報告書＆レポート
セミナー報告｢Broken Hill Exploration Initiative｣
| 9月26日～9月28日の3日間、探鉱促進セミナー｢Broken Hill Exploration Initiative｣が、ニューサウスウェルズ州西部の町Broken Hillにおいて、ニューサウスウェルズ州・南オーストラリア州・連邦政府オーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia)の主催・後援により、参加者約150名、講演数約40件を得て開催された。 本稿は、｢Broken Hill Exploration Initiative｣での講演内容を中心にBroken Hill地域の探鉱・開発状況について報告する。 |
1. はじめに
｢Broken Hill Exploration Initiative｣(BHEI)は、今回で12回目を数えるBroken Hill地域を中心としたニューサウスウェルズ州及び南オーストラリア州における探査・探鉱成果が発表されるセミナーである。今回は、大学・各州政府地質調査所・探鉱ジュニア企業・鉱山会社等により、高解像度物理探査、ハイパースペクトル・マップ、空中重力探査、レゴリス・マップ(風化地化学探査図)、構造解析、絶対年代測定、同位体地質学などに関する講演が行われた。
本セミナー開催の背景には、120年以上にわたって亜鉛・鉛・銀鉱石を生産してきたBroken Hill鉱山(ニューサウスウェルズ州)に続く大鉱床の発見・開発が、Broken Hill地域及び同鉱山の鉱石を処理するPort Pirie鉛製錬所(南オーストラリア州)の持続的な発展には不可欠であり、両州政府は同地域における探査・探鉱活動を促進して鉱山開発へつなげたいとの思惑がある。
2. 各州政府の探鉱促進とその効果
(1) ニューサウスウェルズ州 *1, *2
ニューサウスウェルズ州政府は、地球科学データ提供プログラムをBHEI、｢Discovery 2000｣や｢Exploration NSW｣を通じて実施してきた。｢Exploration NSW｣では7年間に30百万A$を投資するほか、2006/2007年度は｢New Frontiers｣を旗印に新たな予算措置を講じている。
また、これまでにも探鉱促進事業としてpmd＠CRC(Predictive Mineral Discovery Cooperative Research Centre)プロジェクトと共同で公的機関の調査としては初めてBHP Billiton社が所有する空中精密重力傾度測定システム｢FALCON｣を用いた調査を実施し、その結果を公表しているほか(2003年末)、民間企業などの実施した探査ボーリングコア約80,000mの保管とサンプル処理が行える施設｢ボーリングコア・ライブラリー｣(2006年完成予定＝今回のBHEIでは建設中の施設敷地内でボーリングコア観察会が実施された)を建設している。
(2) 南オーストラリア州 *3
南オーストラリア州では、2001年のProminent Hill鉱床(現在Oxiana社が開発中)の発見以来、鉱床探査が再び活況を呈しており、ある調査では2005/2006年度の鉱物資源ポテンシャル指数は2004/2005年度の世界64行政区中18位から6位へとその順位を上げている。
南オーストラリア州政府が、2004年4月から開始している｢Plan for Accelerating Exploration – PACE｣では、当初2年間で州内への探鉱投資が2004年の55百万A$から2005年には99.4百万A$、2006年3月には110百万A$に達するなど大きな成果をあげている。
また、南オーストラリア州政府は、Curnamona Provinceでの地上重力データ、Broken Hill鉱山を含む地域での深部地震探査、3D地質モデル構築、Hyloggerによるボーリングコア分析などの地球科学データ取得を進めているほか、これまでにCurnamona Province地域の20件を含め、Gawler Craton、Adelaide地向斜、Musgrave Province地域などの探鉱プロジェクト115件に対し5百万A$以上の補助を行っている。
3. Broken Hill地域での新たな探査の試み
(1) 空中重力探査プロジェクト －FALCONシステムによる探査－ *4, *5, *6, *7, *8
ニューサウスウェルズ州政府とpmd＠CRCプロジェクトは、Broken Hill周辺でのFALCONシステムを用いた精密重力傾度測定(測定範囲1,000km2、測線間隔200m、飛行高度80m、総測線長5,000km、費用約50万A$)を実施しており、今回、そのデータを用いた解析事例が報告された。
広範囲をカバーできるFALCONシステムと解像度では勝るが測定範囲の限られている既存の重力データとを統合して双方のメリットを生かした重力解析図の作成とそれらに磁気データ等も加えた3Dモデル解析が地質図作成に有益な情報となったなどの広域的な解析事例や、FALCONシステムで得られた重力異常(地下約400m)に対して実施したボーリング調査の結果、Broken Hill型鉱化に伴うZn異常を捉えたとするGoldfinger地区(Broken Hill鉱山の南20km)の事例などが紹介された。
