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ペルー・La Granja銅鉱床の開発オプション権をRio Tinto社が獲得

銅価が歴史的な高値で推移する中、世界の鉱業関係者が注目したLa Granja銅鉱床の開発オプション権譲渡の入札が12月16日に実施され、唯一応札したRio Tinto社が最低入札価格の22百万ドルで落札した。 開発投資額10億ドル規模の大規模銅山への発展が期待される本プロジェクトは、これまでもメジャー企業による経済性評価が実施されているが、良好な結果が得られず放棄された経緯もあるだけに、屈指のメジャー企業であるRio Tinto社が、今後、開発に向けどのような戦略で臨むのか注目される。 ここでは、今回の入札に係わる背景・経緯、入札状況、さらに個人的な見解とはなるが本入札結果の視点について簡単にまとめる。 |
2. 背景・経緯
La Granja銅鉱床(ポーフィリーカッパー型)は、ペルー北西部のCajamarca県Chota郡の標高2,000~2,500mに位置し、歴史都市カハマルカからは直距で北西約100kmである。(別添位置図参照)
本地域では、1970年に政府(Minero Peru)が基礎調査を開始し、1979年、独との協力調査によるボーリングで本鉱床を発見した。この後、政府入札で開発オプション権を獲得したCambior社は、1994~1999年の間、10万m以上のボーリングによる鉱量評価、冶金試験、環境評価等を実施したが、最終的に2000年11月、これをBHP Billiton社に売却(35百万ドル)した。この後、BHP Billiton社は、バイオリーチング技術を利用したSX-EW法による開発可能性を検討したが、これも最終的には経済性がないとの理由で開発を断念し、本鉱床を政府に返却した。
今回の入札を実施した投資促進庁(Pro-Inversion)によると、これまでの調査により把握した鉱量は12億t(銅0.65%)、地質的な期待鉱量は25億t(銅0.56%)、また銅以外に若干の金(0.05~0.1g/t程度)を含有する。これ以外に、ヒ素の含有率が比較的高い(含有率不明)ことを特徴としており、これが開発を検討する上での大きな課題と言われている。
政府は、2003年以降、再入札により本鉱床の開発オプション権を売却する時期を窺っていたが、Toromocho、Las Bambasと大型の銅鉱床の入札が次々と成功し、これらのプロジェクトも順調に推移する中、また銅価が高いこの時期に合わせて入札を行った。
3. 入札状況
本入札は、12月16日、エネルギー鉱山大臣、経済財務大臣も出席の下、投資促進庁で行われた。入札に際しては、Rio Tinto社を含むメジャー企業6社(他の5社はCVRD、Southern Copper、Xstrata、Barrick Gold、Teck Cominco)が、応札に必要な事前登録を行っていたが、最終的な応札者は、Rio Tinto社一社のみであった。
Rio Tinto社の提示した落札額は、事前に政府が定めた最低応札額と同額の22百万ドル、F/S段階までの当初の投資保証額は、同じく政府が事前に定めた最低投資保証額20百万ドルの3倍の60百万ドルであった。
入札を辞退した5社の内、とくにCVRD社は、先のLas Bambas銅鉱床の入札時に落札者のXstrata社に次いで高い応札額を提示し、また2005年3月には政府入札でBayovarリン鉱床を獲得し、La Granja銅鉱床と本リン鉱床の開発には地理的近さからインフラの相互利用面(港湾設備等)でメリットが大きいことから、有力な落札候補会社と考えられていた。
本入札結果を踏まえ、政府側(投資促進庁)とRio Tinto社の正式契約が1月末に予定されているが、この入札結果と入札要綱による契約内容等のポイントは以下のとおり。
・ Rio Tinto社は、契約締結時に応札額22百万ドルの内3百万ドル、二年次に4.4百万ドル、3年次に4.4百万ドル、残額は開発オプション権行使時に支払う。これらは全額、地元のインフラ整備等に充当するための基金となる。
・ 3年以内(2年延長可能)にF/Sを終了し、開発オプション権を行使するか否かを決定する。これに要する投資額は60百万ドル以上。
・ 開発オプション権を行使する場合、行使後5年以内に操業を開始する。これに要する実開発投資額は、F/S結果の算定額の70%を下回らず、かつ700百万ドルを下回らないか、あるいは35,000t/日の粗鉱処理プラントの設置が必要。
・ 鉱業ロイヤルティは、既に政府が定めた同法に従って支払う。
Rio Tinto社は、ペルーで保有する操業鉱山はなく、過去約10年間、探鉱を継続しているが、現在、主要な探鉱開発プロジェクトに権益を保有しておらず、ペルー初の大型案件への参入となる。
4. 本入札結果の視点
本入札は、銅価が歴史的な高値で推移する中で実施されたが、応札した会社はRio Tinto社一社のみで、落札額は政府が定めた最低額の22百万ドルであった。これは2004年のLas Bambas銅鉱床の落札額121百万ドル(最低入札価格:40百万ドル)と比較しても小額で、この点では政府の期待を下回る結果となった。
今回の入札に対し、過去に開発オプション権を獲得しながら最終的にはこれを放棄したCambior社、BHP Billiton社の両社は入札の事前登録も行わず、事前登録した6社の内5社が応札を辞退した。本銅鉱床は、過去の調査で鉱床の全容がほぼ把握されていると考えられるが、鉱量に対し銅品位が比較的低い点とヒ素の含有率が高い点が開発上の課題とされており、とくに後者の問題に対する技術的な対応がポイントと言われている。かつてこれに取り組んだCambior社、BHP Billiton社の両社、そして最終的に入札を辞退した5社は、銅価の将来にある程度明るい展望が持てる現在でも、経済性を有する形でこれらの課題を克服するのは困難と判断したのであろう。ただ、これらの社の本入札に対するコメント等はほとんど報道されておらず、応札しなかった真の理由は明らかではない。
一方、Rio Tinto社は、ペルー初の大型案件参入を果たし、開発に向け強い意欲を示している。同社幹部は、本鉱床は銅品位が低く技術的にチャレンジングなプロジェクトだが、鉱量は多く、大規模開発による長期間の操業が可能としている。また、ヒ素の含有率が高い点についても、同社は冶金技術の研究にこれまで多くの資金を投じており、この成果を生かしてこの課題に対処するとしている。今回の応札企業は一社であったが、F/S終了までの投資最低保証額として、政府が設定した最低額の3倍(60百万ドル)を提示した点は、F/S調査実施に向けた積極姿勢の表れと映る。また同社は、本落札を受け、数日中に地元村落の代表者と会議を始め、プロジェクト推進に必要な地元との良好な関係構築に向けスタートすると発表し、地元に対しても積極姿勢をアピールしている。
Rio Tinto社は、前述の様に、当地で約10年間探査活動を行っているが、アドバンスなレベルに発展する様な探鉱成果は得ていない。この間同社は、現在Chariot Resources社(カナダ)と韓国系企業がJVで探鉱開発を進めるMarcona銅鉱床プロジェクトの権益を保有していた時期もあるが、同社が狙う鉱床としては規模が小さいとの理由で、これを売却している。従って、La Granja銅鉱床は、まさにRio Tinto社が開発対象とするに相応しい規模の鉱床と認知されたとも言える。
かつて、Cambior社、BHP Billiton社の両著名企業が放棄した曰く付きの案件に対し、屈指のメジャー企業であるRio Tinto社が、銅価の先行きが明るい状況を追い風としてどの様に対処し、開発に至る事ができるか、ペルーの今後の産銅動向に与える影響も大きいだけに、その動向が大いに注目される。

