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報告書&レポート

2006年2月9日 サンティアゴ事務所 中山 健 e-mail:nakayama-ken@entelchile.net
2006年07号

Minera Escondida Limitadaの鉱業特別税(ロイヤルティⅡ)不払い問題の背景と今後の展開について

はじめに
 チリの鉱業特別税(通称「ロイヤルティⅡ」)法は2005年5月18日に成立し、2006年1月1日から施行されている。2005年後半から政府内部では、将来の収入をあてにして鉱業特別税による技術イノベーション基金の設立とその予算の分配・運営について熱い議論が戦わされていた。その最中年末からチリ鉱業界の優等生と言われてきたMinera Escondida Limitada(以下「Escondida」と称する)が鉱業特別税を支払わないことが判明し、大統領選挙(既に1月15日に終了)の最中、政府はLagos政権の重要課題であったロイヤルティⅡの当初の税収見込の思惑が外れ騒然となった。政府は現在もその対応に揺れ続けている。本レポートでは、この問題の背景、現在の状況および今後の展開について報告する。

1. ことの発端

 鉱業特別税法によると、2005年11月30日までに税率不変制である固定税率を選択してきた外国投資家および外国投資受入れ会社(以下「鉱山会社」と称する)は、固定税率(42%)から一般税率(35%)に変更するか否かを決定しなければならないことになっていた。固定税率から一般税率に変更せず、固定税率を堅持すれば鉱業特別税の支払い義務はないが、既に一般税率を選択、若しくは今回新たに一般税率に変更したものは鉱業特別税の支払いの義務が生じる。
 政府は、外国投資家および鉱山会社にとって固定税率から一般税率への変更に伴う鉱業特別税の5%から4%となる減税措置は魅力的であり、これまで固定税率を選択していた外国投資家および鉱山会社は、この方式を選択しない筈が無いと信じて疑わなかった。ところが、2005年12月1日蓋を開けてみると、政府の予想に反して一般税率を選択しなかった会社が1社あることが判明した。その会社がこれまでチリ鉱業界の優等生と言われてきたEscondidaであったから、政府の驚きは、なお一層大きかった。同社は、1990年の操業開始から、現在まで加速度償却制度を利用することなく規定の法人所得税(1990年~2004年の15年間に30億ドル)を納税し、財政当局から高い評価を受けてきたからである。
 なお、政府の試算によると、Escondidaが鉱業特別税を支払わない場合、税収は、当初、2006年から2010年に見込んでいた4.5億ドルから2.7億ドルに減少することになるという。
 

2. Escondida不払いの論拠

 鉱業特別税の精神は、一般税率を選択している外国投資家または鉱山会社には、鉱業特別税を賦課、固定税率制を選択している外国投資家または鉱山会社には、税率不変制の原則から、鉱業特別税を免除するというものであった。
 外国投資法の規定により、チリ外国投資委員会は、鉱山会社とは別に、外国投資家と個々に契約を締結することになっている。Escondidaの場合は、Escondidaに投資する4グループが個別に外国投資委員会と契約を締結している。BHP Billiton(57.5%)とRio Tindo(30%)の2社は、1988年および2001年の2回の契約でいずれも一般税率を選択したのに対し、JECO(三菱商事:6%、三菱マテリアル:2%、日鉱金属:2%)とIFC(2.5)は、固定税率を選択しており、今回も変更は行わなかった。その結果Escondidaには、政府の言う「一般税率+鉱業特別税を支払う」グループと「固定税率+鉱業特別税を支払わない」グループが存在することとなった。
 鉱業特別税法暫定第2条の「外国投資家または外資受入れ会社は何れかの方式を選択しなければならない」という規定から、受入れ会社であるEscondidaは会社の株主のうち1社でも固定税率を選択している間は、会社もその特典を継続できる、すなわちJECOとIFCが固定税率を選択していることから、Escondidaとしては鉱業特別税を支払わなくてもいいという判断。
 その根拠は、次のとおりである。外国投資法11条の2には、外国投資家(複数)のうち1社が固定税率(税制不変制)を放棄した場合、他の外国投資家または鉱山会社も権利を放棄したとみなすと規定されている。しかしこの規定には但し書きが付いており、外国投資家は、当該外国投資契約に「権利を放棄した投資家の投資合計額が総投資額の一定の率以上に達した場合に限り、鉱山会社の権利も放棄したものと見なされる旨の条項を入れることが出来る」とある。1988年の契約では、その値が95%、2001年の契約では99%とされている(1月27日付けEl Diario紙)。この場合、一般税率を選択したBHP BillitonとRio Tintoの割合は87.5%で、一定率に達しておらず、鉱山会社であるEscondidaは固定税率を放棄したことにはならいことになる。
 

