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モーリタニア国鉱業投資促進セミナー参加報告-MAURITANIAN DAY ; Investment Seminar for the Islamic Republic of Mauritania-
モーリタニア国鉱業投資促進セミナー -Mauritania Day-(Association of Mining Analyst:AMA主催)が3月1日にロンドンで開催され、主催国であるモーリタニア国からは、鉱工業大臣を始めとする鉱工業省(MMI)幹部、地質調査所(OMRG)幹部他が出席し、一般の参加者は大手鉱山会社、大手投資銀行、アナリスト、地質コンサルタント、弁護士、個人投資家等の鉱業関係者60人程度が参加した。一国単独の鉱業投資促進セミナーの参加者数としては多数を数えた方であり、また、セミナー終了まで参加者が減ることはほとんどなく、セミナーにおいては多数の質問が出されるなど活況であった。このような結果は、今回のセミナー開催の目的を踏まえれば、モーリタニア国にとって有意義なものとなったと言えよう。 モーリタニア国における鉱業分野は、1960年のフランスからの独立後、鉄鉱業が中心となり同国経済の中核を担ってきたが、地質情報不足、法的・財政的な基盤の未整備、鉱業促進策の欠如、加えて過酷な自然条件、インフラ不足等もあり探鉱はほとんど実施されていない状況であった。1985年に政府とIMFとの合意の下、鉱業に焦点を絞った3か年経済計画が決定され、さらに1989~1991年に鉱業開発計画の下、鉱業促進のための抜本的な取り組みを開始した。その後、1997年の資源開発政策大綱の発布に続き、税制の整備、鉱業法、鉱業権規則等の整備も進められた。しかしながら、現在に至っては、過去の調査により鉱物資源ポテンシャルが判明しつつあるものの、地質情報は十分に公開されていない状況であることから、鉱物資源ポテンシャルの探査・開発への民間投資を促進させ、鉱業振興を具体化するために世界銀行の支援を受けて、鉱業部門能力構築プロジェクト(PRISM:Project for Institutional Reinforcement of Mining Sector)を実施している。同時に、2000年、我が国政府に「資源探査のための開発戦略プラン作成」を技術協力支援案件として要請し、これを受けて、2003年、我が国の国際協力機構(JICA)とMMI、OMRGとの間でS/W文書に署名後、2006年3月に終了予定となる「鉱物資源開発戦略策定調査」を実施してきた。我が国の支援案件である「鉱物資源開発戦略策定調査」の目的の一つである「資源情報の効果的な提供を行い、内外企業による投資を促進させること」に基づき、鉱業分野の国際的な金融センターの一つであるロンドンにおいて、モーリタニア国のこれまで実施してきた鉱業投資促進政策の結果・内容を紹介することを目的とし、今回のセミナー開催に至ったものである。 セミナーでは、鉱工業省等の政府関係機関からは鉱業投資促進政策、資源ポテンシャルなどの講演があり、また、鉄鉱石、金、ダイヤモンドの探査・開発活動を行っている企業からはプロジェクトの概要についての講演が行われた。講演の概要について以下のとおり報告する。 各講演に先立ち、Mohamed Ould Ismael Ould Abeidna鉱工業大臣より、以下内容の挨拶があった。 モーリタニア国の経済発展に最も重要である鉱業分野の開発を活性化することは、政府の最重要課題である旨の内容であった。また、2005年8月に起きた政権交代により混乱が発生したことに触れ、ただし、現在では民主主義の導入を促進し、最優先事項として社会的・政治的な安定性を確保するよう努力していると加えた。 |
1. Presentation by Mining Sector in Mauritania
-Mr Wane Ibrahima Lamine, Director of Mines and Geology, MMI-
モーリタニア鉱工業省地質・鉱山部長より、モーリタニアの鉱業概況の説明がなされた。概要は以下のとおりである。
モーリタニアは、2005年8月に、自由と民主主義を獲得することを目的とし、軍部の政権掌握による政権交代が起こり、以来、民主主義の本格的な導入に努力を重ねてきている。
