報告書&レポート
カザフスタンにおける鉱物原料基盤の現状
本稿は、JOGMECアルマティ事務所が2006年5月17日に地質・地下資源利用委員会(カザフスタン共和国エネルギー・鉱物資源省の傘下)を訪問した際に先方から提供された情報をとりまとめたものである。 |
鉱物原料の種類とその現状
・石炭
石炭資源の確定埋蔵量では世界9位と評価されている。国家埋蔵量決算報告書(State Balance)には47炭田と石炭賦存地域が登録されている。石炭は主にカザフスタンの中央部(カラガンダ州-カラガンダ炭田)、北部(パブロダル州-エキバストゥズ炭田)に賦存する。埋蔵量のうち石炭は66.5%、褐炭は33.5%である。カザフスタンの石炭分野で活動している外国企業はBogatyr Access Komir社(米国)とMittal Steel Temirtau社(オランダ)である。その他に2社の合弁会社(カザフスタン・ロシア、カザフスタン・米国・ロシア(Shubarkul露天採掘))がある。現在の生産量は7.3千万t/年以上で、世界のおおよそ10位に位置する。生産量は2010年に9,000万t、2015年に9,500万tまでに増加する計画である。
・金属
(1)銅
銅の埋蔵量では世界8位(確定埋蔵量は4位)に評価されており、90か所の銅鉱床が含まれる。銅の可採鉱量はカザフスタン中部(カラガンダ州)が最も多く、東部(東カザフスタン州)と西部(アクチュベ州)がそれに続く。国家埋蔵量決算報告書では幾つかの大規模の低品位斑岩銅鉱床を含んでいるため、銅原料基盤の品位としては高くない。銅鉱床を採掘している主体企業はKazakhmys社である。銅採掘量ではカザフスタンは世界の9位に位置している。鉱床の採掘方法は、露天掘と坑内掘の両方で行われており、鉱石は二つの製錬所に送られている。銅は主に銅地金として輸出されている。
(2)鉛、亜鉛
鉛、亜鉛の合計埋蔵量では世界4位に評価されており、82か所の鉛鉱床、77か所の亜鉛鉱床を含んでいる。ほとんどの鉛・亜鉛の埋蔵量は複合的鉱床にある。主要鉱床にRudny Altay複合鉱床(硫化鉱・多金属鉱床)があり、ここから全国の鉛・亜鉛採掘量の3分の2以上が生産されている。鉱床は坑内採掘法で採掘されている。鉛・亜鉛鉱床はKazzinc社によって採掘されている。Kazakhmys社も鉛・亜鉛鉱石を副産物として(全国の採掘量の約30%)生産している。主な輸出製品は鉛地金、亜鉛地金及び金・銀である。
(3)ボーキサイト
ボーキサイトの確定埋蔵量では世界9位に評価されており、23か所の鉱床を含んでいる。ボーキサイトの可採埋蔵量はすべてカザフスタン北西部(コスタナイ州)に賦存する。ボーキサイトを採掘している企業はAluminium Kazakhstan社であり、カザフスタンはボーキサイト採掘量では世界9位に位置している。ボーキサイト鉱床は露天採掘法で採掘されている。採掘された鉱石の全部がAluminium Kazakhstan社の所有するアルミニウム工場(Pavlodar Aluminium Plant)に送られている。この工場の主力製品はアルミナで、すべてのアルミナはロシアに輸出されている。現在、カザフスタンではアルミニウム地金は生産されていないが、一次アルミニウムを生産するための工場が建設中である。
(4)コバルト・ニッケル
カザフスタンではコバルト・ニッケル鉱石の埋蔵量も多い。鉱床の特徴は、浅部に位置し軟質で、採掘が容易である。ニッケル原料基盤のポテンシャルは高い。長期にわたった採掘の休止を経て、北西部にあるKaraobinsky、Novo -Shandashinsky鉱床の採掘が再開された。北部のShevchenkovskoye大鉱床、Kundybayskoye大鉱床、東カザフスタン州にあるGornostayevskoye鉱床についても採掘を始める準備が整っている。
(5)タンタル・ニオブ
カザフスタンのタンタル、ニオブ鉱物・原料基盤は、旧ソ連時代の鉱物・原料複合体の一部として開発された。Ulbinsky冶金コンビナートに原料を供給するための必要量の40%は東カザフスタン州の鉱床から採掘された。その鉱床は希少金属ペグマタイトであり、ソ連時代には原料の総合的な回収(タンタル、ニオブ以外にも錫、ベリリウム、リチウム、セシウム、雲母、長石、石英)を経済的に行うことができた。