3. チリ政府の見解と対応

 政府内部では、2005年末から、この問題の対応に揺れ動いている。問題が明らかになった当初、政府は「Escondidaは鉱業特別税を支払わない納税方式を選択した。これは鉱業特別税法の精神に反する行為である。BHP BillitonとRio Tintoの大株主は既に一般税率を選択しており、日本コンソーシアムのみが固定税率制に拘っており、その少数株主のために一般税率+鉱業特別税方式を選択できないのは不合理である。Escondidaが鉱業特別税を支払わない方式を取るのであれば法律を修正する以外にない」ともまた「一般税率を選択して35%の法人税を支払っている法人は鉱業特別税を支払わなければならないことを明記した鉱業特別税法の改訂法案を国会に提出し、法律を修正してでも鉱業特別税の徴収をする」といったように、Escondidaの決定はロイヤルティの精神に反しており、法律を修正してでも同社に鉱業特別税を支払わすというものであった。地元紙も鉱業特別税を支払わないEscondidaを非難する論調のものが見受けられた。
 しかしながら、上記1月27日付けEl Diario紙のように、Escondidaは、鉱業特別税法および外国投資法にも抵触しないという論拠が明らかになってくるにつれ、政府のトーンは弱まり、Eizaguirre大蔵大臣は「我々の目に届かなかった点を衝かれた」と法律の不完全性を認める発言をしており、政府は1月24日、これまで検討していた法律修正の方針を変更して、法律の曖昧さを認めつつも法律修正をせずにEscondidaから鉱業特別税を徴収することを決定した(1月25日付けLa Tercera紙ほか)。ただしこの場合、固定税率を選択しているJECOとIFCの正当性は認め、行政措置により徴収した鉱業特別税を還付することが明記されている。

4. 周囲の反応

 Frei上院議員(与党キリスト教民主党、元大統領)は「Escondidaは我国の法律に基づいて納税方式を選択しているので、慎重に対処すべき。ここでゲームのルールを変更するのは好ましくない。投資を促進するためには安定した税制を継続することが大切である」と発言している。Larrainn上院議員(野党独立民主党)は「鉱業特別税法に則って納税方式を選択した以上、法の精神を犯しているとは思えない。政府が法案の作成を間違えたしか考えられない」。またOrpis上院議員(野党独立民主党)も「Escondidaは法の定めた納税方式の一つを選択したのだから、税を回避したことにはならない。大蔵省は全鉱山会社が鉱業特別税納税方式を選択すると見ていたようだが大蔵省の完全な計算違いだ」と述べている。
 自由開発研究所(Institute Libertad y Desarrollo)法務担当役員Alex Buchheister氏は「解釈することなど何も無い。納税の義務が無いと主張しているEscondidaの方が正しい。Escondidaに納税をさせるなら、外国投資家の権利を侵害しないような新しい法律を作らなければならないだろう。行政措置で鉱業特別税を取り立てるというのは、自分の侵した過ちを認めたくないから」とコメントしており政府の判断の間違いを指摘する声が多い。

5. 今後の展開

 政府が法律の修正をせずに鉱業特別税徴収を決めたことから、国税庁は、2月から毎月見なし税額(鉱業特別税法は1月から施行され、1月分から納税対象となる)の徴収を開始することになる。しかしEscondida側は納税を拒否しており、法廷に持ち込まれ法律の解釈論争になることが濃厚となってきた。チリの法律によると、納税義務者が課税された税金を支払わない場合、国税局は納税命令書を出して直接取立てることが出来る。一方納税者は、第1審として国税局内にある租税裁判所に訴訟することが出来、裁定に不服な場合は、控訴院に持ち込むことが出来、更にその裁定に不服な場合は最高裁判所に控訴できる。またCIADI(投資に関する見解の相違を調整する国際機関)に提訴出来ることにもなっている。
 当初法律修正をするとしていた政府が現行法の中で鉱業特別税の徴収を決めた背景には、一旦決定したルールを、朝令暮改で修正することは、外国投資家から政治的にも世界的にも優れた投資環境にあるからチリ政府の信用失墜になること、また修正案を国会に提出しても今国会が3月10日までであり審議期間がないことから修正を断念し、Lagos政権中に同政権の重点政策である鉱業特別税法を何としてでも解決し、軌道にのせようとしているものと思われる。そのため、政府は国税庁による徴収方針を明らかにしつつも、ロイヤルティⅡの精神を強調して、鉱業特別税の納税を再度Escondida側に要請している(1月27日付けLa Tercera紙ほか)。Escondida側は法律を遵守していると確信しており譲歩はないものと思われ、今後の成り行きが注目されるところである。

参考. 鉱業特別税法のポイント

 同法の暫定条項第2条に、「我国への投資に際して外国投資法(法令600号)の規定に基づいて外国投資委員会と契約し、30年間42%の法人所得税を保証する『固定税率制を選択した外国人投資家または外国投資受入れ会社は、契約期間中は当該固定税率制』を継続することが出来、この場合鉱業特別税の支払いは免除される。ただし、『固定税率制』を継続する権利を放棄した企業は、通常の法人税率(35%)を適用し、鉱業特税の税率(営業利益の5%)を4%に免除する」と規定されている。

 

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