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報告書&レポート

2006年1月25日 ジャカルタ事務所 池田 肇 e-mail:jogmec2@cbn.net.id
2007年09号

インドネシア鉱業法改正の行方 その4

 鉱物石炭鉱業法案(RUU Pertambangan Mineral dan Batubara:(以下「新鉱業法案」という)の改正動向については、平成18年11月16日付けカレントトッピクス(CT)「インドネシア鉱業法改正の行方 その3」において、2006年9月末までの議会における新鉱業法案の審議状況を紹介したが、本稿では、議会第7委員会(常設委員会:エネルギー・鉱物資源・技術開発・環境担当)委員長兼新鉱業法案審議特別委員会委員長であるアグスマン・エフェンディ氏(Agusman Effendi)(ゴルカル党[PG])、インドネシア商工会議所(KADIN)副会頭(エネルギー資源部門担当)ディト・ガニンドゥト氏(Dito Ganinduto)、同鉱物資源委員会委員トニー・ウェナス氏(Tony Wenas:Vice President, Government & Legal Affairs, PT Freeport Indonesia)へのメール他による問い合わせと、インドネシア鉱業協会(Indonesia Mining Association)プリヨ・プリバディ氏(Priyo Pribadi Soemarno)専務理事との定期連絡会において入手した見解を、それぞれ取りまとめ紹介するものである。


1. アグスマン委員長

 アグスマン特別委委員長は新鉱業法案に述べられている鉱業事業許可(IUP: Izin Usaha Pertambangan)以外に鉱業事業協約(PUP: Perjanjian Usaha Pertambangan=Mining Business Agreement)がゴルカル党から提案されている事実を肯定した上で、ゴルカル党がこうした案を提出した理由について、「インドネシアにおける鉱物資源開発部門の発展にとっては、外国からの投資が不可欠であり、そのためには鉱業事業許可制(IUP)に加え、政府と企業が対等な立場に位置づけられる鉱業事業協約(PUP)を維持する必要がある」(要旨)と述べている。
 しかし、鉱業事業協約(PUP)に関するゴルカル党案については、今のところ特別委員会の下部委員会である作業委においてペンディング状態が続いており、この案に関する決議には至っていないとの現状説明があった。ただ、同氏によれば、新鉱業法案審議に参加しているゴルカル党国会議員の多くは、自らが鉱業事業を営む事業家でもあるため、鉱業事業協約(PUP)を盛り込むことについては強い決意を持っているという。
 また、鉱業事業協約(PUP)が新鉱業法案に盛り込まれる場合、鉱物資源開発部門においても石油天然ガス部門の上流事業実行管理機関(BP-Migas)のような機関を設置して、民間との鉱業事業協約(PUP)締結を実行することをゴルカル党は提案しているという。
 鉱業事業協約(PUP)に関する特別委の審議は未だ進展がないものの、アグスマン委員長によると、この案に強く反対している会派もないため、最終的に新鉱業法案に盛り込まれる可能性は高いという。また、新鉱業法案成立の目途としては2007年の3月から5月に開かれる次期国会会期中になるのではとの見通しを示している。
 アグスマン委員長は、「鉱業事業協約(PUP)を鉱物石炭鉱業法案に盛り込むためにゴルカル党は孤軍奮闘しているが、こうした案が関係者に受け入れられるように外国投資家及び業界関係者はより活発にゴルカル党以外の政党に陳情や外圧をかける必要がある。」(要旨)との見解を述べている。
 
上流事業実行管理機関(BP-Migas)
 石油天然ガス上流(探査探鉱開発)部門の効率的、効果的実施を確保するため、2001年法律第22号及び2002年政令第42号にて、かつてPERTAMINAが行ってきた外国投資家との協力契約(CC:Cooperation Contract)及び鉱産物分配契約(PSC:Production Sharing Contract)のインドネシア側署名者及び監督者として新たに設置された機関である。BP-Migasの主な責任・役割には、エネルギー鉱物資源省(MoEMR)への外国投資家との協力契約及び事業地域の提案並びに石油天然ガス上流政策に関する政策提言のほか、CC/PSC契約書の署名、現場開発計画の評価、開発許認可取得のためのMoEMRへの評価書の提出、パートナーへの事業現場開発計画&予算・作業計画のための許可の発給、協力契約実施に係る報告書他作成(MoEMRへ提出)、政府取り分の原油天然ガスの販売者の任命などが主な業務である。
 

