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報告書&レポート

2006年11月2日 ロンドン事務所 及川 洋 e-mail:oikawa@jogmec.org.uk
2006年83号

国際銅研究会(2006年秋:定期会合)概要報告

 2006年9月28日~10月6日の間、リスボンに於いて国際非鉄金属研究会(銅、ニッケル、鉛亜鉛)の各定期会合、ニッケル及び鉛亜鉛研究会については総会が開催された。
 今次一連の会合は上記3研究会事務局統合及びリスボン移転後、2006年5月の会合に引き続き2度目となり、前回同様、3研究会が約1週間に亘って連続して開催された。
 以下、本稿では9月28、29日にリスボンの国際非鉄金属研究会本部で開催された国際銅研究会の概要について報告する。

1. インダストリー・アドバイザリー・パネル(IAP)

 今回IAPは、ICSGの他の委員会に先立って開催された。趣旨としては、他の議論に先立って産業界として意見集約をし、産業界の関心事項を、うまくその後の各委員会の議論にインプットしていくことにあった。といいつつもニッケル研究会、鉛亜鉛研究会と比して銅産業界からの参加は相対的に低調であり、今後の銅研究会の開催方法、時期などについて課題を提起する形となった。その他議題として取り上げられた事項は以下のとおりである。
(1) 市場の透明性:半加工品統計の整備
 従来、ICSGは銅の半加工品についての統計をCopper Bulletinに掲載してきているが、近年、企業活動上の理由あるいは各国における統計当局の体制変更などから入手できる統計情報量が減少し、その結果統計としてのカバレッジが小さくなってきている。これに関してIAPからは加盟国のみならず、非加盟国情報の重要性、そのための非加盟国統計当局への協力要請の必要性が指摘された。
(2) エネルギー政策
 特にEUのETS(Emission Trade Scheme)に関して、かなり複雑なスキームであり対応が難しいという認識があった。アルミについては業界内で話し合いや情報交換がなされているのに対し、銅に関してはこうした取り組みが遅れており、ICSGやICA (International Copper Association)の役割として、本件含むエネルギー問題、価格問題、地球温暖化問題についての一層の情報提供に対する期待が表明された。
(3) 化学物質管理規制
 EUで導入手続きが進められているREACHに関しては合金の取り扱いについて未確定名部分があること、こうした点含めREACHについては銅だけに限定せず、ニッケルや鉛亜鉛など他の国際研究会と合同で情報交換、議論する場を設けてはどうかとの提案があった。
(4) 高騰する銅価格の経済への影響
 価格高騰のファンダメンタルズとして、中国の銅需要の増加があることは共通認識となっているが、今後の見通し、国内市場の動向など統計的にも捕捉し切れていない部分が多いことから、ICSGとして中国についての研究、分析を更に進めるべきであるとの見解が示された。
 

2. 環境経済委員会

 本委員会においては、経済問題に関しては、価格(市場)動向そのものというよりは、むしろ価格高騰により、他の材料への代替が進む可能性についてのプレゼンテーション、事務局からの説明に時間が割かれた。また、環境関係では、年内に最終採択の可能性があるREACHについて、状況の報告と、その他環境関連規制の最近の動向について報告があった。ポイントは以下のとおりである。
(1) 銅価格高騰の銅産業への影響

  Ⅰ.サイモン・ハント・ストラテジック・サービス社のサイモン・ハント氏より、昨今の銅価格高騰により、銅の需要産業分野において、アルミその他の材料に代替が進む(銅需要が減少する)可能性についての講演があった。同氏の講演のポイントは以下のとおりである。

  銅は、他の金属と比して生産にエネルギーを要する素材であり、石油に代表されるエネルギー価格の高騰及び銅価格自体の高騰により、他の素材への代替が進むリスクを有している。
  銅製の電線・ケーブルの世界需要は2005年時点で約11百万t。このうち約1.43百万tが2010年までにアルミに代替される可能性がある。
  エアコン、冷蔵庫の生産は既に中国が相当部分を占めており、その中国では政府が銅の代替材料への転換を奨励していることもあり、こうした製品の銅部品(特に熱交換器)のアルミや鉄への代替が始まりつつある。
  その他、シリンダーやボイラー、建材(雨どいや屋根板)なども、同様に代替リスクを抱えており、現在の銅の総需要のうち約3.5百万tが代替されるリスクにさらされている。
  Ⅱ.上記に関連して、事務局より、従来ICSGでは、このような価格高騰により、銅の需要が他の材料により代替されうる量等につきデータ収集や分析を行ったことは無いとして、かかる分野の調査を進めることが提案された。具体的には、今後、本件の関心のある加盟国、企業で小WGをつくり、検討を進めることが提案された。