しかし、カザフスタンが独立して市場経済に移行してからは、同州の鉱床が低品位ゆえ競争力に乏しく、採掘停止に追い込まれた。鉱床の全ては、国家埋蔵量決算報告書に記載されている。現在の選鉱技術では、生産物の価格の方が市場価格よりも高くなる。
高品位のタンタル、ニオブの新鉱床を発見する可能性がある。例えば、北カザフスタンにあるSyrymbet鉱床では五酸化タンタルの品位が60-70g/tある。随伴元素はニオブ、錫、希土類元素である。同じ地域で行われたボーリング調査では、五酸化タンタルの品位が100g/t以上ある風化花崗岩帯を確認している。
(6)タングステン
カザフスタンではタングステンの埋蔵量も多いが、他のタングステン生産国よりも鉱石品位が低い。これらの生産国では三酸化タングステンの品位が0.3-0.6%であるのに対し、カザフスタンの場合は鉱石全体量の約9割が0.13%以下である。そのため、ソ連崩壊後のタングステン鉱石の採掘は、経済合理性がなくなって操業を停止した。
国家埋蔵量決算報告書にはタングステン品位が0.1-0.4%の16か所の鉱床が記載されている。タングステンの主な埋蔵量(91%)はカラガンダ州のストックワーク鉱床にある。このタイプの鉱床の代表はVerkhneye Kayrakty鉱床であり、全国の埋蔵量の約60%に相当するが、低品位(WO3 0.13%)なため採掘は行われていない。現在、採掘されているタングステン鉱床はない。
(7)モリブデン
モリブデン埋蔵量は世界4位である。国家埋蔵量決算報告書にモリブデンが随伴元素となっている40か所の様々なタイプの鉱床が記載されている。可採鉱量の大部分は、複合的タングステン・モリブデン鉱床かモリブデン・斑岩銅鉱床にある。他には、スカルンや脈状タイプ及びモリブデン・ウラン複合鉱床にある。モリブデン埋蔵量の大部分(65%)は中央カザフスタンにあり、銅に随伴するモリブデンが採掘されている。鉱床としては、Kounrad(斑岩銅)、Sayak-1、Tastau(スカルン)、Shatyrkol(銅・モリブデン)、Vostok(モリブデン・ウラン)などが知られている。
(8)希土類元素
希土類元素鉱床として調査が行われたのはAkbulak鉱床だけであり、全希土類元素品位(TRE品位)は0.068%で、カザフスタン北部のコスタナイ州にある。可採鉱量の大部分はマングシラック地域のウラン鉱床(Melovoye、Tomak、Taybogay、Tasmurun)にある。鉱床はユニークな生物収着起源(sorbobiogenic)タイプで、海洋の魚等の骨デトライトに濃縮した漸新世粘土層に鉱化が見られる。鉱床は複合的であり、ウランや希土類元素以外に燐、スカンジウム、硫黄の埋蔵量が評価された。希土類元素は、イットリウムとセリウム群が1:2.9の割合で分布し、全希土類元素の平均品位は0.155-0.204%である。骨濃縮物の全希土類元素の品位は0.6-1.0%まで上がる。鉱床は採掘されてない。
北カザフスタンにある希土類元素のKondybay鉱床では探鉱作業が続けられている。希土類元素の中でも不足気味で高価な、重ランタノイドを含有するユニークな鉱床である。
(9)ベリリウム
ベリリウムは、主にKaraobinskoye希少金属鉱床(石英・グライゼン鉱床)に賦存する(埋蔵量の58%)。また東カザフスタンのペグマタイト鉱床にも賦存する。中央カザフスタンにある脈状タイプのNurataldinskoye鉱床もベリリウム鉱床とされている。Syrymbet錫鉱床ではベリリウムを採掘しており、その鉱床のサンプル分析によればベリリウム平均品位は0.5%である。ベリリウムの主な鉱物はデーナ石(danalite)で、少し緑柱石(beryl)を含んでいる。埋蔵量は未計算である。Karaobinskoye鉱床のベリリウム品位は0.02%、Nurataldinskoye鉱床は0.33%である。
(10)ストロンチウム
ストロンチウムは、セレスタイト(天青石)鉱床が知られており、マンギスタウ州のAurtash鉱床とジャンブル州のTuzkol鉱床の2か所がある。
(11)バナジウム
バナジウムは、マンギスタウ州のガス油田地帯、コスタナイ州のボーキサイト鉱床において随伴元素として賦存する他、カザフスタン南部のバナジウム含有スレート鉱床(Bala-Sauskandykその他)があるが、埋蔵量は非可採ベースとなっている。
(12)その他金属