2. インドネシア商工会議所

 インドネシア商工会議所は、ガニンドゥト副会頭およびウェナス鉱物資源委員会委員の連名により新鉱業法案について次のメール回答を寄せてきた。

(1) 鉱物資源開発分野における投資環境の改善は、同部門に関連する法令の整備が最重要課題である。特に配慮すべき事項は、鉱業事業は巨額の投資を必要し、利益を回収するまでには長い期間を要するため、リスクが大きく収益率が低い事業と言える。そのため、新鉱業法案は投資家にとって受け入れやすい、インベスター・フレンドリーな法令として整備する必要がある。
(2) しかし、現在、議会で審議されている新鉱業法案は、こうした鉱業業界の期待にかなったものとはなっていない。特に、外国投資家にとって税制面の問題が一番深刻との理解にある。プロジェクトに伴う税率を契約時の税法に従うのか、あるいはその後の税率変動に従うのか、現状では、いずれかを選ぶ権利も与えられていない。
(3) 新鉱業法案によれば、民間の鉱山会社が鉱物資源開発事業を行う場合は、鉱業事業許可(IUP)を得るしか選択肢がない点が挙げられる。特に新鉱業法案が成立する場合、これまで外資による鉱業投資を保障し、有効に機能してきた鉱業事業契約(KK:Kontrak Karya、COW:Contract of Works)および石炭事業契約(PKP2B: Perjanjian Karya Pengusahaan Batu Bara)制度が廃止さるため、投資家の立場を極めて弱体化させる内容となっている。
(4) しかし、巨額な投資資金を必要とする中規模もしくは大規模な鉱業事業投資については、事業の性格上適した事業形態があり、やはり鉱業事業契約(KK/COW)もしくは鉱業事業協約(PUP)制による実施が不可欠であると考えている。外国投資家にとっては法律的確実性の保証が投資判断の是非を握るためである。政府と鉱山会社が対等な立場であれば争議が生じた場合、仲裁手続きが可能となるが、許認可の場合、企業側が不服を申し出る方法は行政裁判所への提訴のみとなってしまう。
(5) 1998年以来、この国の鉱物資源開発部門への投資は事実上皆無となっているが、これも鉱業事業に対する法律的保証の欠如、地方分権による関連法令の混乱、税制関連規定の不備、さらにはさまざまな社会問題に関係していることは明らかである。こうした状況の中、新鉱業法案の内容が改善されなければ、鉱業部門の投資状況は今後さらに厳しい状況に陥ると懸念している。
(6) インドネシア商工会議所は、今後も政府のパートナーとして、この国の経済発展に寄与していく決意であり、特に鉱物資源開発部門の発展に関しては外国投資家にとってよりフレンドリーな新鉱業法とするべく政府及び議会に訴えていくつもりである。

3. インドネシア鉱業協会

 インドネシア鉱業協会プリヨ専務理事の新鉱業法案に対する見解は次のとおり。

(1) 新鉱業法案は、今のところ鉱業事業に携わる企業、特に外国からの投資誘致にとって極めて不利な内容を含んでいる。そのため、新鉱業法案がこのまま成立する場合、同協会は最高裁に対して同法の合憲性の審査、つまり司法審査(judiciary review)を申請すると明言している。
(2) また、新鉱業法案に含まれている規定が、現在すでに締結されている鉱業事業契約(KK/COW)に遡及的に適用されることに反対すると述べている。既存の鉱業事業契約(KK/COW)は、新鉱業法案によって影響されてはならないと強調している。
(3) 鉱業事業契約(KK/COW)制が廃止され、鉱業事業許可(IUP)制に移行する可能性について、「鉱物資源開発部門に携わる企業にとっては、長期的な観点から見て鉱業事業契約(KK/COW)制が最も適している」(要旨)とし、「鉱業事業許可(IUP)制の場合、鉱業事業に対する企業側のコミットメントが短期的かつ一時的なものになってしまう」(要旨)との懸念を表明している。
(4) さらに、「鉱業事業許可(IUP)制のみになった場合、探鉱、開発、生産、加工の各段階における許認可手続きも長期化かつ煩雑化する」(要旨)のではないかと憂慮を示し反対している。

4. おわりに

 10月末から11月末にかけて実施したインタビュー・問い合わせからは、議会の特別委員会委員長、インドネシア商工会議所、インドネシア鉱業協会の3者がすべて鉱業事業許可(IUP)の他に少なくとも鉱業事業協約(PUP)も新鉱業法案に盛り込む必要があるという点で意見が一致している。
 また、インドネシア商工会議所やインドネシア鉱業協会は、業界側の利害を代弁しているため、事業許可のみになることについて強い懸念と拒否反応を示していることを再確認した。
 さらにゴルカル党は経済界と密接に結びついているため、新鉱業法案に是非とも事業協約案(PUP)を盛り込まなければならないという強い決意を持っていることを確認できた。
 しかし、ゴルカル党と経済界のこうした思惑がはたした他会派に受け入れるかどうかはまだ定かではない。特に留意すべき点は、最近のブッシュ米大統領のインドネシア訪問においても、Freeport McMoran Copper & Gold社やNewmont Mining社などの米系鉱山会社がインドネシアで暴利をむさぼり、環境汚染や人権侵害を行っているとの議論が一部の政治家やNGO活動家から表明され、外資系鉱山会社と政府を対等に扱う事業協約案(PUP)に対する世論の風当たりが強くなっている可能性も予想される。
 当事務所としては、こうした点についてより正確な情報を得るため、2007年1月には新鉱業法案を審議している特別委の中で外資に批判的な意見を述べることで知られているソニー・ケラフ(Sonny Keraf)副委員長(闘争民主党[PDIP])、特別委スポークスマンを務めるアイルランガ・ハルタルト(Airlangga Hartarto)議員(ゴルカル党[PG])などを訪問しインタビューをしたいと考えている。

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