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報告書&レポート

2006年10月12日 金属資源開発調査企画グループ担当審議役 澤田賢治 e-mail:sawada-kenji@jogmec.go.jp
2006年74号

非鉄金属価格のブームは持続可能か?

 1. はじめに

 非鉄金属価格は、過去4年間で高騰した。統計によると、2002年以来、石油価格が157%上昇したのに対し、非燃料商品は180%に高騰した。この価格高騰に対して、中国等の台頭によって、長期的価格傾向に変化が生じて、金属価格は特に持続的な価格高騰を予想する向きもある(Barclays Capital 2006)。その一方、価格は必然的に下落し、過去と同様に実質価格ベースで下落傾向となると考える向きもある。
 国際通貨基金(International Monetary Fund: IMF)は2006年9月に「世界経済見通し」を発表した。IMFはこの報告書の中で、世界経済の展望を明らかにするとともに、「非鉄金属価格のブームは持続可能か」と問題を提起した。本カレント・トピックスは、その世界経済と非鉄金属価格の見通しについてを紹介するものである。

 
2. 世界経済の見通し

 IMFは世界の経済成長を、2006年に5.1%、2007年に4.9%と予想している。米国の経済成長は、住宅着工が冷え込む中、2006年の3.4%から2007年は2.9%に鈍化すると予想。日本も経済サイクルの成熟化に伴い減速するとみられる。欧州は、2006年にこそ経済回復を維持するであろうが、ドイツの経済成長率が予定されている増税のため、2007年に低下すると考えられている。その一方、新興諸国と発展途上国の経済は堅調な成長が期待され、中国経済も最近の急成長ペースを維持すると予想している。
 世界経済見通しに対する懸念材料として、IMFでは、(1) インフレ抑制のための金融引き締めの強化、(2) 埋蔵量の低下と地政学的不透明感に伴う原油価格の上昇、(3) 住宅着工の冷え込みによる米国経済の急激な減速、の3点を指摘している。そのため、2007年の世界経済成長率が3.25%以下になる確率を6分の1と予想している。
 アジアの経済成長は目覚しく、アジアの国民一人当たりの実質所得は1950年以降約7倍に増加している。国民一人当たりの生産はアジア全体で年平均4%増加し、新興工業国(NIEs)や中国等の高成長国では5%を越える伸びとなった。この成長を牽引したのは、強力な政策環境に支えられた高水準の投資と急速な生産性の向上が指摘されている。アジアの成長を持続させるための課題として、(1) 農業部門から工業やサービス部門へのシフトを推進させるための政策支援、(2) サービス部門の生産性向上のための改革、(3) 後発国における政策的枠組みの強化が挙げられる。
 

3. 非鉄金属価格の見通し

 非鉄金属価格は実質ベースで2002年から180%上昇し、原油価格の上昇幅(実質ベースで157%)を上回っている。IMFによる世界経済見通しの第5章では「燃料を除く商品市況の高騰は続くか?」というテーマで、価格高騰について考えられる要因の寄与度を評価するとともに、現在の価格水準が将来にわたり持続するかどうか以下のように分析している。
(1) 最近の非鉄金属価格に関する分析
 価格高騰の主な原動力は世界の需要、特に中国における急激な需要拡大によって供給が追いつかない状況をもたらしたと指摘している。例えば、アルミニウムの世界の消費は、2002-2005年の間、年率7.6%で増加しており、それ以前の10年間の伸び率3.8%に比べて大きく上回っている。新規鉱山開発による供給拡大や既存鉱山からの増産には時間的な制約があり、需要拡大に対応するためのタイムラグが生じることから非鉄金属価格は急激に上昇する可能性がある。過去4年間で、世界の主要金属(銅・アルミニウム・鉄鋼)の世界消費増加分の50%程度を中国が占めている。中国の急激な成長と世界経済におけるシェア拡大を背景に、中国は将来的にも非鉄金属価格に大きく影響することが予想される。
(2) 投機的資金に関する分析
 一般的な見方とは反対に、IMFでは投機的な資金は非鉄金属価格動向を左右する役割を果たしていないことを指摘している。商品先物市場での投機的投資はこの数年で大幅に増加しているが、投資家はロングとショートのポジションを有しているため、市況への影響は相殺されている。ネットの投機的ポジションの動きが現物価格の変動を先導しているという統計的資料はほとんどなく、投資家は価格動向に追随しているだけで価格動向を作り出すことはないと考えている。その具体例として、銅市場の投機的ポジションは、2006年初めに銅価格が上昇した時期に減少していることを挙げている。
(3) 非鉄金属価格の見通し
 IMFのレポートによると、非鉄金属価格は現在の高値から反落することを予想している。アルミニウムと銅の価格を、世界の経済成長、生産能力の増強、需給の価格弾性値等多くの要因を想定した計量経済分析を行い、持続可能な水準を越えていると結論した。基本的なシナリオでは、アルミニウムと銅の実質年平均価格は、2010年までにそれぞれ35%、57%下落すると予測している。
 

4. まとめ

 国際通貨基金の「世界経済見通し」報告書のうち第5章の「The Boom in Nonfuel Commodity Prices: Can it last ?」は原文だけで31ページの力作である。原文へのインターネットアクセス(http://www.imf.org/external/pbs/fe/weo/2006/02/index.htm)も可能であり、ご興味の方は一読されることをお勧めします。

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