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報告書&レポート

2006年7月6日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年45号

ペルー・鉱業ロイヤルティを巡る最近の動き

 ペルーでは、先の大統領決戦投票の結果、中道左派の元大統領ガルシア候補が、資源の国家管理強化などを訴えたウマラ候補に逆転勝利したことで、鉱業関係者に安堵の空気が広がっているが、一方で、最近、ペルー国税庁(SUNAT)より、2005年の鉱業ロイヤルティ納付状況が発表され、税の安定化契約を盾に鉱業ロイヤルティを支払わない企業が存在していることが明らかになったことを受け、鉱業ロイヤルティの徴収を税安定化契約下にある企業も含めるべきとの議論が急速に高まっている。本稿では、この問題について、ロムロ・ムーチョエネルギー鉱山省次官に直接聴取する機会を得たので、その内容を報告する。

1. 鉱業ロイヤルティ制度を巡る経緯

 ペルーでは、2004年6月に、鉱業ロイヤルティ法が公布され(施行細則は同年11 月に公布)、これにより2005年2月より徴収を開始した(なお、徴収対象は、本法が成立した2004 年6 月以降に遡及)。当初は、税安定化契約下(*)にある企業は、その契約期間中は鉱業ロイヤルティの徴収は免れるとの認識が大勢であった。しかしながら、2005年4月、ペルー・憲法裁判所長官が、鉱業ロイヤルティは、鉱物資源の採掘に対する国への対価であり、税ではないとして、この認識の再考を促すとともに、その適用範囲の決定を政府(経済財務省、国税庁、エネルギー鉱山省)に求める発言をしたことで、鉱業ロイヤルティを巡り新たな騒動、混乱が発生した。
 これに対し、サンチャス・エネルギー鉱山大臣は、税の安定化契約を締結しているプロジェクトの大多数が、「あらゆる新たな金銭的徴収を免れる」という契約内容となっていることを根拠に、本安定化契約を締結しているプロジェクトは契約に明記されている期間中、鉱業ロイヤルティは免除されるとの見解を改めて示した。但し、最終的に判断するのは経済財務省とし、問題解決を経済財務省に委ねる発言をしたが、その後、政府による鉱業ロイヤルティの適用範囲の結論が明確化しない状態のまま、現在に至っている。
 
(*)税の安定化契約は、プロジェクト経済性評価の基礎となる税率が、一定期間中に変動しないことを保障した制度。ペルーではフジモリ政権下に数多くの鉱山開発プロジェクトに対し、10年~15年の税の安定化契約が結ばれている。なお、ほとんどの契約が、税だけではなく、すべての金銭的徴収を免れる内容となっているとされる。

2. 鉱業ロイヤルティを巡る最近の動き

 2006年5月、ペルー国税庁(SUNAT)は、ペルー国内の鉱山会社174社のうち、鉱業ロイヤルティの申告・納付を行っている企業は66社に留まっていることを発表した。また、174社のうち、15社が税安定化契約を結んでいるが、このうち、10社が同契約を理由にロイヤルティを納付しておらず、さらに、安定化契約を有せず活動中の33社について未納付となっている実態も明らかになった。また、2005年2月から2006年4月までに支払われた鉱業ロイヤルティの総額は約1億$で、このうち、約半分がSouthern Copper 社(ペルー最大の産銅企業)によるものとしている。

ペルー鉱山会社と税安定化契約
鉱山会社合計174社
税安定化契約有り
税安定化契約無し
納付済
未納付
合計
納付済
未納付
合計
5社
10社
15社
61社
65社 (操業鉱山なし)
33社 (活動中)
159社

   * 税安定化契約を理由に未納付の企業は以下の10社。
     BHB Billiton、Antamina、 Milpo、 Santa Luisa、Sipan、Doe Run、Los Quenuales、Barrick Misquichilca、
     Yanachocha、Cerro Verde
 
 この実態を受け、ロイヤルティ適用範囲を明確化すべきとの機運が急速に高まり、6月8日、国会は、鉱業ロイヤルティの徴収・監査・罰則に関する国税庁の権限を強化し、さらに、税安定化契約を締結している企業を含めた全企業へ鉱業ロイヤルティ徴収を求める内容の法案を可決した(**)。国会は行政府に対して、本法案が大統領によって承認され、発令されることを要求しており、今後の政府の対応に注目が集まっている。これに対して、ペルー鉱業協会のデル ソラール会長は、この法案は外国投資を減退させるものだとし、「全ての企業を対象」とする部分を削除するべきだと主張している。また、ペルー経団連ホセ ミゲル・モラレス会長も、政府が法案の見直しを行い、国会に差し戻すことを求めている。
 
