報告書&レポート
2006年カナダ探鉱・開発協会総会(PDAC)報告

はじめに 今年3月5日から8日までの4日間、カナダのトロント市で第74回カナダ探鉱・開発協会総会(Prospectors and Developers Association of Canada:PDAC 2006)が開催された。最近の銅をはじめとする金属価格の高騰、世界的な探鉱活動の活発化もあり、世界各国から昨年を上回る規模の探鉱関係者が参加し、探鉱活動、ビジネスに関する情報交換等会場内の至る所で行われた。 当機構からも探鉱関連情報の収集のため、本総会に出席したので、その概要を紹介する。 |
1. PDAC総会の概要
PDACは、法人と個人からなる団体でカナダの資源探査部門の利益を保護し、追求すること及びカナダの健全な鉱業活動を確保することを目的とし、1932年3月に設立された。現在では、カナダ国内及び国際的にもハイレベルでの技術、環境、社会活動を実践している。総会は世界で最も重要な鉱業投資の中心地であるトロントで毎年3月に行われる。
総会会場では、探鉱会社や鉱山会社等が出展やプレゼンテーションを行うInvestors Exchangeと企業や各国政府が商品の宣伝や自国や地元への誘致を働きかけるTrade Showに大きく二つに分けられ、参加者による情報交換や交渉等が活発に行われる。また、期間中会場内にあるセミナールーム等で非鉄金属の国際市況や鉱種や国毎の投資環境等をテーマにした講演(Technical session)、探鉱会社等が自社の活動のプレゼンテーション(Exchange forum)、ワークショップ等が行われた。
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2. 2006年のPDAC総会
今回のPDAC総会では約100か国から、約14,500人が集まり、その職種も探鉱開発に関わる銀行、仲介業者、アナリスト、探鉱マネージャー、法律家、会計士、学生、また各国政府関者等官民問わず参加した。参加した会社、団体等は、700にも達した。
Technical sessionでは、個別のテーマ毎に18のセッションが開催された。セッションでは最近の状況を反映して、カナダの投資環境等を説明したセッション(「Canada in the forefront」、「Aboriginal participation in the mineral industry」等)に加えて、中国の需要拡大に伴う需給タイト化、ストライキや自然災害等による供給障害、非鉄金属相場の記録的な高騰を反映したセッション(「各金属の市況と今後の見通し」,「Mining’s back!」等)、ペルー、チリなど中南米を中心とした資源国の投資環境を説明したセッション(「Latin America:Living up to the promise」)等が開催され、その他にも人材不足問題を反映して学生向けに専門家との面談ツアーや個別の各国政府機関が誘致活動のためのプレゼンテーションを行うなど4日間を通して、会場の各所でイベントが開催された。
3. 各金属の市況と今後の見通し
(1) 金属全般について(Victor Flores氏:HSBC社)
最近の金属価格の高騰は、基礎的要因としては、経済面における世界的な強い成長傾向、緩やかなインフレを誘発する環境、需要の増加に対して供給サイドの反応が鈍いこと、各金属の在庫が低いことなどがあげられる。さらに、ヘッジ取引や新しい投資商品として金属に対する関心が高くなることによって、投機的な需要にも拍車をかけている。
今後の見通しとしては、金属を取り巻く環境は2006年から2007年にかけて、金融面から良好な経済状態と投機的関心が続くだろうが、金属によっては価格変動に対して不安定であり、見通しを楽観すべきではない。
(2) 金(Bernard Hunder氏:Scotia Mcled社)
World Gold Councilによると2005年には3,100tの金が生産された。それらのうちETF (Exchange Traded Funds)の対象となったのは約200tのみで、残りの大部分は、中東やアジアでの宝飾品需要であった。金価格は2005年前半は、安定していたが、後半になると上昇し始めた。
アジアの金の宝飾品は、含まれている金の価格に5~10%上乗せされて、18金から22金で販売されている。中東やインドでは、金の宝飾品は、長期的な投資対象として扱われる。金価格が急激に上昇すると、価格の反発を引き起こし、宝飾品の融解を助長する。例えば、宝飾品の販売業者は金価格が500~600US$/ozに上昇すると商品を融解し、金を売却し、店を閉じる。これによって融解された金が市場に放出され、2006年の前半から後半に掛けて、金属価格を下げることになる。このため、2006年の金価格は、478~650US$/ozの間を動き、平均価格は553US$/ozと予測する。
