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報告書&レポート

2006年6月22日 ロンドン事務所 嘉村 潤 e-mail:mric@jogmec.go.jp
2006年41号

Mining Journal社「Platinum & Palladium Day」

 Mining Journal社が主催する「20:20 Investor series」と称されるセミナーシリーズの一環として、「Platinum & Palladium Day」が5月16日にロンドンで開催された。同シリーズは主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国ごとのテーマにより、年間4、5回程度、随時、開催されている。個々のセミナーの共通テーマは、金属の需給・価格動向、各国の鉱業法規、探鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。今回のセミナーにおいては、プラチナとパラジウムにスポットを当て、需給・価格動向に関する講演が1件、鉱山企業による自社プロジェクトの概況についての講演が7件行われた。以下その概要を報告する。

1. プラチナとパラジウム市場の展望-Johnson Matthey 社 (英) (Mr. Jeremy S. Coombes,General Manager) -
   
 講演者のCoombes氏は、現在、白金族金属(Platinum Group Metals、以下「PGM」)市場における開発を主に担当。1987年の同社入社以前は、世界最大のプラチナ生産会社、Rustenburg Platinum Mines (現Anglo Platinum Limited、南ア)に勤務。
 講演は、Johnson Matthey社が毎年発行し、PGMの需給をレビューする「Platinum 2006」をもとに行われた。
(1) プラチナの需給:
 これによると、2005年のプラチナの需要は2%増加し、670万ozであった。プラチナ需要の主な内訳としては、自動車触媒需要が33万oz増加し、過去最高の382万oz(リサイクル分77万ozを含む)となった。増加の主な要因は、欧州における排ガス規制強化と小型ディーゼル車の煤煙フィルター使用の増加によるものである。宝飾用需要は、20万oz減少(9%減少)し、196万ozとなった。これは、高価格による在庫削減と古い宝飾品からのリサイクル量の増加によるもので、特に中国の宝飾需要は、過去7年間で最低のレベルとなった。工業用需要は、9%増加し、167.5万ozとなった。これは、アジアのLCDガラス製造能力の増強、電機産業におけるハードディスクへの使用増加によるものである。
 2005年のプラチナの供給は、14万oz増加(2%増加)し、663万ozとなった。これは、南ア、ロシア、ジンバブエからの供給が増加、南アは計画より少ない2%増の511万ozで、北米は減少した。
展望:
 今後の展望として、プラチナの2006年における自動車触媒需要は、4百万ozを超えるのは確実。長期的展望としては、自動車触媒需要の好調さからして、この状況は持続するものと予測される。宝飾関係は比較的予測しにくいが、中国の経済、婚礼マーケットに関連する需要などに期待をしたい。
 今後6か月のプラチナ価格はUS$1,250に達する可能性があり、下限としては、最終需要が堅調であることからUS$1,025と予測している。
(2) パラジウムの需給
 2005年のパラジウム需要は、7%増加し、704万ozとなった。これは、ほとんどが宝飾用需要の大幅な増加によるものである。主な内訳として、宝飾用需要は、特に中国市場における急増により54%増加し、143万ozとなった。自動車触媒需要は、自動車メーカーの使用増加の一方、ガソリン車における平均使用量が減少したことで、僅かな増加に止まり、381万oz(リサイクル分63万ozを含む)であった。電子製品向け需要は、5%増加し、96.5万ozであった。
 2005年のパラジウム供給は、ロシアからの売却減少、南アによる増産が北米の減産を相殺できなかったことにより、2%減の839万ozとなった。
展望:
 パラジウムに関しての展望としては、引き続き好調と言える。特に自動車産業の需要は、欧州以外で増加しそうである。宝飾関係については、あまり確実な予測はできないが、購買力が急速に伸びる可能性は少ないだろう。しかし、今後パラジウムの主要部門となるのが中国。パラジウムの将来は中国がどのようにそれを商品として扱い、マーケットに結びつけていくかにかかっている。
 パラジウム価格については、投機資金流用が続けば、今後6か月間にUS$420に達する可能性があり、下限はUS$260と予測している。

