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報告書&レポート

2006年1月5日 金属資源開発調査企画グループ担当審議役 澤田 賢治 e-mail:sawada-kenji@jogmec.go.jp
2006年01号

世界鉱業の回顧と2006年の展望

 鉱業は鉱床の発見から鉱山開発に至るまで多大のリスクを伴い、ハイリスク・ハイリターンの産業と呼ばれていたが、過去、長年にわたる金属価格の低迷により、IT産業に比べてハイリスク・ローリターンとまで言われるようになった。最近、中国を中心とするBRICs諸国の経済発展による金属価格の高騰により鉱業は従来のハイリスク・ハイリターンの地位を回復しつつある。不確実な時代ではあるが、2004-2005年の回顧とともに2006年における世界鉱業の動向について論じてみたい。

1. 記録的な収益がつづく非鉄メジャー

 2004年における世界の非鉄メジャーの中には過去最大の利益を記録している企業がある。例えば銅事業に特化した世界第1位の銅生産を誇るチリ銅公社(CODELCO)の純利益は11.34億ドル(前年比12.7倍)であり、世界第2位のPhelps Dodge社の純利益も10.46億ドル(前年比11倍)となっている。銅以外にも亜鉛・金・ダイヤモンド・アルミ・鉄鋼・石炭・工業原料等の多角事業を展開する非鉄メジャーでも、Anglo American社の純利益は35億ドル(前年比2.2倍)、Rio Tinto社は28.13億ドル(前年比1.9倍)であり、BHP Billiton社も61.92億ドル(前年比1.8倍)と大幅な増益を誇っている。このような増益は2005年になってもつづいており、上半期の純利益もCODELCO社で前年同期比1.53倍、Phelps Dodge社で2.59倍を記録している。わが国の非鉄業界も同様に売上高の上昇や経常利益の増加がみられる。2005年3月期の決算によると、非鉄7社(住友金属鉱山・日鉱金属・日鉄鉱業・三菱マテリアル・三井金属、同和鉱業・東邦亜鉛)の売上高合計は2.46兆円と前年度比8.2%となっている。非鉄7社の経常利益も2004年度で1,898億円と前年度比58%増となっている。
 この増益の要因として、不採算部門の整理や販売管理費の削減等の業務の効率化によるコスト削減なども指摘されるであろうが、金属価格の高騰が大きく貢献している。銅価格は、2003年の1,779.87ドル/tから2004年の2,868ドル/tと高騰を続けており、2005年12月14日現在では4,585ドル/tと高水準に達している。また、銅鉱山によっては、金・銀・モリブデンの副産物からの収入も無視できないものもある。世界の主要銅鉱山では、ポーフィリーカッパー(斑岩銅鉱)と呼ばれる、低品位大規模銅鉱床を露天掘りで大規模に採掘している。ポーフィリーカッパーは世界銅鉱山生産の50~60%を占めており、環太平洋に分布している、南米のチリの主要銅鉱山であるChuquicamata鉱山(Cu:1.08%、Mo:0.024%)・El Teniente鉱山(Cu:1.16%、Mo:0.02%)・Los Pelambres鉱山(Cu:0.65%、Mo:0.02%)のようにモリブデンに富んでおり、アジアのインドネシアでは、Grasberg鉱山(Cu:1.08%、Au:0.88g/t)・Batu Hijau鉱山(Cu:0.52%、Au:0.41g/t)のように金に富んでいる。鉱山開発する際には、コスト対象となる金属からの収入と、副次的に産出する金属収入があり、後者を副産物クレジットと呼んでいる。銅価格の高騰と副産物クレジットによる生産コストの低下により増益は拡大傾向にある。モリブデンの価格は2003年から2005年にかけ8倍程度高騰し、チリにおける2005年第1四半期のモリブデン生産額はワイン・サケを抜き銅に次いで第2位となっている。金の価格も2003年の364ドル/ozから高騰を続けており、2005年12月14日現在522ドル/ozを記録している。