(2) 既存プロジェクトの状況

  Ⅰ.リサイクル関連プロジェクト
 事務局より、リサイクル関連の進行中のプロジェクト、具体的には、2006年4月にAnnual Recyclables Surveyを公表したこと、ICSGとして、リサイクル効率などを測定するツールとしてのCFM(Copper Flow Model)を構築中であり、日本含む各国の既存モデルとの整合を図りつつあることの報告及び各国のリサイクル状況について一部データの説明があった。
 ちなみに既に公表されている2004年の世界における銅スクラップのリサイクルインプット率は34.2%であるが、現在取りまとめ中の2005年データでは、この率は35~36%に上昇する見込みとのことである。
  Ⅱ.規制関連の調査
 銅産業に影響を与えうる規制関連の動きとして、事務局よりa) REACH、b) EUによる飲料水に関する指令の改定、c) 米国で最近電子部品のリサイクル規制が導入されたことについて概略の紹介があった。また、REACHについて、欧州銅協会のガーシェル事務局長より、これまでの経過、今後のスケジュール(10月10日に議会環境委員会で採択される予定であること、年内に最終採択というコンセンサスが形成されていること、REACH施行に伴う最初の要求事項は2008年中に対応を済ませる必要があり、現在Eurometauxのイニシアティブの下、準備を進めていること 等)について報告があった。
  Ⅲ.ICSGが参加している国連一次産品共通基金(UN-CFC)プロジェクトの状況
 事務局より現在進行中の以下の案件について状況報告があった。

    a) UNCTAD Community Based Arrangements
 鉱山の閉山により影響を受ける地域での開発・生産継続のためのフレームワーク作り。現在進行中。
    b) IIEC/IEA/ICA Energy Efficiency
 エネルギー利用効率化技術の導入促進、そのための政策、規制等に係るデータベース構築。2005年にCFCにより事業採択されたが、最初の事業であるワークショップ開催が延期されている状況。
    c) ICA Transfer of Technology for High Pressure Copper Die Casting in India
 インドに銅の高圧ダイキャスト技術の移転を図るもの。2006年4月に関係者間で実施を合意。8月にICSG事務局も参加した会議がインドで開催され、事業が開始されたところ。初年度中にパイロットプラントの設計、建設まで行われる予定。
    d) ICA Preventative Measures against Secondary Infections through Application of Copper Antimicrobial surface
 銅触媒を利用して細菌の病院内での二次感染防止を図るものでザンビアでの実施を念頭。2006年度から開始。これに関連して、2006年7月にヨハネスバーグでAfrica Health Care Workshopが開催された。

3. 統計委員会

 本委員会においては、2005年の銅需給(結果)及び各国提供データをベースにした2006/2007年の需給見通しについて報告がなされた。また、最近の事務局による調査テーマに関連する形で、チリの銅産業の状況、アフリカのコンゴ、ザンビア、ナミビアから成るカッパーフォーラムの活動、中国の銅市場の状況について、それぞれチリ、ナミビア、中国からの参加者よりプレゼンテーションがなされた。
(1) 2006/2007の需給見通し
 事務局より示された需給見通しのポイントは以下のとおり。

 
銅鉱山生産は、2006年は15.17百万t(前年比1.9%増)、2007年は16.20百万t(同6.8%増)となる見通し。
 
銅地金(一次、二次含む)の生産については、2006年は17.40百万t(前年比5.4%増)、2007年は18.06百万t(同3.8%増)となる見込み。なお、2006年について国別では最大の生産国であるチリでは若干の減少となる一方、中国、日本でそれぞれ10%の増、米国で6%の増が見込まれている。
 