金の宝飾品としての需要と投資対象としての需要は相反するものであり、投機的な需要が金価格の上昇を抑える方向に動く。
(3) 銀(Bruce Away氏:Gold Fields Mineral Services社)
2005年の銀の需要は、製造業に44%、銀食器等も含む宝飾品に32%、写真(写真感光材料用)に18%、コインに4%、投機目的で2%であると推測する。インドでの宝飾品の需要は、2004年と比較して70%も増加したが、銀の価格が8US$/ozに上昇すると需要が急激に落ち込んだ。投機目的で、金の価格が上昇し始めた9月まで需要は安定しなかった。。通常投機目的での銀の需要は、米国以外ではほとんどなかったが、2005年の第4四半期にiShares Silver Trust として知られる投機ファンドのBarclay’s Silver ETFによって需要が増加した。
銀のETFの危険なことは、銀価格が容易に高騰してしまうということである。エレクトロニクス製品の需要は短期においては非弾力的であるが、銀価格が10US$/oz以上になると、エレクトロニクス業界は銀の消費を控えるだろう。また、インドの宝飾品目的の銀需要は8US$/oz以上で低迷するだろう。写真は、デジタルカメラの出現により、1999年以降需要が減少している。エレクトロニクス産業の銀の需要は、一般的な経済停滞から2006年には急激に落ちると考えられる。また、銀の上場投信によって、産業界の銀需要に長期的に損害を与えるが、短中期の視点から見ても、銀の価格に影響を与える。
結論からすると、銀価格の上昇は、長期的に産業界や宝飾品の需要にダメージを与える。
(4) 銅(Orest Wowkodaw氏:BMO Nesbitt Burns社)
銅市場は価格変動に影響を受けやすく、短期的には銅価格は高騰よりも下落する可能性が高い。最近では、投資ファンドによって銅が資産として扱われる傾向にあるため、銅のスポット的な価格の上昇につれてLME倉庫の在庫が増加している。銅の消費量の増加率は60年代から徐々に減少していたが、最近の中国の8-10%の年間成長率により傾向が変化した。また、中国だけでなく以前の東欧共産圏は銅の輸出国であったが、2004年以降輸入国となった。
銅の需給は1年以内に均衡し、長期的には平均価格が0.90US$/lbと修正されていくだろう。供給不足は銅の消費を減少させ、2006年に経済全体の低迷が価格修正の引き金を引く可能性もある。一方、銅供給は短期的には、大きな出来事の影響を受けやすい。銅需要の年間のパターンは1月から4月は強まり、5月から9月には弱まるが、10月には回復する。現在の銅価格に関連して、銅需要が経済の停滞に影響を受けやすい時、鉱業界は供給を需要に追いつかせようとする。言い換えれば、銅は現在構造的に強いが、1年以内に以前と同じように循環するようになる。
(5) ニッケル(Greg Barnes氏:TD Newcrest社)
中国の影響で歴史上最も長く高値が続いていたが、ニッケルは2005年の後半は価格の修正により供給過剰となった。それにもかかわらず、倉庫の在庫量は消費量の2、3日分と少ないままである。ステンレス鋼の需要は最近になって上向いており、中国は2006年にはステンレス鋼の世界最大の生産者として台頭しそうである。ニッケル需要の伸び率は、高値による供給不足が足枷となっている。過去10年間で期待通りの操業を始めた新しい鉱山は、2005年に開始されたInco社のVoisey’s Bayのみであり、1999年に操業を始めたオーストラリアの湿式製錬技術(Pressure Acid Leach Projects)を使用したプロジェクトは、潜在力が十分でない。ニッケル供給の障害の鍵となる原因は、エネルギー価格である。現在、新規プロジェクトで10%のリターンを期待するには、ニッケル価格が最低4$/lb必要である。また、労働組合との新しい協定等により、今後18か月のニッケル価格は6$/lb以上になるかもしれない。例えば、Inco社とファルコンブリッジ社との合併では、組合は高い賃金を得るために強硬な姿勢を示すかもしれない。
