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ペルー・大統領選の行方と今後の鉱業政策への影響
| 最近、南米では、行き過ぎた経済自由化政策に反発してアメリカと距離を置く左派政権が相次いで誕生している。ペルーにおいても、4月9日に大統領選挙が行われ、左派民族主義者の元陸軍中佐オジャンタ・ウマラ候補が、30%を超える得票率を得て、中道右派の女性候補であるフローレス氏、中道左派の元大統領ガルシア氏を抑え、トップに立っている(ただし、現在も開票確認中で、最終開票は4月下旬の見込み)。どの候補者も過半数に達しないため、今後、決戦投票が行われる予定であり、その動向に内外の注目が集まっている。本稿では、ペルーの大統領選の行方と各候補の政策の概要及び今後の鉱業政策への影響等を紹介する。 |
1. 選挙戦の経緯
ペルーでは、フジモリ政権の時代、米国からの経済の自由化を受け入れ、積極的な外資導入や貿易自由化等の政策を推し進めた結果、現在では5%前後の安定した経済成長を続けている。しかしながら、この恩恵を受けているのは一部の富裕層のみで、政府は市場経済に依存しすぎて、新たな産業政策、貧困対策を打ち出さなかったため、貧富の差は、ますます拡大し、国民の半数を超えるとされる貧困層の不満が顕在化しているのが実情である。
このような状況下、2005年12月8日に大統領選挙戦が公示され、当初は中道右派の女性候補フローレス氏が、有利な情勢で、民間調査会社の世論調査では、一時2位ウマラ候補との支持率の差が10%程度開いていたが、選挙後半になり、ウマラ候補の支持率が急増し、3月10日の世論調査でフローレス候補を逆転し、その流れで大統領選挙当日(4月9日)を迎えた(下図参照)。
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図 有力候補三人の支持率の推移
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これは、ウマラ候補が掲げる経済の自由化の見直し、資源を外国企業からペルー国民に取り戻すと言った明確なメッセージがペルーの多くの貧困層に浸透し、熱烈な支持を受けているものと見られ、特に、地方での支持率が、選挙終盤の1か月間で10%程度拡大していることが特筆される。一方、フローレス候補は、大票田の首都圏では4割近くの支持率を得ていたものの、ウマラ候補とは対照的に地方での人気が低下していた。また、ガルシア候補はアプラ党(アメリカ人民革命連合)を支持母体とし、組織選挙を繰り広げていると言われていた。
フローレス候補、ガルシア候補とも、市場原理にまかせすぎた現政権の無策を批判し、貧困対策、失業対策を大きな課題としているが、基本的に外資導入は今後も促進すべきという立場で一致している。
今回の選挙は、このように国家管理を強化し自立の道を歩むのか、あるいは、自由主義経済体制を今後とも維持していくのかが大きな争点となっており、ペルーの政治・経済路線の転換期を迎えた選挙と言える。
2. 選挙中間結果
全国選挙管理委員会の発表によると、4月17日現在、開票率90.36%で、ウマラ候補30.84%、ガルシア候補24.35%、フローレス候補23.56%となっており、ガルシア候補が予想以上に善戦している。但し、ペルー大統領選の当選には過半数の得票が必要であり、どの候補も過半数には達しない見込みで、1位が確定しているウマラ候補と2位の候補の間で決戦投票が行われる見通しである。決戦投票は、決戦投票の候補が確定次第1か月以内に選挙が行われることになっており、現在のところ、最終的な開票までに投票後20日間ほど必要であることから、5月28日ないしは6月4日が有力視されている。但し、2位を巡って、ガルシア候補とフローレス候補とが接線を演じており、このまま小差の状態が続けば、3位の候補が票の数え直しを申し立て、さらに確定が長引く可能性も指摘されている。
また、同日に行われた国会議員選挙(議員定数120名)では、4月17日現在、開票率55%で、地元紙(Expreso紙)の予測によると、ウマラ候補率いるUPP党(ペルー統一党)が43名、ガルシア候補率いるアプラ党(アメリカ人民革命連合)が35名、フローレス候補率いるUN党(国民団結連盟)19名、さらにフジモリ元大統領派の未来連合が15名となっており、UPP党が第1党になる勢いであるが、過半数には遠く及ばない状況である。
3. 各候補の基本政策
下表は、在ペルー日本大使館情報及び現地新聞報道等から有力3候補の基本政策の概要をとりまとめたものである。