鉱業は同国のGDPシェア12%を、外貨収入の半分以上を占めており、同国の主要産業となっている。
鉱業分野において国が取り組んできた主要な施策は、まず第1に1997年の資源開発政策大綱の発布に続く、税制の整備、鉱業法、鉱業権規則等の整備である。
第2に1999年、世界銀行の支援によりPRISMを開始、現在、第1段階終え、第2段階が進行中である。主要テーマは以下の3つとなる。
(1)新たな国の役割を民間投資の促進、監督者として位置付けた産業構造改革
(2)投資促進のための地質情報の整備・提供
(3)環境・社会的な配慮
これらの下、鉱工業省及び地質調査所(OMRG)は民間投資を促進させるための役割を担うこととなった。また、投資家向けの情報整備・提供策としては、全国をカバーする高精度測地ネットワークの構築、情報提供を行うためのホームページも開設した。さらに、地質鉱物資源データベース(SIGM)を構築・整備中である。
現在の鉱業活動は、全鉱業権90件のうち6件が開発案件、他84件が探鉱案件であり、探査案件は金43件、ダイヤモンド23件、鉄鉱石7件、ウラン3件などである。代表的なものは、First Quauntum Minerals社(加)が80%出資しているIOCG型(Iron Oxide Copper Gold)のGuelb Moghrein鉱床(Akjoujtより北東)は現在FS段階で、23.7百万tの埋蔵量が確認され、銅品位1.88%、金品位1.4%/gである。また、Tasiast金鉱床は、Rio Narcea Gold Mines 社(加)が操業しており、生産は2007年の中期を見込んでいる。
2. Presentation by Mining Cadstre Unit(UCM)
-Mr Yahyia, Director of Mining Cadaster, MMI-
The Mining Cadastral Unit (以下、UCM)局長により、鉱業権に関する講演があった。概要ははのとおり。
UCMは、鉱業権の発行及び管理機関として、1999年に制定されたMining Code に基づき、同年に鉱工業省内に新たに設立された機関である。現在、鉱業権は以下の4つに分類されている。
(1)Prospecting Authorisation:
・空中探査等を行う場合の広域的な予察調査権
・期間は6か月(1回のみ更新可能)
・調査終了後18か月以内に鉱工業省への調査レポートの提出義務あり。排他的な権利は有しない。
(2)Exploration Licence:
・ライセンス期間は3年間(2回まで更新可能)
・最大面積1,500km2(ダイヤモンドは10,000km2まで)、更新時に縮小可能
・1個人、1法人につき同時所有は20ライセンスまで(ダイヤモンドは10まで)
・ライセンス料は、当初1.10US$/km2(250UM/km2)、第2期2.20US$/km2 (500UM/km2)、第3期4.40US$/km2(1,000UM/km2)
・ライセンスの取得、更新、譲渡時にはライセンス料とは別に3,600US$(800,000UM)が必要となる。
(3)Exploitation Licence(Mining Licence):
・モーリタニアの法律に基づく企業に対し与えられる。
・ライセンス期間は30年(1回のみ10年間の延長可能)
・ライセンス料は110US$/km2(25,000UM/km2)
・ライセンスの取得、更新、譲渡時にはライセンス料とは別に11,300US$(2.5百万UM)が必要となる。
(4)Small-scale Mining Licence:
・労働者100人未満、資産2.75百万US$(500百万UM)までの鉱山に許可。
・ライセンス期間は3年間(2回まで更新可能)
・地表の操業面積は2km2まで
・ライセンスの取得、更新、譲渡時に4,500US$(1百万 UM)が必要となる。
現在までのライセンスの許認可数は、多い順から、金、ダイヤモンド、鉄、ウランとなっており、プラチナのような貴金属に係るライセンスの申請は今のところない。
3. Purpose & Function of the OMRG
-Dr Khalidou Lo, OMRG-
OMRG(仏語: Office Mauritanien des Recherches Geologiques)は、鉱物資源の探査を行うことを主な目的とし、1980年に鉱工業省の一部局として設立された。現在ではPRISMプロジェクトにより地質情報データの提供等により投資家支援を担う役割を追加している。講演の概要は以下のとおり。