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| 図1.Broken Hill地域における空中重力探査プロジェクト図及びデータセット （出典:ニューサウスウェルズ州一次産業鉱物資源省Webサイト） |
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(2) 深部地震探査プロジェクト *9
1996/1997年、ニューサウスウェルズ州一次産業鉱物資源省(Department of Primary Industry and Mineral Resources)・オーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia)・Australia Geodymnamics CRCは、ニューサウスウェルズ州から南オーストラリア州にかけてのCurnamona Province地域でダイナマイトによる地震探査(測定長294.6km)をBHEIの一部として、また、2003/2004年には南オーストラリア州一次産業資源省(PIRSA：Primary Industry and Resources South Australia)・pmd＠CRC・オーストラリア地球科学機構が起震装置による地震探査(測定長198km)を実施している。
これらの地震探査の結果は統合的され解析が進められている。今回、Curnamona Province地域ではモホ面は地下約40km付近にあり、年代や地質年代は不明確ではあるがモホ面を切る構造線があって、これらが、地殻深部或いはマントルからの流体(鉱液)を上部地殻へと導く経路となって鉱床生成に影響を及ぼしたとの解釈が発表されていた。
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図－2. Broken Hill 地域から深部地震探査プロジェクト位置図(左）及び断面図(右）
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(3) 生物地化学探査の事例 *9
CRC LEME(Cooperative Research Centre for Landscape Environment and Minerals)は、オーストラリア全土にわたって鉱床やその母岩を覆い探査の障害となる風化土壌レゴリス(regolith)の生成プロセスや探査への利用のための調査研究を進めている。Broken Hill地域では、これらレゴリス研究の延長として植物地化学探査、動物地化学探査を行っている。
これまでに、アカザ科の潅木｢salt bush｣や｢bluebush｣の根は水平方向で100m程度・垂直方向で10m程度の範囲まで達しており、これらの植物からはレゴリス(主に沢砂)・母岩・帯水層間の物質反応システム関する情報が得られること(例えばPinnacles鉱山周辺では植物の金属元素を濃集しているなど)、アカシア科の｢mulga｣は検出可能なAuを含有すること、更に、Broken Hill鉱山の半径20km範囲のカンガルーの糞に含まれる植物繊維中にはPb,Zn,Cd,Sbが多く、Broken Hill鉱山から西方へ向かうにしたがってUが多くなることなどがわかっており、鉱床探査への適用可能性が期待されている。
(4) ポータブルX線分析装置による探査の事例
重量1kg程度のポータブルX線分析装置は、約2時間の充電で6～12時間使用でき、多元素同時分析(Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Rb, Sr, Zr, Nb, Mo, Ag, Sn, Sb, Ta, Hf, W, Pb, Bi等)が可能で、約3,000件の分析データを保存することができる。*10 ただし、放射線源を仕様していることから取扱いにはライセンスが必要となる(Broken Hill地域のように2州にまたがって使用する際には両州のライセンスが必要)。
Perilya社は、Broken Hill地域でこれまでの15か月間に46,000サンプルの地化学データを取得し(過去120年間に取得された地化学データが63,000件であることと比較して飛躍的に大量のデータを取得できる)*11、17か所の地化学アノーマリーを特定している。
また、CBH社(Platsearch社-Eaglehawk社-JV)も、同地域の広域的な土壌地化学探査でGPSと同機材を用いて17,500件のサンプルデータを取得している。*12
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| 図－3.ポータブルX線分析装置 （Niton社製）による探査の事例（Perilya社） |
図－4.Broken Hill鉱床位置関係図 |
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| 図－5.Broken Hill鉱床断面図 |
4. Broken Hill鉱山周辺の開発及び探査状況
(1) 西部鉱化帯(Rasp鉱床)の探鉱・開発 －CBH Resources社－ *2,*13
CBH Resources社は、Broken Hill鉱床の中央部に鉱区(CML7)を保有。2002年からF/Sのためのボーリング調査実施し、西部鉱体(地下800mまでの資源量が10.1百万t・4.9%Zn・3.5%Pb・43g/tAg)の開発を計画。
