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報告書&レポート

2006年5月25日 ロンドン事務所 オーウェン溝口佳美 e-mail:mizoguchi@jogmec.org.uk
2006年32号

国際鉛亜鉛研究会2006年春季会合及び3研究会合同環境経済委員会参加報告-2006年亜鉛の供給不足は拡大へ-

 国際鉛亜鉛研究会の春季会合が、2006年4月25日~26日、ポルトガル(リスボン)において開催された。今回の会合は、3研究会事務局統合後、初めての会合、加盟20か国、オブザーバーとしてブラジル、国際機関が参加、この他に鉛・亜鉛関係の政府・民間関係者(日本側の民間としては、三井金属鉱業、住友金属鉱山、日本鉱業協会)が参加し、鉛・亜鉛の需給の現状と展望、産業動向、環境問題等について審議された。
 また今回、初めての試みとして、3研究会合同での環境経済委員会が4月26日に開催された。これらの会議の成果としては以下のとおり。

I. 国際鉛亜鉛研究会2006年春季会合の概要

1. 鉛・亜鉛需給の2006年の展望について

 中国の需要増等で世界的に鉱物資源の価格が高騰。2006年の予測については、鉛が余剰になる一方、亜鉛については極端に供給不足になると予測。概要は以下のとおり。

           表1. 世界の鉛・亜鉛生産と消費量の推移(2003年-2006年)
(単位:千トン)
 
亜鉛
2003 実績
2004 実績
2005 実績
2006予測
2003 実績
2004 実績
2005 実績
2006 予測
西側世界の鉱山生産量
1,981
1,979
2,117
2,240
6,705
6,546
6,612
6,882
東側諸国への精鉱輸出量
-369
-452
-545
-557
-479
-426
-384
-407
西側世界の精錬可能量
1,612
1,527
1,572
1,683
6,226
6,120
6,218
6,475
西側世界の地金生産量
4,781
4,602
4,782
4,891
6,643
6,670
6,494
6,656
西側世界の地金消費量
5,315
5,423
5,396
5,439
7,116
7,422
7,093
7,361
東側諸国からの地金輸入量
491
515
534
597
669
471
249
233
米国の備蓄放出量
60
56
36
18
7
32
29
35
西側世界の需給バランス
17
-250
-44
67
203
-249
-321
-437
世界の鉱山生産量
3,099
3,133
3,309
3,510
9,579
9,793
9,978
10,423
世界の地金生産量
6,748
6,955
7,600
7,885
9,868
10,360
10,267
10,707
世界の地金消費量
6,825
7,262
7,664
7,848
9,844
10,657
10,677
11,192

〈鉛需給の2006年の展望〉
 2006年における、世界の鉛地金消費は2.4%増の7,848千tで、鉱山生産は6.1%増の3,510千t、鉛地金生産は3.8%増の7,885千tの生産が見込まれることから、2006年の西側諸国における鉛地金需給は、67千tの供給超過が予測されている。需要増加の主な要因として、中国の消費は6.9%増が予想され、更に、インド、メキシコ、台湾、タイ、トルコにおける消費増加が予測されている。欧米の消費は変動なしとの見込み。鉱山生産においては、豪州の生産量がIvernia’s Magellan鉱山生産が寄与し10.5%伸びるほか、アイルランド、ロシアの鉱山生産増加、ギリシャの鉱山生産再開、中国の開発が貢献、鉛地金生産に関しては、中国が6.6%増、更にカザフスタン、インドが強い増加要因である他、カナダの生産回復があるとの報告がなされた。
 また、2006年の中国の鉛精鉱輸入は、ほぼ前年同の概ね580千t、鉛地金輸出は490千tへ拡大の見通し。

図1 世界の亜鉛生産と消費量の推移
図2 西側世界の亜鉛需給バランス

 尚、研究会で鉛需給に関して報告された主要国の世界シェア及び精錬所の閉鎖事例は以下のとおり。

表2. 2006年鉛鉱山生産・地金生産・地金消費主要国の世界シェア
 
鉛地金消費
鉛鉱山生産
鉛地金生産
1
中国
26%
1
中国
31%
1
中国
32%
2
米国
20%
2
豪州
23%
2
米国
16%
3
ドイツ
5%
3
米国
12%
3
ドイツ
5%
その他
49%
4
ペルー 9% その他
47%
その他 25%