2. 世界の資源消費における中国の影響

 中国は飛躍的な経済発展を展開しており、国内総生産(GDP)は1980年代以降10%前後の高い実質成長率を記録している。社会資本整備も強力に推進されており、国家発展のための基礎産業として重要な地位を占めている鉄鋼・非鉄金属産業の拡大が顕著である。例えば、1990年から2004年にかけて、中国の粗鋼消費量は0.69億tから2.58億tの3.7倍に、アルミ消費量は861千tから5,943千tの6.9倍に、銅消費量は512千tから3,200千tの6.3倍に拡大している。特に、銅消費量は、電力・通信・建築部門を中心に拡大しており、2002年には米国を抜いて世界第1位の消費国となり、その後もゆるぎない地位を確保している。1990年から2004年の世界消費量の伸びに占める中国の比率も、粗鋼で95%、アルミで31%、銅地金で49%に達している。
 中国における金属消費量の拡大に伴い、従来は輸出ポジションであった鉛・亜鉛については輸入ポジションに変化し、元来輸入ポジションの銅については輸入量が益々拡大している。中国における銅消費の急速な拡大によって、自給率(国内銅鉱山生産/銅消費)は1990年の58%から2004年には18%まで減少した。その結果、銅輸入が2000年前後より大幅に拡大しており、2004年における中国の世界輸入における比率は、銅原料(鉱石)輸入では20%、銅地金輸入では18%をそれぞれ占めている。わが国は国内銅製錬所向けに銅原料を2004年で1,273千t(世界輸入量の35%)を輸入しており、中国の銅原料輸入の拡大によっては買鉱条件(国際地金価格-製・精錬費)等わが国の銅原料安定的確保において影響を及ぼすことも予想される。

3. 2006年における世界鉱業界の動向

 2005年に引き続き2006年においても注目すべき世界鉱業界の動きとして、非鉄金属価格の動向、非鉄メジャーによる企業買収の動向、資源国の動向が指摘されるであろう。
世界における銅等の需給と価格動向
 2005年12月現在、原油価格とともに銅・亜鉛等の非鉄金属価格も堅調に推移している。2005年上半期までの海外非鉄相場から、中国を中心とした旺盛な需要と供給タイトという市場の他、原油など国際商品の中に非鉄が取り込まれて連動性を強めたと指摘する向きもある。Petroleum Economist(2005年2月号)によると、過去20年における原油価格は平穏時の26ドル/バレルと戦争時の50ドル/バレルの2つのバイモーダルな分布に分類され、最近の原油価格の高騰は50ドル/バレルの危機的時代のパラダイムに戻ったと指摘している。非鉄金属を代表する銅価格の推移(1970-2005年)を概観すると、銅価格は世界経済の動向、石油危機、鉱山のストや事故等により6~9年程度の周期で変動している。鉱山生産は年間の採掘計画に基づいており、労務管理上価格とは関係なく生産を継続することもあり、価格に対する弾性値が極めて低いと考えられる。需要の変化に供給が敏速に対応出来ないため、このような価格の周期性が存在するのであろう。将来における銅価格については、大別すると以下の2通りの考え方がある。
 1)2005年の価格高騰は一時的なもので、2006年以降には価格が低下。
 2)銅価格の高騰が長期間継続する新しいスーパーサイクルの到来。
 銅価格の予測については不確定要素があり、上記2案にたいして確定的なことは言えない。ただ、供給サイドからは次のことが指摘される。

 ― 銅価格と生産コストの乖離が大きく、利益確保のための増産が期待される。事実、2005年上半期の銅生産量は、主要鉱山の選鉱機械故障のためチリでこそ前年同期に比べてマイナスとなっているが、世界生産は、鉱山生産で+4.5%、地金生産で+5.1%となっており、世界消費量の-2.1%に比べて供給の拡大が確認される。
 ― Brook Hunt等による2006-2010年までに開発される新規銅鉱山開発は21件あり、埋蔵銅量は88.8百万tと推定される。マインライフを30年とすると、2010年までに3百万tの生産拡大となり、2005-2010年で年率約3%の供給拡大となる。
 ― 世界の銅探鉱費は1997年の755百万ドルをピークに減少傾向にあり、2002年には305百万ドルとなったが、2003年以降再び増加傾向にあり、2004年には577百万ドルまで回復し、2005年には1997年のピークに近いほど回復している。

