報告書&レポート
オーストラリア各州政府の探鉱振興政策 その2-各州政府等によるボーリングコア管理と探鉱データの提供-

各州政府及び連邦政府は、オーストラリアの国際的な探鉱投資シェアの低下に対して、様々な探鉱振興政策を実施している。そのひとつとして、民間企業等が実施したボーリングコアの収集・データベース化など探鉱に必要な地質情報インフラの整備がある。 本稿は、オーストラリアの各州政府によるボーリングコアの収集・データベース化事業である「ボーリングコア・ライブラリ」について報告する。 |
1. はじめに
オーストラリアは、鉱物資源の生産量、埋蔵量・資源量ともに世界屈指の資源国であるが、近年、全世界の探鉱投資に占めるオーストラリア国内への探鉱投資のシェアは減少傾向にある。これは、税制・諸手続きなど投資環境面が他国に比べ魅力に欠けるなどの指摘のほかに、鉱床の潜頭化・深部化により探鉱そのものが技術的・手法的に「難しく」なっていることも大きな原因と言われている。
各州政府は、ボーリング掘削に対する補助金、広域的な物理探査・地化学探査データの取得・提供などに加え、過去の探査結果のGIS化(地理情報システム)やデータベース化(殆どの情報はWebサイトから取得できる)、更には民間企業が実施したボーリングコアの収集・データベース化など、探鉱に必要な地質情報インフラ整備を進めている。
2. 各州及び連邦政府の「ボーリングコア・ライブラリ」の概要
(1) ニューサウスウェルズ州
ニューサウスウェルズ州一次産業省は、過去のデータやボーリングコア観察・サンプリングによってコスト面でも効果的な探査を可能とするために、シドニー西部のLondonderryと州西部のBroken Hillにコア・ライブラリを設置し、ニューサウスウェルズ州地質調査所がコアの収集・施設の運営管理にあたっている。
Londonderry施設は35年の歴史があり、また、Broken Hill施設は2006年に開所予定である。
現在、95万m、15万箱のコアが保管されており、コア割合は50%が金属鉱物関係、40%が石炭関係、その他石油・非金属が10%となっている。コア・ライブラリは官民合わせて年間約4,000箱のコアの提供を受けているが、その中から代表的な部分を選んで保管している。
ボーリングとコアの情報は、一次産業省(地質調査所)のWebサイト上のデータベースでボーリング位置は「MinView」、コアの情報は「DIGS」によって検索することができる。また、コア・ライブラリにはダイヤモンド・カッターなどもありコアを切断することも可能である。
(2) ビクトリア州
ビクトリア州一次産業省は、過去の金属鉱物・石油探査および地質図作成などで採取したボーリングコア及び岩石等サンプルを収集整理し付加価値をつけて提供するコア・ライブラリをメルボルン市内の南西(自動車で)約40分の州「Agriculture Victoria’s State Research Farm」内に設置している。保管されているサンプルは19世紀代ものも含め約1.8万件に及んでいる。
ビクトリア州一次産業省は、コアの収集を石油関係コアについては「Petroleum Acts」「Petroleum Submerged Lands Acts」、金属鉱物関係コアについては「Minerals Resources Development Act」に基づいて積極的に進めている。また、コアのデジタルカタログやコア観察施設の整備にも力を注いでいる。
(3) 南オーストラリア州
南オーストラリア州一次産業資源省(PIRSA)は、鉱物資源・石油探査の結果得られるボーリングコア・サンプルは重要性を早くから認識し、1978年にアデレード市街Glensideにコア保管施設を建設、その後、1982年、2005年に施設の拡充を図り、空調設備の整ったコア観察設備としている。
南オーストラリア州内の探査企業は規則によって鉱区を保有する間は代表的なサンプルを州政府鉱業当局へ、定型のサンプル記載用紙に必要事項を記載して提出しなければならない。
他方、PIRSAに保管されているコアは、PIRSAの探査データベース「SA GEODATA」「PEPS」で検索することが可能となっている。また、公開コア(open-file)は48時間前までに申し込みをすることで、コア・ライブラリ内の観察施設での観察が可能であるほか、コア切断、コアブラシ、顕微鏡、酸溶液などのサービスを受けることもできる。
(4) 西オーストラリア州
西オーストラリア州産業資源省(地質調査所)は、既存ボーリングコアの提供が探鉱のリスクとコストを低減し、探鉱戦略・計画を確固たるものとして鉱床発見につなげていくうえで重要であると認識し、パースとカルグーリー(Joe Lord)にボーリングコアの保管と観察が可能な施設を建設してコア情報の提供を行っている。
州内の石油関係コア及び石油探査で得られたサンプルの全ては法律によって少なくともコアの3分の1を、陸上のコアであれば6か月以内に、オフショアの場合には12ヶ月以内に提出しなければならない。金属鉱物関係コアは2006年に改正された鉱業法(Mining Act 1978)によってボーリングコアをコア・ライブラリへ提出することとなっている。年間35,000mに及ぶコアが提出されるが保管用となるのはその内の2~5%程度。西オーストラリア州東部のコアはカルグーリーの施設へ、北部・西部及び石油関係コアはパースの施設に保管される。
