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報告書&レポート

2006年1月19日 バンクーバー事務所 宮武 修一、中塚 正紀 e-mail:(宮武)miyatake@jogmec.ca (中塚)nakatsuka@jogmec.ca
2006年04号

Placer Dome社、Barrick Gold社の買収提案を受け入れ

 Barrick Gold社による買収提案に対し、これを評価不十分として態度を硬化させていたPlacer Dome社は、クリスマス直前の12月22日、買い取り価格の増額により、一転して提案受け入れを表明した。本稿では地元紙などの関係記事をもとに、産金業界では過去最大規模となるこの買収合意とその周辺について、少々観測的な見方も交えつつ紹介したい。

1. 合意内容と新会社の概要

 12月22日、Placer Dome社はBarrick Gold社により新たに提示された買収条件に合意し、両社は今後友好的な合併を目指すことになった。新たな条件は、Placer Dome 社株主は一株につき22.50USドルの現金かBarrick Gold社の0.8269株+5USセントと交換可能というもの。買収総額は104億USドルである。10月31日にBarrick Gold社が提示した条件は、一株20.50USドルないし0.7518株+5USセント、総額92億USドルであったが、後の金価格の上昇を踏まえ見直しが可能になったという。
 加えて両社は、Barrick Gold社に勝る申し入れがあった場合、Barrick Gold社はその同額を提示できること、また、仮に合併が成立しない場合、Placer Dome社は2億5,970万USドルないし買収総額の2.5%をBarrick Gold社に支払うことにつき合意した。Barrick Gold社によるPlacer Dome社株式株買い受けの期限は1月19日で、Placer Dome社は株主に対し売却を促しているところ。
 Barrick Gold社、Placer Dome社の合併が実現した場合、新会社はNewmont社を抜き、世界最大の金生産者となる(図)。新会社の時価総額は245億USドル、全世界で22,000人の従業員により30の金山を操業することになる。
 なお合併に必要なBarrick Gold社の資金の一部については、Goldcorp社がこれを負担する。Barrick Gold社とGoldcorp社の間には別契約が存在しており、合併が実現すれば、Goldcorp社は14億8,500万USドルをBarrick Gold社に支払うことにより、Placer Dome社の有するオンタリオ州の鉱山権益などを獲得する。この結果、Goldcorp社の年間産金量はKinross社を抜き、Harmony社に次ぐ世界第6位となる(図)。
 

2. 先立つPlacer Dome社の買収観測

 2005年7月の時点でNorthern Miner誌には、いち早くPlacer Dome社は買収ターゲットの有力候補であるとの見方が掲載された。同誌は最近のPlacer Dome社の経営は心もと無いとし、事例として、(1) 現在Barrick Gold社の支柱となっているタンザニアのBulyanhulu金プロジェクトの早期放出、(2) 開発が難しいとされたネバダ州Getchell金鉱山の高額取得、(3) フィリピンMarcopper鉱山運営に関する悪評への対応らを指摘した。また、Placer Dome社が保有する17鉱山の権益のうち、優良資産はチリのZaldivar銅鉱山、ネバダ州のCortez鉱山とその周辺の探鉱プロジェクト、オンタリオ州のCampbell鉱山程度と数少ないとみるアナリストの視点も存在するとした。加えて同社には全株式の10%以上を保有する大株主が存在しないこと、また現在の役員や重役の持ち株が全体の0.04%しかないことから、株式の安定保有に関して構造的な不安があるとしていた。
 

3. Barrick Gold社の買収提案

 10月31日、Brrick Gold社はPlacer Dome社株主に対して買収案を発表した。これは、Brrick Gold社の業績は堅調であるものの、買収により、新たなビジネスチャンスの獲得と更なる業績の飛躍が期待されたこと、また規模の拡大により自らの買収はより困難になると期待されたことによる。加えて1983年に業界に参入した後発のBrrick Gold社が世界最大の産金会社となるという創業者Peter Munk 氏のロマンもこれを後押ししたと囁かれている。
 他方、発表の数日後、Placer Dome社は、Brrick Gold社の買収提案は一方的であり、同社企業価値を正当に評価する内容ではないと正式にコメントした。更にこれを敵対的買収であるとし、態度を硬化させていった。一時は第三者割当増資などによる焦土的防衛策を探るPlacer Dome社、これを阻止しようと証券委員会へ提訴する動きをみせるBarrick Gold社といった緊張関係も現れた。しかし12月8日には、応札締切りを12月20日から1月19日に延長することにより、双方こうした動きを取り下げることにいったん合意、両社の緊張は緩和の方向に向かった。今回のPlacer Dome社の買収受け入れは、こうした状況下での発表であった。
 ところで、この間、とりわけNewmont社による白馬の騎士の対抗ビッドが予想されたものの、結局はこの原稿を書いている本日の時点まで実現していない。
 