2. Consolidated Puma Minerals Corp(加)(Mr. Mark Ward, Vice President of Exploration)
 
 Consolidated Puma Minerals社は、比較的小規模なバンクーバーを本拠地とするカナダの企業。Bema Gold Corporation(金の生産を主に行うカナダの中小企業で、ロシア、チリ、南アで開発を実施)の子会社で、Bema Gold社が同社の40%、17.9万株を所有。現在の主なPGMの探鉱活動は、北西ロシアのコラ半島に位置するKuksha鉱区で行っている。同鉱区は、East Pansky鉱区と隣接し、Barrick Gold社のFederova Tundra PGM探鉱プロジェクトの東側に位置する。
 2005年の活動としては、コラ半島内のEast Chuarviにおける詳細なボーリングで、合計約14,500m、76孔の掘削を完了。これまでの調査では、Pt: Pd比率が1:2.2、初期の金属回収率が85%以上と良好な結果が得られている。豊富で高品位、連続性のある鉱化が確認された。East Pansky鉱区は、世界中のPGM生産(南アのBushveldコンプレックス、米国のStillwaterコンプレックス)で見られるLayered Intrusion(層状火成複合岩体)タイプである。
 同社は、2005年の終わりに、123万C$を資金調達。2006年は現在調査進行中のEast Chuarviとその隣接する地域の積極的なボーリング作業を継続する予定。

3. Platinum Australia Ltd(豪) (Mr. John Lewins, Managing Director)

 Platinum Australia社は、現在活発にPGMのプロジェクトを南アと豪州で行っている会社の一つ。南アにおいて、現在Smokey Hills PGMプロジェクトのバンカブルFSを実施。他にSally Malay Mining社と共同で、PantonプロジェクトのFSの実施も決定。2つのFS調査は、2006年の半ばに終了予定。今後の展望として、すべてのプロジェクトが計画通りに進めば、同社の今後5年間の4E PGM(Pt, Pd, Rh, Au)生産量は、年間で最大25万ozになると予測。
 現在、主に2つのPGMプロジェクトを南アBushveld複合岩体(Igneous Complex -Bushveld複合岩体には、UG2層とMerensky Reefという二つのPGM主要鉱床が確認されており、この地層から世界のプラチナの70%以上が供給されている。以下、「Bushveld」)で実施中。
(1) Smokey Hills PGMプロジェクト
 Steelpoortの北西13km、Bushveld のEastern Limbにあり、初期は露天採掘で、その後は坑内採掘を計画。4km南に隣接するModikwaプラチナ鉱山で採用された方法と同じ採掘方法を採用する予定。生産予測としては、4E PGM(Pt, Pd, Rh, Au)合計品位5.0g/t、回収率 82.5%、4EPGMを年間最大95,000oz生産する予定。今後の開発対象として考えられるのがModikwa ground地域。
(2) Kalahari PGM(Kalplats)プロジェクト
 Kalplatsは、南ア北部の小さな農業コミュニティーStellaの北25km、Kraaipanグリーンストーンベルト内の西部n/s Striking (Stella)ベルトに位置する。鉱床は、30億年前のグリーンストーン内に胚胎し、最近まで認識されていなかったタイプのPGM鉱床である。地質ポテンシャル調査では、3E PGM(Pt, Pd, Au)合計品位3.5g/t以上の鉱脈があり、3E PGMを年間最大で19万oz生産可能とされている。BEE(Black Economic Empowerment政策: 2004年に施行された南ア新鉱業法による黒人への経済的権限委譲。以下、BEE)会社のAfrican Rainbow Minerals Platinum 社(旧Avmin社)と正式なJVを行うことが決定し、プロジェクトの権益シェアを49%まで既に売却している。
 