コア観察は希望日の2日前までに予約が必要で、条件によってサンプリングも可能。顕微鏡、写真撮影、関連資料データベースへのアクセス等のサービスが得られる。
(5) 北部準州
北部準州地質調査所は、ダーウィンとアリススプリングスにコア・ライブラリを保有し、コアの特定が出来るようにデータベースを構築している。データベースには、コア番号、報告書、ボーリング実施日、コア提出日、鉱区、企業名、座標、地形図(25万分の1、10万分の1)、コア・ライブラリ内の保管場所、コア記載が含まれている。
金属鉱物関係コアについては鉱業法第37条(Mining Act, Section37)に基づいてコア・ライブラリへの提出が義務付けられており、北部準州地質調査所は、地質学的・鉱床学的に価値のあるもの、その地域の地質・鉱化作用を代表するものなどを選別して保管し、公表することとしている。また、石油関係コアについてもボーリング掘削後速やかにコアの提出が義務付けられている。
(6) タスマニア州
タスマニア州政府資源当局(MRT: Mineral Resources Tasmania)は、ボーリングコアは鉱物資源探査にとって価値のあるものと認識し、2000年に70万豪ドルを投じてホバート市外Morningtonにコア・ライブラリを建設し、現在、約3,000本、460kmに及ぶコアを保管している。
ボーリングコアと関係資料は、タスマニア州鉱業法(Mineral Resources Development Act 1995 (Tas) Part 6 s.117-126& s.187-191)に基づいて収集されている。
これまでに、保管されているコアは、Beaconsfield金鉱山、Arthur Riverマグネサイト、Henty金鉱山などの多くのプロジェクトで活用されているほか、同州鉱物資源鉱床の大きな部分を占める塊状火山性硫化物鉱床探査にとって重要な「鉱化変質ハロー」の把握にも役立てられている。
(7) クィーンズランド州
クィーンズランド州天然資源鉱山エネルギー省は、タウンズビル郊外Zillmereにコア・ライブラリを設置するほか、州北部地域コアを保管する同様の施設をMt. Isa とCharter Towersに新設、現在、約10,000本、155,000箱、375kmに及ぶコアを保管している。
コアの多くは1950年代~1990年代に州政府によって掘削された地質調査及び石炭探鉱のボーリングで古いものは1890年代のものも含まれている。金属鉱物関係コアは、探鉱権付与の条件としてコアの提出を定めているが、州政府当局は、現在、金属鉱物関係コアの収集に力を注いでおり、規則で定められている以外にもコア提供の機会を求めている。
また、ボーリングコアのほかに関連する企業探鉱レポート35,000件を既に収集済みで2002年には探鉱レポート検索システム「QDEX」(Queensland Digital Exploration Report System)の運用を開始している。2006年3月現在、76%が公開ファイルとしてアクセス可能となっている。
なお、石炭地域の同州は化石サンプルも多数収集してるが、学術的・歴史的見地からこれらはクィーンズランド博物館へ移管されている。
(8) 連邦政府
地球科学研究機構(本部:キャンベラ)によって、1930年代からの石油コア、鉱物コア、地質調査コア、石油・濃縮物・水・泥等液体試料等の種々試料が収集・整理されている。保管施設(同機構本部に併設)の棚(容量)総延長は約30,000m、ボーリングコア150,000m、カッティングス300万m、薄片14,000枚などが保管されている。
試料は、地球科学研究機構(旧地質調査所分含む)等の政府関係調査及び各州との共同事業などによって得られたもののほかに石油産業及び鉱物産業から提供されている。
公開試料となったものは、民間企業、連邦・州各政府関係機関、教育機関、一般がアクセスできる。
コア・ライブラリでは、閲覧スペース、コア切断等機材、各種試験機器、顕微鏡、コンピュータ、重力測定・化学実験機器、分析報告書・各種レポートの設備・資料の利用が可能であるほか、コアの配置、コアの切断、デジタル写真撮影、サンプリング、各種データ検索・複写などのサービスが受けられる。
4. まとめ
オーストラリア各州政府等は、ほぼ横並びで既存探鉱ボーリングコアを保管するコアライブラリを設置している。その施設は単にコアを保管するだけではなく、コア観察やサンプル処理が行える近代的なものであり、データベースによって関連情報とともに整理され、Webサイトを経由して誰でも検索できるシステムを構築している。
鉱床探査にとって、既存データ、特に実際の「もの」としてのボーリングコアは貴重な情報であり、各州政府等がそのことを認識してコア・ライブラリ・システムを構築していることは、「ひとつの探鉱を次の探鉱へ繋げていく」うえで高く評価されよう。
参考文献
各州のボーリングコア・ライブラリWebサイト
![]() |
![]() |
![]() |
図-2コア・ライブラリ写真(西オーストラリア州パース(左)、ニューサウスウェルズ州ブロークンヒル(右))
|
|
|