ウマラ候補は、新自由主義路線を批判し、より公正な新しい経済社会モデルを構築すべきとし、エネルギー、港湾管理、鉱業などの基幹産業の国家管理を強化するとともに、ベネズエラやボリビア等との周辺国の左派政権との連携やロシア、中国との関係を強化すると主張している。また、対米FTAについては、零細農家が打撃を受ける懸念があるとし、再検討の上、批准のために国民投票を実施すると訴えている。鉱業政策では、国内の資源開発を行う全ての企業は直ちに鉱業ロイヤルティを支払うことで貧しい者と利益を分け合うべきであると主張している。これは、税の安定化契約により鉱業ロイヤルティを収めていない全ての企業の契約を見直すというもので、ウマラ候補は、鉱山会社に対し、金属の国際価格高騰による利益をペルーの貧困層と分かち合うべきだとしたほか、今後、企業と話し合いを行い、民主的な方法でロイヤルティを徴収したいとの考えを示している。
フローレス候補は、新自由主義政策は継続し、国家の役割はルール設定に限定すべきとし、教育、保険、雇用を重視し社会政策を推進していくとともに、鉱業政策においては、一層の外資導入を促進するため、投資環境を整備するための安定した法制度の確立を提案している。外国との関係においては、対米FTAは賛成とし、中国、日本との貿易関係を強化し、特に日本との協力関係の改善を強調している。
ガルシア候補は、国家は国民に奉仕するものとの考えから、社会正義の実現、国民に裨益する経済発展を目指すとし、特に、農業支援や各公社の活性化、中小零細企業の支援などに尽力すると主張している。鉱業政策では、ウマラ候補の国家管理強化の考え方は時代錯誤であると批判し、現在の外国企業との契約は遵守し、外国投資を奨励するとの考え方を強調している。対米FTAについても、その重要性は理解しており、内容を吟味しつつ推進していくという立場である。
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4. ペルー鉱業界の反応
ペルー鉱業協会は、最近のペルー経済は、大規模な外資参入により好調に推移しているが、これまでの流れに逆行するウマラ候補の政策方針については投資家に不安と混乱を招くものと懸念を表明し、ペルーが投資先として国際的な信用を得続けるには、次期政府は経済的・法的・社会的な安定性を保証しなければならないとし、新規の鉱業投資(特に開発案件)が中断していると指摘し、ウマラ候補に対し、鉱業・エネルギー部門における政策を明確にするよう要求するとともに、現在の外資奨励路線を維持するよう要請している。
鉱業協会としては、第1回目の選挙終了後、決選投票へ進む候補者と話し合いをもち、それぞれの候補者の明確な鉱業政策を把握する機会を得たいとしている。
一方、ペルーにおいてセロ・ベルデ銅山を操業しているPhelps Dodge社のペルー事務所長は、選挙前のインタビューで、「現在、同社としては、急進派のウマラ候補が支持率を拡大していることを憂慮している。」とするも、ウマラ候補が現在掲げている政策は、国会で否決される公算が大きいため、現実には、鉱業政策に大きな変化はないだろうという見方をした上で、「同候補が大統領になったとしても、同社のペルーでの鉱業活動には何ら影響を受けず、今後も投資を継続していく。」と言明している。
5. 今後の見通し
民間の世論調査では、決戦投票がウマラ候補対フローレス候補の場合は、ガルシア候補支持票がフローレス候補に回ることでフローレス候補が勝ち、また、ウマラ候補対ガルシア候補では、ウマラ候補が小差で勝利すると予測している。但し、フローレス候補については、同氏への得票率が選前の予想より大きく下まわっており、同氏の人気が低下傾向にあること、また、ガルシア候補については、かつて大統領だった当時(1985年~1990年)、7,500%を超えるハイパーインフレを記録し、経済的破局に落とし入れ、汚職を蔓延させた張本人だったとして、不信感、拒絶感を持つ国民も多いと言われ、フローレス候補の票がどれだけガルシア候補にまわるか微妙な情勢である。
このように、今回のペルーの大統領選レースは、予測が難しい展開となっているが、ウマラ候補が勝利したとしても、議会の構成から見て、同氏の主張がそのまま承認されることは考えにくく、実際には世論や産業界の動向に配慮しつつ現実的な運営を取らざるを得ないとの見方もある。
いずれにしても、今回の大統領選挙の行方は、我が国を含めた外資企業が中核を担うペルー鉱業界にとって特に影響が大きく、今後ともペルーが魅力的な投資対象国であり続けるのか、あるいはペルーへの鉱業投資に大きなブレーキがかかるのか、ペルー鉱業の今後を占う重要な選挙でありその動向が注目される。