4. Stillwater Mining Company(米) (Mr. Frank McAllister, Chairman & CEO)

 Stillwater Mining社は、24年の開発・生産実績がある米国唯一のパラジウムとプラチナの生産者であり、南アとロシア以外では最も重要なPGMの供給源である。同社が保有するパラジウムとプラチナの確定・推定埋蔵量は24.1百万ozを超え、世界で最もパラジウムの埋蔵が豊富で知られているJ-M Reef(Johns-Manville Reef)を保有する。現在では、モンタナ州中南部の2つの坑内掘り鉱山で事業を実施しており、この2つの鉱山による年間のPGM生産量は、パラジウム、プラチナ合計で60万ozを超える。
 今年度の目標としては、引き続き活発な自動車産業向けの触媒需要対応に力を入れていく方針。PGMは今後3年で需要増大が予想されるため、供給を合理的に伸ばすために、生産方法を改良していく必要がある。例えば、現在、Stillwater鉱山において、資本や労働力にかかるコスト削減に力を入れており、2006年のキャッシュコストの目標は、US$280/oz(2005年US$314/oz)としている。
 同社は、パラジウムの宝飾需要を、2003年(5.5万oz)、2004年(71万oz)、2005年に120万ozとしており、2006年には130万ozと更に増加するものと捉えている。

 
5. North American Palladium Ltd.(加)(Mr. Ian MacNeily, Vice President, Finance & CFO)

  North American Palladium社(以下、NAP社)は、カナダで唯一のパラジウム生産主体の会社。同社のLac des Iles露天掘り鉱山は、オンタリオ州の北部Thunder Bay市の北西85kmに位置し、パラジウム、プラチナ、金、銅、ニッケル等を生産する。
  2004年に実施されたFSで、地下採掘の実行可能性が確認され、地下採掘と露天採掘の統合により、今後、生産量の大幅増加が見込まれている。初期段階の地下採掘設備は現在建設中。2006年第1四半期の発表では、前年同期比で総収入は20%増加しており、これは商品価格の高騰によるもの。Lac des Ilesの探鉱、フライス加工装置導入の他、カナダまたは海外における貴金属、卑金属の探鉱を積極的に行うことによって、生産量の増加を見込んでいる。
  今後の展望としては、パラジウムの需要は楽観的。その理由に、米国、欧州、日本における排ガス規制強化と、ディーゼル車煤煙フィルターなどによる新しい規則の導入、さらに、中国における宝飾関連の需要が過去2年で120万oz、4倍に増加したこと等があげられる。パラジウムはプラチナと類似した金属だが、プラチナに比べ製造業者や小売業者にとって、かなり低めの調達コストですむことが利点。小売マージンは63%、それに比べプラチナは12%となっている。
  NAP社が現在集中的に行っている事業は、主にカナダにおけるJVとフィンランドにおけるArctic PGMプロジェクト(Arctic Platinum Project - APP)である。
(1) カナダにおけるJV
・Shakespeareプロジェクト(URSA Major社とのJV、Sudbury、オンタリオ州)
 今年1月に終了したFSによると、推定埋蔵量1,130万t、品位 は、0.33% Ni, 0.35% Cu, 0.02% Co, 0.33g/t Pt, 0.37g/t Pd, 0.19g/t Au
・Inco社とのJV(オンタリオ州)
 Shebandowan鉱山周辺のニッケル、銅、PGMプロジェクト
・Tyco(オンタリオ州)におけるJV
 ニッケル、銅、PGMプロジェクト
(2) Arctic Platinum プロジェクト(AAP)
・フィンランドの北西に位置するGold Fields社とのJVで、ボーリング調査を今年の2月に開始し、現在も進行中であるが、かなりの埋蔵量が予想されている。NAP社がオペレーターを実施。
・NAP社シェア50%が保障されており、状況により最大60%までシェアを上げる可能性あり。