需要については、2005年は前年比0.7%減の16.61百万tであったが、2006年は17.16百万t(前年比3.3%増)となる見通し。主な需要地域全てで需要増が見込まれているが、中国の需要増加率が2005年の9%から、2006年では1.8%と大幅に減速すると見込まれており、この結果アジア地域での需要増加率は1.5%の低率(他方EUは9%増)と見込まれている。なお、2007年は17.88百万t(同4.2%増)となる見込み。なお、中国の需要増が見かけ上減速している理由としては、中国では備蓄の放出と企業側の在庫取り崩し、及びスクラップ原料の利用増があったのではないかと推測され、この部分が統計として捕捉されていないためと説明されている。 
 
結果、需給バランスとしては、2005年実績は約0.1百万tの供給不足であったが、2006年は0.24百万t、2007年は0.18百万tと僅かながら供給超過になる見通し。また、2008年は計画されている鉱山生産の増加に伴い、さらに供給超過が拡大することが見込まれている。

 なお、上記鉱石・地金生産、消費の見通しは、南米でのストライキなど労働問題の長期化も映じて、いずれも本年春時点での見通しより下方修正されている。
  

1/ Based on a formula for the difference between the projected copper availability in concentrates and the projected use in primary refined production;
2/ Based on capacity utilization of mines and refineries

(2) チリ、アフリカ(中国)の銅産業の動向

  Ⅰ.チリ
 COCHILICOのヘインリッヒ氏より、チリの銅鉱山開発の現状について発表があった。特記すべき点としては、チリ銅産業が抱える問題として工業用水及び電力確保の問題があることが説明され、特に電力に関しては昨今の天然ガス価格上昇が生産コスト上昇圧力となっており影響を大きく受けていること、このため他のエネルギー源への転換の考える必要が生じてきていることが紹介された。
  Ⅱ.アフリカ・カッパーベルト地帯の動向
 事務局より、カッパーベルト地帯の銅生産の状況について、1970年代に世界の20%を占めていたものが、2000年時点で2%まで低下したが、その後、民営化と新規プロジェクトへの外資導入が進んだ結果、再び生産が大幅に回復してきているとの説明があった。

 また、これに関連してナミビア鉱山エネルギー省のシボロ鉱山局長より、コンゴ、ザンビア、ナミビアの3か国では銅の川下産業の育成や技術協力、人材育成を共同で図っていくため、政府及び政府系企業とで「カッパー・カウンシル」を組織し、各種の協力事業を進めている旨の紹介があった。
 さらに、CNMC(中国有色鉱業集団)のリウ主任ジオロジストより、CNMCのアフリカでの活動として、1998年にザンビアで権益を獲得し、現在では同地でSX-EW法による地金生産を行っていること、現地企業とのJVでの拡張を計画していることについての説明があった。

(3) 統計関係の継続・新規プロジェクト
 事務局より現在進行中の統計関係プロジェクトの状況報告と新規に計画されているプロジェクトの報告があった。その中で春のICSGで実施が合意されたロシアの銅市場に関する調査について、調査のスコープ(鉱山生産、一次製錬だけでなく、二次製錬、半加工品の需要、リサイクル可能性なども含める予定であること)が示された。
 また、現在進行中であり、IAPからの問題提起もあった半加工品の生産統計については、欧州とアジアについて2007年の総会時までに完成させる予定である旨の報告とともに、データのカバレッジを向上させるための各国(非加盟国含む)への協力の要請があった。

4. 常任委員会

(1) 管理運営事項
 事務局より、各国の拠出金の支払状況、2006年度上半期の予算施行状況(効率化成果)につき説明があり、了承された。また、事務局スタッフの交代等につき説明があり、了承された。
(2) 次回日程等
 各メンバーとも、他の研究会(ニッケル、鉛亜鉛)とのシナジー効果を期待する観点から、次回についても他の研究会と同時期・同場所で開催すべきであること、銅研究会については、産業界からの参加をもっと積極的に招くべき、との見解で一致しており、これを踏まえ次回は、他の研究会とも調整の上、2007年5月上旬を目途に開催することとした。なお、その後、ニッケル研究会、鉛亜鉛研究会での調整の結果、最終的に、次回銅研究会は、2007年、5月8日の週の前半に開催されることとなった。
(3) その他
 EUの委員より、最近、EUにおいて最近「欧州非鉄金属産業の競争力」というタイトルの報告がまとめられ、公表された旨の情報提供があった(※)。
 
※ 本報告は、EUのサイト(http://ec.europa.eu/enterprise/steel/index_en.htm)からダウンロード可能である。

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