4. Newmont社の対抗ビッドはなぜ無いのか

 Globe and Mail紙によれば、Newmont社とPlacer Dome社は12月20日にトップ会談を行ったものの、結局は決裂したと伝えている。主たる理由は、Newmont社はPlacer Dome社のネバダ州の資産について関心は大きいものの、その他資産についてほとんど関心が無いというもの。更に観測も含めながら、なぜNewmont社 とPlacer Dome社との合併が困難であったか、或いは、なぜパートナーとして、よりBarrick Gold社が望ましかったのか、次のような踏み込んだ見方も示した。
(1) Newmont社の場合、Placer Dome社と異なり、二名で1,100万株を有する大株主が役員などで経営に参画しており、この株式の価値5億5,000万ドルの希釈化を避けたかった。
(2) 仮にNewmont社がこれから例えば一株23USドルの買収提案を行うとなると、M&Aの通常としてNewmont社の株価は大きく下落。これにより株式交換が困難になる恐れがある。他方Barrick Gold社のオファー提示は10月末であったため、いったん下落した株価は既に持ち直しており、Barrick Gold社に有利ではないか。
(3) Newmont社の未開発資産は手厚く、20~30億USドルをガーナ、インドネシアほかに投入することにより、新たにPlacer Dome社の獲得と同等の産金量の確保が可能。従いカウンタービッドなど、そもそも行う必要がないのではないか。
(4) Placer Dome社は、パプアニューギニアのPorgera鉱山の覆土植裁と閉山措置に2億5,100万USドルの支出を見込む。Newmont社側では環境責任がこの金額を超えて存在していることを懸念しているのではないか。他方、Barrick Gold社側ではこのリスクを十分把握していないか、過小評価している可能性があるのではないか。
(5) Barrick Gold社とPlacer Dome社は金先物に関する最大のプレーヤーで、二社の取引量の合計は先物市場で商われる金量の70%に相当する。この点で先物売りを行わないNewmont社のスタンスは二社と完全に異なる。また最近の想定外ともいえる市況高騰は、先物売り生産者には痛手となるはずで、Placer Dome社には巨額の損失リスクまで懸念されるのではないか。
 

5. Goldcorp社の急成長

 Barrick Gold社先導の大型合併の脇で、Goldcorp社は思わぬ大規模資産の購入機会を得たことになる。Barrick Gold社から提示条件の変更について打診を受けたGoldcorp社は、急遽午前1時に電話による役員会を開き、支払い現金の13億5,000万ドルから14億8,500万ドルへの増額を認めたという。
 Goldcorp社は2005年2月にWheaton River社と株式交換により友好的に合併を遂げたばかり。この結果、年間産金量は150万ozへと増大し、課題であった100万oz以上の産金目標を達成したところであった。仮にBarrick Gold社とPlacer Dome社の合併が実現するとなると、Goldcorp社の年間産金量は230万ozへと更に拡大することになる。Goldcorp社が購入する権益は、オンタリオ州のCampbell鉱山(金量53t、権益100%)、Musselwhite鉱山(10t:権益68%相当分)、Porcupine鉱山(53t:51%相当分)、またチリ・La Coipa鉱山(15t、50%相当分)である。とりわけCampbell鉱山の獲得は、Goldcorp社主力のRed Lake鉱山との経営統合効果が大きいと言われている。こうした稼働鉱山のほか、既にPlacer Dome社が開発の方針を固めていたドミニカ共和国の大型未開発案件Pueblo Viejo(金量470t)の40%の権益も併せて獲得することになるなど、これによりまた一段の成長が見通されることになろう

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