 以上から、世界の銅需要の拡大に対応するだけの供給ポテンシャルと将来における銅鉱床の発見の可能性もあり、中国や世界経済の減速や低迷が起きれば、供給過剰による銅価格の低下が再び起こり、価格の周期的変動が今後も続く可能性が高い。
非鉄メジャーの動向
 世界の鉱業界は金属価格が低迷した1990年代に、鉱業活動のグローバル化や生産コストの削減のために統合や再編を進めている。世界の銅・亜鉛・ニッケル分野における買収額は1996年の74億ドルをピークに減少したが、1998年の27.4億ドルから上昇傾向にある。代表的な企業買収または合併は、1997年のRTZ社とCRA社(買収額40億ドル)、1999年のPhelps Dodge社のCyprus Amax社の買収(33億ドル)やGrupo Mexico社のAsarco社の買収(22億ドル)、2001年のBHP社とBilliton社の合併(340億ドル)、2003年のXstrata社によるMIM社の買収(33億ドル)、2005年のBHP Billiton社のWMC社の買収(72億ドル)等がある。
 2005年1~9月の非鉄金属の平均価格は、全鉱種の上昇率は幾分落ち着きをみせているものの、依然として上昇基調にある。対前年同期比、モリブデンは約2倍、銅や亜鉛は20%高、ニッケルも10%以上となっている。その結果、2004年にも増して非鉄メジャーの大幅な増益が2005年にも予想され、潤沢なキャッシュフローが探鉱費・プロジェクト買収・企業買収に向かう可能性が高い。全世界鉱業界の株式時価総額はマイクロソフト1社よりも小さく、企業の合併・買収による経営規模の拡大は投資家を惹きつけるためだけでなく、多様な政治経済や地質環境における鉱業活動の推進のためのグローバル化、技術開発に必要なR & D予算確保や大規模鉱山開発の資金調達、他社による企業買収の防御策として重要である。今後とも、買収や合併による非鉄メジャーの集中化は避けられないであろう。その結果、非鉄メジャーによる寡占化や集中化が進展するものと考えられる。2005年10月、ニッケルの世界生産第2位のInco社が世界第4位のFalconbridge社を買収する動きも報道されている。もし、この買収が成功すれば世界第1位のニッケル生産会社が誕生することになる。わが国の非鉄企業もこの世界の潮流の中で事業部門の選択と集中がなお一層求められる可能性もある。
資源国の動向
 世界的な資源開発が進み、外資への開放が進展する一方、一部の国では国内資源保護の動きが見られる。ロシアにおいては、白金等の戦略的な金属資源の開発についてはロシア企業による50%以上の権益保持を条件とする新地下資源法が検討中である。さらに、Udokan銅鉱床のように大規模鉱山開発に関する入札には外国企業の参加を認めず、ロシア資本が51%以上を占める企業のみが参加可能との見通しがある。現在、改正作業を進めている地下資源法にもこの内容が盛り込まれるとの考えがある。事実、2005年11月に予定されていたUdokan銅鉱床開発の入札は、新地下資源法の議会での審議が終わる2006年まで延期された。インドネシアでは、過去、外資による鉱業投資はプロジェクトごとにCOW(Contract of Work)を政府と締結することにより行われていたが、これを廃止して新鉱業法を成立させる予定である。この新鉱業法によると、鉱業権はインドネシアで設立された法人であれば地方政府が付与し、地方政府が特別に留保した地域については国営企業にしか鉱業権を付与しないこととなっている。ベネズエラでは、2005年9月にチャベス大統領が、国営鉱山会社の設立、既存鉱業権の見直し、新規鉱業権付与の制限等、鉱業政策の転換を発表している。
 中国政府は、2003年に「中国の鉱物資源政策」を発表し、国内需給ギャップを解消するため、中西部地区における資源開発の推進とともに海外資源開発を奨励している。中国企業の銅資源開発海外投資としては、中国有色金属建設有限公司によるザンビアChambishi鉱山の権益85%を取得(1998年)、中国冶金建設集団公司によるパキスタンSaindak鉱山の10年間の租借経営(2001年)、江西銅業集団公司によるモンゴルでのIvanhoe社保有の探鉱・開発プロジェクトに参加検討(2004年)やタイでの銅製錬所事業提携交渉(2004年)、五鉱集団公司によるチリGaby Sur鉱床の開発表明(2005年)等が挙げられ、今後とも中国企業による海外資源開発が益々促進されると思われる。

4. わが国の課題

 2004年度におけるわが国の非鉄7社売上高合計は2.46兆円であり、非鉄メジャー最大のBHP Billiton社の2004年売上高405億ドル(約4.61兆円)と比較しても、売上高の規模が小さいことが理解される。わが国非鉄7社の収益性も、売上高経常利益率(経常利益/売上高)が3.5~11.2%(平均7.7%)と、非鉄メジャーのCODELCO(43%)・BHP Billiton(24%)・Rio TintoやPhelps Dodge(21%)・Anglo American(15%)に比べて小さい。非鉄メジャーに比べて脆弱な立場にあるわが国非鉄産業界は、非鉄メジャーの再編と集中化の流れの中での生き残りをかけた挑戦と問題解決が今後益々求められるであろう。
 資源確保をめぐっては、中国の原料輸入が急増し、鉱石確保におけるわが国企業との競合が激化するであろう。少なくとも、わが国需要家の原料市場での優位性が相対的に低下することは否定できない。その結果、わが国非鉄企業や商社による海外資源開発もマイナー・シェアーからマジョリテイ・シェアへの展開、さらには資本参加から探鉱開発、しかもグラスルーツを中心とした初期探鉱開発案件からの参加という上流部門への進出が加速される可能性もあろう。

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