現在のOMRGの業務は、広域的な地質図の作成・探査プロジェクトの実施、鉱物資源ポテンシャル地域の評価、最新の地質・探査データの提供、新探査技術の紹介等を主なものとしている。現在スタッフは20名の地質専門家を含む126名を有し、鉱石サンプル処理及び化学分析のための研究施設を保有する。年間予算は540,000US$強である。
これまで実施してきた地質調査により、多数の有望区域の調査を行ってきたが、特に最近ではJICAとの共同プロジェクトにおいて、銅、錫、金、鉄、クローム、タングステン、チタン他の28か所に渡る有望な鉱床を確認した。調査においては、POSAM (Portable Spectral Radiometer System for Mineral Resources – 携帯型変質鉱物簡易同定装置)、リモートセンシング等の新技術を導入している。
モーリタニアの地質は4つのゾーンから成り、西サハラに面し北部域に連なる「Regubat Shield」、その南部には、西から東にかけて、「Atlantic Basin」、「Mauritanides」、「Taoudeni Basin」となっている。
Reguibat Shieldゾーンには、Rio Narcea Gold Mines社が操業しているTasiast 金鉱床を始めとし、Cu-Sn鉱床、Pb-Zn-Mo鉱床、鉄鉱床も確認されている。Mauritanidesゾーンには多くのCu-Au鉱床が存在しており、Akjoutよりやや北にFirst Quantam Minerals社が操業するGuelb Moghrein IOCG型Cu-Au鉱床(銅品位1.88%)もこのゾーン内にあり、この周辺は特に資源ポテンシャル的に重要な区域と考えられる。このゾーンの南にはレアアース、ニッケル、白金族も確認されており、Guidimaka鉱床においてはプラチナが確認されており、平均品位は0.1~0.07g/tとなっている。その他のゾーンであるTaoudeni Basinには銅鉱床が、Atlantic Basinにはチタン鉱床も確認されている。(詳細は下図参照)
なお、本講演終了後、参加者からウランの探鉱活動について質問がなされ、過去にベルギー企業によって発見されており、現在ウラン探鉱も行われている旨の説明があった。
【出典:OMRGホームページ http://www.omrg-mining.mr/】
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4. モーリタニアにおける開発プロジェクトの紹介
関連企業から、モーリタニアの現在の主要産業である鉄鉱石鉱山と金プロジェクト他の講演がなされた。概要は以下のとおり。
4-1. Recent Development & Future Planning for Mauritanian Iron Ore-SNIM社-
SNIM社(Societe Nationale Industrielle et Miniele)は、モーリタニア政府が78.35%所有(他National Bank of Kuwait 7.17%、ARMICO(ヨルダン)5.66%、イラクファンド4.59%、モロッコBRPM2.30%、イスラム銀行1.79%、個人投資家0.14%)し、モーリタニア鉱業の主要産業である鉄鉱石鉱山を操業する企業である。同社は1963年に設立され、現在ではReguibat Shieldゾーン内にある3か所の露天掘り鉱山(Idjill Kedia、Guelb El Rhein、M’Haoudat)から年間12百万tの鉄鉱石を生産している。採掘された鉱石はRheinにあるプラントにおいて精鉱処理され、その後は約700kmの距離を鉄道(SNIM鉄道)により大西洋岸最北部に位置するNouadhidou港へ運搬され、大部分は欧州へ輸出されている。
また、同社は国の基幹産業の担い手として、工業用のみならず、生活用水の開発などの水資源事業も展開し、地域社会への貢献も含め、その他グループ全体では、建設会社、鋳造工場、ホテルや観光業も展開するなど、多角的な事業経営を行っている。今後は非鉄分野での事業展開も視野に入れているとしている。
4-2. Tasiast金プロジェクト-Rio Narcea Gold Mines社(加)-