長期的な視点からすると、ニッケル価格が低くなる可能性もある。多くの主要なニッケルの新鉱山は、2009年から2012年に操業を開始する予定で、年間伸び率が4%のニッケル需要を上回ることもあり得る。これらの新しいプロジェクトの代表的なものは、BHP BillitonのRavensthorpeプロジェクト(豪州)やIncoのGoroプロジェクト(ニューカレドニア)がある。両鉱山とも伝統的な乾式冶金法よりエネルギー消費が少ない湿式製錬法である最新のHPAL法により処理されている。他の大規模なニッケル鉱山は公開株式買い付けにより933百万$でCANICO社を買収したCVRDが手に入れたOnca Puma鉱山(ブラジル)の操業開始がある。加えて、多くの小さなニッケルプロジェクトが存在する。
ニッケル市場は需要を維持するために新しい供給源を必要としている。
(6) 鉛・亜鉛(Andrew Roebuck: Teck-Cominco)
鉛は、2006年と2007年の間に供給不足なるだろう。LME倉庫の在庫は回復基調であるが、現在の在庫は世界消費の4日分でしかない。今後鉛の需要は、年間に2%ずつ伸びるとみられる。毎年の鉛供給の50%はバッテリーのリサイクルによるものである。
鉛と銅のLME倉庫の在庫は最近回復してきたが、亜鉛は減少し続けている。亜鉛のLME在庫は300,000t以上で、銅(134,000t)、ニッケル(34,000t)、鉛(84.8t)と比べて圧倒的に多い。しかし、数年前の2百万t強と比較するとはるかに少なくなった。現在亜鉛の在庫は28日分であるが、2006年後半には11日分に落ち込むだろう。もしこの予想が正しいと亜鉛の在庫量は銅と同じくらいまでに減少するとみている。
亜鉛需要の増加原因の一つは中国であり、中国は安全上の理由から主要な亜鉛鉱山が閉山した2001年には亜鉛の純輸入国となった。1999年から2001年の間、亜鉛の需要は毎年3%ずつ増加しており、2002年から2005年には4.4%に上昇した。2002年から2003年の間の亜鉛価格が低かったために、亜鉛の新規供給源が開発されず、現在の高価格へとつながった。2006年には亜鉛は300,000tから400,000tの供給不足となるだろう。現在亜鉛地金の需要は、亜鉛精鉱の供給を上回っている。LME在庫が少なくなるにつれて、2006年に今までになく亜鉛価格が高騰し、2007年には更に高騰する可能性がある。
(7) ウラン(Dustin Garrow)
石油とウランの需要供給の間に相互関係はない。石油は、交通機関の燃料、暖房燃料、プラスチック産業界の材料となり、ウランは、原子力発電所の燃料に使用される。ウランと原子力は、いわゆる“イスラム石油”に影響されることはない。むしろ、ウランは発電所に使用される石炭と天然ガスと競合関係にあるといえる。ウランと石炭・天然ガスとの間で競合するのは、環境問題である。原子力発電所からの放射性汚染は廃棄物の問題であり、石炭と天然ガスは地球の温暖化の問題である。石油とウランの価格にリンケージはないが、ウランは長期的に見ると見通しは明るい。ブッシュ大統領は、米国史上最も原子力に対して積極的な大統領であり、しかも、米国には103の原子力発電所がある。しかし、これらの原子力発電所はウラン燃料の安定的な供給を必要としており、ウランは一部の鉱山からしか産出されない。2005年のCameco社のマッカーサーリバー鉱山(カナダ)の洪水によって、原子力産業はウランの供給が非常に脆弱であることを認識した。
原子力産業は、過去数年前までウランの供給について憂慮する必要はなかった。70年代と80年代初頭のスリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故により生産過剰となり、ウランの価格は、40$/lb強だったものが10$/lbに落ち込んだからである。ロシアは時代遅れの核弾頭ミサイルを軍用レベルの高濃縮ウランに転用し、1991年のソ連崩壊後にウランの新しい供給源が出現した。また、米国のエネルギー局は戦略ウラン備蓄の備蓄量を減少させた。ところが、高濃縮ウランの転用プログラムによって、1994年から2013年まで毎年百万lb単位のウランが生産されることになったにもかかわらず、ロシアは高濃縮ウランを原子力産業のために廃棄ウランを保持し続けたため、ウランの供給は不安定となった。ロシア、中国、インドは将来の電力を供給するための原子炉の建設に対して戦略的な決定権を持つ。ロシアは操業中の原子炉が31か所、建設中のものが4か所、計画中のものが1か所、企画中のものが8か所ある。ロシアの備蓄や弾頭ミサイルからのウランの供給は、2020年までになくなる。中国は操業中の原子炉が9か所,建設中のものが2か所、提案段階のものが8か所、企画中のものが24か所ある。インドは、核拡散防止条約の調印者で結果的にウランの供給に依存しているインドは、操業中が15か所,建設中が8か所、計画段階のものが24か所ある。インドは慢性的な燃料不足に苦しんでおり、2005年には原子炉のパワーがダウンした。現在11か国で24か所の原子炉が建設中である。
