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2005年ロシアの金鉱山生産動向
3月6日、ロシアのNorilsk Nickel社は金資産部門の子会社Polyus社が所有していたGold Fields社(南ア)の株式20%(98.5百万株)を1株20.50US$で売却したと発表した。Norilsk Nickel社は、他社と連携してGold Fields社の買収を画策した時期もあったが、金価格の高騰に乗じて取得価格の2倍近い20.2億US$の高値で対外資産を処分することとなった。本稿では、ロシア金生産者組合が公表した2005年データに基づき、ロシアの金の鉱山生産動向を報告する。 |
1. 主要生産者の金鉱山生産量
Peter Hambro Mining社(英)が98.6%を所有するPokrovsky Rudnik社が2005年のロシア第3位の金生産者に躍進した一方で、ロシア企業のPolyus社とPolymetal社が前年に続き1位・2位を占め、4位・5位の顔ぶれもRussdragmet社とBuryatzoloto社と変化がなかった。表1に示す上位10社で、ロシア全体の金鉱山(漂砂金鉱床を含む)のほぼ半分を生産している。年産金1t以上の生産者は26社あった。
表1 ロシアの金鉱山生産者(生産量の上位10社) |
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*2005年9月、Polyu社が99.2%を取得 |
2. 主要生産者の動向
2-1. Polyus社
2005年9月同社は、表2に示すYakutia(サハ共和国)の3プロジェクト(Nezhdaninskoye、KuranakhとKyutchus)の権益を獲得し、プレF/S中のBlagodatnoe (Olympiadaの北26km)について天然資源省から鉱量認定(B+C1+C2カテゴリー資源量:222t)を受けた。現在、ロシアの10大金鉱床で権益を有さないのは、ロシア政府所有のSukhoi Log(資源量2位)を除き、Mayskoye(同5位)、Kupol(9位)、Darasunskoye(10位)のみとなっている。2006年2月、Interros社(Norilsk Nickel社を所有する持株会社)は、Nezhdaninskoyeの権益20%を取得した。Polyus社は、2010年到達目標として「年産金100t、キャッシュ・コスト220~240US$/oz」を掲げており、2006年にはYakutiaの上述の3プロジェクトに1億US$を投資する計画を発表している。2005年EBITDA(金利・税・償却前利益)は前年比9.3%増の199百万US$を上げ、さらにNorilskNickel社からのスピン・オフに伴って現金645百万US$を取得する見込みとされる。
表2 ロシアの10大金鉱床(金資源量ベース)
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出典:各種資料から筆者作成
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注(1)
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資源量のほとんどはB+C1+C2+P1カテゴリーであり、JORC規定との対比は以下参照。B+C1:Measured、C2:Indicated、P1:Inferred。B+C1+C2はReservesになり得る。 |
(2)
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「鉱山・鉱床名」中の※はPSA対象リスト(ロシア政府が認定したPSA(生産物分与協定)対象鉱区がリストアップされている)に掲載されている鉱区。契約は未締結。 |
(3)
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上記の他、Chita にあるTaseevskoye鉱床(Highland Gold Mining:100%、PSA)も大規模であるが、資源量を再評価中とされ、データは不詳。 |
2-2. Polymetal社
世界7位(2004年実績)の銀生産者であり、2005年には前年比9.7%増の銀589tを生産した。金は操業中の4鉱山で銀に随伴して回収されている。2006年には2005年12月に探鉱ライセンスを取得した3鉱床を含む6プロジェクトに8百万US$の探鉱投資を計画しており、ロンドン証券取引所への株式新規公開(25%程度)を11月に予定しているとされる。同社は、アジア地域への銀供給の長期契約などを背景に、金・銀生産量を2008年までに20~30%増産するとしている。2005年上半期のEBITDAは前年同期比8%増の40.9百万US$を上げた。
2-3. Peter Hambro Mining社(英)
ロシア金鉱業で成功する代表的な外資企業であり、2009年までに開発中の3鉱山で生産を開始して年産金1百万oz(31.1t)の生産体制を築くため、2007~2009年に327百万US$を投資する計画を明らかにしている。2005年には前年比19%増の7.75tを生産した。同社は2006年1月、Chagoyansk鉱床(Amur州)の探鉱開発を行うRio Tinto社とのJVを解消した。Rio Tinto社がNorilsk Nickel社との間で、ロシア国内で探鉱開発を行うJVを設立したためと見られている。Bamskoye鉱床(Amur州)を共同開発しているPolyus社とのパートナー関係に影響は出ていない。Peter Hambro社からスピン・オフしたAricom社は2006年2月、Interros社と共にチタン鉱床開発を行うと伝えられている。