第1段階のRasp鉱山プロジェクトは、西部鉱化帯の地下100～400m鉱化部(5.6百万t・亜鉛5.1%・鉛3.8%・銀945g/t)の地下300m以浅部分に対しKintore露天採掘場の底部から1.5kmの斜坑でアクセスし、坑内採掘する計画(投資額13百万A$)。2008年内の生産開始を目指す。採掘年数は5～7年間。
(2) 北部地区(Potosi鉱床～Flying Doctor鉱床)の探鉱・開発 －Perilya社－*2,*14
Perilya社は、2002年にBroken Hill鉱山の北鉱床(North Mine)と南鉱床(Southern Operation)をPasminco社より50百万A$で取得。
現在は、北部鉱床においてプレF/S調査を実施し、レベル15以下の鉱体へのアクセスを検討中。資源量(Inferred)は、4.2百万t・11.2% Zn、13.7% Pb、214g/t Ag。その北部にあるPotosi鉱体(Potosi)の資源量は1.6百万t・12.7% Zn、2.8% Pb 、Potosi北部鉱体(Potosi North)0.23百万t・12.9% Zn、7.2% Pbと評価。同社は北部鉱床開発に向けた探鉱のための斜坑掘削を決定している。
Perilya社のBroken Hill鉱山(稼行中)の埋蔵量は11.7百万t・7.3%Zn・4.8%Pb・47.9g/tAg、資源量は19.2百万t・10.4%Zn・8.5%Pb・102.49g/tAg。生産量は71,200t Pb・2.1百万ozAg・135,300tZn(2005年)。
5. Broken Hill鉱山周辺の探鉱状況 *2
Broken Hill地域で実施されている主な探鉱プロジェクトを下表に示す。
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6. まとめ
Broken Hill鉱山は、旧BHP：Broken Hill Property(BHP Billiton社の前身)が1880年代に鉱山開発を始めて以来、約120年間にわたって生産を続けてきた世界有数の亜鉛・鉛・銀鉱床で、現在も既知鉱体の下部鉱化帯の探鉱開発が進められている。また、鉱山周辺では、ニューサウスウェルズ、南オーストラリアの各州政府等が既存地質情報のデータベース化や空中重力測定・地殻深部地震探査など新たな基礎データの取得を積極的に進めている(BHEIなど)。
折からの資源ブームで民間企業の旺盛な探鉱意欲と州政府の探鉱振興政策とが結びついて新たな｢世界規模の｣鉱床発見が期待されている。
参考文献
*1 L. Gilligan; The Broken Hill Exploration Initiative – Twelve Years of Collaboration (BHEI 2006)
*2 J. Johnson, T. Tyne and L. Gilligan; BHEI 2006: What’s hot (BHEI 2006)
*3 South Australia: On PACE in the Curnamona (BHEI 2006)
*4 C.G. Anderson, A. Dyke, M. Noble and M. Raetz; The BHEI Falcon Gravity Survey and Goldfinger BHT Project – exploration geophysics, geochemistry and geology integrated in 3D (BHEI 2006)
*5 R. Lane; Investigations stemming from the 2003 Broken Hill airborne gradiometer survey (BHEI 2006)
*6 NSW DPIR; Airborne gravity survey conducted at Broken Hill, Minfo 77-78, 2003
*7 http://falcon.bhpbilliton.com/
*8 Stellar Resources; ASX Release 2006.2.7, 2005.11.21
*9 Exploration within and through transported cover in the Curnamona Province and Thomson Orogen: results from animals, vegetables and minerals (BHEI 2006)
*10 Niton社ポータブルXRFカタログ
*11 L. Jubber；Promising Opportunities to Enhance Value, NSW Mineral Exploration & Investment Conference, 1 September 2005
*12 CBH Resources Limited; Quarterly Report June end 2006
*13 P. Blampain and I. Plimer; The Western Mineralization – Rasp mine – (BHEI 2006)
*14 G. Teale; Mineralization in the Potosi Extended to Flying Doctor (BHEI 2006)