Tasiast金鉱床はReguibat Shieldゾーン内に位置し、露天採掘により金可採鉱量900,000ozを予定している。1994年4月にバンカブルF/Sを完了し、生産開始は2007年中期を見込んでおり、生産開始3年目までの年産能力が120,000oz、操業コストは220US$/ozである。開発サイトは首都Nouakchottより300km、主要港町であるNouadhibouから162kmである。
同社では、モーリタニアでの探鉱・開発を実施する主な理由として、モーリタニア政府が非常に支援的であること、他の鉱種も含め資源ポテンシャルが高いこと、他国と異なり鉱業権を一旦取得すれば鉱山の建設が直ちに可能であること、税制も外国投資家にとって3年間の免税期間もありリーズナブルなものであること、などを理由として掲げている。インフラに関し、まず水資源については、鉱山サイトから60kmの場所に8箇所の井戸があり、そこからパイプラインにより水を供給している。また、電力は発電設備がないので5基のディーゼル発電機により供給している模様。
4-3. Guelb El Aouj鉄鉱石JVプロジェクト-Sphere Investments社(豪)-
Guelb Al Aouj鉄鉱石JVプロジェクトは、SNIM社のプロジェクトであったが、2004年、Sphere Investments社がバンカブルF/S費用11百万US$を負担する条件などにより、現時点でSphere Investments社がプロジェクトの50%の権益を所有している(残り50%はSNIM社が所有)。プロジェクト・サイトは、SNIM社のIdjill Kedia鉱山の北側に位置し、既存のSNIM鉄道の分岐・延長(約25km)が予定されている場所にある。現在F/S段階であり、2005年に実施したボーリング調査などにより、これまでで予想鉱量675百万t、鉄品位36.4%が確認されており、2010年の生産開始を目標としている。また、同社は、本プロジェクトをステップとして、鉄以外に金、ベースメタルの探査ライセンスも既に複数取得しており、モーリタニアの鉱業分野において多角的な投資戦略を展開する計画であるという。
4-4. その他の講演
その他、モーリタニアで初めての原油生産プロジェクトであるChinguetti油田プロジェクトを手がけたWhite & Case法律事務所による講演、Rio Tinto社からはモーリタニアにおけるダイヤモンド・プロジェクトの講演が、最後に三井金属資源開発西川氏よりJICA プロジェクトである『モーリタニア・イスラム共和国鉱物資源開発戦略』についての成果概要の講演があった。
特に、White & Case法律事務所の講演では、モーリタニアの法律におけるリスクとして、政府が外国投資家に強い支援を示す一方で、同国の伝統的なフランス/イスラム法律体制という2重法律体制(仏語の法律、しかし立法機関等はアラブ語のみ。)が存在し、これが投資家にとっては混乱を招きやすい旨の指摘がなされた。
5. おわりに
以上のような内容により、今回のセミナーにおいては、鉱工業省大臣を始めとする同省主要幹部による同国鉱業セクターの投資環境の整備状況など、積極的なプロモーションがなされた。同国においては、IMF、世銀の支援の下、外資による探査・開発活動が先行している他のアフリカ諸国(タンザニア、マリ、ガーナ等)と同様、鉱業が重要産業として位置付けられ、基本的な投資環境は整備されてきている。これまで、探査があまり行われていなかったこともあり、その資源ポテンシャルについてはあまり十分に知られてはいなかったが、これまで行ってきた鉱業政策の効果と、昨今の石油、金属価格の高騰が追い風となって、鉱業分野での欧米企業による投資活動が盛んになりつつあり、また、今回のセミナー参加者数からすれば、同国鉱業分野への関心度が決して低いものではないと想像され得る。今後、外国資本による探査活動が活発化するにつれ、徐々に明らかになってくることが予想され、その動向が注目される。
なお、本稿の冒頭で触れたモーリタニアでのJICAプロジェクトの概要に関しては、金属資源レポート2006年1月号の技術協力プロジェクトシリーズ(7)にて紹介しているので参照願いたい。
レポートのURL:http://www.jogmec.go.jp/mric_web/kogyojoho/2006-01/MRv35n5-09.pdf