(**)本法案の内、すべての企業からロイヤルティ徴収を求める内容の条文については、アプラ党のホセ・ベラスコ カバラ国会議員が中心となって働きかけ追加したものと言われる。6月8日の可決後、一部議員による再検討(reconsiderracion)の申し出により、再度審議が行われが、6月28日深夜に再可決となった。
 

3. エネルギー鉱山次官の見解

 6月21日、JOGMECリマ事務所は、ロムロ・ムーチョエネルギー鉱山省鉱山次官に面談する機会を得、今回の国会による法案可決の事実関係と今後の政府の対応について直接聴取することができた。同鉱山次官の発言内容は以下のとおり。
・国会が税安定化契約の有無にかかわらず、全ての企業が鉱業ロイヤルティを支払い、国税庁がこれを徴収、監査するという内容の法案を可決したことは事実である。
・政府としては、ペルーは法治国家であり、企業との契約は、憲法のようなものであり、すべての法案より重く、これを遵守すべきとの基本的立場から、本法案を承認する考えはない(エネルギー鉱山省の見解は、前述のとおり、税の安定化契約締結のプロジェクトについては、すべての追加的な金銭的徴収を免れる契約内容となっており、ロイヤルティの支払いは免除されるとの判断。なお、経済財務省も同一の見解)。
・現在、金属価格が歴史的な高水準であるため、企業に対し、追加的な課税を求める声が大きくなっているが、金属価格は変動するものであり、一時的な現象を捕えて、契約内容を変えるのは好ましくないし、もし、本法案が政府によって承認されれば、ペルーの国そのものの信用が失墜し、外国投資が減退していく危険性があり、そのような考え方には断固反対していく。
・国会がこの法案に固執(insistencia)し、一方的に発令することになれば、法的な論争になる可能性があるが、最終的には憲法裁判所は本法案を違憲とする判断を下すだろう。(これは、ペルーでは、大統領が法案に対し異議があった場合、法案は国会に差し戻され、再度審議されることになっているが、再審議の結果、国会が法案に固執した場合、大統領の承認なしでも法律として発令できることを念頭に入れた発言)。
・なお、エネルギー鉱山省としては、税安定化契約下にある企業でも、自発的に鉱業ロイヤルティを支払う企業は、歓迎するという立場である。

4. 今後の見通し

 今回の鉱業ロイヤルティ徴収を巡る一連の動きは、国が税の安定化契約下にある企業への徴収に関する結論を先延ばしにし、適切な対応を怠ってきたことが大きな要因となっている。国税庁に鉱業ロイヤルティの徴収・監査権限を委ねることに関しては、業界も容認しており、争点にはなっていないが、税安定化契約下にある企業に対する徴収を義務化する点については、政府(特に、エネルギー鉱山省)や業界などが一斉に反発している。今回の鉱山次官の発言から、本法案については、トレド大統領は異議を申し立て、国会に差し戻され、再審議となる公算が強い。但し、政府、国会議員とも、任期が残りわずかになっている現状(国会の会期は7月13日まで)を踏まえると、現政権内で結論が出る可能性は少なく、7月28日に誕生するガルシア政権に結論が先送りされるものと見られる。ガルシア次期大統領は、ペルー鉱業の発展には、外国投資の促進が不可欠であると表明しており、当面、現政権の鉱業政策を踏襲するとの見方が一般的である(また、ガルシア氏が党首となっているアプラ党も一枚岩ではなく、本法案についてもアプラ党の国会議員29名のうち、賛成したのは4名のみであるという)が、いずれにしても、本問題は、ペルーに対する外国投資の行方を左右しかねない重要かつ関心のあるテーマだけに、今後のペルー政府の対応が注目される。
 
(参考)鉱業ロイヤルティ法の概要
(1) 定義
 鉱業権者が鉱物資源の採掘に対する対価として、国に納付するもの。
 
(2) 課税率
 年間の総生産精鉱価格(あるいはこれと同等)に応じ、精鉱価格の1~3%(国際金属価格に基づき毎月算定)。国際価格のない鉱物の場合は、一律1%。
・総精鉱価格 60百万$以下:1% *但し小規模零細企業は除外
・総精鉱価格 60~120百万$:2%
・総精鉱価格 120百万$以上:3%
 競争力のある大規模鉱山(一般に外資系)からの徴収額を増やし、競争力に欠ける中規模鉱山(一般に地元系)からの徴収額を押さえる意図がある。
(3) 税収配分
・ロイヤルティは、鉱業権者が毎月算定し、所定の期間内に支払い、徴収された収入は支払締切日から30日以内に下記の配分先に配布
・ロイヤルティの配分は、鉱山が位置する地元の地区(district)に20%(内10%は鉱山が位置する町村(community))、郡(province)に20%、県(department)に40%、地方政府(regional government)に15%、残りの5%は地元の国立大学となっている。

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