル/tであったものが、2004年初に17,770ドル/tの高値を付けた。2005年初に一時14,000ドル台まで下落した後回復し5月には17,000ドル台後半まで上昇したが、6月には再度14,000ドル台まで下落した後は低水準で推移し、銅他のコモディティ価格が高値更新する中で値を下げ、10月27日現在11,975ドル/tまで下落している。
 研究会の2006年の需給予測では、一次ニッケル地金生産量は1,355千tと前年比4.6%上昇が予測された。これは、カナダ、インドネシア等で増産が見込まれたものである。一方、消費量は1,337千tと前年比6.3%の増加となる。これは、中国、ロシア等の消費拡大が見込まれたものである。これにより、2006年の需給バランスは、引き続き供給過剰と予測された。この結果、2004年にほぼバランスしていた需給が供給過剰に振れることとなる。
 ただし、インドネシア等の増産が予想通り行われなかったり、中国等の消費が予想以上に伸びた場合、供給不足となる可能性も否定できない。

世界のニッケル供給量と消費量   世界のニッケル需給バランス
図1. 世界のニッケル供給量と消費量
図2. 世界のニッケル需給バランス

3. その他の主な討議事項

(1) 研究会の合理化
 3研究会(INSGの他、国際銅研究会(ICSG)、国際鉛亜鉛研究会(ILZSG))の合理化について、3研究会合同タスクフォース委員から検討状況の紹介があり、統合後の事務局が置かれることとなるポルトガル共和国(リスボン)との便宜供与等に係る合意書案等の紹介があった。各研究会の予算や活動は統合後も独立となる方向であるが、事務局員の雇用条件や設備・備品等の調達についてはある程度横並びで調整中とのこと。

(2) 分担金計算方法の見直し提案
 INSGへの分担金の計算方法は、各国均等割合分(member fee):ニッケル貿易量比例分(trade fee;直近 3年間のニッケル輸出量+ニッケル輸入量)が、現在4:6の比率配分が規定されているが、1.結果として特定国(特に日本と豪州)に分担金が集中していること、2.ICSGとILZSGの分担金計算方法では5:5であることから、2005年4月の春季会合の場において我が国は分担金計算方法の見直しについて、以下2案の提案を行っていた。
  a. 各国均等割合分の増加(全予算の40%であるものを50%とする)
  b. キャップ制度の導入(各国分担金上限額を全予算額の10%とする)
 本議題は、INSG手続規則25条の改正事項であることから、特別総会として協議が行われた。b.については、現時点では賛成国が少ないことから決議は見送りとされ、今回の総会ではa案のみについて採決が行われた。
 採決の結果、賛成4(日、仏、豪、露)、反対1(伊)、棄権3(EU、スウェーデン、ノルウェー)となり改正に必要な3分の2の賛成を得ることが出来たため、手続規則25条が改正されることとなった。これにより、総予算額における日本の負担率は12.7%から11.7%へ減少する。

(3)ニッケルリサイクル
 INSGでは、ニッケルリサイクルについて、ニッケル含有屑の再利用状況と将来的な屑の供給ポテンシャルを示すためのモデル作成・データ化作業を実施しており、今後各国がデータ提供に協力することなどが確認された。
 また、非鉄金属リサイクルに関する用語を明確化するために、INSG、ICSG、ILZSG、EUROMETAUX(欧州金属連合)、EUROFER(欧州鉄鋼産業連盟)の5団体が共同で5つの指標を提案している。
 ●リサイクル率の定義
  1. The Resycling Input Rate
  2. The Overall Recycling Efficiency Rate
  3. EOL Recycling Efficiency Rate (EOL : end of life)
  4. EOL Collection Rate
  5. EOL Processing Rate
 ●必要なデータセット
  ・過去からの生産および消費量
  ・スクラップ製品のリサイクル周期
  ・収集および回収率
  ・スクラップ製品の耐用年数

(4) 統計のレビュー
a)国別ニッケル消費
 ロシアのみならず中国の消費に占める割合が増大している一方で、Western World、Eastern Worldという統計区分ではなく、他鉱種の研究会のように地域別区分を採用してはどうかとの意見があり、事務局からはこれまでの統計との整合性の取り方等検討を要しているとの回答があった。
b)2004年世界の初生ニッケルの見掛け消費 (Mr. Stephane Chorlet (ERAMET))
 見掛け消費/実際の消費の違いについて、これまでの参加国より指摘があったことから特に調査を行ったもの。調査に当り、以下の仮定を定義した。
 ●見掛け消費=生産量+輸入-輸出(※定義:出荷量-在庫変化量(生産者側))
 ●実消費=見掛け消費-在庫変化量(消費者側)
 2004年、2005年の全世界見掛け消費は、1,257千t、1,270千t(予測)だが、ともに在庫増があるため、実需要は1,236千t、1,222千t(予測)になるとの推計が示され、傾向として、在庫量の変動効果が大きい場合には見掛け消費が実消費を上回るとされた(特に中国では顕著)。

(5) ニッケルに関する長期間データ
 1990年の設立以来、INSGは、ニッケル市場における詳細な統計を収集し、普及させてきた。このデータベースは、ニッケル鉱石生産、地金生産及びニッケル消費のデータから成り、ニッケルの在庫及び価格のデータについても同様である。しかし、長期間にわたるニッケル市場調査のためには、特に生産・消費・価格のような一貫した歴史的データ・セットが必要である。例えば、スクラップからのニッケル利用可能性を考える場合、ニッケル含有製品の耐用年数が長いので、少なくとも数年間に及ぶデータが必要となる。
 2004年4月会合の合意により、事務局は、様々な出典から1950年以降の年ベースの歴史的データの収集を開始した。最善のデータが利用できるように、主要なニッケル生産国及び消費国にデータをレビューするよう申し入れた。

(6) ニッケル産業の欧州化学物質規制(REACH)対策実施状況

(Mr. Hugo Waetershoot (European Nickel Group))

 これまでニッケル産業に特化したREACH対応の調査が遅れていたが、今回、ニッケル鉱山開発および生産過程(リサイクルを含む)におけるニッケルおよびニッケル化合物が、REACHの登録/認可の適用範囲になる方向で議論が進められるであろうとの調査結果が発表された。英国修正案により鉱石が登録対象から除外されるなどの動きもあるが、過大な規制となる懸念が依然強く、EU議会での決議が注目される。

4. 今後の予定

 次回のニッケル研究会は、定例の春期会合として2006年5月15日の週にリスボンで開催し、産業諮問パネル、環境・経済委員会、統計委員会、常任委員会及び第16回総会が開催される予定である。

ページトップへ