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報告書&レポート

2006年10月5日 メキシコ事務所 小島和浩 e-mail:jogmec@prodigy.net.mx
2006年71号

グルーポ・メヒコ社のストライキ終結とその影響

 2006年2月末から7月まで続いたグルーポ・メヒコ社(GM社)の鉱山・製錬所における一連のストライキは、国際金属取引市場での価格高騰材料(供給障害要因)の一つとして取り上げられる等、メキシコ内外で大きな注目を浴びた。
 本稿では、一連のストライキの影響について、墨鉱業関係者の見解を交えて論評する。なお、GM社の概要、ストライキの経緯・背景についての詳細はカレント・トピックス06-51号「グルーポ・メヒコ社のストライキを巡る動向」を参照されたい。

1. ストライキの経緯及び背景

(1) 経緯
 グルーポ・メヒコ社の一連のストライキは、2月28日にサン・マルチン(San Martin)亜鉛鉱山のストライキ突入で始まり、7月17日のカナネア銅鉱山の労使合意で終結した。各鉱山におけるストライキの経緯は以下のとおりである。
 

  Ⅰ.サン・マルチン亜鉛鉱山
 2月 28日 ストライキ突入
 4月 18日 GM社、同鉱山のフォース・マジュールを宣言
 4月 19日 メキシコ労働省が本ストライキを違法と宣言
 5月 9日 GM社、同鉱山を2週間以内に閉鎖と発表
 5月 16日 ストライキ終結
Ⅱ.ラ・カリダ銅鉱山
 3月 2日 同鉱山労働者が全国鉱業ストライキに参加、同日終結
 3月 24日 組合員約1,000名が労働協約の改定を求めてストライキ突入
 4月 10日 GM社、同鉱山のフォース・マジュールを宣言
 4月 19日 メキシコ労働省が本ストライキを違法と宣言
 6月 8日 GM社、同鉱山の閉鎖及び組合員解雇を労働仲裁委員会に申請
 7月 13日 GM社、政府承認を得て同鉱山を閉鎖し、全労働者約2,000名(うち組合員約1,200名)を解雇
 10月末 完全操業開始予定
Ⅲ. カナネア銅山
 3月 2日 同鉱山労働者が全国鉱業ストライキに参加、同日終結
 6月 1日 ストライキ突入
 6月 7日 GM社、同鉱山の6月・7月の出荷に関しフォース・マジュールを宣言
 7月 17日 労使がストライキ終結で合意、平常操業開始

(2) 背景
 一連のストライキは、(1) 組合保有株式の売却代金を横領したとして、政府に訴追・罷免されたメキシコ全国鉱夫冶金組合(STMMRM)ナポレオン・ゴメス(Napoleon Gomez Urrutia)委員長を支持する組合員による違法ストライキ、(2) 労働協約の改定交渉に伴う合法的なストライキ、の二つの性格を有する。また、組合側の要求内容には、1月に発生したGM社パスタ・デ・ロス・コンチェス炭鉱でのガス爆発事故(65名死亡)に対する遺族補償や労働安全確保等が含まれていた。
 

2. ストライキの影響

(1) 損害額の試算
 2005年第2四半期から2006年第2四半期までのGM社の財務状況及び主要鉱産物生産量を表1に示す。

表1 GM社の財務状況及び主要鉱産物生産量  
 
2005年
第2四半期
2005年
第3四半期
2005年
第4四半期
2006年
第1四半期
2006年
第2四半期
財務状況(百万US$)          
売上高
1,298.6
1,255.7
1,387.7
1,328.6
1,514.7
営業利益
477.4
586.1
656.5
675.0
722.4
当期損益
238.9
275.6
307.3
331.0
353.0
鉱産物生産量
銅(千t)
168.7
178.2
181.3
169.6
124.3
銀(t)
144.7
141.2
149.1
129.4
109.9
金(kg)
258
264
241
241
169
モリブデン(千t)
3.59
3.84
3.35
3.47
2.33
亜鉛(千t)
37.1
37.0
34.8
34.6
31.8
鉛(千t)
5.0
4.9
5.0
4.6
4.5

(注)2005年8月9日に破産申請した米アサルコ社の生産量は除外している。

 

 2006年第2四半期の生産量は、一連のストライキの影響で大幅に減少した。銅、銀、金、モリブデン、亜鉛、及び鉛の生産量は、前年同期比で各々、44,400t、34.8t(1,119千oz)、89kg(2,861oz)、1,260t(2,778千£)、5,300t、500tの減少となっている。ストライキが起こらなかった場合の生産量を前年同期並みとし、各金属の価格として2006年第2四半期の平均価格を用いて試算すると、ストライキによる各鉱産物の生産額の減少は、銅が3億2千万$、銀が1,300万$、金が200万$、モリブデンが6,800万$、亜鉛が1,700万$、鉛が50万$と見積もられ、合計で4億2千万$に達する。
 他方、GM社の財務状況に目を転じると、好調な金属市況がストライキの悪影響を補って余りあるものがあり、2006年第2四半期の売上高は前年同期比16.6%増の15.1億$、純益は同47.3%増の3.53億$と創業以来の最高を記録している。

(2) メキシコ鉱業関係者の見解
 筆者らは、2006年8月24日に一連のストライキに関するメキシコ鉱業関係者の見解を直接聴取する機会を得た。以下にその概要を紹介する。

  Ⅰメキシコ鉱業会議所(Camara Minera de Mexico)セルヒオ・アルマサン事務局長
 2006年に入ってGM社傘下の鉱山等で発生したストライキの被害総額は13億$と見積もられている。これら一連のストライキは組合内の権力争いから発生した問題であり、(本来ストライキが起きた)鉱山会社とは関係のない問題であった。ストライキの被害を受けた企業はGM社とビジャ・アセロ(鉄鋼)の二社のみである。本ストライキについては、鉱業会議所でも非常に懸念していたが、現在では完全に解決した問題であると認識している。
Ⅱ 経済省フランシスコ・ケロル鉱業振興局長
 GM社のストライキの影響は大きかったが、全国レベルの労組とは交渉せず、地域の労組と交渉することで上手く解決することができた。本ストライキの発端は労働問題ではなく、政治的なものであった。
Ⅲ GM社フアン・レボジェード副社長(国際担当)
 一連のストライキは既に解決しており、カナネア鉱山は100%正常操業に戻っている。ラ・カリダ鉱山は今週(8月第4週)生産を再開したが、現在の操業率は未だ30%程度であり、10月の末にはストライキ前の生産レベルに復帰させたいと考えている。

(3) まとめ
 一連のストライキによる経済的損失は巨額なものと見積もられるが、好調な金属市況に支えられたGM社の経営を揺るがすものとはならなかった。また、今回のストライキはぺニョーレス社等他の鉱山企業へ大きく飛び火することが無かったため、本件がメキシコ鉱業界へ与えた影響は、少なくとも表面上は限定的なものであった。
 他方、今回のストライキが発生する要因となったゴメス前STMMRM委員長に対する横領疑惑が解決されていないため、前委員長支持派がストライキの再発を含め、何らかの巻き返し策を講ずることが懸念される。
 今後、GM社としては、一連のストライキの要求内容でもあった炭鉱でのガス爆発事故に対する遺族補償や労働安全確保等の問題も含めて、労働組合との関係改善を行うことにより、傘下の鉱山・製錬所の安定的な操業を図っていく必要があると思量される。

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