2006年から2020年までの間に世界は 30億lbのウランを消費するだろう。そのうち、25億lbは鉱山からの生産によって供給される。これは、1970年から2005年の35年の間に消費したウランと同じレベルである。2005年には、原子力発電所は2010年から2016年までに供給される250百万lbのウランの長期契約を行った。長期契約の価格は、公表されていないが、現在の需給の落ち込みによる現在のスポット価格よりも低くはならないだろう。ウラン(U3O8)のスポット市場は年間総量の10-15%程度で、残りは複数年契約(multi-year contract)のもとで供給されている。カナダのサスカチュワン州のようにウランの開発に協力的な地域であっても、ウラン開発計画は遅々として進まない。
200以上のジュニア企業がウランの探鉱分野に参入している。ジュニア企業の多くは70年代の探鉱によって発見されたプロジェクトを買収しているが、一部の企業はAthabasca盆地のような不整合型ウラン鉱床のある原生代の堆積盆地でグラスルーツ探鉱を行っている。原子力発電所を運営するアメリカの公益事業体は多様なウラン供給源を求めており、インシチュリーチングのような採鉱法を用いることによって資源開発をするジュニア企業の取組みを支援している。ウランの市場価格は、2006年の終わりまでに50$/lbになるだろうと予測する。また、規制官庁(Regulatory bodies)が新たな供給源に対して規制を強化することになると、今後10年間はウランの価格は不安定になるだろう。
電力の安定供給を確保するための模索は世界的にも深刻であり、スウェーデンのように原子力発電を段階的に廃止していく国でさえ、計画は進まない。
(8) プラチナ(David Mallalieu:BMO Nesbitt)
プラチナの79%は南アフリカから供給され、19億ozのプラチナプロジェクトの開発が待たれている。長期的に見れば、プラチナの有用性によって、1,000$/ozの価格が維持されるだろうとの楽観的な見方ができる。ただし、この予測は価格の安定が鍵であり、供給と価格が不安定になり消費者が代替品を求めるようになるとの予測が崩れる。触媒コンバータの製造業者が、パラジウムへの代替を促進したのは10年前のプラチナの価格の高騰によるものであった。南アフリカにおいては二次ソースからのリサイクルプラチナ供給の減少を相殺し埋蔵量を確保して、新規鉱山生産による十分な供給を可能にするためには、ブラック・エンパワーメント・プログラムとの関係においてジュニア企業の役割が重要となってくる。
パラジウム自体、半年前にプラチナの価格高騰において需要が伸びたが、パラジウム触媒を使った第一世代のヨーロッパ車が今後数年で寿命を迎えるので、再生パラジウムの供給が増えることによって、パラジウム需要も伸び悩む可能性がある。2005年には1.6百万ozのパラジウムが不足するが、その後は2008年までに40万ozの供給超過、2010年までに供給超過が2.5百万ozに跳ね上がるとみられ、ディーゼル触媒、燃料電池やフラットスクリーン等の新技術がリサイクルパラジウムを吸収しない限り、パラジウムの価格は伸び悩む可能性がある。
しばらくの間、パラジウムの価格は340$/oz前後で推移するとみられるが、ロシアの供給の不安定さに注意しなければならない。パラジウムの動向は、南アフリカ以外でのほぼ全てのプラチナプロジェクトに影響を与える。
4. おわりに
PDAC総会は、技術、金融、経済、開発等様々な形で探鉱に携わる各国、各企業、各団体がそれぞれのアピール又は情報交換を行う機会を提供する世界でも最も大きな探鉱会議である。当機構も、一昨年よりブースを出展し、JV基礎調査のスキームの紹介や過去の事業成果等JOGMEC金属部門の活動状況を世界の資源関係者にアピールするとともに、探鉱に関わる情報を収集・発掘する良い機会となっている。各ブースに置いても、パネルや鉱石、ボーリング・マシン等の展示、プレゼンテーションを行う等会場は熱気に包まれていた。
金属資源情報センターでは、PDACで収集した資料や講演会を録音したCD等をご利用になれます。
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