2-4. Highland Gold Mining社(英)
2008年までに年産金15tの達成を目指しており、Maiskoye鉱床他の開発を進めている。2005年の生産量は前年比17.3%減の5.15tであった。最近、金回収工程で使用するための青化ソーダ(シアン化ナトリウム)の輸入に対して国内生産者Korund社からアンチダンピングで訴えられたことを受け、経済発展貿易省が特別調査を行っている。Highland社の権益20%を所有するBarrick Gold社は、Highland社が2005年に取得した3鉱床のライセンスについて50%の権益取得を行使するか検討中とされる。
2-5. Bema Gold社(加)
開発中のKupol鉱床では銀の含有量も多く、2005年探鉱の結果、Indicated+Inferredの銀資源量が2,494tと評価されている。同鉱床の生産開始は2008年の予定とされ、2005年12月、同社は金融機関との間で鉱山開発事業向けに425百万US$の融資契約を締結した。三菱商事は、国際金融公社など5社とともに本融資に参画しており、事業主体であるChukotkaya社に対して50百万US$を融資し、金地金の優先引取りとデリバティブ商品の取扱いを行うと発表している。
2-6. その他外資企業
Kinross Gold社(加)は、生産中のKubaka鉱山で坑内採掘と低品位鉱からの金回収を行っているが、鉱量枯渇のため2006年生産量は0.5t程度になると見られている。2006年2月同社は、開発を進めているBirkachan鉱床(Magadan)の採掘を2006年上期中に開始することを明らかにしている。2005年11月、最大株主のAngloGold Ashanti社(29.8%所有)の財務役員をCEOに招いたTRANS-SIBERIAN Gold社は2006年2月、KamchatkaのAsacha鉱床の開発資金68百万US$を調達して8月に鉱山建設に着手し、2008年初めに生産を開始する予定だと伝えられた。
3. 金鉱業をめぐる政策の動向
輸出ライセンス
金の輸出には輸出ライセンスが必要であり、従来はライセンスを所有する商業銀行が生産者から金を買い取って輸出していた。大手金バイヤー銀行にはVneshtorgbank、Sberbank、Rosbank、Zenit、Uralsib、Gazprombank、Nomos Bank、Soyuz、Expobank、Lanta Bank、Khanty-Mansiisk Bankがあり、2005年には43銀行が合計で176.6tの金を購入する契約を生産者側と交わしたとされる。金生産者組合によれば、そのうち約120tは輸出に、残りは宝飾品向けなどの需要であった。Polymetal社は生産者で初めて2003年、Polyus社とPokrovsky Rudnik社も2005年、それぞれライセンスを取得して直接輸出が可能となった。
金産業の発展のための国家政策
ロシア政府と中央銀行は、金産業を発展させるための2006年の課題として、(1) 金鉱山生産を増やすための国による新鉱床探査の計画策定(3月)、(2) 金・外貨準備高に占める金保有量の10%程度の積み増し(4月)、(3) シベリア・極東地域における鉱物資源の開発を加速させるための輸送やエネルギーなどインフラ整備の計画策定(6月)、(4) 国内金市場を活性化させるための措置(公的機関への金地金販売におけるVAT免税や保有に対する規制)、等を検討していると伝えられている。プーチン大統領は1月末、「金鉱石の国外での処理は認められない」と発言し、国内企業や一部の外国企業が精鉱をカザフスタンなどに持ち出す検討をしていると伝えられていることに機先を制した。
法的枠組み(外資規制)
外資規制に関連してロシア政府は、(1) 戦略鉱床に対する外資規制を盛り込んだ新地下資源法、(2) 戦略産業への外国投資を制限する法、という法制度を検討中。
(1) 新地下資源法
天然資源省は2005年10月、外資制限を行う戦略鉱床の基準として、a. 鉱床の位置(国防的観点)、b. 国防上重要な資源(ウラン、ダイヤモンド、イットリウムなど)、c. 一定以上の埋蔵量(石油:150百万t、ガス:1兆m3、銅:10百万t、金:700t)、のいずれかの条件に該当することを示した。11月に議会で審議が予定されていた新地下資源法案は、この戦略鉱床の定義などをめぐって調整(「外国企業が行った探鉱により戦略鉱床に該当する埋蔵量を発見した場合は、シェア50%以上をロシア企業に譲渡する必要がある」との規定を挿入すべき、等の議論あり)に難航している。法案の審議を管轄する天然資源委員会(Natural Resource Committee)のOrlov委員長は、新法の導入を最長で3年延長し、現行法を改正する可能性について言及するなど、成立の見通しは全く立っていない。天然資源省が策定した草案は、現時点では以下のとおり外資にとって後退した内容となっている。
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(2) 外国投資制限法
産業エネルギー省がウラン、ダイヤモンド、石油(埋蔵量150百万t以上)、ガス(同1兆m3以上)、銅(同10百万t以上)及び金(同700t以上)の開発を行う企業に対して、25%以上の株式を外資が購入しようとする場合の政府許可の取得を義務付ける法案を検討中。プーチン大統領は、4月1日までに下院に法案を提出するよう指示しているとされる。
鉱区入札(Sukhoi Log鉱床)
天然資源省傘下の地質調査研究所TsNIGRIは2006年2月、Sukhoi Log金鉱床の資源量を再評価した結果、金量が1,500tに増えたと発表した。同研究所の幹部は、同鉱床の開発権の入札を行うまでには、研究のためにさらに2年以上の時間が必要だとコメントしている。