6. Eland Platinum Holdings Ltd(南ア) (Dr. David Salter, Managing Director)

  Eland Platinum Holdings社は、PGMの長期的需要を見込み、BEEによる鉱業権の分配を受けるために2005年に設立された新しい鉱山会社。BushveldにおけるPGM事業を専門に実施。2006年3月にヨハネスブルグ株式市場(JSE)に上場したばかり。長期的には、買収・JV等によって、PGM生産で世界第5位に位置することが目標。
  主な資産は、Eland Platinum Mine社の65%シェア。Eland Platinum Mine社は、Anglo Platinumの完全子会社であるRustenburn Platinum Mines社のElandsfontein Platinum プロジェクトを獲得した会社。26%の資本シェアと管理職を含む従業員40%以上を黒人が占めなければならないというBEE基準を満たした、BEE企業である。
  同社における初めてのプロジェクトでもある、Elandsfontein PGMプロジェクトは、南アの北西州ブリッツタウンの近くにあり、ヨハネスブルグ、プレトリアの双方から70kmの地点に位置し、BushveldのWeatern Limb東側、Elandsfonteinの440JQエリアが対象である。
  同プロジェクトを3年間フル稼働させるためには、10億ランドの財源が必要になる。バンカブルFSが終了間近。ボーリング55孔中、51孔が掘削終了。鉱山ライフは33年を超えると予測。4E (Pt、Pd、Rh、Au)PGMで年間28万ozの採掘を行う予定。
  同プロジェクトが開発対象とするElandsfonteinのUG2層は、4E PGM(Pt:63.9%、Pd:25.3%、Rh:10.1%、Au:0.7%)が確認されている。
  FSでの採掘コストは、露天採掘1t当たり270ランド、坑内採掘1t当たり253ランド。精鉱の買取先確保は、Anglo Platinum社との共同作業。2007年第1四半期までに当初露天採掘により生産を開始する予定。

7. Wesizwe Platinum Ltd.(南ア) (Mr. Mike Solomon, Chief Executive Officer)

  Wesizwe Platinum社は、ヨハネスブルグ株式市場(JSE)に、2005年12月に上場され、更に、ロンドンのAIM (Alternative Investment Market)に、資金調達のため、近々上場予定。また、Bakubung-Ba-Ratheo地域の社会開発に貢献することも目的の一つとしたBEEプラチナ探鉱会社である。
  プラチナ探鉱は、BushveldのWeatern Limbにおいて進行中で、15か月間のボーリング調査で、鉱物資源量68.756百万t、4E(Pt, Pd, Rh, Au)PGM合計品位は5.04g/t、 4E PGM金属量合計は 11.223百万ozであり、そのうち、同社のシェア所有分は6,886万oz。現在の主な探鉱は、南アの北西地域のRustenburg市の近傍(Impala Platinum社とRustenburg Platinum Mines社の製錬所近く)で行われている。
  積極的な掘削作業が実施され、よい結果を生み出している。最近の業績としては、5,000mの追加掘削作業の後、42.3万ozが同社の新たな資源量として追加された。
  その他、Bushveld内に、Amplats社他とのJV探鉱プロジェクトを4つ保有している。今後は、Bushveld以外の地域をターゲットとし、PGM以外の鉱種なども事業に取り入れていく予定。

8. Ridge Mining plc.(英) (Mr. Francis Johnstone, Commercial Director)

  Ashanti Goldfields 社によるCluff Recources社の買収で1996年に設立。AIM上場のPGMの探鉱を専門とする会社で、現在、Blue Ridge 及びSheba’s Ridgeの2つの開発段階のプロジェクトがBushveldのEastern Limbで行われている。同社は、旧Lonmin/Anglo Platinum社とのJVにより、Bushveldにいくつかの初期段階の探鉱プロジェクト(Fountain Ridge, Red Bush Ridge, Western Ridge)を所有する。
(1) Blue Ridge
 バンカブルFS終了。4E PGM(Pt, Pd, Rh, Au)を年間125,000oz(うちプラチナ75,000oz、パラジウム35,000oz)生産する予定。同社がプロジェクトの100%の権益を所有。鉱山ライフは18年。
(2) Sheba’s Ridge
  大規模で低コストの露天採掘による開発を予定。鉱山ライフは18年。年間18百万tの鉱石を処理し、年間60万tの精鉱が生産される予定。プレFSにおける生産計画は、年間でニッケル23,900t、3PGE(Pt, Pd, Rh)+Au 39万oz、銅12,000t。バンカブルFSは2007年末に終了予定。売り上げは年間150万US$以上。資本コストは690万US$。

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