国家埋蔵量決算報告書にセレン、テルル、ゲルマニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ビスマス、ハフニウム、スカンジウム、カドミウム、レニウム、オスミウムが記載されている。
希少金属元素の大部分が捨石や低品位鉱石、あるいは尾鉱と共にズリとして廃棄されている。採鉱、選鉱・精錬企業のズリ中に含まれる高価な元素の量は自然鉱床の埋蔵量に匹敵するものである。これらは有価金属を含む2次的鉱物とみなされ、有用元素を回収することができる。
地質・地下資源利用委員会の環境保護課題
地質地下資源利用委員会は、国の鉱物・原料基盤を強化する施策以外に地下資源利用のためのライセンスや契約条件などに関する規則の遂行を管理・監督している。
委員会は次の法規に従っている。地下資源および地下資源利用法、石油法、カザフスタン共和国の鉱物資源・石油ガス・地下水採取時における地下資源保護に関する統一規則、石油・ガス田地帯の開発統一規則等。
地下資源保護規則は、主に環境保護を含む地下資源の合理的、総合的利用に関するものであり、環境汚染は環境保護省の所管事項である。
地下資源利用者に対して鉱物原料の全部を合理的に採掘し、総合的な利用を促すため、法規には以下の基準が加えられた。
・ | 地下資源、有用鉱物を非合理的に利用した(総合的な利用を行わなかった)結果、国に損害を与えた場合の責任 | |
・ | 国家埋蔵量決算報告書に記載されている一次選鉱データに基づく埋蔵量の修正の禁止 | |
・ | 州の環境保護遂行機関の承認や環境保護省の許可に基づく、事故、ボーリング試験あるいは鉱床の採掘試験以外における随伴ガスの燃焼の禁止(承認・許可の取得から3年間) | |
・ | 地下資源利用者は世界的標準を考慮して鉱物原料の一次選鉱技術を向上させ、あるいは導入し、総合的利用規則に見合う国内で生産された設備、材料、製品を使用すると共に、共同作業にカザフスタン企業を参加させる義務がある。 |
鉱業発展の計画
カザフスタン経済にとって、有用鉱物資源の調査開発を行う企業を鉱物・原料複合企業体として構成、発展させることは、今後重要である。
カザフスタンの資源産業は、国の鉱物・原料複合体の発展と国家経済安全保障に寄与している。
地質・地下資源利用委員会は、将来的に国の鉱物・原料複合体を発展させるために「2030年までの長期戦略-鉱物・原料複合体の資源基地の発展-」を作成した。その戦略を実施するために、「2003-10年中期プログラム」が作成されており、これを遂行中である。国家予算によって、縮尺20万分の1(GDP-200)の地質図の作成作業が行われている。この作業の主な目的は、新世代地質情報の整備であり、それはカザフスタンにとって重要な鉱業地域で新鉱床を発見するための基礎的な資料となる。カザフスタンが独立してから、すでに50万km2以上の範囲でそのための地質調査が行われた。
2002年からは国家予算で、地質・地下資源利用委員会がフィールド調査・評価作業を開始した。その結果、いくつかの有望地域で、金16.9t、銅44.48万t、鉛7.83万t、亜鉛23.73万t、銀396.4t、錫3.6千t、その他の希少金属の埋蔵量を増やした。
現在国内外の企業は自己資金で探鉱を行っており、確認された鉱物・原料基盤で大企業は20年間、特定の企業については40年間以上にわたって持続的な採掘活動が可能となっている。
鉱物原料の採掘と選鉱は民間企業によって行われている。この分野における国の政策は、企業がライセンスや契約の条件、鉱業法規を順守するよう管理することである。実施されている国の「工業・革新発展戦略」では、冶金産業の企業が鉱物原料からもっと多種類の製品(加工品)を生産することを課題としている。
国益のために、鉱業政策だけではなく、税特典等を利用した経済政策も講じられている。
カザフスタン鉱業の戦略
カザフスタン鉱業の戦略は、日本、インド、中国を含めて世界の鉱物原料市場への投資者をカザフスタンの地下資源開発に参入させることである。そのため、ビジネス投資環境を改善し、投資者には納税、国内の材料や役務の使用義務及び環境保護等を要求する。
外国企業を参加させる際、政府は特に地質調査、有用鉱物の鉱床の調査、多元素を伴う難処理鉱石の選鉱・精錬の新技術を使用させる権限を持っている。現在、カザフスタン鉱業にとって、鉱物原料を効率的に選鉱・精錬して、いろいろな製品(ケーブル、パイプ、その他完成品)を生産する企業を設立させ、この分野をもっと発達させることが重要である。