表3. 最近の主要な鉛精錬所の閉鎖事例
精錬所名 所在国 閉鎖時期 生産能力
Cockle Creek 豪州 2003年9月
48,000t
Noyelles Godault 2003年1月
190,000t
Titov Veles マケドニア 2003年6月
35,000t
Northfleet(一部) 英国 2003年12月
70,000t
Glover 米国 2003年11月
125,000t
Sudamin 2005年2月
35,000t

〈亜鉛需給の2006年の展望〉
 2006年における、世界の亜鉛地金消費は4.8%増の11,192千tで、鉱山生産は4.5%増の10,423千t、亜鉛地金生産は4.3%増の10,707千tが見込まれることから、2006年の西側諸国における亜鉛地金需給は、437千tの供給不足が予測されている。消費増加の主な要因として、アジア諸国の増加(中国7.3%増、インド9.1%増、日本4.5%増、韓国4.4%増)や米国の消費も復活に向かっていること(11.4%増)があげられる。また、欧州では、フィンランド、ドイツ、ポーランド、ロシア、スペイン、フランス、イタリアにおいて1.4%の増加が見込まれる。鉱山生産増加における主な要因として、豪州の生産が8.9%増、インドは10%増の他、欧州の伸びが高いと予測。また、亜鉛地金生産の増加においては、新規大型リファイナリーによる生産が中国及びインドで開始されることから、中国(8.6%増)、インド(44%増)の増産が主な要因であるが、ほかに豪州、ベルギー、カナダ、カザフスタン、韓国及びオランダでの生産増加が貢献しているとの報告がなされた。
 また、中国は、2001年に亜鉛精鉱輸入国に転じた以降、2006年も300千t程度の精鉱輸入が見込まれるとともに、亜鉛地金も2004年に輸入国に転じ、2006年には285千tに拡大する見込み。

図3 世界の亜鉛生産・消費量の推移
図4 西世界の亜鉛需給バランス

尚、研究会で亜鉛需給に関して報告された主要国の世界シェアは以下のとおり。

  亜鉛地金消費
亜鉛鉱山生産
亜鉛地金生産
1
中国
29%
1
中国
 25%
1
中国
  28%
2
米国
11%
2
豪州
14%
2
米国
8%
3
日本
6%
3
ペルー
12%
3
日本
6%
その他
54%
その他
49%
3
韓国
6%
その他
52%

2. 経済環境委員会

 本委員会では、環境・経済問題に関する活動について、2005年の実績と今後の事業計画の説明が行われ、以下のような専門家による鉛亜鉛に対する環境規制関係等についてのプレゼンテーションがなされた。
(1) 国際鉛管理センター(ILCM)のBrian Wilson氏より『Basel ULAB Project』について
 講演が行われた。
 開発途上国における環境面で健全な鉛使用の開発プロジェクトとして、中南米、コロンビア、ベネズエラ及びカリブ諸島における総合的リサイクルのための閉じたループシステムを構築するため、環境に健全な使用済み鉛蓄電池(ULAB)のリサイクルを目指すプログラムについて報告がなされた。
 
(2) 国際亜鉛協会(IZA)のJohan Van Wesemael氏より、国連一次産品共通基金のプロジェクトについて報告された。
 中国における溶融亜鉛めっき産業と需要の推進及び技術移転(新規プロジェクト)、熱帯及び海洋環境における亜鉛めっきされた亜鉛合金鉄筋の使用(2003年終了)等について説明があった。
 
(3) 国際カドミウム協会(ICdA)のLidia Regoli氏より、『化学物質安全性政府間フォ
 ーラム(Intergovernmental Forum on Chemicals Safety、IFCS)が提唱する、世界的な重金属(水銀、カドミウム、鉛)の排出を軽減するプログラム』についての説明が行われた。
 ここでは、熱伝導率が高く、NiCd電池、錆び止め、顔料が主な用途であるカドミウム生産は、欧州では減少が見られるが、アジア地域及び北米での生産が増加していること、現在、既存の環境規制には重複がみられ、排出量は減少していること等が指摘された。
 
