報告書&レポート
国際ニッケル研究会2006年春季会合参加 概要報告-中国が世界最大の消費国へ・2006年需給は引き続き緩和の予測-

国際ニッケル研究会春季会合が、2006年4月24~25日、ポルトガル(リスボン)において開催された。国連の国際商品機関である国際鉛亜鉛研究会(旧事務局所在地;ロンドン)、国際銅研究会(事務局所在地;リスボン)、国際ニッケル研究会(旧事務局所在地;ハーグ)については、コスト削減及びシナジー効果の発揮のため、各組織を存続させた上で、2006年1月に、(1) 事務局を1か所に集約すること、(2) 事務局長を1名とし3研究会の事務局長を兼務する、という国連の中でユニークな合理化が行われたところ。今回の会合は、本合理化後初めての会合で、加盟13か国・地域、オブザーバーとしてブラジル、米国、中国(中国有色金属工業協会)、Nickel Instituteが参加、ニッケル関係の民間企業では、住友金属鉱山、三井物産、日本鉱業協会、Eramet社(仏)、Inco社(加)等が参加し、ニッケルの需給の現状と展望、産業動向、環境問題等について討議が行われた。 |
1. 統計委員会
2005年・2006年の需給予測について
2005年のニッケル需要は、ニッケル価格高騰、代替商品へのシフト、ニッケル在庫放出等が要因となり、需要減少が生じたものの、2006年は、中国市場の急成長などにより回復し、微増との見通しになった。2004年まで日本は世界最大のニッケル消費国だったが、中国需要の急増により2005年には中国が日本を抜いて世界最大のニッケル消費国となった。全体では、2003年からのLME市場におけるニッケル高値基調の影響により、ニッケル含有率の低いステンレスやニッケルを含まないステンレスの生産が増大し、またリサイクル率が上昇して一次需要減少要因となる一方、中国需要は引き続き堅調なことや、米国、独国等先進国の消費が回復することから、全体としてニッケル消費は7.4%増加との見通しになった。具体的には、2005年の約1,243千tから、2006年は約1,336千tとなる見通し。
生産面では、新規鉱山開発・精錬所拡張や新設等により加、豪、中国、尼等が増加見通しとなり、世界のニッケル生産高は2005年の約1,286千tから2006年には約1,364千tの見通しとなっている。以上のことから、2005年の需給バランスが約43千tの供給過剰かつ2006年の需給バランスは、約28千tの供給過剰と予測された。
注目の中国需要については、2005年(190千t)、2006年(235千t)ともに20%以上の高い伸び率とされたが、中国代表団より、ニッケル価格高騰の影響などから下方修正の意見が出され、事務局が訪中の上、詳細調査をすることとなった。
図1 世界のニッケル供給量と消費量
|
図2 世界のニッケル補給バランス
|
![]() |
![]() |
表1 世界のニッケル需給バランス
|
(単位:千t) |
|
その他、本委員会では、以下のプレゼンテーションがなされた。
Ⅰ中国有色金属工業協会 国際合作部副主席Bian Gang氏による、『Status and Prospect for Outsource Strategy of China’s Nickel Industry』(中国ニッケル産業の海外資源問題の現状と将来。)
Ⅱ国際ステンレスフォーラム(ISSF)の『Stainless Crude Steel Production』(現在のニッケル価格高騰とステンレス生産について)に関し、事務局から報告がなされた。
ⅢEramet社Francois Sauvage氏による、『Memorandum for the full Liberalisaion of the Nickel market』(WTOドーハラウンドにおけるニッケル輸入関税減税の動きについて)
2. 産業アドバイザリーパネル(IAP)
本委員会では、2005年の国別ニッケル地金消費及びステンレススチールスクラップ貿易について討議されたほか、以下のプレゼンテーションが発表された。
ⅠEramet社のStephan Chorlet氏より世界のニッケルの需給状況についての講演が行われた。(2006年においてもニッケルの供給状況のタイト感は続き、ステンレススチール生産の6~7%増加が見られるとの報告がなされた。)
ⅡELG Haniel GmbH社のVolker Pawlitzki氏からはステンレススチールスクラップ市場についての講演がなされた。(2006年のステンレススチールのスクラップの供給状況はおよそ7~8%増加が予測され、ニッケル含有量が少ない200、300、400sシリーズステンレスの生産が上昇することが見込まれることが明らかにされた。)
そのほか、研究会統計担当者より、ステンレススチールスクラップ貿易におけるデータについての報告がなされた。その報告の中で、欧州におけるスクラップの輸入は減少が生じる一方、中国の輸入は45%上昇し、スクラップ消費は欧州から中国やインドへシフトしてきているとの説明があった。
3. 環境経済委員会
本委員会では、環境経済委員会に関する活動内容報告等についての報告がなされた。
(1) 欧州REACH規制について
環境規制関連の報告として、REACH規制と『国際的な化学物質のための戦略的アプローチ – SAICM』についての説明がなされた。
欧州REACH規制は、9月に開始予定されている規制案の第二読会が予定通り実行されれば、同案が政治的合意に達するのは年内の見込みであるとして、REACH規制導入対策へ向けての作業が産業界で行われていることなどが報告された。
Nickel Institute会長のBarnet氏は、今後も欧州委員会環境総局(DG Environment)へ産業界の懸念を示して行く予定で、場合によっては法律専門家からの助言を受けることも検討していると述べた。
(2) ニッケルに関する各国規制の概要報告のアップデート
研究会が2003年に行った『ニッケル産業に影響を及ぼす世界の環境・健康・保安規制に関するレビュー概論報告』のアップデートについて説明があり、加盟国等に対してニッケル及びニッケル化合物に対する環境関連の規制に関する情報提供が求められた。2006年10月には最終報告書を完成させる予定。
(3) 本委員会において行われたプレゼンテーションは以下のとおり。
Ⅰ | イエール大学のBarbara Rack氏より『The Contemporary Nickel Cycle』と題するニッケルのマテリアルフローに関する講演がなされた。(ニッケルの在庫と流通の動向について、研究プログラムである『Vision of the Stocks & Flows - STAF Project』についての報告) | |
Ⅱ | JOGMECの國友金属資源開発調査企画グループリーダーにより、日本のニッケル・カドミウム二次電池等のリサイクル制度についての講演。(本講演は、INSG事務局からの依頼によるもので、『資源有効利用促進法』に基づく、小型2次電池のリサイクル規制について説明を行った。) | |
Ⅲ | Nickel Institute会長Steve Barnet氏より欧州におけるニッケルのリスクアセスメントの報告がなされた。最終報告書(人体・環境)は2005年に完成。現在、環境におけるリスク管理へ向けて2008年完了を目処に作業を進めており、2006年の7月には、リスクアセスメント報告書(RAR)がOECDへ提出される予定。) |
4. 第32回常任委員会
本委員会では、事務局長より、研究会の現在及び今後の活動状況が報告された他、メンバーシップの状況、各加盟国分担金納入状況、3研究会が共有する新事務局、3研究会による経費シェア提案等が議題となり討議された。
次回の会合は第16回総会として、2006年10月2日の週にリスボンで開催される予定。