(4) 国際亜鉛協会(IZA) Rey Sempels氏より、『亜鉛のリスクアセスメント』についての状況報告がなされた。
 
(5) 国際鉛開発協会(LDAI)所長のDavid Wilson氏より以下の報告がなされた。

  『欧州における鉛の自主的リスクアセスメント(VRAL)』最終報告書がOECDへ提出される予定で、今後は産業界主導のリスク管理が行われる予定。
  『バッテリー指令改正案』は、第二読会の報告と改正案の最終的な採択は2006年の夏が見込まれている。
  『Green Lead イニシアチブ』の現状。
  米国金属産業界の米国環境保護局(EPA)を相手とした、有害物質放出量一覧規則に対する訴訟について。

 

3. 産業アドバイザリーパネル(IAP)

 産業界のメンバーにより、鉛及び亜鉛市場の現状と市場成長に関する事項、政策に関する課題が討議された。
 本委員会では、以下のプレゼンテーションが行われた。
(1) 三井金属鉱業(株)の服部氏より『日本及び東アジアにおける鉛・亜鉛の市場』についての講演が行われた。
 現在の日本における鉛・亜鉛事業のトレンド及び東アジア(特に中国)が市場へもたらす影響と精鉱不足についての説明がなされた。
(2) 中国における鉛・亜鉛産業開発状況について中国の金属情報機関である安泰科社(Antaike)のTang Wunjun氏から『Healthy Trend for China Pb/Zn Industry』についての講演がなされ、中国における鉛・亜鉛の生産、消費、貿易、価格、市場における規制の変化について説明がなされた。

4. その他

 次回の国際鉛亜鉛研究会は2006年10月2日の週にリスボンで開催されることが合意された。
 

Ⅱ. 3研究会合同環境経済委員会の概要

 本委員会では、非鉄金属産業を取り巻く環境問題について、専門家から以下のプレゼンテーションが行われた。
(1) 欧州非鉄金属ロビー団体Eurometaux(欧州金属連合)事務局長Guy Thiran氏より、Eurometauxの活動内容、3研究会が共に関心を有するREACH規制案、総合的汚染防止管理のIPPC指令改正案、大気、土壌、水質におけるEU環境戦略(Thematic Strategy on Environment)の説明がなされた。
 
(2) JOGMECの國友氏から『日本のリサイクル政策と非鉄金属業界に与える影響』と題し、世界でも先進的な日本の家電リサイクル法と自動車リサイクル法の現状についてのプレゼンテーションを行った。
 
(3) 国際リサイクリング協会(Bureau of International Recycling)のRoss Bartley氏より、スクラップ輸出に関する原料問題についての講演があった。
 
(4) UNCTAD(国連貿易開発会議)の鉱業及び金属開発における活動について、UNCTAD事務局代表者のAlexi Mojarov氏より、UNCTADが実施している、開発途上国における持続可能な鉱物資源管理促進プログラムの紹介(モザンビークにて、2006年4月に行われたワークショップ‘Integrated Resources Planning: Fostering Minerals Cluster’や英国のUniversity of Dundeeとの共同プログラム等)や同機関が実施しているベースメタルの情報データベース等の紹介がなされた。
 
(5) 中国非鉄金属産業協会のKang Yi氏より中国における鉛、亜鉛、ニッケル、銅産業の発展についての講演がなされた。
 
(6) 国際金属・鉱業評議会(ICMM)のBen Davies氏より、世界中で実施されているライフサイクル分析(LCA)について、EUは2005年からLCAデータに関する情報交換とコミュニケーションを容易にするためのプロジェクトを3年計画で実施しているとの報告が行われた。

 最後にパネルディスカッションにおいて、現在のコモディティー価格高騰が産業界に与えるインパクトについて議論され、IWCC(国際銅加工業者協会)のPayton氏は、3研究会に対し、今までのような金属を巡る環境規制のほかに、これからはコモディティーの価格のような経済的な懸念も重要事項として取り扱うことや、今後は、こうした点の経済分析、調査等を行うべきとの提案があり、同氏の提案は加盟国(チリ、中国等)からも賛同を得た。

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